2400のタイムは徐々に上がっている。
それでもまだ足りない。あのレースを見て感じた。
何度やっても皐月賞の時のようなスピードは出せないまま、転んではジャージを土だらけにする毎日。
「ミハル、そろそろ切り上げた方がいいんじゃないか? 慣れないフォームで練習しすぎると膝を痛めるぞ」
「あ…えっと、はい。そうですね」
確かにここ数日、練習後に膝が痛む。
今までは痛みなどなかったから、やはり根を詰めすぎたのが原因か。
しかし、それがわかっていても、どうにも抑えが効かないのだ。
京都新聞杯以降、何かを渇望するような感情がずっと身体を支配している。
「んじゃあお疲れ」
「はい、お疲れ様でした」
「お疲れミハル〜、じゃあ僕もそろそろ…」
「モミジはまだトレーニングあるからな?」
時刻はまだ夕方。モミジに限らず、周りではまだトレーニングを行っているウマ娘も少なくなかった。
それを眺めながら、せめて改善点を見つけなくてはと、今日の自分の走りを思い起こす。
「いてっ」
「あ…すみません、ぼーっとしてました…って」
「わたしは大丈夫だよ! そっちこそ何か悩んでるみたいだったけど…」
考えながら歩いていたせいで人にぶつかってしまった。
それも、私が憧れてやまない大先輩に、だ。
「ハ…ハルウララさん!?」
「あれ、わたしのこと知ってるの?」
「だって私、ウララさんに憧れて中央に来たんですから…!」
「そうなんだー! なんだか照れちゃうなぁ。あ、でもわたしもあなたのこと知ってる! ミハルちゃんだよね! 皐月賞で勝った…」
「は、はい、恐縮です…!」
「それで、何か悩んでたみたいだけど…大丈夫?」
「あ、それは……」
憧れの先輩を心配させてはいけないと、言葉を詰まらせる。
しかし、これでは大丈夫ではないと言っているようなものだ。
「わたしね、ミハルちゃんのこと応援したいんだ! なんだかミハルちゃんって、他人だと思えない不思議な感じがするから」
だから困っているなら協力させてほしい、と詰め寄ってくるウララさん。
その明るさに押し切られ、私は事の顛末を話した。
「……というわけなんです」
「そっか、次はダービーだもんね」
ウララさんは親身になって、一緒に悩んでくれている。
「あの、聞いてくれてありがとうございます。でもウララさんも自主練がありますし、私のためにそんな悩まないでください」
「自主練…? あ、そうだ! それだよ! ミハルちゃん、わたしと一緒に練習場に来てくれる?」
「え…? でも私、自主練は控えないと…」
「まあまあ、見てるだけでいいから!」
またしてもウララさんの勢いに負けた私は、模擬レース用のコースに案内された。
そこは、一周1950mで、自主練を行うにはややハードな条件の芝コース。
ウララさんは準備運動を終えると、すぐにそのコースを一周。
「あの、タイム測るの手伝いましょうか…?」
「ほんと? ありがとう、助かるよ!」
ウララさんはストップウォッチを投げ渡すと、さらにもう一周コースを走る。
そのタイムは、ウララさんが苦手としている芝コースとは思えない速度だった。
「は、速……!」
「えへへ、ほんと? 内緒で芝コースを練習した甲斐があるよ」
「なんでそんなことを…」
「うん、わたしね、今年の有馬記念でリベンジしようと思ってるの。まだトレーナーにも話してないんだけどね」
ウララさんは勇ましく言う。
いつかの大舞台で見た決意の瞳。
彼女は本気であの黒歴史を覆すつもりだと確信する。
「本当はダート路線を極めるか、悩んでたんだけどね」
確かに去年までのウララさんの出走レースは、距離こそ伸びているが、バ場は全てダートだった。
「でも去年の有馬記念を見て、やっぱりあの舞台で勝ちたいって思ったんだ…!」
そう言いながら、歯を見せて笑うウララさんは、どこまでも熱く、そして楽しそうだった。
「不思議だよね。勝ちたいって思ったら身体の奥が熱くなって、いてもたってもいられなくなっちゃう」
そこで気付く。私も同じだと。
モミジを見て、カホウを見て、私も知らず知らずのうちに熱くなっていたんだ。
負けたくない、勝ちたい。
皐月賞の時に抱いた感情を反芻する。
胃の中で飲み込んだままじゃ始まらない。
「トレーナーさんにその話をしたら、今年中には難しいだろうって。断られたわけじゃないんだけど、でもわたしは我慢できなかったんだ」
「それで、自主練をですか」
「うん、トレーナーにはちょっと悪いことしちゃったけど」
「…あの、ウララさん」
「どうしたの?」
「やっぱり私も走りたいです! 付き合ってくれますか!?」
「…もちろん!」
身体の負担だとか、練習メニューだとか、今はどうでもいい。
この衝動をもう飲み込んだりするものか。
覚悟を決めた私は、ウララさんと共にダートコースに移り、並走を開始した。
負担が軽いからではなく、ウララさんの主戦場で戦ってこそ、私も強くなれると思ったから。
「じゃ、いくよ…よーい、ドン!」
掛け声にあわせ、クラウチングで飛び出す。
差し脚質のウララさんと出来るだけ差をつけるため、かなりのハイペースで3ハロンを通過。
しかし、ウララさんは芝コースで見た以上の速度で私についてきて、コース中盤あたりで難なく私を抜き去った。
速すぎる。
到底敵う速度ではない。
だからこそ、追いつきたい。
そう思った瞬間、私の脚は導かれるように動き始めた。
ただがむしゃらに走っているだけで、あの時と同じか、それ以上の速さに到達する。
それでも、ウララさんの背中には届かなかった。
「ごぉーるっ! わたしの勝ち!」
「はぁ…はぁ…ありがとう、ございました。やっと、皐月賞の時の走り方を掴めました…!」
「お礼なんていいよ、わたしも練習に付き合ってもらったから」
「いえ…それに、これでも勝てませんでしたから。またいつかレースでウララさんに挑ませてください。私、ウララさんにも勝ちたいです…!」
思ったままの言葉を吐き出すと、ウララさんは興奮を抑えきれない様子で震えて、そのあと満面の笑みで私にこう返した。
「それじゃあ必ず! わたし、待ってるからね!」
プチ設定資料 ハルウララ①
基本的にアプリのハルウララと同じ3年間を過ごしているが、成長するにつれてちょっと生意気な言動を見せるようになったらしい。
設定資料作ったんですが、どこかに置いた方がいいですか?
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後書きで一人づつ紹介してほしい
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1話の前に小説として挿入して欲しい
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最新話の後に小説として挿入してほしい
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活動報告で小出しにしてほしい
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いらない