先祖はパワハラ上司らしい 自分は頑張ろう   作:ケツアゴ

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自衛の呼吸壱の型

 人間は夜を恐れる、闇を怖がる。ほんの少し先も見えない暗闇が怖くって光を求めたし、何が在るか分からないから何かの存在を信じた。闇への畏れ、夜への恐怖。

 

 夜は恐怖を刺激する。闇は恐怖を増大させる。まるで一歩闇に足を踏み込めば其処は腹を空かせた怪物の口の中の様に。

 それは遥か昔から夜の闇を忘れた様に明かりの下で過ごす現代にまで続く心の底からの本能で……。

 

 

 

「汚い。流石総監部汚い」

 

「狛治さん、どうしたんですか? あの子」

 

 五条と夏油が進級して後輩二人が出来た頃、この日の創示の機嫌は非常に悪かった。漢字の書き取りの宿題をしながら同じ事を呟き、コップから麦茶を一気に流し込んで氷まで噛み砕く。

 頬も膨らませて不機嫌なのが横から見ても伝わって来ていた。

 

 任務から戻ってその光景を目にした夏油が保護者なら何か知っているかと尋ねれば、頭が痛そうにしながら新聞を差し出す。

 

「元環境相大臣の親類の工場による甚大な環境汚染については知っているだろうか?」

 

「ええ、化学物質だらけの汚水を適切な処理もせずに垂れ流して周囲の水源と土壌を汚染した上に、窪地の関係で対策無しに排出した有毒なガスが溜まった状態とかで連日ニュースに……」

 

 何故それが不機嫌に繋がるのかと疑問に思いながら記事を読めば政府は環境汚染対策の大規模プロジェクトの第一段として今回の汚染を解決すると発表したという。

 それには億単位の税金が投入されるそうだが、そんなプロジェクトが存在する事も、それがあったとして数億で足りる筈がないとも分かっている。

 

 そこまで考えて夏油は何となく裏側を察した。

 

 本来呪術に関わる事は呪霊の発生拡大を防ぐ為に秘匿とされているが、流石に政府高官は存在を認識している。つまり何かあれば総幹部へ政府から要請があるという訳で……。

 

 

「成る程。ヘドラか……」

 

 公害怪獣ヘドラ。強力な硫酸の霧や光化学スモッグに何なのかよく分からない光線に加えて顕微鏡で漸く目視可能な群体で構成された巨体に飛行能力と能力モリモリな特級呪霊。自然を汚す事への畏れを元に創り出された事もあってか生命にとって有害な物質を吸収する事で更に強く大きくなって行く。最近は宇宙にて宇宙線やらを浴びるのが趣味らしい。

 

 巨額の税金を投じるも元手は実質無料。マスコミを騙す為に何かやってる感を出す費用は必要なのだろうが……。

 

 浮いた費用は政府と総監部で山分けなのだろうと考えれば二人の反応も納得行くというものだ。

 

 

「新しい子を創る条件で命令されたんだけれど詐欺じゃん! 横領じゃん! ……困ってる人が居るからヘドラに頼むのは良いけれどさ。僕はそんなズルにか…か……」

 

「加担、かい?」

 

「うん! 加担したくないから報酬はお金で受け取らないんだ。ヘドラ達の名前を暴走族みたいに変に漢字にしないって言ったんんだよ」

 

「上は相変わらずだな。後輩二人にも……」

 

 新しく入った灰原と七海の二人に総監部には注意しろと改めて警告すべきか、と思った時だ。廊下の向こうからその後輩二人の叫び声が聞こえて来たのは。

 何があったのかと慌てる中、その二人が慌てた様子で駆け込んで来た。顔を真っ赤にして少し前に傾いた様子だ。

 

「風呂場から半裸の美女が……」

 

「自動販売機の前に居たら普通に歩いて来て。何なんですか、彼女!?」

 

「あ、うん。一種の洗礼みたいな物だから気にしないでくれ。あの子のお兄さんに注意してもらうから」

 

 そして相変わらず羞恥心が無いのか風呂上がりにそのまま廊下に出ている堕姫。最近は前を隠せば良いだろとばかりに腰にタオルを巻いて首からタオルを下げて胸だけ隠してはいるものの、頭の中身がお子様でも絶世の美女の半裸は青少年二人には刺激が強かったのだろう。

 

 尚、中身が頭の悪いお子様だと分かっている組は慣れたのか普通に兄に注意してもらっている。風呂上がりにアイスやジュースが欲しくなるのは構わないが、せめて服はちゃんと着ろと言っても偶にやらかすので諦めていた。

 

 

「成る程。彼女もあの子が従えている呪霊の一体でしたか」

 

「ああ、最近は任務で居ない事が多くて顔合わせはしてなかったか。二人が既に会ってるのは誰だい?」

 

「フォウとメリーさん、それとヘドラとハサンさんには二人共会っていますね。それに加えて私だけで鵺と黒死牟さんには会っています」

 

「自分は童磨って人と鵺には会ってますよ。性格と口が悪いですよね!」

 

「灰原が会った二体は特別性格と口が悪いけれど、他のは比較的マトモだから安心すると良いよ。童磨とはあまり関わらない様にね。性格が悪いから」

 

 呪術師は万年人手不足で呪霊の発生はネットの普及も合わさって右肩上がり。以前までは他の呪術師との共同任務が多かったが、今では安心して利用可能と判断されて単独任務も増えて来た。

 但し歌姫を介して五条に嫌がらせが出来るので童磨は罰の期間も明けて相変わらずで、歌姫が大忙しになっている。結果的に童磨は得をしていた。

 

 

 

 

「ああ、そうだ。新しい十二鬼月を創るのは今日の予定だったね」

 

 今宵は新月、月が完全に欠けてしまう日。核にしようとしている呪物との相性が最も良くなる日であった。

 

 

 

 呪術師にとっての一つの到達領域である領域展開。本来は術師の心象風景等に大きく左右されるのだが、それは不特定多数の者から影響を受けていた。闇への恐怖から生まれ落ちそうだった呪霊を加工して作られた物で、製作者にさえも制御不能。発動すれば顔の前に近付けた指さえも見る事が出来ず、喋る声さえも闇に吸われて消え去る無明無音の空間が果てなく続く。

 危険度は宿儺の指の数本では届かず、封印される以前に領域内部に囚われた者達がどうなっているのかは分かっていない。

 

 

「アレが“闇”かよ。うへぇ。確かにエグいぜ……」

 

「何というかそのままなんだね、名前」

 

「余計な言葉は不要だって事らしいぜ」

 

 今回の作成の際、見学を許されたのは一級術師以上の実力を持つ者のみ。核となる物の厄介さからして生み出した創示は兎も角、生半可な者では近くに居るのもリスクが大きいと夜蛾が判断した。

 

 何者かに禪院家が壊滅状態に陥らされた事がなければ封印解除を許されなかったであろう物体のシンプルな名前と手の平に乗る大きさの球体という見た目に夏油は一瞬だけだが肩透かしにあった気分だった。

 感じないのだ、何も。

 

 唯一六眼を持つ五条だけが危険度を把握する中、空中に開かれた口に闇が放り込まれ、続いて大量の呪力が注ぎ込まれる。

 

 

「何ヶ月も掛けて貯めた呪力。……そして天元様を初期化する際に削ぎ落とした部分を呪力に変えた物か。次に生まれるのは間違い無く上弦だろうね」

 

 夏油の呟きが聞こえたのか鵺が微かに舌打ちをする音が響く。口の中で咀嚼され混ぜ合わされた二つはやがて一つの巨大な球体となって吐き出された。

 

 その球体が内部から引き裂かれる。まるで母の腹を食い破って誕生するかの様にして現れたのは闇の塊、そうとしか言い表せない不定形の存在だ。この時になっても夏油では呪力さえも感じ取れない中、闇の塊が創示を見つめるかの様に近付き、やがてその体が収縮すると人の姿を取った。

 

 紫の髪色をしてリボンを付けた虚ろな瞳の幼い少女。それは小さい手を彼に伸ばして頬にそっと手を触れる。

 

 

「私のおなまえは?」

 

「えっと、女の子だから花の名前が良いかな? 闇だから黒で……黒ひまわり? 黒あじさい? 黒タンポポ? それと……」

 

「……桜。桜が良い」

 

 この時に僅かだが感情が現れる。此奴、センスが悪いと言いたそうな落胆っぷりだ。

 

「そう? 黒桜だね、よろしくね!」

 

 そんな感情を向けられているのに気が付く事も無く頬に触れる手を握りブンブンと振る光景は一見すれば幼い子供の交流として微笑ましく見えるだろう。ただ、五条はその姿に警戒の色を示していた。

 

 

 

「うん……」

 

 握られた手をそっと見つめる黒桜が目を向けるのは護衛としてこの場所にいる静謐のハサンの姿。何を思ったかそのまま目の前の創示に黒桜が抱き付けばそれを見る表情が変わり、指で得物を挟み込む。

 普段から薄い表情が完全に消え去り、目には光が無かった。

 

「落ち着きなさいって。どっちとも見た目も中身も子供でしょうが。執着しすぎだって」

 

 堕姫が肩を掴まなければ嫉妬に動かされていたであろう姿に呆れられる中、黒桜の全身が再び闇へと変わる。それが再び人に姿を変えれば先程よりも十歳は成長したであろう白髪の美少女へと変わっていた。

 

 

 

「どうせ仕えるならこっちの姿が良いですか? 男の子ですからね」

 

「堕姫さん、離して。彼奴殺せない」

 

「だから落ち着きなさいって。ちょっとお兄ちゃーん!? 此奴どうにかしてよー!?」

 

 創示を抱き締めながら勝ち誇った笑みを浮かべる黒桜とブチギレ状態のハサン。堕姫にはどうにもならなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして月日は過ぎて暑い夏の最中、蛆の様に呪霊が湧く中で麦わら帽子を被ってクワガタを捕まえに行こうと出掛ける寸前だった創示の前に一人の女性が現れた。

 

 

「君が例の子供か。さて、少年。どんな女がタイプかな? 男でも良いぞ」

 

「えっと、こんな時は……」

 

 防犯ブザーの紐を引き抜いた瞬間、けたたましい音が響き渡る。初対面で小二男児に好みを聞いてくる成人女性。速攻で変質者認定もやむを得ない。

 

 

 

 

 

とあるキャラクターの強化案

  • キャラメルマン
  • バイキンUFO
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