ROCK ON BLOOM!!! ーロック・オン・ブルームー   作:All Fort

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赤髪、赤目が好きです。


第1話:水面下の憂鬱 後半

初日の授業も一通りが過ぎ去り、もう夕方である。

 

私はアイリス寮の談話室まで来ていた。というか、談話室を通らないと各寝室まで行けないのだ。

 

そんな構造の欠陥上、予感こそしていたがマリア達が陣取っている光景に出くわしてしまった。

ふと窓を見れば、何かの暗示か当て付けか、外では激しい雨が降り注いでいた。

 

「あら? 錬金術師様が来たわね」

 

「最強の? ああぁ〜凡人の間違いですわね!」

 

少し聞き及んだことなのだが、どうやらマリアを中心とする例のグループは全員孤児ではなく、ある程度財力ある家から遥々学びに出された少女達らしい。

この学園は、学園周辺のみならず様々な理由、場所で行き場を無くした若者を積極的に勧誘し、無料で入学させるという方法をとっている。

だが、それ以外の自ら希望して入学しようとする者からは金を取るのだ。

 

それ以外だとアイルズ=アイリーンからの寄付を一部貰いつつ、残りは学園長自身の財源によって全て賄われているとかいないとか。

 

つまり、目の前で私に絡んで来ている彼女達は自ら入学金を払っている富裕層ということだ。

入学金というのも別に安くはないらしいから、きっとかなり余裕のある環境で過ごしてきたに違いない。

 

「な、なんですか?」

 

そんな背景を考えると、むしろ無性に腹が立って、遂に私も言い返してしまった。

しかし、その声色は理想よりもかなり弱気なもので、向こうからは嘲笑で返されてしまった。

 

「あら、錬金術師様には口があったのね、てっきり言葉を発するほどの知能もないのかと」

 

「な、なんだって……!」

 

良い加減馬鹿にしすぎだぞ、と言葉を繋げようとしたが、やはり少しずつ声は小さくなってしまって怯えている自分に気付いた。

私もかなり冷静じゃないらしい。

そう言えるくらいには落ち着いていると思われるかもしれないが、所詮は口だけだ。

その口だって、現実では上手く機能していないではないか。

 

「なんて言ってるか分かりませんわねぇ?」

 

そのように取り巻き達は言う。もう言いたい放題だ。うっかり口を出してしまった自分が憎い。かと言ってこのまま泣き寝入りするくらいなら、昨日のイロハ先輩に被られた恥に比べれば、ここで引き下がるわけにもいかないんだ。

私が取り巻き達を睨み付けると、一瞬だけ身を引いたようなリアクションをする。

だが、その間から真打が登場する。

 

「へえ、それで本当に最強の錬金術師なんてなるつもりなの?」

 

笑い混じりも言葉と共に、マリアが割って出て来た。

その金色のツインテールをむしり取ってやりたいくらいだ。

 

「なるわよ! 何か文句でも!?」

 

「別にぃ?」

 

明らかに見下したような態度だった。

 

ムギギと歯を噛み締めるが、マリアの態度が変わることはなくどこまでも私に冷たい視線を向け続けている。

 

なんで、なんでこんなことになってしまったのだろうか。

 

私が錬金術師になりたいなどと、あの時言わなければ良かったのか?

 

いや、それはそうに違いない! 完全に学園デビューを間違えたのだ!

 

 

 

それは入学してすぐ、自然学という科目のオリエンテーション的な授業に参加していた時だった。

 

そこには、堂々とした態度で教壇に立つ女性教師が居た。彼女こそが、今世紀最も活躍した錬金術師トップ10に載るほどの魔術師である。勿論彼女は錬金学の授業を務めるのだが、よく見ると自然学を担当する男性教師も傍には居た。どこか幸薄そうである。

 

かの錬金術師の授業回数は少ない方で、他学年が合同で参加する場合があるらしい。

今回は節目である為、スケジュールを空けて出て来てくれたのだとか。

 

ただここで私が残念だったのが、錬金術の授業は二年次からしか習えないことなのだ。

半ば、この授業を受ける為に学園まで来たようなものだったから、その説明を聞いたときは目に見えて肩を落としてしまった。

 

その瞬間だった、例の錬金術師と目が合ったのだ。

 

その金色の瞳が私を捉えたことに気付いた瞬間、私は自然と石のように固まってしまった。

蛇に睨まれたなんとやらではないが、あの錬金術師はまさに蛇のようなオーラを放っているのだ。

 

「では、ひとりずつ錬金術で志したい道を言ってもらおうか」

 

唐突にそんな発言をした錬金術師へ、周囲は騒ついていく。

今思えば、これが私にとっては落とし穴だった。

錬金術師はなりふり構わず尋ねていき、各生徒の困惑の輪が広がっていく・

 

「じ、自分は! 王都の錬金術塔に——」

 

「え、えーと私は生活を豊かにできる技術を——」

 

そうやって順番が回ってくる。

 

「お前は錬金術師になって、どうしたい?」

 

他生徒に向けた視線、口調と変わらない平坦な声だ。

しかし私の先入観もあるだろうが、それは威厳に満ち溢れているような気がする。

いや、やはり先入観に溢れているかもしれない。

それでも彼女の瞳の奥に宿る、信念のようなものを私は感じたのだ。

 

「おい、ニア=エージェント。聞いてるか?」

 

「え!? あ、えっと」

 

どこか上の空だった私を覗き込む彼女に、少し戸惑ってしまう。

ゆえに思考そっちのけで言葉を紡いでしまったのだ。

 

「私は……私は、最強の錬金術師になりたいです!!」

 

その講義室内に、マリア達が居たのである。

叫んだ次に耳に入ったのは、誰かの笑い声だった。

 

 

 

 

 

目の前で大笑いしている取り巻き達には、もう苛立ちを通り越して……いや苛立っている。

そんな奴らを制止して、マリアが口を開く。

 

「そもそも、最強の錬金術師ってなによ?」

 

そんなの私にだって分からない。なのに、その一言が一番響くものがあった。かと言って黙るのも嫌だった。

 

「それは、今世紀トップ10に載るような」

 

「たかが雑誌に載っただけで最強だなんて、やっすいわね」

 

安いも高いも無い、たかが雑誌なんかじゃない。

そもそも雑誌だってマリア達みたいな富裕層なら安いだろうが、私みたいな奴らにとっては、遠く足を運ばせるか高い金を払わないと絶対に手に入らないんだ。

なんとか手に入ったのが五年も前の記事の切れ端だった自分の気持ちがわかるか!?

そしてそれは、私の憧れである錬金術師のことも馬鹿にしているんだ!

 

「は!? あんたに何がわかるってんだよ!!」

 

「きゃあー! 錬金術師様がキレたわ!」

 

取り巻きがそう叫ぶ。

 

そんな奴らにも怒りをぶつけたくて仕方ない。錬金術師の何がダメだっていうんだ。お前達は何をして生きていきたいんだ。生き甲斐ってなんだ!

 

そんな中どこか奇妙なのが、取り巻きや他生徒の盛り上がりに反して、マリアだけが異様な落ち着きを見せていたことだ。だが激昂した私にとっては、その澄まし顔すら憎たらしく映んだ。

 

そして気付いた時には、まっすぐ伸びる自身の拳が、弱々しくもマリアを捉えようとしていた。

 

恥も外聞も食堂に置いてきたことにしてくれたらありがたい。

腹の底から叫びながら私は突撃し、しかし取り巻きの邪魔が入って弾かれてしまう。

数人が割って入っただけだが、元々身体が貧弱だった私は

 

「へえ、殴りにくるなんて、相手が誰だか分かってのこと?」

 

マリアはこの中でも特に裕福だろう。

何故なら、アイルズ=アイリーンの現市長の娘なのだから。

そんな彼女に喧嘩をふっかけるのは、いくら子供同士のイザコザだろうと下手に扱えないのかもしれない。

だが、冷静になるには遅すぎたのだ。

 

「分かってる、でもアンタとは喧嘩しないと気が済まない」

 

それが最強になるためだと言うのなら、私はその道を進む。この先も。

 

「その決意は、どこで付いたのかしらね」

 

「実家だ」

 

「え、いや別に具体的な質問ではなくて……」

 

構うもんか、殴ってやるんだ。

 

そうして二度目の突撃をするも、そのブロックは余計に増えてしまった。

最早拳を突き出すことなんて忘れ、両手を大きく広げながら突撃してしまった私の胴体を、頭を肩を、少女とは言え私ひとり何とでもできるような数の膂力でもってして弾かれた。

 

気付けば、取り巻き達の壁によってマリアの表情が見えなくなってしまっていた。

こんなに富裕層の味方が居るなら、学園も資金は潤沢なんだろうか。

そんな考えをした一瞬の内に、私は突き放されていた。

まさに瞬く間と言えただろう、その距離が一歩、二歩、三歩でも届かないところまで離された頃、やっと自分の足が宙に浮いているのだと気付いた。

 

このまま後ろに倒れ込めば、頭から床に落ちてしまうことは明白だろう。

そして気絶して、また明日なのだ。

あの壁を超えられないままで、また次の日。

 

そう悟った私は、緩やかながらも意識の奪われていく感覚に襲われていた。

 

しかし思っていた景色、次の日の朝は訪れなかった。

 

「大丈夫ですか!?」

 

誰かに支えられた触感が、私の意識を鮮明に取り戻させる。

 

「だは!? え、あなたは!?」

 

私の視界を覗き込むのは、決してサイケデリックではなく、美しい桜のような桃色の髪をなびかせた少女。その青い瞳だった。

 

誰だ? こんなに目立つ少女、アイリス寮で見かけたことあっただろうか?

 

「私は……名乗るほどの者ではないのですが、えっと、困っていらっしゃる?」

 

「え? まあ、はい」

 

すると、桃色の少女はマリア達の前へと躍り出た。

先にマリア達の反応が見えたのだが、突然現れた少女に誰もが呆然としている。

そして私から離れた少女の姿に、私も驚いた。

 

まるでパーティーに出席するどこかの令嬢か、王族のようなドレスに身を包み、そしてマナーなどもカケラも分かっていないようなガニ股で歩くのだ。

 

「寄ってたかってイジメですか!?」

 

やはり乱入者に言葉が出ない面々だが、唯一マリアが困惑を隠しながら少女に相対した。

色々あった私は、床に尻を突いた状態でそれを眺めている。

 

「な、何よ突然、アンタには関係無いでしょう?」

 

「関係無いかどうかは私が決めます。それに大多数で囲むなんて卑怯です!」

 

「はあ? それこそアンタに何で説教されなきゃいけないのよ。私は二年生の、しかも市長の娘で——」

 

「そんなのどうでもいいです!!」

 

流石に、この一言には少女の正体そっちのけで騒めく談話室。

最早この談話室全体が、一種のリングに近い空気を帯び始めていた。

 

マリアだって、口を大きく開けてしまっている。

 

「わ、分かったわよ、折角盛り上がってきたところだったって言うのに、台無しね。もういいわ」

 

その後、悪役の負け惜しみ染みた台詞を吐きながらもマリア達は各寝室へと戻っていった。

 

やーいやーいと煽りたくて逸る気持ちを抑え、ひとまず場を収めてくれた桃色の少女の元へと駆け寄る。

 

「えっと、あなたは誰なんです? もしかして良い所のお嬢様?」

 

「いえ? 違いますね」

 

「は、はあ……ところで名前は?」

 

「名前はまだありません。と言うか、覚えていません。ですがアイリス寮の一年生として転入すると言うことだけは知ってます」

 

「へ、へえ? じゃあ案内しましょうか?」

 

「良いんですか!? 喜んで!」

 

その後、絶えぬ疑問を一度呑み込みながら寮の案内を行った。

結果、彼女の使う寝室は私と同じだと気付き、あまつさえ隣のベッドであることまで発覚した。

彼女をベッドに入れ、私もやっと落ち着きを得た。

 

名前の無い少女、つまり記憶喪失ということか?

 

まるで異世界人のようなことを言う少女だな。

そう思いながら、私もベッドへと寝転がった。

 

先ほど押された拍子に鼻の先を引っ掻かれたのか、常にヒリヒリして痛い。

 

「鼻の先、怪我してますね」

 

「そうだなぁ」

 

ん? 私はベッドに入ったはずだが何故ここに少女が!?

 

「なんでここに俺くん……じゃなかった、ここ私のベッドなんだけど!?」

 

「そうですよ? なんですか、良いじゃないですか、雨降る夜は……人肌も恋しくなるものですよ?」

 

やめろやめろ!!

 

咄嗟に飛び起きた私を掴もうとする少女、その腕を首の皮一枚でかわした。

 

「アンタがそっち入るなら私はこっちに入るからな!」

 

ベッドを入れ替える。

 

「寂しいです……しょぼん」

 

わざわざショボンと口に出す辺りが信用ならない。

その後、同じようなやり取りを寮長に叱られるまで続けてしまった。

 

もしや私、とんでもない地雷を踏んだのではないか?

 

憂鬱だ。

 




続きます。
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