「いいか、モミジ。菊花賞で大事なことはスタミナだ。それからスピードとパワー、根性と賢さも必要だ」
「それって、全部必要ってことじゃ…」
「そう、全部だ! そのためには1秒の時間も無駄にできねぇんだ! つまり! 今からアタシたちは! ラップバトルをしながらトライアスロンをする!!」
「何言ってんの!?!?」
「馬鹿野郎! ラップバトルを舐めんじゃねぇ! リリック、ライム、フロウ…その全てを瞬間的に選択してぶつけ合う…レースという限られた時間での判断力を養うには最適な練習なんだよ!」
「いや、そういうことじゃなくて…」
「名付けてテトラアスロン! 迷ってる暇はアタシたちにはねぇ、早速1バース目いくぞ! ビートはないから足音でリズムを取ってついてこい!!」
「話を聞いてほしいんだよなあ!!」
「聞いて欲しかったらリリックに込めて歌え! じゃなきゃ伝わらねぇぞ!」
「ああ…もう、無理ィィィィッ!!!!」
レースで負けそうなのに元気なウマ娘が、抜かされる時に発する時の悲鳴みたいな声をあげるモミジ。
そんな彼女だったが、これまでもライブ感で生きてきただけあって、数日もするとゴルシさんの特訓に順応していた。
一見めちゃくちゃに見える練習だが、ラップで肺を使いながらの走り込みによってスタミナを効率的に鍛えているようだ。
さらに、バトルはゴルシさんが言った通り瞬発的な判断力の強化に、リズムを取りながらの走り込みは一定のラップペースを刻むのに役立っている……らしい。
字面だけだと信じがたいが、実際、モミジのタイムは飛躍的に向上しており、手を抜いて練習していた期間にできた私との差はグングンと縮まっていた。
流石は才能の塊というか、なんというか。
私も負けていられない。
サトノさんとのトレーニングの1番の目的は、この走り方の弱点であるコーナーを克服することだった。
やはり皐月賞で見たあの馬の走り方が元になっているため、曲がるための足が足りないのだ。
作戦が逃げ切りである以上、コーナーで外に膨らんでしまうと最短最良の優位を失い、内を突かれやすくなる。
加えて菊花賞は京都レース場が舞台。
若駒Sの頃と違って、相手はモミジだ。
第3コーナーの坂で差を埋められるのはどうしても避けたい。
この走り方で速度を維持しつつ、坂のあるコーナーを曲がり切る必要がある。
「それじゃミハルちゃん、走ってみて」
「はい」
等間隔に配置されたカラーコーンの間を縫って、ジグザグに300mを往復するという、サッカーの練習を応用した練習。
サトノさんとスカーレットさんは、これを行うことでコーナーの練習になると考えたらしい。
とはいえ、考えなしにやってもできるものではない。
一完歩で斜めにカラーコーンの間を横切り、次に出す足で一度方向を整える。そこから踏み込みの足を切り替えてもう一度飛翔。
「……っはあ、どうですか」
「うーん、まだちょっとぎこちないかも」
無意識で行なっているものに意識的に別の行動を加える、というのはなかなか一朝一夕ではいかなかった。
「早く走るのはまだ後でいいから、ゆっくり一連の動作を結びつけて、頭に叩き込むのがいいと思う」
「そうですね、ちょっとペース落としてみます」
モミジとはちがって地道な作業だが、それでこそ私らしいというもの。
差を縮めるモミジに焦りを感じつつも、一歩づつ着実に積み上げていく。
そうして、だんだんこの走り方に慣れてきたある日。
「お前らぁーっ! 喧嘩は良くない! 良くないぞ!」
浜辺に怒鳴り声が響き渡る。
「あ? 誰が喧嘩してるって?」
「もしかして僕たちのことっすかね…?」
見ると、どうやらゴルシさんとモミジのトレーニングが喧嘩だと勘違いされたようだ。
「サトノさん、あの人って…」
「確かキンイロリョテイさん、だったかな。スズカさんやタイキさんと同期の…」
モミジがラップバトルに慣れるにつれ、言葉の応酬は側から見れば暴言にしか聞こえないほど激しくなっていた。
誤解されても仕方ないほどに汚い言葉も飛び交っていて、周りからはちょっと奇異の目で見られていたくらいだ。
しかしながら、ラップバトルは相手へのリスペクトなしには成立し得ないものである……らしい。
「おいおいアタシ達が喧嘩だって!? アタシはただモミジに稽古をつけてやってただけだってのによぉ〜!」
なんでちょっとイジメっ子の常套句っぽく言ったんだ。余計誤解を招くだろう。
「そうだよ! ラップバトルはれっきとしたトレーニングなんだって!」
いや、ラップバトルはれっきとしたトレーニングではないよ。
「馬鹿野郎! ウマ娘なら勝負はレースでしやがれ!!」
そんな2人に、リョテイさんはド正論をぶつける。
おかげで声を出してツッコミに行きたくなる気持ちは抑えられた。
「レース…だと……?」
「ああ、夏合宿の最後にエキシビジョンマッチが開催される」
「…いやだからトレーニングの一環としてラップバトルをだな」
「でもゴルシ先輩、このレース、トレーニング成果を見せるにはピッタリじゃないですか?」
会話は噛み合っていなかったが、モミジがそう言ったことで話は纏まったようだ。
キンイロリョテイ、ゴールドシップの2人もそのレースに参加し、モミジにとっては格上の相手との戦いになる。
だが、私はこのメンツからそれとは別ベクトルの不安を感じ取っていた。
『さあ始まりました、夏合宿エキシビジョンレース! この夏、鍛え上げたウマ娘たちが水着で競い合います!』
『いわゆるサービス回というやつですね。まあこの作品は小説なんでサービスもへったくれもないんですが』
何かメタい発言をしている解説を尻目に、出走者たちはゲートに入っていく。
コースは合宿所に併設されている平坦な芝コースで、距離は2000m。
モミジとしてはやや短いコースだが、そのぶん特訓の成果も顕著に現れるというものだろう。
『さあ13番キンイロモミジが最後にゲートに入って……今スタート!』
ややばらついたスタートでレースが始まる。
キンイロリョテイ、ナカヤマフェスタを筆頭に差し脚質のウマ娘が多く出走しているせいか、モミジは馬群に押し出されるように前に出てしまった。
しかし、ビートを刻む練習が功を奏したのか、モミジは焦ることなく一定のペースで走ることができているようだ。
代わりに馬群に埋もれることにはなったが、モミジであればあの程度簡単にすり抜けられるだろう。
『さあ第3コーナー曲がって第4コーナー! ここでキンイロモミジが仕掛けた!』
私の予想通り、モミジは内ラチ側を突いて一気に前に上がる。
それをキンイロリョテイ、ナカヤマフェスタが追走。ゴールドシップもまくり上げる体制に入っている。
「アタシは手抜きはするが手加減はしねぇ! モミジ! 悪いが抜かせてもらうぜ……ッ!」
「できるもんならやってみろ…!」
モミジが先頭を捉えるも、後方との差は徐々に詰まっていく。
その時だった。ゴールドシップの起こした風によって、近くにいた栗毛のウマ娘のマスクが煽られ飛んでいったのは。
一瞬で会場を暴君のような圧が襲う。
モミジ、リョテイ、ゴルシ……そのレースに出ていた誰もが振り返った。
「な、なんだアイツ……! さっきと顔が違ぇ…!!」
「ちょっと待ってめちゃくちゃ追い上げてくるんだけど!?」
「バカ逃げろ! 噛みつかれるぞ!!」
「えええええ!?」
そのウマ娘が放つ殺気に、レースとかよりも本能で逃げることを選択する4人。
しかし、健闘虚しく並んだところをまとめて抜き去られ、1着は謎の三冠ウマ娘に掻っ攫われてしまうのだった。
プチ設定資料 ゴールドシップ①
メジロマックイーンやナカヤマフェスタに感じている親近感をキンイロモミジにも感じている。
設定資料作ったんですが、どこかに置いた方がいいですか?
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後書きで一人づつ紹介してほしい
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1話の前に小説として挿入して欲しい
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最新話の後に小説として挿入してほしい
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活動報告で小出しにしてほしい
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いらない