朝起きたらラージャンになってた 作:驚愕したスゲージャン
モデルダムと呼ばれる地方がある。私は、そこにあるリックと言う名の村に住む一ハンターだ。
「はぁーつっかれたぁ」
「あら、ミスズ。だいぶお疲れのようね?」
今日も今日とてクエストを終え、集会所の机に突っ伏している私に一人の男性が話しかけてきた。周りからはマスターと呼ばれている彼ではあるが、こう見えても元ハンターであり、古龍の撃退をたった一人で成し遂げた英雄である。ただ、その際に負った傷が原因でハンターを辞めざるを得なくなり、今やこうしてこの集会所で受付嬢紛いの事をしているのだ。因みに、口調が女っぽいのは元々ドスの聞いた声色である為、少しでも相手を怖がらせない為らしい。それが吉と出てるのかは知らないが。
「最近色んなモンスターが出現するようになったから、その分クエストも多めなんですよね。知ってるだろうけど」
「そりゃ、クエストを斡旋してるのは私だもの。それぐらいは知ってるわよ」
「ですよねー。はぁ、これもアレが原因なのかなぁ」
アレ、というのは数か月前のモンスターの咆哮のことだ。雪山から響いてきたその咆哮は、調べた結果この地方ではまだ未発見だったラージャンのものだと結論が出た。そして、その辺りからモンスターの活動も活発になり、クエストの量も増えていった。大方、ラージャンから逃げるためだろう。
「でも、アレって本当にラージャンだったんですかね?」
「そうね。間違いないと思うけど、それにしては変よね」
ラージャンは超攻撃的生物と言われるモンスターであり、ラージャンがいる以上雪山の生態系がおかしくなる可能性が高い。しかし、実際には雪山の生態系はさほど変化がない。強いて言えばここ最近ずっと吹雪いているが、ラージャンに天候をどうこうできる力はない。だからこそ最近私はあの咆哮はクルペッコ、もしくはその亜種辺りがラージャンの鳴き真似しただけなんじゃないかと考えている。そうなれば生態系に異常が無いのも頷ける。なぜなら、ラージャンなんていないんだから。
「た、大変だ!!」
「あら、あの子確かギギネブラ亜種の討伐のクエストを受けた子ね」
この考えをマスターにも話してみようかと口を開きかけた時、慌てながら集会所に入って来たハンターが叫んだ。ギギネブラ亜種は確かに厄介な相手だろうが、何をそんなに慌てているのだろう。彼の装備を見るに、ギギネブラ亜種に後れを取る様なものでもない。もしや、狩りの途中で別のモンスターとでも鉢合わせ、それが新種だったから急いで戻ってきたとか?
「ラージャンだ!ラージャンが居たんだよ!」
その一言で、騒がしかった集会所は一気に静かになった。彼曰く、クエストを受けギギネブラ亜種が縄張りとしている場所に向かったが、そこにはなんとラージャンが眠っていたらしい。しかも、その傍らにはキリン亜種までいたそうだ。キリンと言えば、ラージャンはキリンの角をへし折って食すらしい。そんな存在と亜種とはいえ一緒にいるなんてあり得るのだろうか。
「亜種とはいえキリンと一緒にいたの?ラージャンが?」
「いえ、彼がキリンの角を食す理由を考えると、むしろ亜種だからこそ眼中にないのかもね。そして、それに気づいたキリン亜種は、それを利用しようといっしょにいるのかも。私たちとしては古龍って時点で恐ろしいけど、キリンは古龍の中ではあまり強くはない方だから」
確かにそれは言えている。もし私が古龍一体と戦えと言われたら、真っ先にキリンを選ぶくらいにはキリンは古龍の中では弱い部類に入るだろう。それは亜種でも同じだと思う。キリンはそもそも幻獣なんて別名が付く位には神出鬼没で、亜種ともなればそれに拍車がかかり、少なくとも私は、キリン亜種がどんな能力を持っているかは知らないが、風の噂で冷気を操ると聞いたことがある。しかし、新大陸にもそんなモンスターがいるらしく、その噂もそれとごっちゃになってる可能性も捨てきれない。でも、もしそれが本当だとしてもやはり弱い部類ではあるだろう。元がキリンだし。
「……クエスト、出しますか?」
「いえ、ラージャン及びキリン亜種の討伐なんてこの村に残ってるハンターじゃ無理ね。どっちか一頭か、せめて私が戦えれば良かったんだけど……」
マスターの言うことは最もだ。この村のハンターは、大体がある程度実力を付けたら村を出ていってしまう。残っているのは新米ハンターかこの村が好きな物好き位のものだ。因みに私は後者だが、そんな物好きはそう何人といない。だったら下手に討伐になんかに行かずに、あちらが攻めて来た時に村のハンター総出で迎え撃った方が、討伐は無理でも撃退位はなんとか出来るかもしれない。
「とりあえず、雪山に行くときは細心の注意を払う事ね。それに、もしラージャンやキリン亜種を見つけても手を出さないこと、逆に見つかったらモドリ玉でも何でも使って逃げる事。良いわね?」
マスターのその言葉に異を唱える人は一人もいなかった。まあ、当然よね。誰しも死にたくはないだろうし。
「……はい!じゃあこの話はおしまいね。雪山に行きづらくなったって他の場所にもモンスターはいるんだから、引き続きクエストはじゃんじゃん出していくわよ。覚悟することね」
誰も声を発することのない静寂の中、手を叩きそんなことを言うマスターの手にはいつの間にか幾つかの依頼書が握られていた。私がその中から一枚、依頼書を抜き取ったのを皮切りに他のハンターたちも動き出し、集会所は再び騒がしさを取り戻した。
モデルダム地方
この作品オリジナルの地方
リック村
この作品オリジナルの村。他の村等に比べてお世辞にも栄えているとは言い難く、それが原因である程度実力をつけると村を出るハンターが多い
ミスズ
この作品のハンターsideに於ける主人公みたいなもの。どちらかと言えば語り手に近いかもしれない。片手剣とランスを愛用している。