模擬レースが終わってから数日が経った。
色々考えては見たが、結局気持ちは定まらず、不安を紛らわそうと練習に明け暮れる日々が続く。
これまで何度も負けてきたことはあったが、自分の信じてきたものを真っ向から否定されたのは初めてだった。
このまま悩んでるだけじゃダメだ。そう思った私は、寮のプレイルームを借りてハルウララの過去のレース映像を見ることにした。
昔は負けて諦めそうになるたび見返していた映像で、これを見ているとだんだん勇気が湧いてくる。
そのうちモミジのことも落ち着いて考えられるようになってきた。
どうせ公式レースに出ないのなら、負けることもない。もし出てきたとしても、それはかなり後の話になるだろうし、その頃には私だって強くなっているはずだ──
「あれ、ミハルじゃん、なに見てんの?」
そこまで考えたところで、後ろから声がする。それも、この感情の元凶になったやつの声が。
「も、モミジ…なんでここに」
「いや、偶然通りかかったから…しかし、随分珍しいものを見てるね…」
普段の雰囲気はどこへやら、彼女は画面を見ながら顔を顰めた。
そこには、ハルウララがURAの直前に出走したレース──有馬記念の様子が流れていた。
「別に、ハルウララさんに憧れてる子くらい…」
珍しくない、と言いかけてから気づく。彼女が珍しいと言ったのは、ハルウララの有馬記念を扱っている番組のことだ。
「なんでそれを」
「あ、やべ」
「もしかしてあなたも…?」
「……まあ、うん、ファンだったよ。その有馬記念を見るまでは」
もはや誤魔化せないと思ったのか、モミジはそう呟いた。
「そのレースがなんて呼ばれてるか知ってる?」
「……黒歴史」
それまでのハルウララはダートの短距離、よくてマイルまでしか走っておらず、芝2500mの有馬記念は彼女の適正にまったく合っていなかった。
結局彼女は集団に付いていくことすら叶わず、一人最後方を走り続け、その姿が可哀想だとネットで炎上。
当時、トレーナーが彼女に無茶をさせただの、後援会が調子に乗って投票しただのと好き放題に噂されたものだ。
URAファイナルズの優勝によってそんな声はかき消されたが、それを祝う特別番組では有馬記念はまるでなかったことかのように語られたため、以降そのような呼ばれ方をするようになった。
「おかしいよね、デビューしてすぐの頃は負け続きでも頑張ってるって言われたのに、勝ち続きの時に一回負けたら黒歴史、なんてさ」
口調こそ軽いが、モミジの目は笑っていなかった。
「だから、誰かに注目されるのが、期待されるのが嫌なんだよ」
彼女が努力をしない理由。
彼女が公式レースに出ない理由。
「努力して負けるのが、怖いんだよ」
その気持ちは、痛いほどわかる。私だって自分の頑張りを何度疑ったことか。
それこそ今まさに、モミジの速さに打ちひしがれていたところだ。
だからこそ、彼女のその発言に酷く腹が立った。
そんな感情ひとつで走って、私の人生を否定したというのか。
ふざけるな。
「だったら負けなきゃいいんでしょ!?」
燻っていた悔しさが、考えるよりも先に口から溢れ出た。
私の『注目』を掻っ攫っておいて、勝ち逃げなんて許さない。
「そんなに言うなら私が勝ち続けて証明してやる! 努力が無駄なんかじゃないってことを!」
今度は、私がモミジの言葉を否定する番だ。
だから私のことも見ろ、モミジ。
絶対に失望なんてさせない。
「……わかったよ。やれるもんならやってみりゃいいじゃん」
自分でも無茶苦茶なことを言っている。その自覚はあったが、もう後戻りは出来なかった。
これは、私の意地を賭けた、無敗宣言なのだから。
プチ設定資料 キンイロモミジ①
髪は短い黒鹿毛で、金色の流星が入っている。間違えて買ってしまったヒト用のヘッドホンをファッションと言い張って首から提げている。
設定資料作ったんですが、どこかに置いた方がいいですか?
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後書きで一人づつ紹介してほしい
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1話の前に小説として挿入して欲しい
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最新話の後に小説として挿入してほしい
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活動報告で小出しにしてほしい
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いらない