「これが現実!と言った処か」
鑑定の儀を受ける為、聖アレイウス教国までやって来た。
態々教国を訪れて、たった今大聖堂で教皇自らの鑑定を受けた処だった。
これは大変名誉な事らしく、王族の特権らしい。
だが元日本人の身では、どうしても宗教は胡散臭く感じてしまう。
根っからの無信教!と言うヤツか?
神に祈るより、自分でやる事が有るのでは?と思ってしまう。
それともそれは、
祈る事しか出来無い状況に追い込まれていない、恵まれた者の戯言なのか?
現に大聖堂が在った荘厳で綺麗なメインストリートを外れると、
其処はスラムに繋がっていた。
日本に居た頃の、■円の募金で子供が助かります。
と言う募金のCMの、現実Verの光景が目の前に広がっている。
神を信奉する宗教国家の現実だった。
神は全てを救えない。だから神の声(神言)を聞こう。
多くの神の声を聞いて強くなろう。Lvを上げよう!と言うのが神言教の教えだ。
LvUPやスキル獲得時のシステムコールを、神の声だと信奉している。
確かにスキルは、ギフトと呼ぶのが相応しいかもしれない。
「要は頑張って自分で何とかしろって事だ」
その教えに従って、特にスラムに施す心算は無い。
しかも此処は帝国では無く、外国の聖アレイウス教国だ。
スラムの改善は、この国の為政者の仕事だろう。
「これは、結界か?」
スラムを立ち去ろうとした処で、異変に気付いた。
辺りが突然霧に閉ざされた。閉ざされて、道が解らなくなる。
これは濃霧でも、産業革命的なスチームでも無い。霧の結界だった。
霧の結界が、道を閉ざして封じている。
「帝国の継承者を狙ったテロか暗殺?
それともただの物取りか」
普通に考えれば、帝国の継承者を狙ったテロか暗殺を疑う処だろう。
だが此処はスラム!スラムでは、人の命は安くなる。
パン一切れの方が、人の命より高くなるのがザラの世界。
襲われる理由など何でも有り、と言う事だ。
「と、思っていた訳だが」
暫く冷静に状況把握に務めたが、襲撃が無い。
疲れて気が抜けるのを待っている。と言う線も有るが、何か可笑しい。
「探索するしか無いか」
霧の結界の探索を始める。
霧が発生して道が閉ざされているだけで、他の脅威が存在しない。
このままではやがて衰弱して死にはするだろう。
だが直接的な害意が無かった。拘束目的の結界の可能性も有るが、
結界の御立派さを思うと、どうにもアンバランスだった。
「これは暴走に巻き込まれたパターンか?」
これは襲撃では無く、事故!そんな気がして来た。
やがて霧の結界の中で、同じ年頃の子供が蹲っているのを発見する。
子供は眠っていた。疲れ果てて眠っているように見える。
「コイツが術者なら助かるが、どうするか」
†
「それが長谷部さん?」
「そうだ。鑑定の儀の、帰り道の事になる」
長谷部結花。ユーリーンは捨て子だった。
残念ながら珍しくも無い不幸!と言う事になる。
これは教国だけの話では無い。何処にでも有るありふれた不幸だ。
「【夢見る乙女】?」
「名前がキラキラだが、それが霧の結界の正体だ」
ユーリは絶望していた。
在る日突然!親に捨てられて呆然としていた。
親に捨てられて、これからどうしたら良いのか?
これから自分は生きて行けるのか?
そう言った未来への不安、混迷が霧の結界となって具現化した。
元々はキラキラネーム通り、
理想の夢を具現化するスキルらしいが、やはり暴走中だった。
「これは!」
「連理君。なの?」
当時の自分は、
この術者候補をさっさと起こして、事態の終息に務めたかった。
だが元々そう言う性質なのか、転生者同士で波長でも合ったのか?
蹲るユーリに触れただけで、パスが繋がる感覚がした。
すると景色が一変。霧が立ち込めるスラムが、
転生前に見慣れた平進高校の教室に変わる。
アッシュブロンドに綺麗な碧色の瞳。容姿的な面影は全く無かったが、
目の前で蹲る子供が、隣りの席だった長谷部だと確信する。
「そうか、なら尚更。蹲っている場合では無いな」
「連理君?」
だが相手が誰であろうと、ユーリが結界の主である事に変わりは無い。
この結界はユーリの心の不安その物だ。ならそれを解消すれば脱出可能。
だから説いた。蹲るより、これからの事を考えて早急に動くべきだと。
「でも、私一人でどうしたら!?」
「教会を頼ろう。確か孤児院が在った筈」
安直だった。
教会の孤児院が全ての子供を救ってくれるなら、そもそも孤児は存在しない。
だが気楽に考えていた。
多少の寄進を握らせれば、ユーリを引き取ってくれるだろうと。
帝国の人間である自分では、これが最大限の対処だろうと判断した。
本当に安直だった。そして愚かな選択でも有った。
「ありがとう連理君!本当にありがとう!!」
「今はレンバートンだ。レンで良い」
「解ったよ、レン君!」
そして予想通り、教会は喜んでユーリを引き取ってくれた。
これからユーリは教会のシスターか、小間使いにでもなるのか?
それは解らない。ユーリの人生だ。好きにすれば良い。そう思っていた。
「それから長谷部さん。ユーリはどうなったのですか?」
「結界は解除されて、無事帝国に帰還する事が出来た。
逸れた供の者とも合流して、すっかりユーリの事も忘れた」
だが残念ながら、話は此処で終らない。
それから数年が経過して、成長したユーリと再会する機会が有った。
†
「磔刑の聖女?」
「はい。聖アレイウス教国から、教会からの援軍。
新しい聖女様と、信徒兵の援軍です」
「新しい聖女様のお披露目。と言う事か」
「レンバートン殿下にこれ以上の戦力など、過剰戦力だろうに。
全く教会も露骨な事をしよる」
アレはありふれた討伐任務だった。
帝国の領土に現れた、特に珍しくも無い魔物の討伐任務。
其処へ副官から告げられた報告に、ロナントが鼻を曲げる。
確かに自分とロナントだけでもオーバーキルだろう。
だがそれを言うなら、そもそもロナントが居る時点で過剰戦力だ。
「ロナント、帰還するか?」
「それは殺生ですぞ!レンバートン殿下!!
是非とも殿下の魔導の深遠!このロナントに拝見させて頂きたくっ!!」
「教師でも講師でも無い。教えられる事は無いと言った筈だが?」
ロナントの意志は固い。酷いオーバーキルだ。
そして更に追加される過剰戦力!教会は余程、新しい聖女を使いたいらしい。
「なら先陣は聖女様の部隊に任せよう。
こちらは支援に徹すれば良い」
「殿下。それでは魔導の深遠が!いや帝国の威信が!!」
「ロナントの口から帝国の威信などと言う言葉が出るとは、
善からぬ事が起きる前触れだな?警戒を厚くしろ」
討伐作戦前の軽口。冗談の心算だった。しかしこの冗談は的中する。
新しい聖女の部隊が魔物の群に接敵した。そして目撃する。聖女の戦いを。
「何だ。アレは!?」
「反射魔法?いや被害を移す呪詛の類ですかな!?」
それは何とも無謀な自己犠牲戦法だった。
魔物の只中に飛び込んで応戦。しかし捌き切れる事無く反撃を受ける。
反撃を受けて倒れる聖女。だが反撃に出た魔物も倒れた。
確かにこれはロナントの言う通り、反射かダメージ移しの類だろう。
だが何度倒れても起き上がり、
また倒れる聖女の姿を見て、これはそう言う安直な物では無いと確信した。
「これより帝国は支援行動を開始。
さっさと終らせる」
「おぉっ殿下!」
帝国の支援で、魔物の討伐はあっさり完了。
瑕付いた聖女は、美しく成長したユーリだった。
だがあの綺麗な碧色の瞳は閉ざされ、アッシュブロンドの髪も瑕だらけだ。
再会に会話は無く、担架で運ばれて行った。
「ユーリはすっかり聖女になっていた。
あぁやっていつも、瑕付きながら戦っているらしい」
「レン」
選択を間違えたのだと、そう実感した。
安直な判断だった。帝国の人間だから何だ?外国人だからどうした!?
あの時教会に預ける事無く、帝国で保護して置けば!と後悔している。
いくら帝国の人間で外国人でも、自分は帝位継承者だ。何とでも出来た筈。
人一人。ユーリ一人位!助けられた筈だ。
ユーリを聖女にして、過酷な人生を選ばせる事も無かった筈だった。
「相談。して欲しかったです」
「カティアの顔を見たら、弱音を吐きそうだった。
全て、ブチ撒けたくなる」
カティアに後ろから抱き付かれる。
こうなる気がしていたから避けていた。だが拒む事は、やはり出来無い。
「撒いてくれて構いませんのに。
婚約者でしょう?」
「ユーリの件以外にも、色々有った。
まだ話していない事がゴロゴロしている」
「話して下さい。レンに何が有ったのか、知りたいですわ」
†
補足&解説枠。
ユーリとの再会。過去回です。
鑑定の儀
アニメ版ではシュレインが、教皇と会っていたシーンが有ります。
アレを鑑定の儀だと仮定。
アナレイト王国に教皇を招待した可能性も有りますが、
本作のレンは鑑定の儀を受ける為、聖アレイウス教国まで行った設定です。
ユーリーン・ウレン
原作では赤ん坊の頃に、既に捨てられて孤児に。
本作ではレンが、鑑定の儀を受ける年に捨てられています。
これは帝国の第二王子であるレンが、
教国の孤児であるユーリに、赤ん坊の頃に会えるフラグが無いからです。
夢見る乙女
ユーリの転生特典。理想の夢を具現化するスキル。
今回は不安や混迷が形となって、霧の結界が具現化。
平進高校の幻影は、接触に因る一時期的な共通投影です。
ロナント
レングザンド帝国の、人類最強の魔法使い。
魔法マニア同士レンとは仲が良く、討伐任務などに同行したがる。
レンを手本とすべき師匠を視る目で見ているが、
原作の白織を見るような、崇拝の域には達していない。
過去レンとロナントが、
ダメージ【移し】と言っているのは誤解釈。ダメージ【映し】が正解。
この後カティアは帝国で何が有ったのか聴く事になりますが、
真相編はスキップして続きます。
次回はソフィアにストーカーが!?
と言う話しになる予定ですが、公開未定です。仕事が☆