「何をあの程度で気絶している。起きろ」
うっ、此処はどこ? 目の前で目玉をえぐり出す姿を見たらゲロ吐いちゃって、それから……。
聞こえて来た怖い声に僕は目を覚まして周囲を見渡す。住み慣れた家とは全然違う何処かの老舗旅館みたいな古い建物だけれど上下左右が無茶苦茶な見知らぬ場所で、目の前には怖い顔の男の人が僕を睨みながら立っていた。
「漸く起きたか。未熟者めが。先ずは頭を垂れて這い蹲れ」
「はいつく……?」
「土下座をしろと……いや、私がさせてやろう」
それは突然の事だった。少し離れていた男の人は一瞬で僕の目の前に現れて頭を掴むと床に押さえつける。この人、一体誰? それに此処は?
「何だ、その程度も知らぬとはな。……童磨の奴は何をやっているのだ。千年の時の末に漸く私の後継者が生まれたというのに」
この人、僕の心を? それに童磨って事は……。
「無惨……ぎゃっ!?」
名前を口にした瞬間、僕の頭は力強く床に叩きつけられる。床板が割れる位の勢いで凄く痛くて僕は思わず悲鳴を上げた。
「無惨様だ。後継者といえど調子に乗るな。貴様と私では同じ鬼邸の者でも地の底と天の果て以上の差が存在するのだからな」
「ご、ごめんなさ……」
「誰が口を開くのを許可した? 貴様の詰まらぬ判断で私の貴重な時間を……クズが。もう時間か」
僕の頭を掴んだ指先が食い込みそうな程に力を込められる中、突然周囲が歪んだ。まるで古いテレビの画面が乱れたみたいで、無惨……様は不機嫌そうな顔をしたけれど、続いて向けたのは少し機嫌が良さそうで、一層怖い顔だ。
「再び会う日までに少しはマシになっておけ。貴様は唯一私の子孫たる資格を、術式を受け継いで生まれた身なのだからな。自分でも驚いたが親心の様な物さえ感じている。だから力の正体を知った褒美を用意してやった。喜ぶが良い。これで詰まらぬ輩にくだらん理由で負ける事もあるまい」
ご褒美だって言われても僕の中には不安しか存在しない。だって、この人から感じるのは恐怖だけだったんだから……。
景色の揺れは凄くなるばかりで目の前の相手の顔も分からないし凄いノイズがして周りの音も聞こえない。
ああ、これで解放されるみたいだし助かった……。
「力を高めよ。技を磨け。そうすれば自ずと私に再び会う日が来るだろう。その時は直々に稽古を付けてやる。長らく無能ばかりが生まれてしまったが、故に貴様には私さえも超える可能性が有るのだからな」
最後にそんな声だけはハッキリと聞こえて僕は絶望に叩き落とされる。……本当の絶望は此処からだなんて知りもせずに。
「やあ! 急に気絶したから心配したんだ。子供とはいえ脆いなあ。それでは今後待つ地獄に耐えらぬだろうさ」
「……最悪の気分」
目が覚めたら見知ったお風呂場で童磨の顔が間近に在って、先生には悪いけれど道場で習った突きを顔面に叩き込んだのに少しも効いていない。何でも呪力が籠もっていないかららしい。
「そりゃゲロまみれで気を失ったんだから気分も悪くなるさ。でも俺が綺麗にしてあげたから安心してよ」
「少しも安心出来ないよ。お母さん達だってこんな時間からお風呂場に居たら変に思うだろうし、さっきは居間で吐いちゃったし……うっぷ」
さっきまで見ていた夢みたいだけれど多分夢じゃない場所での事もあって再び吐き気が込み上げて来る。童磨はお母さん達には見えないだろうし……あれ?
開いた扉の向こうにはお祖父ちゃんが日課にしている昼の入浴をする為に置かれた洗濯カゴに服が脱いで入れられているけど、何時もは同じ服を着るのにどうして? それにお母さんだってカレーを火に掛けっぱなしで何処かに行っているし、お父さんだって今日はお休みの筈だ。お使いから帰ったら一緒にテレビゲームをする約束だったし、お祖母ちゃんだって……何で誰も居ないの?
「お前、僕の家族に何かした?」
「いや? 俺は何もしていないさ。俺はね。君には思い当たる節があるんじゃないかな? だって無惨様が俺を封印する前に教えてくれたんだぜ。”後継者には家族を人質に取られて困る様な苦労はさせはしない。お前が目覚める時、それは後継者の力が安定する頃だ”ってね」
「あ……」
ご褒美を用意したって言われたのを思い出す。認めたくない事実が、受け入れられない現実が僕の頭に浮かんで来た。
「安心しなよ。あの方は術式を継承した子孫以外は子孫だと認めていないけれど、子孫が気にせずに済むように一瞬で消え失せる位の思い遣りは有るって思い込んでるからさ。だから君は気にしなくて良い。君の家族は君が呪力に目覚めたからこの世から消え去ったけれど、それは君の責任じゃないからね」
「あ……ああ……あああああああああああああああああああああっ!?」
童磨が何か言っているけれど僕の頭には入って来ない。僕が、僕がそんな力なんかを受け継いだから? だから家族が消えちゃったの? もう二度と会えないの?
「ああ、そうだ。君みたいに苦しんでやる気を無くすって事は一切予想していないみたいだったし、先祖代々の呪術師の一族ってのは基本そんな感じだから俺が助言しておいたよ。”親に甘えたい盛りだったり長い間呪力を持たないのが続けば困るし、次のご褒美を与えてはどうか”ってね。半殺しにされたけれど一考しておくってさ。……まあ、無惨様の呪いで消え去ったんだから、同じ術式を持つ君が無惨様を超えれば家族を取り戻せる……かも知れないぜ?」
「……本当?」
「ああ、本当の話だとも。何せ俺は他の仲間を全員喰って力を高めた上で後継者に仕えるべく封印された存在だ。君との間には主従関係を結ぶ縛りが存在するし、嘘は言っていない。……じゃあ、今日から頑張ろう。術式に関する基本的な事は後継者の君だけが触れられる書物に乗っている筈だし、基本的な呪力のイロハは俺が教えてあげるからさ。だから俺を信用してよ」
「……嫌だ」
差し出された手を僕は振り払う。此奴は僕から家族を奪った奴の手下だ。それに会った時から絶対に信用出来ないって思えて仕方無い。
でも、それでも……。
「お前なんか信用しない。利用して僕の目標を叶えるだけだ」
「それで良いんじゃないかな? どっちみちやる気を出してくれて俺は嬉しいぜ。おっと、無惨様に対する態度と同じ方が良いかな?」
「……気持ち悪いから却下」
吐き気は酷くなる一方だし、今も泣き出したい。でも、それを怒りが抑え付ける。彼奴は、無惨は僕が強くなれば会うだろうって言っていた。童磨が信用出来ないけれど家族を取り戻す為にも、無惨に復讐する為にも僕は強くならないといけないんだ。
「じゃあ、倉に行こうか。向かう最中に君の術式に関して教えてあげよう。まあ、家や学校の辺りには呪霊が居ないし、自覚がある前から無意識に使ってるみたいだけどさ。……自覚した事で逆に乱れているし、流石に連中もそろそろ気が付くかな? どっちが先に来るのか楽しみだ」
何か不安を煽る事を言っている童磨だけれど多分わざとだ。こうやって楽しんでいる……演技をしているっぽい。
此奴、本当に感情があるのかさえ疑問だ。
「……あっ! さっきは仲間を全員食べたって言ったけれど、実は一匹残ってるのが多分倉の中に仕舞っている箱に封印しているだろうし、未だ名前が無いから付けてあげてよ」
……どんな奴だろう? 凄く嫌な予感がするんだけれど……。
「まあ、カエルの子供みたいで可愛い奴さ。……現代なら俺よりも強くなるんじゃないかな?」
ドーマさんは元は兄上か半天狗の予定でしたが、他の人物に色々言っても”言うだろう、此奴は”って感じなのと直前の思い付きで変更です
コミック派なので裏梅は今日詳細知りました
とあるキャラクターの強化案
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キャラメルマン
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バイキンUFO