「おめでとう。君の特典は最上級レアである『赤龍帝の籠手』だよ」
「え、マジすか? そりゃまた……」
何もない白い空間の中に二人の人物がいた。
一人は俗に神と呼ばれる存在。白い法衣を身に纏い神々しいオーラを漂わせていた。
もう一人は先程元の世界で死んでしまった男であり、彼はこれから転生者になろうとしていた。
転生者。
神の手違いやロクな人生を送れなかった者の救済処置など、理由はさまざまあるようだが、前世の記憶と意識を持ったまま漫画やアニメになっている物語の世界に転生される存在の事である。
そんな存在に男は成ろうとしていたのだ。
舞台は神が指定した物語ーー『ハイスクールD×D』の世界。
そして現在ランダムに与えられる特典を確認している最中であり、その内容を知った男は眉をひそめ難しい顔をしたのだ。
そんな特典を引き当てた男の反応に、目の前の神は疑問の表情を浮かべた。
「どうしたんだい? これは『ハイスクールD×D』では主人公の力じゃないか」
「だからですよ。こんな力持ってたら他の奴に狙われそうじゃないっすか。本音としては嬉しいっすけど面倒事は嫌いなんで」
その言葉に神は納得したようだった。
「成る程、確かにそうかもしれないな。ならこの特典を手放してもう一度選定するかい?」
「いやいやいや、そんな事は言ってませんよ。何せ『赤龍帝の籠手』ですからね〜。女は寄ってくる特性があるし……今から楽しみっすわ」
「あははは。結局内心はそんなもんか、クズいね〜君。でも、そんな調子で屑転生者みたいなことはしないでくれよ。あれは神の中でも問題視されてるからね」
「そりゃあ勿論。犯罪に手を染める程馬鹿じゃないんで。でもある程度は許してもらえると助かりますね」
「まあ、私達神はあくまで傍観者であり観客だからね。一部には真面目な神もいるけどほとんどは好きにさせてるから」
「それは良かった。じゃあこれでお願いします」
「ああ、君の人生に新たなる光があらんことを」
神は事前に用意されている言葉を口にして見送り、男はその言葉に反応した光に包まれると白い空間から姿を消すのであった。
それを確認すると神はため息を吐く。
「は〜。屑転生者程性根は腐ってなさそうだけど、善人て訳でもなさそうだな〜。これから先どうなって行くのやら」
過去に主人公の力を手に入れた転生者を神は何度も見てきたが、どれも悲惨な末路を辿っていた。
ある者はヒロインに酷いことをしようとして善良な転生者に殺されてしまったり、
ある者は主人公の力に嫉妬した転生者や元々の敵に始末されたり、
ある者はようやく主人公のポジションを手に入れたものの、中身が腐っているせいでヒロインに相手をされなかった……などなど。
前世より酷い例が多々ある結果だった。今対応していた男もそんな末路を辿る事になるだろうと神は考えていた。
「……ま、もしかしたら大物になるって可能性もあるし。気長に見せてもらおうかね」
そう言うと神は次の転生者を接待する準備に移った。
この時、神が漏らした一言は後に実現となってしまう。
主人公の力を手に入れた転生者は、いつしか神自身をも巻き込こんだ戦いを引き起こす。
だが、現時点で神がそれを知ることはなかった。
◇◇◇
神との会合から年月が過ぎた。この世界に新たな生を受け転生者としての活動を始めていき……
俺ーー
「あ〜……人肌が恋しい。早く帰って女の子と夜を楽しみたいぜ」
『相棒、考え事は構わないがそろそろ敵が来るぞ』
既に展開していた『赤龍帝の籠手』に宿る二天龍の一角ーードライグの注意がかかってしまった。
「わーってるよドライグ。でも気配を消せてないのを見るにそこまで強い相手でもねえだろ」
『まあな。だが慢心は良くない。俺の力に過信し悲惨な末路を遂げた所有者は何人も見てきたからな』
「へいへい」
そうやってドライグと会話していると一人の男が廃ビルから現れた。随分と慌てており逃げてきたのが分かる。
「よう、そんな血相変えてどうしたんだ?」
「だ、誰だお前はっ!! て、それは赤龍帝の籠手……まさかっ!」
どうやら俺が転生者であると察したようだった。俺はそれに応えるかのように不敵な笑みを浮かべた。
「そう、お前と同類だよ。そしてここにいたお前らへの襲撃を指示した張本人でもある」
「そうか…お前がッ! 主人公の力を手にしたからヒロイン攻略を企んでる俺達を狙った訳だな、クソッタレ!!」
男は悪態をつき俺を睨んでくる。そう、この場にいるのは俺以外の転生者を狩る為だった。
この廃ビルには転生者達が居座りそれぞれがヒロインを手に入れる為に協定を結んでいた。それを知った俺はこうして排除に勤しんでいる訳である。
「それにしても、アジトから一人で逃げて来たのか? 仲間を見捨てるなんてクズい奴だ」
「黙れっ! どうせあいつらは後で始末する予定だったんだ。俺のハーレム計画を実現させるためにも利用するだけだったしな」
「これまた屑転生者あるあるみたいなセリフ吐いて……言ってて恥ずかしくないのか?」
多分他の転生者達もこいつと同様なことを考えていただろう。運命が少し変わっていれば自分もその裏切りにあっていたかもしれないと言うのに、お気楽な奴だ。
俺の言葉が癇に障ったようで、男は怒りだす。
「クソが、馬鹿にしやがって! まあいい。ここから逃げるにはお前を殺す必要がありそうだからな。鬱憤はそれではらしてやる!」
「分かりやすくて非常に結構。こっちもお前は邪魔だからすぐに殺してやるよ」
『Boost!』『Explosion!』
籠手の機能で力を倍化させると俺は拳を握り、男に向かって駆けた。そのままパンチを振りかぶり、一撃をくらわせようとする。
「ヘッ、いくらなんでも甘いんだよ!」
男は倍化した攻撃にも関わらず避ける動作をしないまま、むしろ俺の拳に向かって手を伸ばした。
それを見た俺は危険を察知し、振りかぶった拳を止め後方に下がる。瞬間男の身体に電気がはしる。一瞬間違えていれば感電は避けられなかっただろう。
「電気……俺の籠手を見てそれ程怯まなかったのはそれがあるからか」
「そう、俺の特典は『個性 帯電』! 能力としては優れてるわけじゃねえがテメェみたいな近接戦闘野郎には天敵な力だぜ?」
そう言うと男は身体に纏っていた電力を引き上げる。先程より多い電気量に周囲は轟き、俺の髪が静電気を帯びるのを感じた。
「俺の最高電力は1300万ボルト。いくら倍化したところで人間のお前が耐えられる訳がない。鎧を着てたらどうにかなるかもしれないがな?」
「……いや、鎧はないな」
「そこまで使いこなせてないってことか? ふっ、所詮は主人公の力を手に入れただけって訳だ。俺みたいな奴に敵うわけがねえんだよ!」
男はさらに調子に乗ると俺に向かって走り出した。
「このまま感電させてやるッ! 無差別放電1300万ボルーー」
ーーどうやら勘違いさせてしまったらしい。俺が鎧はないと言ったのは、使えない訳ではなくーー
ドパンッ!
「鎧が必要なほど、お前は脅威じゃないってことなんだよ」
俺の手には拳銃が握られており、銃口から煙が出ている。先程の発泡は俺が行ったものだ。
撃たれた男の『帯電』は解かれてしまい、力なくその場に崩れ落ちる。
銃を向けながら近づいて安否を確認する。心臓を狙ったので胸が赤く染まっていたが、まだ息をしているようだった。
「て…めぇ……銃とか、卑怯…」
「知るかよ。じゃあな」
ドパンッ!
男は銃の衝撃でビクンッと身体を浮かばせ、そのまま死亡してしまった。
「異能バトルだからって、現代兵器使わないとは限らないのに、馬鹿な奴だ」
俺はそう呟きながら銃を懐のホルスターにしまい、動かなくなった死体に蹴りを入れた。
『相変わらず現実的過ぎる戦いだ。今までの所有者には銃使いはいたが、そいつはもっと芸達者だったぞ?』
「人を始末するのに芸もクソもあるかよ。それに一応譲渡の力使ったから少しはファンタジーだぞ?」
『赤龍帝の籠手』で性能を倍化した銃は通常ではありえない程の威力を持った攻撃だったはずだ。故に一応異能バトルの世界観は崩れていないだろう。
俺の弁解が『いや、知らんぞ』とドライグにツッコまれていると、持っていた携帯が鳴ったので応答した。
『太陽様。ビル内にいた転生者の制圧が完了しました。これより事後処理を行います』
「あぁ。こっちも逃げた残りカスは片付けたからそっちに向かうわ」
『はい。包囲網の不備に対処していただきありがとうございました』
「いいよ。あとはよろしくな」
そう言って俺は連絡を閉じ、まあまあ疲れた身体を伸ばす。
「さて、この件が終わったら酒と女だ。もうひと踏ん張りしますかね」
俺は呑気な言葉を漏らしながら、廃ビルの中へ向かうのであった。