ハートジャスティス   作:ココリンク

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17話 姉

「空良くーーん!!」

 

自分の家に帰ってきた(三晴の姿をした)咲希は、玄関から顔を出した空良に抱き着いた。

 

「え……。

いや……! なに??」

 

空良からしたら、急に見知らぬ女の子に抱き着かれたので、戸惑いしかない。

 

「……あ!

空良くん! わたしだよ! 咲希だよ!」

 

咲希は、自分の姿が三晴のものだと思い出し、空良に抱き着いたまま、必死な表情で言った。

 

「……え? 咲希!?

でも、咲希はもう部屋に?

……?? なんかのいたずらかな?」

 

「違うの!! あのね!!

えっとね! ふわふわしたお花を追い掛けたら! 小林さんと三晴ちゃんとごっつんこしてね! そしたら、悪い人がいっぱい……あ! これ言っちゃだめなのだ!!」

 

咲希は戸惑う空良に状況を説明しようとしたが、三晴のログハウスで聞いたことを思い出し、言うのをやめた。

 

「わかった! わかったから!

ちょっとまってて!」

 

空良は理解が追い付かず、(三晴の姿をした)咲希を引き離すと、そういいつつ逃げるように家へ戻った。

 

「姉貴!!」

 

空良は階段を急いでかけ上がり、咲希の部屋の扉を開いた。

 

「なに!? 空良!?

咲希が怖がるでしょ!!」

 

「それが、自分を咲希っていう女の子が、今家の前にいるんだよ!!」

 

空良の言葉に、(咲希の姿をした)直樹はビクリとした。

 

「……え!!?

……でも、咲希はここに?」

 

花奈は(咲希の姿をした)直樹を見る。

 

(……マズい。

早苗さん……帰ってきたんだ…………

というか、今まではどこにいたんだろう?)

 

直樹はこのままだと自分の正体がバレてしまい、不法侵入になってしまうのではと恐れた。

 

同時に、もし、本物の咲希が本物だと気付かれずに追い払われたら、咲希が露頭に迷うことになってしまうことも恐れた。

 

(どうすればいいんだろ)

 

直樹は必死に思考を巡らす。

 

「どうする?

今、家の前で待ってるけど」

 

「どうするって?

怪しいでしょ!?

というか、親は?

もう、0時回ってるよ」

 

「見た限りいなかった。

それになんだけどさ。

なんか、すごい喋り方が咲希っぽかったんだよ。

しかも、その子、咲希を助けたっていう小林さんって言う人とごっつんこしたって言ってた」

 

「ごっつんこ?」

 

花奈の、(咲希の姿をした)直樹を宥めようと背中を撫でる手が止まる。

 

「まさか……ね」

 

花奈は苦笑いすると、(咲希の姿をした)直樹の頭を撫でると、そのまま引き離し、部屋を出た。

 

「空良。咲希を頼んだよ」

 

「え? お、おう!」

 

花奈は階段を降り、玄関の扉を開く。

 

そこには心細そうにしている女の子。

 

その女の子は花奈の姿を見ると、飛び切りの笑顔を向けて、抱き着いてきた。

 

「花奈ちゃーーーーん!!!」

 

花奈は思わず受け止め、気付けばいつも咲希を撫でるように頭を撫でていた。

 

花奈は一瞬、困惑したがすぐに優しい笑顔になり、いつもの口調で言った。

 

「……おかえり。咲希」

 

「ただいま!!」

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

早苗家のリビング。

 

テーブルには花奈の隣に(三晴の姿をした)咲希。

 

花奈の向かいに(咲希の姿をした)直樹。

 

その隣に、空良が座っている。

 

(……終わった)

 

直樹は花奈に、“行くよ”とだけ言われ、急にリビングへ歩かされ、そこには(三晴の姿をした)咲希がいた。

 

その瞬間、花奈の笑顔がとても怖く感じ、そこからは萎縮し切っている。

 

隣の空良は何も分かっていない様子だった。

 

それぞれの目の前にはコップが用意され、花奈と空良のは水道水。

 

咲希と直樹には、オレンジジュースが出されている。

 

「さて。

取り調べを始めようか」

 

花奈は腕を組むと、微笑みながら、(咲希の姿をした)直樹に言った。

 

「姉貴?

取り調べって?」

 

「空良。

お黙り」

 

横槍を入れた空良に、花奈は微笑みを崩さずに牽制した。

 

「……はい。

わかりました」

 

空良は思わず敬語で謝っていた。

 

「花奈ちゃん、お腹すいたー。

お風呂も入りたい! 汗でベトベトするー」

 

そんな厳かな雰囲気でも、咲希はずっと我慢していた空腹と体の痒さに耐えきれず、花奈に駄々をこねる。

 

「もう少し待っててねー」

 

花奈は甘い声を出して、(三晴の姿をした)咲希を撫でた。

 

「本当にベトベトだね。

先にお風呂にする?」

 

「うん!」

 

「よーし!

じゃあそうしよっか!!」

 

「わーーい!!」

 

そう言いながら、(三晴の姿をした)咲希と花奈は立ち上がった。

 

「……あ!

ということだから、君はちょっと待ってて」

 

花奈は(咲希の姿をした)直樹に言い残すと、お風呂場へと向かっていく。

 

「……え?」

 

直樹はこれから色々詰られるものかと思っていたが、後回しにされ、肩透かしをくらった気分だった。

 

それに、なにも分かっていない空良という、大学生の男の人とふたりきりというのは気まずい。

 

「あの! すみません!」

 

直樹は思わず立ち上がり、花奈に話しかけていた。

 

「あの……自分でこういうのは変だと思いますけど、俺! 本物の早苗さんじゃ

 

「ストーープ!!」

 

花奈は急に大声を出し、直樹の言葉を止めた。

 

そして、睨みながら直樹を見ると、またあの微笑みになり

 

「君がどこの誰だが知らないけど。

君は今、見た目は咲希なの。

だから“俺”とか“私に敬語”とかやめてくれる?

解釈の不一致」

 

「……え…………でも」

 

直樹は花奈の異様な順応の高さに戸惑い、逆になぜ不思議に思わないのか訊こうとした。

 

「はい!

背筋伸ばす! ナヨナヨしない!

股は閉じる!

もっと元気に! 溌剌に!!

目はもう少し輝かす! 未来しかないくらい飛び切りの輝き!

あとリアクション少ない! もっと全てに反応! すべてが興味みたいに!!

それに口元も

 

「花奈ちゃん……お風呂」

 

花奈の止まらない指摘は、咲希が呼び掛けたことで初めて止まった。

 

「あ! ごめん!!

咲希!! いっぱいいっぱい洗って、キレイにしようか!」

 

花奈は優しい笑顔を(三晴の姿をした)咲希に向ける。

 

「うん!!」

 

咲希は頷き、お風呂へと向かって行った。

 

(……す…………すごい人だな……)

 

直樹は圧倒され、力が抜けて椅子に座り込んでしまった。

 

しばらくして、直樹は視線を感じ、その方を向いた。

 

(あ……そうだ)

 

空良がまじまじとこちらを見詰めていた。

 

目と目があった瞬間

 

「さっき、“俺”って言ったな」

 

と話し掛けてきた。

 

直樹は急に話し掛けられ、驚きで目を丸くしながら、ゆっくり頷いた。

 

「……そうか。

俺っ子か? それとも、男か?」

 

直樹は知らない用語にポカンとしつつも、頷いた。

 

「男か? 男だな?

へー、男か……男かてめえ!!」

 

空良は急に立ち上がり、(咲希の姿をした)直樹の肩を強く掴んだ。

 

「いててて! 痛いです!!」

 

「あ……ごめん……咲希」

 

痛がる(咲希の姿をした)直樹を見て、空良は手を話すが、すぐに我に返り

 

「って違う! てめえ、咲希じゃない!」

 

と叫んだ。

 

急に叫ばれ、直樹は怯える。

 

「あ……ごめん……咲希」

 

その姿を見て、空良は(咲希の姿をした)直樹の頭を撫でて謝る。

 

が、またすぐに我に返り

 

「だから違うって!!

ちょっと待って……」

 

空良はすぐに手を離すと、頭を下げ考え込むようにした。

 

そして、立ち上がり

 

「ちょっと待ってろ!!」

 

と部屋の隅まで移動し、手を動かし、なにか頭の中を整理しているようだった。

 

(お兄さんもすごい人だな……)

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

(私……なんでここに)

 

(直樹の姿をした)三晴は立ち尽くしていた。

 

彼女はいま、とある民家の手前にいる。

 

表札を見ると、“小林”と書いていた。

 

 

〜〜〜

咲希が秘密基地を逃げ出した後、三晴は追い掛け、咲希の家の前まで追いついたが、早苗家に入るちょうどその瞬間だった。

 

怪しまれている様子もなく、どこか幸せそうな自分の体を見て、三晴は足を止めてしまう。

 

その後、しばらくすると道行く知らない大人から声を掛けられ、警察に連絡されそうになったが、逃げ切り、ふらふらと歩いていたら、いつの間にか辿り着いていた。

〜〜〜

 

(彼には、妹がいたな。

きょうだいが帰って来ないのは……やっぱり……)

 

三晴は悲しそうな顔をしながら、胸に手をあてる。

 

姉を喪ったあの日、三晴は、ずっと独りぼっちだった。

 

その悲しさを誰かに味わってはほしくなかった。

 

三晴は意を決し、小林家の扉を開けた。

 

鍵は開いてた。

 

この前は外からしか見なかった、玄関。

 

三晴はおそるおそる、中に入る。

 

その瞬間、ドタドタと家の奥から音がする。

 

「直樹!!」

 

すぐに直樹の母親が、飛び出し、驚いた顔で見詰める。

 

「……ただいま」

 

(直樹の姿をした)三晴は目を伏せ、申し訳無さそうに言った。

 

「どこ行ってたの?

“花畑行ってくる”って言ったっきり心配したんだから……乃々実もさっきまでは“おにいちゃんは?おにいちゃんは?”ってずっと起きてたんだよ」

 

直樹の母親は(直樹の姿をした)三晴の前に立ち、心配した顔付きで告げた。

 

「……ごめんなさい」

 

「……とにかく入りなさい。

パパー! 直樹帰ってきたー!」

 

母親はそう言うと、リビングにいる直樹の父親に呼び掛けた。

 

(彼の父親……)

 

三晴は直樹の母親は会ったことあるが、父親はない。

 

どんな人か想像が付かず、うまく誤魔化し、面倒事無く過ごせるか不安になり、緊張してきた。

 

三晴は家に上がった。

 

通路からリビングへは扉はなかった。

 

リビングへと足を踏み入れた瞬間

 

「何時だと思ってる」

 

と低く、早口な声が聞こえた。

 

声がする方を見ると、3,40代くらいの男性が座って、こちらを見詰めていた。

 

メガネを掛け、髪は整えられ、厳格なエリートビジネスマンの雰囲気がしている。

 

三晴は基本的に姉としか関わりを持っておらず、今関わっている人は、嫌われるように立ち振る舞っている。

 

そのため、この荘厳な雰囲気にどうすればいいのか分からず、閉口してしまった。

 

「黙ってないで、なにか言ったらどうだ?」

 

父親の詰問は続く。

 

三晴はいつもの癖で睨もうとしたが、直樹の体であることを思い出し、やめた。

 

「ごめんなさい」

 

三晴は目を伏せながら、謝った。

 

それからしばらく沈黙が続く。

 

三晴は視線をチラチラと動かすが、表情を見るのが怖く、顔を見れない。

 

「あらら。

直樹、靴のままじゃないの」

 

そんな中、母親が(直樹の姿をした)三晴の足元を指して言った。

 

(え?)

 

三晴は思わず足元を見る。

 

(……あれ…………靴…………

あ、そっか!!)

 

見ると、靴を履きっぱなしのまま家に上がっていた。

 

秘密基地は土足なため、家に入ったら靴を脱ぐ習慣を忘れていたのだ。

 

三晴は慌てて靴を脱ぎ、手に持つ。

 

「疲れてるのね。

持ってって上げるから貸して」

 

母親は心配しながら優しく語りかけてくれた。

 

三晴は遠慮がちに頷くと、流れのまま靴を渡した。

 

母親が玄関まで向かうと

 

「座りなさい」

 

と父親が話し掛けた。

 

「はい」

 

三晴は返事をしてテーブルを見た。

 

その先の顔はまだ見れてない。

 

「直樹。

母さんから聴いた。

2週間くらい前、2日続けて怪我して帰って来たんだってな。

大事にはなってないが、服も破れ、血も付いてた。

何をしてた?」

 

三晴はなんのことを言っているのかすぐにわかった。

 

2週間前となると、直樹が初めて覚醒した日がそのあたり。

 

そこから2日続けて、強敵が現れ、戦いの中で直樹は大きなダメージを受けていた。

 

(なにやってんだよ)

 

三晴は、直樹がなんとか誤魔化しているのかと思ったが、そういうわけではないことに気づき、呆れつつも、怪我を負わせて心配させた責任に苛まれた。

 

「それは……」

 

三晴はなんとか丸く収めようとしたが、言葉が出てこない。

 

「…………まあいい。

話す気がないならこれ以上無駄だ。

もう遅い。風呂入って寝なさい」

 

結局何も言えないまま、父親は立ち上がり、奥の部屋へと入っていった。

 

三晴は呆然とし、動けなくなっていた。

 

怖さからか、久しぶりに真剣に怒られたからなのかわからない。

 

三晴の心になにか虚しさと悲しさだけが残っていた。

 

「直樹」

 

ふと、優しく声が聞こえたと思うと、椅子越しに後ろから優しく抱き締められた。

 

優しく、暖かい。

 

まるで、姉に抱きしめられ慰められているようだ。

 

頭を撫でられ、また優しい声が聞こえる。

 

「パパ。厳しいこと言ってるけど、帰ってきてないって知って、とても大慌てしてたのよ。

直樹に最近、なにがあったのかわからないけど。

私達はいつでも直樹の味方よ」

 

(直樹の姿をした)三晴は涙を流していた。

 

「虹姉ちゃん……」

 

そして思わず、最愛の姉の名前を口にしていた。

 

「ごめんなさい……私。

ちょっと…………ごめんなさい……!」

 

三晴は久しぶりに感じた強い愛情に耐えきれず、直樹の体であることを忘れ、女の子っぽい口調で言うと、近くの扉を開けて、逃げるように入っていった。

 

部屋の灯りをつけてないせいで、真っ暗で何も見えない。

 

その部屋に人気はなかった。

 

三晴は扉を閉めて、そのまま扉に寄りかかるように座り込むと、蹲り、止まらない涙を一生懸命手で拭った。

 

(虹姉ちゃん……帰って来て

あんなんじゃ足りない……虹姉ちゃんのナデナデがほしい。

強引で優しい虹姉ちゃん……。

帰って来て……!!)

 

〜〜〜〜〜〜〜

 

「さっぱりー!」

 

(三晴の姿をした)咲希が清々しい顔で、風呂場から出てきた。

 

パジャマは咲希のものを着ており、身長的には丈が少し足りないが、細身なためキツキツではなかった。

 

「咲希ー!!」

 

ずっと部屋の隅でぶつぶつ言っていた空良が、助けを求めるように(三晴の姿をした)咲希に飛びついた。

 

「咲希ー、君が咲希だよなー。

あの人は咲希じゃないよなー」

 

「わっ!

空良くん、どうしたの?」

 

抱き着き、頬擦りをする空良に咲希は困惑した。

 

「空良」

 

「……!」

 

だが、その行動は、遅れてリビングに戻った花奈の冷たい微笑みによって制止された。

 

空良は何も言わずに、咲希から体を離し、後退って距離を取った。

 

咲希はキョトンとした顔で見詰めていたが、しばらくすると笑顔で花奈に抱き着く。

 

「ねえ、花奈ちゃん!

お腹すいた!」

 

「うん! 冷蔵庫に入ってるから、いっぱい食べようねー!」

 

「わーーい!!」

 

「……あ、でも」

 

花奈は(咲希の姿をした)直樹を横目で見る。

 

「私、あの子も洗わないとだから」

 

「あの子……?

えーーっと……あ、小林さんだよ!

頭良くてねー! 妹のことが大好きなんだー!」

 

「へーー、小林さん………ね」

 

花奈は咲希の体をした人の名を聞くと、一瞬だけ怪しく笑った。

 

そして、また優しい微笑みに戻る。

 

「あ、ご飯。

空良にチンしてもらいな」

 

「うん!!」

 

咲希は頷くと、空良に駆け寄っていく。

 

それを優しい微笑みで見た花奈は、その笑みのまま直樹に歩み寄る。

 

「さて、一緒に入ろうか。

お風呂」

 

「……えッ!?

い……いや、俺……1人で

 

直樹は突然の一言に困惑し、どうすればいいか分からず、とりあえず遠慮して断ろうと思ったが、“俺”と言った瞬間、花奈の目付きが変わり、恐怖に苛まれた。

 

「いま……なんて?」

 

「え……いや………なんでも……ないです」

 

「……?

です???」

 

花奈は微笑みを絶やさない。

 

声もどこか優しい。

 

それなのに、心の奥底から抉ってくるような怖さがある。

 

「え…………あ…………えっと………」

 

直樹は深く深く蝕む恐怖に何もできなくなっていた。

 

花奈は(咲希の姿をした)直樹の肩に手を置くと

 

「行こっか。

お風呂」

 

言いながら、無理やり風呂場まで連れて行こうとした。

 

そのとき

 

「あ……!

待って! 姉貴!

コイツ、男だぞ!!」

 

作り置きしていた晩ごはんをレンジで温めていた空良が、(咲希の姿をした)直樹を指差して叫んだ。

 

「ぜったい……ぜったい!!

コイツに咲希の体触らすんじゃねえぞ!!

彼氏のアイツならともかく……いや! アイツでもだめ!! 何処の馬の骨かも知らないヤツなら尚更!!

それに!! 咲希の裸とかも見せんじゃ

 

「空良」

 

ヒートアップする空良に、花奈はまた呼び掛けるだけで制止させる。

 

「言わなくてもわかってる」

 

花奈は言い捨てると、(咲希の姿をした)直樹の背中を押しながら誘導し、風呂場に入った。

 

残った空良は呆然と立ち尽くしていた。

 

「……咲希、俺、悪いこと言ったかな」

 

空良は悲しそうな顔をしながら、(三晴の姿をした)咲希を見下ろした。

 

「空良くんのエッチ」

 

だが、咲希はそう言って、いたずらに笑うだけだった。

 

 

 

「はーい……目、つぶって」

 

脱衣所に連れてこられた(咲希の姿をした)直樹は、花奈にされるがままになっている。

 

直樹が目をつぶると、なにか布みたいなものが巻かれる。

 

何をされているのか訊きたかったが、言葉を話すとまたあの怖い微笑みと声に襲われると思うとなにも言えなかった。

 

「はい。目隠し」

 

花奈はそれだけ言うと、(咲希の姿をした)直樹の服を脱がし始める。

 

「さあ……取り調べを再開しようか」

 

まず上のTシャツ。

 

「小林さんって、さっき咲希が言ってたね。

そして、君は“小林さんに助けてもらった”って百合ちゃんに伝えた。

…………怪しいねー。自作自演かな〜?」

 

その下の肌着。

 

「男の子って言ってたけど、咲希の体でなにかした?

ねえ? そこ大事。もし、咲希にあんなことやこんなことしたら許さないから」

 

ズボンも脱がせる。

 

そして、ゆっくりとパンツを脱がせると、パンッと両肩を叩いた。

 

「なーーんて!

冗談冗談!」

 

すると、花奈はそう言いながら怖さのない明るい声でいたずらに笑った。

 

「……え?」

 

直樹は思わず振り返るが、目隠しで何も見えない。

 

「びっくりした?

いやー、こういう取り調べっていうの?

詰問とか尋問とか……そういう厳かでザ・緊張感!ってやつ? 一度やってみたかったんだよねー!

いやー、満足満足。

あ、ごめんね、体ブルブルだったねー。

怖かったねー、ごめんねー、いじわるしただけだからー!」

 

「……だ、だいじょうぶ……です……」

 

花奈の明るい声を聞き、少し緊張が解れた直樹は、ようやく声が出せた。

 

が、肩に置かれた花奈の手の力が少し強くなった。

 

「ん?

いまなんて?」

 

「え……あ…………あ…………いや」

 

「あはははははは!

ごめんねー! こわかったねーー!!

いいこいいこ!」

 

困惑する直樹に、花奈は乱暴に(咲希の姿をした)直樹の頭を撫でた。

 

「取り調べは冗談だけど、解釈の不一致は冗談じゃないから。

君が誰だかどうでもいい。元に戻るまで君は咲希なの。

咲希である自覚を持って。咲希として生きて。

そうしてくれたら、別に何もしないから」

 

また、優しいのに冷たい声が聞こえた。

 

(終わった……)

 

直樹は絶望に襲われた。

 

もう逃げ道はない。

 

なんだかんだ、衣食住は確保できたが、元の体に戻る術はまだ見付かっておらず、いつまでこの生活がわからない。

 

これから、この妹が好き過ぎる姉に怯えながら、別の人物になりきって生きていかなければならないのだと、直感し、気が遠くなった。

 

「さ、お風呂入ろ!

あ……そうだ。そこで、お姉さんがみっちりしっかりきっぱりと咲希のイロハを教えこんだげる!!」

 

直樹の絶望をよそに、花奈はハイテンションで風呂場へと連れ込んで行った。

 

(ああ……乃々実…………乃々実に……乃々実に会いたい!!!!!)

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