香織side
「よっしゃ、此処まで来ればもう安心だ! 来るまで大変だったけどこれで香織ちゃんを絶対に守れるぜ!」
「う、うん……」
レイナーレを退き、鳴上くんに無理矢理連れてこられた私は隣町の山奥に来ていた。どうやらこの辺りに転生者討伐隊のメンバーの一人が任務でいるらしく、その人と合流する事になったのだ。
鳴上くんは携帯で文字を打っているようで送信の音が鳴るとポケットにしまった。
「今仲間にも連絡して来てもらう事になった。少し取り逃した奴がいるみたいだから遅れるみたいだが、あいつならすぐ片付けるさ」
「そうなんだ(お仲間さんか……まともに会話ができる人がいればいいけど)」
私は受け答えをしつつ、内心でそんな事を考えていた。ここに来るまでに彼は私と仲を深めたいと色々な話をして来た。
他愛もない会話を続けて私を安心させようとしていたのだと思うが、自分の事ばかり話して私の話を自己解釈しまくっていた。
こんな人が所属している隊もお仲間の人はマシなのか不安になる一方だった。
いっそ転生者の太陽くんに保護されてる事を言おうとしたのだが、また自己解釈して太陽くんに迷惑をかけたくなかったので現状私にできる事はなかった。
そうして自分の無力さに情けなく感じていると、
「あ〜……香織ちゃん。ちょっといいか?」
「え、なに突然……きゃああっ!?」
私が応えた瞬間、突如として鳴上くんが私を抱きしめて来たのだ。あまりな突拍子の出来事に驚いて思考が一瞬止まったが、太陽くん以外の男に触れられた事に不快感を感じた私は声をあげた。
「ちょ、ちょっと鳴上くん! 苦しい、ていうか離れて!」
「分かってる! 怖かったよな…いきなりこんな事に巻き込まれて。でもこれからは俺達が、いや俺が君をずっと守ってみせる! もうこんな目には絶対に合わせない!」
「(もういい加減にして! 今こうされてるのが恐怖だよ!!)」
振り解こうにも抱きしめる力が強すぎて離れることができない。このままでは勢いで何かされるかもしれない。
そんな恐怖が襲いかかっているのに、目の前の男は自分のムードに酔いしれ言葉を発しようとしていた。
「俺、香織ちゃんが…好ーー」
ドカァァアアアアアンンッッ!
刹那、私達の目の前に衝撃が走り地面が震動する。何かが上空から飛来し、そこに着地したからだ。
土煙が引いてその奥にいる人影を見て私は喜びに溢れた。そこには私が見覚えのある赤い鎧を身に纏った人がいたからだ。
「な、なんだいきなり……て、赤龍帝の鎧じゃねえか! まさかっ、転生者!?」
「……なに人の女勝手に抱きしめてんだよ。ぶっ殺すぞ」
「太陽くんっ!!!」
私は最愛の人の名を叫んだ。
◇◇◇
太陽side
「香織ちゃん、ここから離れてくれ! 恐らく奴も転生者だ! 君を狙いに来てーー」
「太陽くーーーーーんっ!!!」
「グベッ!?」
香織は両手で男を押し退けると一目散に俺に向かって走り出し、懐へとダイブしてきた。
「太陽くん太陽くん太陽くん太陽くん太陽くん太陽くんッ!!!」
「よう香織、迎えに来たぞ。今日だけで散々な目にあったな」
「うんっ! だから精一杯私を抱きしめて!! 私を太陽くんで染めるように締め付けて! 上書きだよ上書き!!」
「いや、俺今鎧なんだが……まあいいか」
女が求める事に口を出すのは野暮だと俺は言葉を中断して香織を抱きしめた。それだけで彼女の心が安心していくのが分かる。
屑な思考を持っている転生者の癖にそんな事が分かるのかと思うかもしれないが、数々の女を抱いていくうちに何となくは理解できるようになっていた。
そして数秒抱きしめ続けると、遅れて到着してきた蓮姫と黒服達に預け、俺は香織を連れ去った転生者と対峙する。転生者の方は既に立ち上がっており、何故か鋭い目つきでこちらを睨んでいた。
「何だよテメェ。人を睨んで失礼な奴だな。ぶっ飛ばすぞ」
「……なるほどな!! どうやらお前もヒロインを狙う屑転生者ってことか!!!」
「は? ちょっと待てよ。なんでそんな話になる」
「惚けても無駄だぞ。お前はその赤龍帝の力で香織ちゃんを無理矢理自分のものにしたんだろっ! 女の子の純潔を穢すなんて所業、許されるわけねえ!」
「いや、そんな事ないですよ〜。既に太陽君には私の初めてをあげてるし、それから沢山エッチしてるから純潔ではないんだけど……」
いきなりの話に香織は赤裸々なセリフを暴露したが、頭に血が昇っているようで転生者は香織の話が聞こえていなかった。
「なんか、一々言い方が子供っぽいよなお前。それにそのご都合解釈、まるで勇者(笑)みたいだ。もしやわざとやってんのか?」
「うるせぇ! 兎に角お前は転生者討伐隊として俺が始末してやるよっ!」
「……あぁ無理。俺もうキレたわ。お前殺すの確定な」
「雷の呼吸 壱ノ型 霹靂一閃!!」
俺の話を聞く事なく、転生者は抜刀術の要領で斬り込んできた。
ガキィイインッ!
俺は避ける事なくその一撃を正面から喰らう。甲高い金属音が辺りに鳴り響いたが、転生者の剣は鎧の脇腹部分を少し削り取ることしか出来ていなかった。
「よ、鎧が硬すぎる! なんなんだこれ!?」
「おいおい、たったこれだけしか削れないのかよ。筋力が足りてねえな。ドライグ、一応修復頼む」
『分かった』
ドライグは俺の頼みにすぐさま応じ、欠けた脇腹の箇所を修復した。
「さて、見たところお前の特典は『雷の呼吸』か。それは足の踏み込みに力を使うスピード重視の技。それなら対処法は……」
『BoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoost!!!!』
『Transfer!』
「同じ速さで移動すればいいだけだ」
「…ッ!? 雷の呼吸 壱ノ型 霹靂一閃・八連!!」
転生者は何かを察したのか、また先程と同じ型を叫ぶ。
ビュゥウウウンッ!
刹那、俺と転生者は互いのいた位置から姿を消した。それは転移でも透明になった訳でもない。ただ目にも止まらぬ速さでその場を移動したからだ。
ガキンッ! ガキンッ! ガキンッ!
両者は高速に移動する中で剣と拳をぶつけ合い、激しい戦闘音を響き渡らせていた。転生者の方は八連という言葉に合わせるかの如くキレキレに曲がった高速移動をする。
その間両者の実力は互角に見えたが、攻撃に関して攻守とも性能の高い鎧を身に纏った俺に軍配が上がっていて、少しずつ転生者を追い詰めていた。
対応するだけで精一杯の転生者は悲惨な声で叫ぶ。
「なんで俺の速さに追いつくんだよ!? あり得ねえだろ! 全集中の呼吸の有無で圧倒的な差があるはずだ!!」
「その差を埋めるように俺は力を倍増してるんだよ。ある意味俺はお前の天敵ってわけだ」
「クソがぁああッ! 雷の呼吸 陸ノ型 電轟雷ーー」
「ーー紅蓮の炎よ」
転生者が新たな型で切り込もうとしたその時、突如として燃えさかる業火が転生者目掛けて襲いかかり、灼熱に包まれた。
あれは蓮姫の妖術だな。視線を向けると『少し時間を稼いでやるからさっさと殺せ』みたいな目で見てきた。それを把握した俺は準備に入る事にした……。
そんな訳で蓮姫は、火傷する転生者の方に歩み寄った。
「あ、熱ぃいいいいッ! 火が、火がぁあああああッ!」
「お主、儂等を忘れておらんか? 大人数で囲っているにも関わらず此方の警戒を無くすとは馬鹿よのう」
「クソ、が…ッ! お前もあいつに操られてんのかよ……!!」
「…全く、つくづくお主はそればかりじゃの。お前は儂や香織が無理矢理に従えられるように見えたのか? お主は阿保かの?」
「違えッ!! 俺はただ、ヒロインを転生者から救いたいだけだ!!!」
「黙れ。お主は龍の逆鱗に触れた。あやつの女に手を出し刃向かった時点で既に詰んでおる。ほれ、あれを見てみよ」
『BoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoost!!!!』
『Explosion!!』
「蓮姫、時間稼ぎご苦労さん。お陰で準備が済んだぜ」
時間をもらった俺は倍化の力を限界まで発動させ、力を解放していた。
「さて……香織を攫って勝手に抱きしめたお前はこれで人生終了だ。最後に言い残す事があるなら聞いてやるぞ?」
「……ま、負けねえ! 俺は、お前を倒すんだぁああああっ!!!」
すると転生者はその場で力強い踏み込みをした。その反動で転生者の地が蜘蛛の巣のようにひび割れる。
「雷の呼吸 壱ノ型 霹靂一閃・神速!!!」
そして先の技より圧倒的な威力を誇る抜刀が俺に向かって放たれた。その一撃は俺の首に吸い寄せられるかのように狙いを定めていた。
「(とったっ!!)」
パシンッ!!
「ーーで、これがお前の全力か?」
「なっ!? 嘘、だろ……っ!!!」
だが電光石火の如き技は俺に届く事はなく、刀を籠手で掴み取っていた。転生者は驚愕し言葉を失っているが、構わず俺は倍増させた拳を構える。
「これで最後だ。喰らいやがれ」
「や、やめーー」
俺はそう告げると、転生者の顔面に倍増された拳を叩き込んだ。
ドカァアアアアアアアアンンッッ!!!
轟音。
俺の拳の一撃は山の一部を削り地形を変形させていた。何とかオーラ外にあった山の木々も次第に倒れていき、どんどん山は崩壊していった。転生者はそんな攻撃の正面にいたので、確実に死んでいるだろう。
俺はその場でリラックスするかのように背伸びをした。
「ふう……これで一件落着だな。たく、口だけの奴で困ったもんだな」
『……待て相棒。微かだが気配が残っている。あいつはまだ生きているぞ?』
「…はあっ? 嘘だろ……?」
俺は鎧の翼で飛び立ち、抉れた山の先まで向かった。そうして数分探していると、何と転生者はボロボロで重傷こそ負っているものの、消し飛んではいなかったのだ。
「ほ、本当に生きてやがる。こいつにあの一撃を対処できる方法なんてなかったはずだぞ……」
転生者がいた場所に降り立つと、本気の攻撃を喰らって何故生きているのか俺は困惑した。だがその原因はすぐに見つかる。
見ると転生者の近くに壊れたアクセサリーがあり、それには凄まじいオーラの痕跡が残っていた。
「これは……防御系のアイテムか? 使い捨てみてえだが今の一撃を止めるって相当なもんだぞ? もしかして特典級じゃねえのか?」
「痛え…………」
そんなセリフを吐きながら、何と転生者は意識を保っていた。
俺は、禁手化の鎧を解き、倒れる転生者の目の前に座り込む。そして転生者に落ちていたアクセサリーを見せた。
「おい、これはなんだ? どこで手に入れた?」
「……神から、貰った……俺は、討伐隊として、強さを…神から、認められ……て…」
「神から? だとしたら不公平過ぎるだろうこんなアイテム渡すって。お前を転生させた神ってのは何を、いや……おい応えろ。結局、転生者討伐隊ってのは何なんだ?」
「………」
もう喋る余裕もないのか、転生者は黙りこけてしまった。いっそ拷問して情報を吐き出してやろうかとも思ったが、イライラの方が勝ち、俺は早くこいつの息の根を止めたくて仕方なかった。
「……もういいわ。死ね」
俺は鎧装着時の余韻で残っていたオーラを拳に纏わせ、転生者の頭めがけて最後の一撃を喰らわせようとしたーー
「水の呼吸 拾壱ノ型 凪」
刹那。
縦横無尽の斬撃が目にも止まらぬ速さで繰り出された。速さに特化した雷の呼吸よりも鋭く練成されたその技は、俺でも見切る事が難しかった。
それにいつの間にか、俺の拳は目の前の剣士が持つ青色の刀に止められていた。
「ふう、大丈夫誠也?……て、駄目だ。気絶してる」
どうやら転生者のお仲間のようだった。俺は刀で止められた拳を振り戻し、突如として現れた剣士を見た。
「誰だお前は」
「……僕は転生者討伐隊のリーダー、沖平優介です。『赤龍帝の籠手』を宿す竜崎太陽さん。今回の事でお話ししたい事があります」
どうやらまだ問題が解決する事は無いようだった。
最近感想が書かれない。
みんなどんな思いなのか知りたい。