あれから1年半。私はハルウララにあやかって、自分を「ミハルストライク」と名乗り、努力の末に日本ウマ娘トレーニングセンター学園への編入を果たした。
しかし、本当に頑張らなくてはいけないのはこれからだ。ここで戦うことになるウマ娘はみな実力者揃いとなるのだから。
「編入してきていきなり模擬レースなんて大変だねぇ」
私が気を引き締めている横から、そんな声が聞こえる。私と同室のキンイロモミジ、彼女の声だ。
「そうね…でも、それで怯むようじゃやってけないから」
「はは、気合い入ってんねぇ。まあ、今日はよろしく」
「こちらこそ」
モミジは飄々とした態度でゲートへと入っていく。腹の内が見えないウマ娘だが、どんな走りをするのか……そう考えながら、私もそれに続く。
全員の準備が整い、レースが始まる。
今回のコースは芝2000m。ちょうどいい長さの練習コースだ。
グッと足に力を込め、前を見据えると、すぐにゲートは開き、全員が一斉に飛び出した。
やはり皆、桁違いの加速力で、私は珍しく出遅れずにスタートできたのにも関わらず最後方につくこととなった。
すぐ前では、モミジがバ群に道を遮られている。
後続はバ群を越えられないまま、膠着状態で第3コーナーへ。仕掛けるタイミングは、ここ。
私はバ群を大外に出てかわし、ゆっくりと加速。
もとより瞬発力のない私は、代わりに誰より速くスパートをかけるしかない。
そのために肺を鍛え上げたのだから──!
最終コーナーを超え、さらに加速。ひとり、ふたり、抜き去っていく。
最終直線で先頭の後ろ姿を捉えた時には、既に私の脚はトップスピードに乗っていた。
その差は0・5バ身。先頭もスパートをかけるが、半歩遅い。
残り600mで抜け出し、一気に突き放す。
スタミナはまだ余裕を抱えたままで3バ身以上のリード。私のトップスピードはそれほど速くはないが、このまま行けば追いつかれることはない───その時だった。
「ああ、そういうの見るとさぁ…楽しくなっちゃうんだよな……!」
悪寒が走る。どころか、急速にその圧が差を詰めてくる。
思わず後ろに目をやると、バ群の中からモミジがありえない速度で抜け出していた。
なんて瞬発力……!
慌てて前を向き直すも、次の瞬間には並ばれる。
目の端に映った狂気的な笑顔が、ゴール版の向こうに消えていった。
「キンイロモミジってあんな速かったのか…!?」
「あの転入生もあれだけ飛ばして息が上がってないぞ……!」
視察に来ていたトレーナー候補の人たちがざわつく。なんとか爪痕は残せたようだが……
「ふぅ……ちょっと悪目立ちしすぎたか。やっぱ本気で走るもんじゃあないな」
中央での戦いが一筋縄ではいかないことは承知のつもりだったが、まさか直線に入るまで手を抜いて走っていた相手に負けるなんて……!
「みんなお疲れ様。これで模擬レースは終了よ。その場で解散して頂戴」
そう言われて、すぐに帰ろうとするモミジを睨む。
すると視線に気付いたのか、彼女はこちらへ駆け寄ってきた。
「お疲れ様、ミハル。どうしたの、顔が怖いよ?」
「それは……!あなたが手を抜いて走ってた、から…」
「ああ…でも、僕はミハルが凄いと思ったから、本気で走りたくなったんだし、そんなに怒らないでほしいかなって……」
「だったら!」
「だったら尚更、真面目に走って、もっと強い相手のいるG1レースを目指すべきじゃないのか」
私のセリフを奪って会話に入ってきたのは、私たちを見ていたトレーナー候補生のひとりだった。
「ミハルストライク……だっけ。こいつのことは気にしない方がいい。あんたは十分トゥインクル・シリーズで戦っていけるよ」
「あ、はい…ありがとうございます」
「まーた君かぁ。何度も言うけど、僕は本気でレースに出る気はないよ。この子の実力を買ってるなら、この子を誘えば?」
「もちろんそのつもりだ。だがチームを作るには1人じゃあ足りないからな」
「え、他に誰も誘ってないの…? 僕が言うのもなんだけど、危機感持った方がいいんじゃない…?」
「誘うなら君のライバルに相応しいウマ娘がいいと思ってね」
「なるほどなるほど。ま、たしかにこの子と走るのは楽しそうだけど」
「だろう? だからお前も俺のチームに…」
「今度並走する時にでも呼んでよ。じゃ!」
モミジは急旋回し、わざと土煙をあげながら逃げていった。
「ゲホッ…! クソ、逃げられたか…!」
「あ、あの…」
「ああすまん、自己紹介もしてないのに割り込んじまったな。俺は
さっきまで真面目な顔をしてモミジと向き合っていたトレーナーは、決めポーズと共にそう自己紹介した。
うん、なんか一気に胡散臭くなったなこの男。
「は、はあ……ちなみになんですけど、モミジっていつもあんな感じなんですか?」
「ああ。とにかく努力するのが嫌らしい」
私とはまるで真逆の性格だった。
「あんなに良い脚を持ってるのに、もったいない…」
才能のない私からしてみれば、なんて贅沢なことか。
あのモデルのような、長く美しい脚。レースで並ばれた時、歩幅が決定的に違うことがよくわかった。
それでいて、あの高身長の身体でバ群をすり抜けるフットワーク。
天からの贈り物と言わんばかりの体躯と、それを扱いこなすセンスを持ち合わせている。
もし彼女が努力していたら、私がライバルに選ばれることもなかっただろう。
「俺もそう思って、アイツをチームに誘ってるんだがな…アイツが本気を見せたのは、同年代じゃお前だけだ。だからウチのチームに入って、アイツをその気にさせて欲しいんだが」
言葉を返すことはできなかった。あれだけの才能を見て、自分に出来ることはあるのか、と思ってしまう。
少なくとも、もっと頑張らなくてはこの先戦っていけない。
「もちろん無理に、とは言わない。自分のことに集中して走るってのも大事だからな」
「…わかりました。考えておきます」
「ああ、よろしく。良い返事を期待してるよ」
そう言って釛誠は去っていった。
まだあの背中が網膜にこびりついている。正直、凄く悔しい。
それでも釛誠の誘いを受けられなかったのは、心のどこかで、自分の努力を否定されるのが怖かったからなのかもしれない。
私の中央での戦いは、そんな不安と共に幕を開けたのだった。
プチ設定資料 ミハルストライク①
髪は長い鹿毛で、毛先が少しピンク色になっている。頭に巻いているリボン付きのバンダナは、ハルウララを真似たもので、巻くと気合が入るのだという。
設定資料作ったんですが、どこかに置いた方がいいですか?
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後書きで一人づつ紹介してほしい
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1話の前に小説として挿入して欲しい
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最新話の後に小説として挿入してほしい
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活動報告で小出しにしてほしい
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いらない