ハートジャスティス   作:ココリンク

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14話 惑わされる

三晴は神経を尖らせる。

 

深い森の中。

 

姿は見えないが、何度も戦い、何度も斬り伏せた敵の気配があちらこちらから伝わってくる。

 

自分一人だけなら全て倒すだけでいいが、近くには直樹と咲希がいる。

 

戦いに巻き込みたくない三晴にとって、2人の命を危険に晒すわけにはいかず、まずは逃げることを第一の選択肢においた。

 

「小林直樹。

この前の絨毯で彼女を運べ。

いいか、戦おうなんて考えるなよ」

 

「わかった。

カーペット」

 

直樹は頷き、光の玉を薄く広く伸ばした。

 

そして、光の絨毯を咲希の足元へとゆっくり伸ばした。

 

「早苗さん……ごめん。

この上、乗れる?」

 

泣いている咲希に、直樹は優しく語り掛ける。

 

咲希は目を開け、怪しそうに光る絨毯をじっと見た後、直樹の顔に視線を上げた。

 

「お願い。

空飛ぶ絨毯だよ。とっても楽しいから」

 

直樹はしゃがみ、咲希の視線を合わせて微笑みながら言った。

 

妹の乃々実をあやすように。

 

「……うん」

 

咲希は涙を拭いながら、絨毯の上に乗った。

 

その瞬間、三晴の腕がピクリと動く。

 

右腕を捻り、左肩の高さまで持っていく。

 

「ニードル……

 

睨みを効かせて狙いを定め、技名を静かに口にする。

 

「ーーー…!!!」

 

その瞬間、三晴の睨んだところからアバタが飛び出す。

 

三晴は目を見開くと

 

「バスターー!!!」

 

と光の刀を振り剣気を放った。

 

“地面”に。

 

そこからは砂煙が舞い、三晴たちの姿を隠す。

 

次の瞬間、四方八方からアバタが十体ほど現れ、一斉に砂煙へと襲い掛かった。

 

「ーー…??」

 

だが、砂煙の中には誰もいない。

 

煙に撒いて逃げたようだ。

 

 

 

〜〜〜

 

三晴は直樹の腕を掴み、全速力で逃げる。

 

咲希も直樹の光の絨毯に乗せられ、落ちないようにガッシリとつかんでいる。

 

「……小林直樹、この前より走るの遅いぞ」

 

「はあ……はあ……

だって、俺、早苗さん……乗せてるんだよ」

 

直樹は数十秒しか走ってないのに息切れを起こしている。

 

三晴は後ろを振り返ると、光の絨毯の光が徐々に弱くなっていることに気付いた。

 

「仕方ない」

 

三晴は足を止め、即座に警戒体制をとった。

 

「はあ……はあ………」

 

直樹は膝から崩れ落ち、息を漏らす。

 

「うわ!」

 

絨毯も消えてしまい、咲希は空中から放り出され、なんとか着地したが、バランスを取れず転んでしまった。

 

咲希は転んだ痛みで泣きそうになったが、張り詰める空気を感じ、我慢した。

 

「……小林さん、平気?」

 

そして、息切れし、苦しそうな直樹に心配そうに駆け寄った。

 

「はあ……はあ……。

う、うん……。平気、平気……。

はぁ……はぁ…………」

 

直樹は微笑みながら言うが、全身びしょびしょに汗をかき、呼吸も苦しそうで全然大丈夫ではない。

 

「平気じゃないだろ。

無理するな」

 

三晴は厳しい口調で告げる。

 

直樹の光の玉は、直樹の体と直接リンクしている。

 

なので、光の玉が受けた感覚──今回でいうと、咲希の体重と握力が直樹の体にそのまま伝わったのだ。

 

「小林さんも疲れやすいの……?

どうしよう……。

…………あ、そうだ」

 

そんなこと知る由もない咲希は、あたふたしたが、なにかを思い付き、右手に力を込めた。

 

咲希の右手が光り輝く。

 

「……え?」

 

直樹はその光に驚いた顔をした。

 

まず第一に、人の手が輝き出したこと。

 

そして次に、その光が自身の光の玉や、三晴の刀の輝きにそっくりなこと。

 

(早苗さん、もしかして)

 

直樹は前に、覚醒者の候補に早苗咲希の名が挙げられたことを思い出した。

 

「小林さん。

うごかないで」

 

咲希は真剣な顔でそう言うと、直樹の手を掴み、右の掌を直樹の掌に押し込んだ。

 

直樹はなにか粒粒したものが、掌にあたったと思うと、その場所が温かくなるのを感じた。

 

その温かさは次第に腕、体、全身に広がり、そして最後には胸に集約される。

 

(ルミナスポイント……)

 

直樹はその温かさが、麓の花畑や三晴の秘密基地といった、体力回復が促進される場所に行ったときと同じ温かさに感じた。

 

「小林さん……どう?」

 

咲希は手を放し、黒く朽ちた種を見ると、期待に満ちた眼差しを直樹へ向けた。

 

直樹は手を開いたり閉じたりして、動きが軽やかになっていることを確認すると、立ち上がってみた。

 

息切れもない。

 

「……すごい。

立てる。動ける」

 

直樹は感動した表情で、咲希を見た。

 

「よかった!

明人くんにはできたけど、百合ちゃんがだめでどうかなーって思ったけど、小林さんもできてよかった!!」

 

咲希も嬉しそうに跳んで喜ぶ。

 

「ありがとう。

早苗さん」

 

「どういたしまして!!」

 

直樹はお礼を言うと、咲希が覚醒者だと確信し、警戒しっぱなしの三晴に報告しようとした。

 

そのとき

 

側方から闇の弾が直樹たちに向けて飛んできた。

 

三晴はすぐに反応し、刀を強く握り振る。

 

「光の刃!」

 

弾は刃にあしらわれ、直樹たちの頭上を通り越し、その先の木の幹に着弾し焦げ跡を作った。

 

「うわ!」 「きゃ!」

 

その音でようやく攻撃に気付いた直樹と咲希は思わず声を上げる。

 

「見付かった、逃げるぞ」

 

三晴は刀を低く構えながら、弾が飛んできた方向に警戒し、冷静に告げた。

 

「見付かったって?

え、なに? また怖い人?」

 

咲希は先週の魔法陣を操る闇の人間を思い出し、恐怖で震え出す。

 

「大丈夫。早苗さん。

刀根さんを信じて」

 

直樹は再び光の玉を出すと、咲希の震える手を掴み、優しく言葉を掛けた。

 

「……うん」

 

咲希は状況は理解できなかったが、今頼れるのは三晴と直樹だけしかいないので、頷き、がんばる決意をした。

 

「ニードルサイクロン!!」

 

三晴は体を翻し、剣気を四方八方へと飛ばす。

 

木々の合間を縫い、そこかしこから籠もった悲鳴のような断末魔が聞こえる。

 

「やったのか?」

 

直樹は今の攻撃で全員倒せたのかと期待した。

 

だが、三晴の警戒がまだ続いている。

 

「……ッ!」

 

三晴の正面からガサゴソと草をかき分ける音がした。

 

三晴は駆け出し、刀を振り上げた。

 

「ツェヤァ!!」

 

そして、襲われる前にその木の裏に見える人影に刀を振り下ろそうとした。

 

が、

 

「…………え」

 

三晴はその手を止めてしまった。

 

現れた人影が、姉の姿だったからだ。

 

三晴は目を見開き、困惑する。

 

その瞬間、姉の姿はなく、アバタのものとなった。

 

「………!

しま…………

 

三晴は刀を構えようとしたが遅かった。

 

「………!!!」

 

「ぐわッ!!」

 

アバタは闇を纏った腕を振り払い、三晴の体をなぎ倒した。

 

「刀根さん!

……ソード! ペネトレート!!」

 

直樹は咄嗟に光の玉を刀の形に変え、刀をアバタと突き刺した。

 

「ーー……!!?」

 

アバタは断末魔を上げ、闇の粒子となって消える。

 

「……ふぅ。

刀根さん! 大丈夫!?」

 

直樹はぞわぞわした気持ち悪さに苛まれながらも、倒れたままの三晴を心配して駆け寄った。

 

手を繋いだままの咲希も、心配して、また右手に力を込めようとする。

 

その瞬間

 

「……許さない」

 

と三晴は呟きながら立ち上がった。

 

「よかった。

大丈夫? 刀根さん」

 

直樹は立ち上がった三晴に安心し、声を掛けるが、三晴に反応はない。

 

三晴は静かにニードルバスターを放つ刀の構えをした。

 

とある一点を睨み

 

「ニードルバスター!!」

 

と発狂するように叫ぶと、大きく腕を振った。

 

光の剣気が飛び、その先で大きな衝撃波が起こる。

 

だが、木々の音が響くだけで叫びは聞こえて来なかった。

 

直樹は外れたのかと思ったが、その瞬間に、三晴はずっと睨み続ける衝撃波の先に叫んだ。

 

「出てこいよ!

そこにいるのは分かってんだよ!!」

 

だが、叫びに答えるものはなにもなかった。

 

直樹は爆弾の男の時にしたような場所を特定するための陽動かと思ったが、すぐに違うとわかった。

 

(刀根さん……)

 

ふと覗いた横顔は目付きは鋭く、歯は食いしばり、顔には力が込められ皺が寄る。

 

そこには憎しみしかなかった。

 

「お前らは逃げろ」

 

三晴はそう言い残すと、目線の先へ飛び出して行った。

 

木々の合間を縫い、草を掻き分け、見えたフードを着た人影に刀を構える。

 

「輝きの白刃!!」

 

「おっと」

 

三晴の一撃は躱され、光の刀は地面に叩き付けられる。

 

その力は衝撃波を生み、突風となって、草木を大きく揺らした。

 

そして、怪しい人影のフードをめくらした。

 

三晴は現れたその顔に、憎悪を込め激しく睨みつけた。

 

「あら、乱暴な娘」

 

その顔は妖艶な顔付きをした美しい女性だった。

 

女性は嗜めるように三晴に言うと、すぐにフードを被る。

 

「ツェヤアアア!!」

 

三晴は女性に向かい、何度も斬り掛かるが、女性は舞うように躱し続け、そして、その手から禍々しいオーラを放つ闇の弾を作りあげた。

 

「光の刃!!」

 

「ふふ、少しは頭冷やしたら」

 

女性はオーラを纏った腕で難なく刀を受け止めると、三晴の体に闇の弾を放った。

 

「ぐわっ!!」

 

三晴は吹き飛ばされるが、今度は着地し、すぐに刀を構え、女性に向かう。

 

「ツェヤアアア!!!」

 

三晴は刀を振るうが、女性は片手でそれを掴んで止めてしまった。

 

「くっ……うああああああ!!!」

 

悲鳴とも取れる叫びをあげながら、刀を押し込もうとするが、びくともしない。

 

「ふふ。

この街の光の人間も、大したことないみたいね」

 

女性は片手を腰に当てながら余裕そうに言う。

 

三晴は叫びながら、いつの間にか涙を流していた。

 

その瞬間、刀に溜まった光パワーがなくなり、刀は光の粒子となり消滅してしまう。

 

手に持ち、体重をかけていたものが消えたことで、三晴はバランスを崩し、転んでしまった。

 

「あらあら。

ざんねーん」

 

女性は、三晴の背中を足蹴にし、見下してばかにするように笑った。

 

「お前だな!

虹姉ちゃんを殺したのは!!」

 

三晴は顔を上げると、涙声で叫んだ。

 

「さて?

誰のことだろ?」

 

女性は不思議そうな顔をする。

 

「ふざけるな!!

お前は虹姉ちゃんの幻覚を私にみせた!!

虹姉ちゃんを知ってなきゃ見せられないはずだ!!

それがお前の能力だろ!!」

 

「……ぷっ…!

ははははははは」

 

三晴の必死の叫びとは裏腹に、女性は美しい見た目とは真逆に、手を叩き下品に笑った。

 

「なにがおかしい!!!」

 

「全部不正解!! 全部がダメー!

弱くておつむも悪いなんて。

それでいて光の人間のリーダー気取って、ほんっっっっとばかみたい!

底が知れてる!!

きゃはははははははは!!!」

 

女性は三晴を指さし、甲高い声でばかにして笑う。

 

「残念だけど、ワタシはここに来るのは初めて。

そういえば、昔、すごく強い光の人間がこの街にいたっていうけど…………あ、待って、ベラベラ話しすぎるのは良くないんだった。

まあ、とにかく、私の能力を使うまでもない。

死んでもらおうか」

 

女性は急に声色を変え、三晴を見下し、手を翳し、闇の粒子を集約させる。

 

「ニードルバスター!!」

 

だが、三晴は女性が話している間に密かに作っていた刀を高く上げ、叫びながら地面に突き刺した。

 

剣気は地面に伝わり、その衝撃で、三晴の体が浮き、女性の足をどかせられた。

 

「なに……!?

……だけど、終わりよ!!」

 

女性は体制を崩しながらも、集約させたエネルギーを弾にして発射した。

 

「ツェヤア!!」

 

三晴は技だと間に合わないため、刀を振り、防御したが、弾の威力は高く、押し切られ、直撃してしまった。

 

「ぐわあああ!!」

 

三晴は仰向けで地面へ倒れ込む。

 

「く……ニードル!!」

 

三晴は顔を上げ、寝た状態のまま反撃しようとしたが、

 

「はい、ムダー」

 

女性が放った闇の弾に刀を弾かれ、手から離してしまった。

 

「ざんねーん!

キミはもう死ぬのー!

悔しいね悔しいね、惨めだねー」

 

女性は煽りに煽り、ゆっくりと三晴へ近付く。

 

「くっ…!!」

 

三晴は手に力を込め、刀を作ろうとする。

 

体力的にもこれで最後の一本になる。

 

三晴の手から粒子が溢れ、刀の形になる。

 

掴もうとした瞬間

 

刀は闇の弾に弾かれ、明後日の方向へ吹き飛ばされてしまった。

 

「だから、ムダだって」

 

三晴の顔が絶望に染まる。

 

「きゃははははははははは!!!

それそれ! その顔!! うわ、まじ本物!

へー、光の人間の絶望の顔ってこんなんなんだね!

リアルまじは初めてー!!

どう!? どう? どう? どう?

もうすぐ死ぬ気分は? 生きるのを諦めた気分は?

希望が目の前で絶たれた気分は!?」

 

(死ぬ……の?)

 

三晴は体を動かそうとしても動けない。

 

疲労困憊というわけでもなく、まだ満身創痍でもない。

 

姉の姿を見た嬉しさから、それが幻覚だと知った落ち込み、その苛立ちから判断能力を失い、簡単にやられた無力感。

 

それが、三晴から動く力、生きる力を削いでしまったのだ。

 

(虹姉ちゃん……ごめん………………。

敵討ち、できなかった)

 

動けなくなった三晴は、死を待つしかなかった。

 

「答えられないか。

じゃあ、もう用はないね」

 

女性は三晴に手を翳す。

 

闇の粒子を集約させ、大きな闇の弾を生成しはじめる。

 

三晴は何もできずに寝ているだけ。

 

致死量になる弾になるにはただの時間の問題だった。

 

そのとき

 

「えい!!!」

 

横から、かわいらしい女の子の叫びが聞こえたと思ったら、光の種が三晴と女性の間に埋まった。

 

「……なんだ?」

 

女性が一瞬困惑していると

 

「カーペット!!」

 

と男の子の叫びがしたと思ったら、光の絨毯が一瞬で三晴を取り囲む。

 

「なっ!? 邪魔するんじゃないわよ!!」

 

女性は絨毯に向かい、闇の弾を発射しようとしたが、

 

「ブルームレーザー!!」

 

女の子の叫びと同時に、種が花を咲かせ、そこから光の光線を発射した。

 

「くっ!」

 

女性は光線を躱し、弾を発射しようとしたが、絨毯も三晴も姿はなかった。

 

女性はフードを深く被る。

 

「……あーあ。

やられちゃった。

それに支給されたアバタも、あの刀の娘にぜーんぶやられちゃったなー」

 

そして、投げやり気味に呟くと、闇の弾を地面に打ち出した。

 

強い衝撃波が起こり、フードがめくれる。

 

「…………まあいいわ。

あの子達の能力はこれで全部わかったみたいなものよね。

ちょっと遊ばせてあげましょうか」

 

女性はそう言うとフードを被り、手に力を込めると、怪しい珠を作り上げた。

 

その珠を上空に打ち上げ、珠からは怪しいオーラが発しられる。

 

「ふふふ。

さあ、見てて面白いことが起こるわよ」

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