なあ、”さるかに合戦”って知っているか? ”かちかち山”は? ”舌切り雀”や”花咲爺さん”だって日本じゃ有名だよな?
……最後に酷い目に合う奴をどう思った? 猿や狸や意地悪で欲張りな爺婆共だよ。良い気味だってか? 自業自得だってか? 善人を苛めた奴は苦しんで当然だって?
ああ、大勢の餓鬼が昔から思っただろうよ。”この悪役は凄い酷い奴だ。悲惨な目に遭うのが相応しい悪人だ”ってな。
俺を生み出したのは古い絵本に籠もったそんな想い。沢山の昔話が収録された分厚くて古くて、今じゃ図書館の隅で誰も手を取らずに忘れられていた廃棄寸前の本。
餓鬼って凄いよなあ。数の力でただの絵本を呪物にまでしちまうんだから。大勢で一人を襲っても、相手が悪役だったら構わないってんだからよ。
俺の名は”鵺”。弱っちい連中を虐げる力を持った十二鬼月の下弦が一体。……まあ、強くなったら入れ替えだって有り得るだろうし、今は我慢しておいてやる。今はな……。
「うわっ! 色々と知識は得たけれど、この時代のお菓子って凄く美味しいのね。あっ! かき氷だって凄く安いんでしょう? 食べてみたいわ! お兄ちゃんも食べたいわよね?」
「俺は要らねえよぉ。んな事よりも食べかすをボロボロ落とすんじゃねぇよ。みっともないだろぉ」
……例えば上弦になったこの兄妹。妹の方は主のリュックに入っていた菓子を貪ってるし、兄貴の方はそんな妹の口元を拭いたりと世話を焼いてやがる。
こんなのが俺より上? くっだらねぇ。
「ああ、主が安らかに眠って……」
そして俺と同じ下弦のハサンは力を使った事で眠っちまった主をソファーに寝かせ、自分は膝枕をしているかと思ったら頭を撫でて良いのか迷ってやがる。
他人にベタベタ触れるのが嬉しいらしいが、生前の記憶だの未練なんて物が存在しない俺にはちっとも理解不能だぜ。
「ああ、何奴も此奴も平和ボケしやがって。……ちっ!」
そろそろ雑魚呪霊でも狩りに行きたいぜ。弱い奴をいたぶるのは最高の気分なんだよなぁ。出来たら善良なのが良いんだが、善良な呪霊なんざ居る筈が無いと思った時だ。
弱い奴を虐げる事に特化した術式を持っている俺だからこそ俺よりもずっと上の呪術師の接近に気が付けたのは。
こりゃ堕姫と妓夫太郎よりも上だな。
「……ふ~ん。本当に呪霊を従えてるんだな。てかエッロい服装だな、おい。痴女かよ」
無遠慮に俺達をジロジロ見て来たのはガラの悪い白髪の男。堕姫の下着みたいな服装に反応した後で未だに寝こけてる主に近付くと手を伸ばした。
「おい、起きろよ、ガキンチョ」
揺すろうとでもしたんだろうな。肩に向かって手を伸ばし、眉をしかめたハサンがその手を掴んで止めようとしたがギリギリで止める。
「……触れない」
「あっ? おいおい、テメェ……」
なんかの術式の力で触れないらしいが、ハサンをちゃんと見るなり男は後ろに飛び退く。……成る程な。
此奴、触られない事は出来ても空気中の毒までは防げないって所か。俺は弱い奴を虐げる存在の集合体みたいなもんだから分かるんだよ。そういう弱みって奴がな。
「悟、その辺にしておけ」
まあ、流石にそろそろ止めるよな。あの夏油って奴が止めに入って白髪が動きを止める。主が目を覚ましたのもその時だった。
うわぁ。凄く怖いお兄さんが居る。多分不良って奴だよね。
「お兄さんもこの学校の人? 僕は……」
「鬼邸だろ? 聞いてるよ。……確か加茂の所から千年近く前に独立した所だったな」
「かも?」
「ああ、無惨様が見限って出て行った家だよ。因みに彼は五条だね。多分六眼も持っているし、凄く強くなれるんじゃないのかな?」
「あっ、童磨」
何時の間にかやって来た童磨が怖いお兄さんの肩に手を回して頬を指先で突っついているんだけれど、どうして夏油さんは驚いた顔なんだろ?
「悟に触れているだと!? 無限を突破したのか!?」
「ん? ああ、別にやりようは幾らでも有るんだ。実際……千年前の御前試合で俺が倒したし。まあ、結構ボロボロされたんだけどさ」
「テメッ! 気安く触れてんじゃねぇよ!」
「おっと、危ない危ない。おいおい、俺は君と戦う気は無いんだから仲良くしようぜ?」
怖いお兄さんは童磨を振り払おうとするんだけれど全然効いていない。呪力を込めた拳を顔面に叩き込まれても微動だにしていなかった。
「誰が呪霊と仲良くするかよ」
「誰も童磨とは仲良く出来ないと思うよ?」
「うわぁ。俺って嫌われ者だ。何でだろ? まあ、俺が何かしたんだったら……これで詫びにしてくれよ」
童磨は自分の顔面に拳を叩き込んだけれど、その瞬間に呪力が黒く光って見えた。さっきお兄さんが殴っても直ぐに治る程度の傷だったのに今は肉が抉れて骨が砕けてしまってる。
「黒閃……」
「ああ、呪術師には狙って出せなかったんだっけ? 俺はこの通り……楽に狙って出せるぜ」
童磨が机を指先で叩く度に呪力が黒く染まっているし、お兄さん達は更に驚いている。あれって凄いのかなぁ?
「……とんでもないな。鬼舞辻無惨の従えた呪霊なだけあるという訳か」
お話が終わったのか夜蛾さんがやって来たんだけれど、童磨が穴を開けた机を見ながら驚いてるし、
「きぶつじ?」
……誰の事だろ?
「それについては後々話すし、気になるなら其処の奴に聞けば良い。それよりも君の今後について一つ決まった事が有る。少し不便を掛ける事になるが良いか?」
「不便?」
……テレビとかゲームが禁止なら嫌だなぁ。
「……まさか高校に住み込むなんて。暫くは小学校だってお休みかぁ。……今週は好きなメニューが給食に出るのにさ」
あの後、夜蛾さんが告げた僕の今後ってのは夏油さんや怖いお兄さん……五条さん達と一緒に生活するって事らしい。転校とか僕が術式で作り出した呪力や反転術式の込めた石とかの取り扱いで揉めてるらしい。
ぜーいん? とか、かも? って所が欲しがってるらしくって、話し合いが終わるまでは寮に泊まってお勉強だなんてさ。
「ならば私が作りましょうか? お料理に挑戦してみたいですし」
「アンタって宗教上食べられない物だって有るんでしょ? 料理しちゃって大丈夫なの?」
「……あっ。えっと、メニューは何ですか?」
「すき焼き風煮」
「む、無理です……ごめんなさい」
そんなこんなで寮で過ごす僕達だけれど、今はハサンと堕姫と一緒に居る。ハサンが僕と一緒に居たいってついて来て、妓夫太郎はテレビに夢中だから堕姫もついて来た。
「……おい、どうして其奴が此処に居るんだ?」
「すっげ」
「あっ、夏油さんに五条さん。なんかね、堕姫も広いお風呂に入りたいんだって」
そんな僕は今、凄く広いお風呂でハサンに背中を流して貰っているよ。
「何ジロジロ見ているのよ、童貞共」
堕姫は首を傾けて下から睨み付けて居るけれど……どーていって何だろう?
とあるキャラクターの強化案
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キャラメルマン
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バイキンUFO