「1月の若駒ステークスだ。そこでお前に『逃げ』て勝ってもらう」
「えっ、えええええ!?」
「驚くこともないだろ? いやまあ、そのために黙ってたから驚いて貰わないと困るんだが」
確かに、理にかなった考えではある。
スピード不足を補うために前半でリードを作っておく逃げウマ娘は少なくない。
このスタミナで速度を維持し、レース展開を握ることができれば、自分は最良のコースを進みつつ後続の消耗を誘うことができるだろう。
「でもどうやって前に出るんですか? 加速力もないのに…」
「問題はそこだな。ただどちらにせよ、スタミナだけでこの先戦っていくには無理がある」
「そうですけど…」
ゲート難の克服もある以上、1ヶ月でそれを完全に習得するのは不可能だ。
「気持ちはわかるけどな、ここに居る奴と戦うには普通の考え方じゃダメだと思うんだ」
「……わかりました、できるだけやってみます」
「おう、そうこなくっちゃな。あ、あと、俺ひとりじゃ力不足だと思って、マヤノトップガンに合同トレーニングをお願いしておいたから」
「えええええ!?」
後日。
「君がミハルストライクちゃん? はじめまして、今日はよろしくね」
「ハ……ハイ、ヨロシクオネガイシマス」
なんで生徒会副会長ともあろう方が私なんかと合同トレーニングを!?
ヤバい。何がって横に並んだ時のビジュアルの差がヤバい。
背が高く、しなやかな身体はまさにモデルのようで、ちんちくりんの私が横に立っていい存在ではないような気がする。
「そんな緊張しなくて大丈夫だよ?」
「ハイ!?」
──マヤノトップガン。
ナリタブライアンと死闘を繰り広げた名馬にして名バ。
変幻自在の脚質に代表されるように、どんな走り方でもすぐに “わかって” しまうという天才。
そんな人に私みたいな凡人がついていけるのだろうか……!
「ははは、メイクデビューの時以上に緊張してるじゃねぇか。丁度いいし緊張のほぐし方から教えるぞ」
横から釛誠の野次が飛んでくる。言われた通り筋弛緩法を試してみたが、なんとなく緊張が解けたような、そうでもないような。
「うーん…効果あるんですか? これ……」
「多少は緊張感があったほうがいいパフォーマンスが出るんだ。身体がちゃんと動くなら効いてるって証拠さ」
そう言われるとさっきより身体は動かしやすくなったような。
「じゃあはじめようか。今日はゲートはないから…スタートダッシュの練習だね」
「わかりました…やってみます…!」
「まずこう…姿勢をグッとして」
「グッと……こ、こうですか?」
「そしてゲートが開いたら、ボンってしてピョーンってなってバビューンって走る」
「ボンってしてピョーンってなってバビューン!?!?!?」
「あれ? 違ったかな、バンっとしてポーンってなってズキューン?」
「何が変わったんですか!?」
「ああわかった、ミョンってしたらフオーンって感じになるから、そこですかさずモぶューンってする感じかな」
「聞いたことないですそんな擬態語!! 最後のに至ってはどうやって発音したんですか!?」
これが天才の言語……! 発音からして異次元……ッ! 釛誠の言う『普通の考え方じゃダメ』というのはこういうことなのかもしれない……!!
謎の擬音に悩まされながらも、練習すること数時間。
「ダメだ、殆ど変わってない」
スタート直後3ハロンの時間を計測していた釛誠は私にそう告げた。
「すみません、せっかく教えて頂いたのに……」
「別に大丈夫、私の教え方もわかりにくかったでしょ。こちらこそごめんね」
「いや、それは……」
正直否定できない。
これが才能の差かと思うと軽くショックだった。
「でもね、練習を続けていけばきっと上手になると思う。皆は
見透かされているかのような言葉に、また気を使わせてしまったかと思ったが、そうではないらしい。
「でも私の感覚を私なりの言葉で伝えるとああなっちゃって……だから直接伝えるのは無理だけど、ミハルちゃんなりの言葉は、ミハルちゃんが生きてきた人生の中にきっとあると思う。それを探してみて」
私のウマ娘人生は努力と一緒にあった。
だけどそれは、私の苦手なものを別の何かで覆い隠す努力だった。
私はそれに向き合わなければいけないのだろうか。それとも、その努力の中にヒントがあるのだろうか。
「私の人生……ですか」
「うん、マヤだったら、パイロットのお父さんの影響とか。マヤにとってレースって、空を飛んでるみたいな感覚なんだ。目の前に飛行機雲が見えてきて、ああ、あのジェット機を追い越したいって思うんだ。ウマ娘より速いものがあるって思うと、凄くワクワクして」
そう聞くとなんだかスケールの大きい話だ。
ウマ娘の域に留まらず、人類の技術にまで対抗して──
「……あ」
人類の、技術。
私の、『人』生。
私にしかない、私だけの感覚──!
「ん、なんかわかったか?」
「えっ、もう “わかっちゃった” の?」
「はい、マヤノさんの言う感覚ってものがなんとなく。トレーナー、ひとつ、試してみていいですか?」
プチ設定資料 釛誠勝利
彼のキャラは誕生日(3月15日)と名前以外、その場の勢いで決められている。
設定資料作ったんですが、どこかに置いた方がいいですか?
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後書きで一人づつ紹介してほしい
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1話の前に小説として挿入して欲しい
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最新話の後に小説として挿入してほしい
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活動報告で小出しにしてほしい
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いらない