「先程はすまなかった。そちらは話し合いを求めていたのに、聞く耳も持たずに、ましてや妹の恩人の仲間に手を出すなんて……」
オーガの若様は事情を聞いた途端膝をつき謝罪をしてきた。それは他のオーガも同じだった。まさか里の姫の命を救った仲間だとは思わなかったのだろう
「頭を上げてください。あなた方の事情は姫様からは聞いています」
「なあ、改めて聞くが、貴殿は本当に我等と同じ魔物なのか?どう見ても、人間にしか見えんのだが」
「本当ですよ。なんなら証明しましょうか?」
ルインは翼をオーガ達に見せる。姫以外のオーガ達は驚いていた。翼を出したルインから魔物特有の気配を感じたからだ。
「その翼、
「はい、鳥人のルインです…」
「うむ、ここまで人間に似た姿の
老オーガもルインの姿には驚きを隠せなかった。
「あなたが何者なのかはわかった。リムル殿、でしたか?すまないが、その仮面見せてくれないか?」
「いいよ。この仮面はある人の形見でね。なんなら、お前達が言っていた魔人と同じ物かじっくり確認してもらっても構わない」
「ああ………」
リムルがシズの仮面を外し、オーガの若君に手渡すと、若君は仮面をじっくり確認した。
「似ている気はするが……妹よ、この仮面……」
「はい、この仮面には、抗魔の力が備わっている様です」
「しかし、あの時の魔人はオーラを隠してはおらなんだな」
「では、あなたは何者なのだ?」
「俺?俺はただのスライムだよ」
「スライム?そんな馬鹿な……」
「本当だ。改めて…俺はスライムのリムルだよん♪」
リムルは擬態を解きスライム体に戻り、ルインの頭の上に乗っかる。その姿を見たオーガの姫達は再び驚いた。オーガ達を圧倒したリムルの本当の姿がスライムとは思ってもみなかったのだ。
「ほ、本当に……!」
「もしかして、ルインさんが仰っていたもう一人の主様なのですか?」
「Exactly(そのとおりでございます) 」
「驚いたかな?」
「は、はい、まさかスライムとは思ってもいませんでしたので」
姫君は「驚くと思う」とルインが言っていたことを思い出したようだ。
「どうやら、追い詰められて勘違いしていた様だ」
「気にしなくてもいい。それより、ここで話すのもなんだし、一先ず町に戻ろう。お前達も来いよ」
「……いいのか?」
「勿論です。事情は姫様から粗方聞いてますが、若様からも話を聞きたいんです。あなたの言っていた『魔人』のことも……」
「そちらの仲間を傷つけてしまった……」
「それはお互い様です。死人は出なかった様ですし、おあいこと言う事にしましょう」
「……かたじけない」
「すまんかったの…」
老オーガはゴブタに近寄り謝罪するが、まだ斬られた恐怖が拭えないゴブタはリグルの背後に隠れた。
「それに今日、うちは宴会なんだ!人数が多い方が楽しいだろ?」
「俺達は歓迎します(でも、リムル、宴会は良いが、味覚は……?)」
「(ふっふっふ、ルイン君?君は何か忘れていないかい?今の俺には……)」
「(……?あっ、そう言う事か!)」
「(察しが良くて助かるよ。ようやくお前と対等に食事が出来るかもしれないしな!)」
リムルは捕食した生物に擬態出来る能力がある。そして、数週間前にリムルはシズを捕食している。擬態とは言えそっくりそのままの姿になれる為、味覚も備わっているとルインは気づいたのだ。
こうして誤解から始まった争いは無事に終わった。オーガにやられたホブゴブリン達はどうやら擦り傷程度で済んだ様だ。オーガ達の怪我も含めてリムルの回復薬で完治させた後、一同は町へと戻るのであった。
「そう言えばお前達、名前は?」
「いや、俺達に
「そっか(普通はないんだっけ?)」
「(生前は名前があることって当たり前のことだと思ってたけど、本当は有難いことだったんだとしみじみ思うよ)」
そんなこんなで、ルイン達は町に戻り、宴会の準備を始めるのだった。
そしてその夜、宴会は予定通り始まった。そこでは、とある中心にホブゴブリンやゴブリナ達が集まっていた。ソファにはリムルとルインが座っており、町唯一の料理人ゴブイチが串焼きをテーブルの前に持ってきた。
「リムル様、ルイン様、どうぞ」
「おう、ありがと」
「ありがとう、ゴブイチ。リムル、先に食べな……まずは確かめないと」
「じゃあ遠慮なく……この世の全ての食材に感謝を込めて、いただきます!」
リムルは肉の串焼きを一口食べる。すると辺りは静まりかえる。
「……………」
「り、リムル様?」
「お口に、あいませんでしたか?」
全員が固唾を飲んで見守っている。そしてリムルは顔を上げ……。
「うんっっっまぁぁい!!」
「「「「「「「うおおおおおおお!!」」」」」」」
その瞬間、住民達は歓喜の声を上げた。
「(ああ、幸せだ。何せスライムじゃ味覚なかったからなぁ…!この世界に転生してから初めて味わう食べ物の味、嗚呼、生きているって素晴らしい!)」
「ゴブイチの料理、美味いだろ?」
「ああ、最っ高だよ!美味いよゴブイチ君!!」
リムルの言葉にゴブイチは照れている様子だ。実際ゴブイチの料理はルインも絶賛するほどの腕前である。料理を本格的に学べば、いずれは世界で一二を争う料理人にもなるやもしれない。
そしてリムルとルインは食事に舌鼓を打ちながら、宴会を楽しむ。ルインはしばらくリムルと食事を楽しんだ後、オーガの若君のいる所に向かう。
「オーガの若様、楽しんでますか?」
「ルイン殿、肉はもういいのか?」
「少し食休みです。それよりも、若様の妹、すごいですよ。薬草や香草に詳しくてあっという間ににゴブリナ達と仲良くなりましたし」
「……箱入りだったからな。頼られるのが嬉しいんだろう」
オーガの若様はカイジンさんやリグルド村長、リグルにゴブタと話し込んでいた様だ。
「ルインの旦那、聞いてもいいかい?オークがフルプレートメイルを装備していたのは本当か?」
どうやらオーガの里の出来事を話していた様だ。
「本当ですよ。実際姫様を助けた際、戦いになったので……オーガの若様、この場にいるオーガ以外の生き残りはいないのですか?」
「ルイン殿は妹から聞いていると思う。奴らは数千もの大群で我らの里を蹂躙し尽くしていったのだ。300人は居た同胞は、この場に生き残っている6人のみしか居ない……」
「………すみません、辛いこと思い出させてしまって」
「気にするな。それとルイン殿、我々に敬語は不用だ。妹の命の恩人となれば話は別だからな…」
「わかった、そうさせてもらうよ。やはり、今回のオークのことは、誰かが裏で糸を引いている事に間違いはないみたいだな。姫様の言っていた仮面の魔人の事もあるし…」
「やっぱ旦那も同じことを考えるか……」
「まさか、魔王軍が………」
オーガの若様は顎に手を当てて、何やら考え込む。
「なぁ、話してるところ悪いけどさ〜。今はそんなことより今後のお前達のことを考えるべきじゃないのか?」
「リムル……いつの間に?」
「ついさっきからね。話に夢中で気がつかなかったんだろ?ほれ、これお前の分」
「すまない、それと、ありがとう」
ルインはリムルが持ってきた串焼き入りの皿を受け取る。
「どういたしまして。それよりこれからどうするんだ?」
「どう、とは?」
「今後の方針だよ。再起を図るにせよ、他の地に移り住むにせよ、仲間の命運はお前の采配に掛かってるんだろ?」
「……知れた事、力を蓄えて再度挑むまで」
「オーガの若様、当てはあるのか?」
「……………」
「(こりゃ、ノープランだな……)」
「(仕方ないさ……)」
無言になった若様は、誤魔化す様にお酒を飲む。「意外と考えなしに行動を移すことがある」って姫様から聞いていたけど本当だったな。
「提案なんだけどさ。お前達全員、俺たちの部下になる気は無いか?」
「……部下?」
「ま、俺達が支払うのは衣食住の保証のみだけどな。拠点があった方がいいだろ?」
「しかし、それではこの町を俺たちの復讐に巻き込むことに……」
「もうとっくに事態は動き始めてる。オークが数千の大群、それも武装して攻めて来た。これは異常事態なんだろ?オーガの里が襲われたんだとすれば、この町だって決して安全とは言えないだろう。若様達のような強い面子が俺たちの味方になってくれるだけですごく心強いと思ってる」
「要するに、戦力は多い方がこちらとしても都合がいいって事だ」
「………なるほど………少し、考えさせてくれ」
「おう、じっくり考えてくれ。それじゃもう少し肉を……貰ってくる前に一つだけ……どっちに転ぶにせよ、お前たちに何かあった時には俺達も一緒に戦う。俺達は仲間を見捨てない」
「強制ではないと言う事だけは言わせてほしい」
会話を終えた後、俺たちはその場を離れていった。
「部下になれ」と言われて戸惑うのは無理もない。だからこそ、じっくり考えて悔いのない答えを出して欲しい。
宴の後日、オーガの若様は俺達のテントに一人できた。リムルは擬態を解除して俺の膝の上に乗っかった。
「……決めたのか?」
「…………」
ルインは黙って返答を待っていた。
「……オーガの一族は戦闘種族だ。人に仕え戦場を駆ける事に抵抗はない。主が強者ならなおのこと喜んで仕えよう。この機会は、ルイン殿に恩を返す機会でもある。昨夜の申し出、承りました。我らオーガ一同、あなた様達の配下に加わらせていただきます!」
本当は仇をすぐに討ちたい筈だろうに……これは自分自身の不甲斐なさを呑んだ一族としての決断だ。
「(俺達に出来ることは、)」
「(若様の決断を悔いなき選択にする事だ)頭を上げてくれ。他のオーガ達をここに呼んでくれないか?」
「はっ!」
数分後、オーガ全員が集まった。俺はオーガ達を一通り見ると口を開く。ここからは俺の仕事だ
「揃ったな。俺達の配下になった証に、諸君らに名前をつけようと思う」
「「「「「……⁉︎」」」」」
「俺達、全員に?」
オーガ一同は驚いていた。名を持つと言う事は魔物としての格を上げるという事になるからだ。
「お、お待ちください!名付けとは本来大変な危険を伴うもの!それこそ高位の……」
「大丈夫だ。気づいているかもしれないが、この町の住人全員が名前を持っている(姫様の言っている危険はおそらくあのスリープモードのことだろうな)」
「(まっ、今回は6人だけだし、ルイン一人でも問題はないだろ)」
「で、ですが…」
「それとも、俺たちに名前を付けられるのは嫌か?強制ではないから断っても大丈夫だが……」
「そ、そういうことでは「異論などない」お、お兄様!?」
「ありがたく頂戴する」
「よし、早速始めよう」
ルインはリムルを膝から下ろしてから、立ち上がり、オーガ達に名をつけていく。実を言うと、ルインは既に6人の名前は決めていたのだ。
「最後に若様、貴方の名前は…………あれ?」
「お、おい、ルイン⁉︎」
突如として、ルインは倒れ込んだ。リムルが慌てて倒れ込むところに立ち、クッションとなったことで、地面との接吻回避できた。
「“シュナ”様、ご無理はなさらないでください」
「平気です“シオン”、私がしたい事なので大丈夫です」
「キツくなったら言えよな。無理して何かあったらルインに何て言えば……」
「お気遣いありがとうございます、リムル様」
何か聞こえる……それになんか、頭に当たっている感触が柔らかくて、あったかい。それに落ち着く。
「……………」
「「あっ!ルインさん/様、おはようございます!」」
ルインはゆっくり目を開け、ボヤけていた視界が晴れると、目の前には桃色髪の美少女と紫髪の美女がいた
「えっと……君達は?」
「やっと起きたか、寝坊助君」
「リムル、俺は一体……」
「お目覚めになられたか、ルイン様」
ルインが頭を横に向けると、一人の赤髪の美男子がいた。
「えっと、もしかして、オーガの若様か?」
「はっ、今は鬼人と進化し、頂戴した名“
「(お前、名付けした途端、3日も寝込んでたんだぞ?)」
「(そうか……だが、鬼人?オーガじゃなくてか?)」
《解、鬼人とはオーガの中に稀に生まれてくる上位種族です》
大賢者が説明してくれたが、ルインはオーガの変化に驚きを抑えられなかった。
「(体躯が一回り小さくなって、人間っぽくなったな……でも魔素量が前の時よりも比べ物にならないな)」
ルインは冷静に状況を整理し始めた。
「ルインさん、“
オーガの姫改めシュナはルインの頭を優しく撫でる。ルインの今の状態はシュナに膝枕をされている状態だ。
「本当にシュナ、だよな?」
「はい!」
「驚いた。見違えるくらい可愛くなったな。オーガの時も可愛いかったけど……」
「そ、そんな……」
ルインの言葉にシュナは頬を赤くする
「なぁ、シュナ、よかったら、もう少しこのままでいても良いか?よくわからないけど、落ち着くんだ…なんか」
「はい!勿論です!」
「(あれ?なんか思ってた反応と違う……)」
寝ぼけているのもあるかもしれないが、リムルはルインの反応に少し疑問を持った。ルインは女性と話す事に関して問題はないが、あまりに露出の多い女性と接する時には恥ずかしがる傾向がある。膝枕もその一つだ。そのため、ルインは起きた瞬間、恥ずかしそうに一瞬にして距離を取ると予想していたが、全く違う反応に、しかも甘えている姿にリムルは動揺していた。
「お取り込み失礼します、ルイン様」
「君は、その紫髪は、“
「はい!ルイン様につけて頂いた名前、とても気に入っています」
「(リムルを膝の乗せている女性がシオン、野性味が大きく薄れて知的的な女性になったな…)ベニマルの後ろに控えているのが“
「ほっほ、その通りでございますルイン様、お目覚めになられてホッとしておりますぞ」
ハクロウは以前より若くなっていた。鬼人への進化の影響もあるが、雰囲気も大きく変わっていた。
「そっちの青髪の君は……」
「“
「心配してくれてありがとう、ソウエイ」
《上位の魔物に名付けをした場合、それに見合う魔素を消費します》
「(今回はたった6人に俺の魔素の殆どを持っていかれたってことか?)」
《その通りです》
「(先に言って欲しかったよ)」
「(どうだった、「初体験」は?)」
「(一瞬だったからあまり覚えていないって言うのが正直な感想だ)」
初のスリープモードに対するルインの感想は一言で終わった。するとルインはある事に気づく。
「あれ?あともう一人は?」
「ああ、ヤツはカイジン殿の工房に入り浸ってて…「ルイン様が目覚めたべか!?」」
「ちょうどきた様ですな」
確かもう一人は木造のハンマーを持っていて、小さい人間の子どもが一眼見たら泣くレベルの姿だった。
「ルイン様!元気になってよかっただよ!わかっかな、オラ“
「(おお、優しそうなおじさんに進化してる)」
「(なんかホッとしただろ?)」
「(ああ、わかるぞ、その気持ち)」
ルインはホッとする。以前の外見は厳つい感じで近づき辛い印象だったからだ。
「これからよろしくな、クロベエ!」
「んだ!」
こうしてオーガ6人はルインの名付けにより、鬼人へと進化した。しかしルインは気づいていない。鬼人達の特有の角がなかった事に……。
一方その頃、ジュラの大森林に起こった異変は、確実に、着実に、侵食を続けていたのだ。
ルインに対するシュナの呼び方はそのままさん付けでいこうと思います。しかし場合によっては様付けで呼ぶ事もあります
デザストがリムルとルイン達の世界に行くのはあり?
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あり
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無し
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作者に任せる