ハートジャスティス   作:ココリンク

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18話 朝食

「……はっ!」

 

三晴は目を覚まし、体を起き上がらせる。

 

知らない部屋の知らないベッド。

 

あたりには色々な工作物が置かれている。

 

(……そうか。彼の。

…………。寝てたのか)

 

三晴はあの後、泣き疲れて寝てしまっていた。

 

誰かに運ばれ今、直樹の部屋で寝ていたということになる。

 

時計を見ると、6時過ぎになっていた。

 

窓からは朝の日差しが射し込んでいる。

 

(まだ戻ってない…………

……やはり、倒すしかないのか)

 

見慣れない部屋にいる、馴染みのない体。

 

不思議な夢のような感覚に、三晴はそう簡単に体が戻らないことを確信する。

 

そんな中、部屋の扉が開いた。

 

「……あら、起きてたのね。

おはよう」

 

直樹の母親だ。

 

優しい笑顔を向けて歩いてくる。

 

(直樹の姿をした)三晴は小さく頷いた。

 

「直樹」

 

直樹の母親は温かい声で、呼び掛けると、優しく(直樹のがした)三晴の手を包んだ。

 

「乃々実や野々のことのことで、お兄ちゃんとして負担になってない?

学校。キムくんや軒谷くんと喧嘩してない?

直樹は人に合わせて無理しちゃうことあるから、無理なとき、しんどいとき、そうじゃくてもなんとなくでも、お母さんに言ってね」

 

直樹の母親は目を見て、真っ直ぐ優しく語り掛ける。

 

(そうか……これが、普通の母親か…………)

 

三晴はその純粋な母性を受け止めきれない。

 

(私に言ってるわけじゃない。

彼に言ってるんだ…………。)

 

もう二度と受けられないと思っていた“愛情”にさらされ、嬉しくもあったが、その言葉は三晴に向けられたものではない。

 

(私は…………誰からも愛されちゃいけない…………

そう…………決めたんだ)

 

寂しくもあったが、いつかの日に決めた覚悟を思い出し、三晴は数年ぶりに作り笑いを浮かべた。

 

「ありがとう。母さん」

 

三晴は小林直樹として、その言葉を返した。

 

 

〜〜〜〜〜〜〜

 

「おにいちゃーーん!!」

 

三晴が部屋から出ると、直樹の妹の、乃々実に飛び付かれた。

 

部屋からはすぐリビングに繋がっており、早起きした乃々実は昨日会えなかった分を発散するため、待ち構えていたのだ。

 

しかし、三晴はどう相手すればいいなか分からず困惑する。

 

「……!?」

 

その瞬間、乃々実は(直樹の姿をした)三晴から離れ、怯えたような顔で見上げた。

 

「だれ?」

 

乃々実の一言に、三晴はドキリとする。

 

肉体と精神の入れ替わりは、闇の人間の能力由来のもの。

 

なるべく人を巻き込みたくない三晴に取って、話題に取られたり怪しまれたりするのはなんとか避けたかった。

 

(えっと……確か、彼は)

 

三晴は2週間前に、小林家を訪問したときを思い出す。

 

そのときにあった、直樹と乃々実のやり取り。

 

直樹は乃々実の手を包んで、説得していた。

 

(一か八か……)

 

三晴はしゃがんで乃々実に視線を合わせ、ゆっくりと慎重に、小さな乃々実の手を取った。

 

「……お、俺だよ。

直樹だよ」

 

三晴は誤魔化そうとしたが

 

「ちがう!! おにいちゃんじゃない!!」

 

乃々実は手を振り払い、泣きそうになりながら、大声で叫んだ。

 

「どうしたの? 乃々実」

 

泣き声を聞きつけ、母親が駆け寄る。

 

「おにいちゃんなのに、おにいちゃんじゃない!!」

 

乃々実は(直樹の姿をした)三晴を指差し、母親に必死に訴える。

 

乃々実の言葉に、母親は困惑した表情を浮かべた。

 

そして、チラッと(直樹の姿をした)三晴を見る。

 

三晴はバレそうな緊張感にほとんど、身動きが取れない。

 

なんとか、首を横に振るのが精一杯だった。

 

母親は微笑みを三晴へと向けると

 

「ののみ。おにいちゃんは、昨日たいへんなことがあって、こころの中がぐちゃぐちゃになってるの」

 

「ぐちゃぐちゃに……?」

 

「うん。ののみだって、ようちえんで嫌なことあったら、こころの中がもやもやして、ののみがいつも思ってないことを言ったりしたりすることあるでしょ?」

 

「…………うん」

 

「だから、おにいちゃんは今、こころの中をお片付けしてるから、もう少し待ってよう。

あと1日だけ。できる?」

 

「……………………………………うん」

 

乃々実は長考の末、不服そうに頷いた。

 

「ありがとう」

 

母親は乃々実の頭を優しく撫でる。

 

そして、三晴に目配せすると、また優しく微笑んだ。

 

三晴は思わず目をそらしてしまった。

 

〜〜〜〜〜

 

「いただきます!」

 

小林家のリビングは朝食が並べられ、(直樹の姿をした)三晴と、乃々実、野々を抱えた母親がテーブルを囲む。

 

父親はすでに出勤しているらしい。

 

(……豪華だ)

 

白飯に味噌汁、焼き魚。

 

これぞ朝食というメニューの前に、三晴は困惑していた。

 

秘密基地では常にりんごのみ、最近は学校に行かず、給食も食べていなかった三晴にとって、久しぶりのちゃんとした食事だった。

 

そのため、本当に自分が手を付けていい代物なのかと躊躇してしまっている。

 

「ねえ?」

 

朝食とにらめっこしていると、母親が話し掛けた。

 

「食べないの? 具合悪い?」

 

「だ……だいじょう

 

三晴は大丈夫と言おうとしたが

 

「……ちょっと、具合わるい」

 

具合が悪いことにすれば、いつもと調子が違くても乗り切れる確率が上がると思い、咄嗟に嘘を付いた。

 

「……そう…………。

今日、学校どうする?

お休みする?」

 

母親の問いかけに、三晴はゆっくり頷いた。

 

「わかった。

連絡しておくね。

まだ少し寝てる?」

 

三晴はまた頷いた。

 

「うん。

食べたくなったら、また出てきなね」

 

優しい口調の母親に、三晴はただ頷くだけだった。

 

乃々実は相変わらず、怪しそうな顔で見ていた。

 

〜〜〜〜〜〜〜

 

「おはよー! はなちゃん!」

 

「うん! おはよ!!」

 

「おはよー! はなちゃん!」

 

「はーい、おはよー!」

 

早苗家のリビング。

 

朝食の支度をする花奈に、対しテーブルから元気に(咲希の姿をした)直樹が挨拶する。

 

しかし、その声のトーンや動きの活発さは、咲希のように明るかった。

 

あれから、直樹と花奈は夜なべをして咲希になるための特訓をし、咲希に関する情報を叩き込まれ、咲希らしい一挙手一投足に矯正された。

 

だが、まだ花奈は納得していないのか、挨拶を返すが人差し指を立てて、もう一回と指示する。

 

(まだやるのか……?)

 

直樹は流石に疲労と眠気が溜まってきていた。

 

何時間もぶっ通しで咲希を演じ、慣れてきてはいるが、あの元気さを長時間続けるのは厳しい。

 

それでも、静かなプレッシャーが怖く強迫観念にかられ、やけっぱちになりながら声を出していた。

 

「おはよー……花奈ちゃ……ん」

 

そんな中、階段から眠そうな声が聞こえた。

 

その声に、花奈は反応し嬉しそうな顔で振り返る。

 

「咲希ー! おはよ!!!」

 

花奈は咲希に手を振って挨拶すると、火を止め、料理を皿に移すと、(三晴の姿をした)咲希に駆け寄った。

 

「おはよう! 咲希!!」

 

そのままの勢いで抱き着いて、髪をかき乱す勢いで頭を撫でる。

 

「おー!いつもの体に負けず劣らずサラサラだねー!

昨日は咲希に似合わないフケ垢まみれだったもんねー」

 

「……うん」

 

「咲希ー、お腹すいた?

お腹すいてるよね? こんなやせっぽっちじゃお腹すいちゃうよねー!

ほら、いっぱいお食べ!!」

 

花奈は笑顔で寝惚けている咲希を、テーブルに誘導した。

 

「え…………?

私……は?」

 

直樹は花奈に話し掛けるが、返事は帰って来ない。

 

もはや直樹のことなど、眼中にない様子だった。

 

「らしくなってきたなー。

流石というか恐ろしいというか」

 

そんな中、二階のロフトから空良が見下ろしながら直樹に話し掛けた。

 

直樹は助けを求めるように空良を見詰める。

 

空良はやれやれという顔をした後、小さく手招きをした。

 

直樹は花奈の様子を確認し、恐る恐る椅子から立って、空良の下へと走った。

 

 

駆け寄ってきたその姿に、空良は苦笑いする。

 

「走り方も仕込まれたか?」

 

「だって! なにかするとすぐ指さされるんだもん!

とっても怖い顔して、ちがうちがうって!

眠くても寝させてもらえなくって……!!

とってもとってもこわかった!!」

 

「そうか……怖かったな…………大丈夫だぞ! 咲希!」

 

ほとんど咲希の口調と動きになっている直樹に、空良は思わず本物と誤認し、抱き着いて頭を撫でた。

 

「そらくーーん!!」

 

直樹は徹夜をしたことがなく、特訓ばかりの長い夜は、何日も経っているのではないかと思うくらい、永遠の中に閉じ込められている感覚がしていた。

 

その状態から一時解放され、優しい言葉を掛けられた直樹は、空良に抱き着き返し、大声を上げて泣いた。

 

「………………って……お前咲希じゃねえだろ!!」

 

だが、数秒後、空良はふと目の前にいるのが、咲希の姿をした別人だと思い出し、体を引き離した。

 

「ったく、俺の純情弄びやがって。

いいか……咲希は」

 

空良は不満の表情で、直樹に説教しようとしたが、涙を堪えている(咲希の姿をした)直樹を見ると、我慢できなくなり

 

「ごめんよー! 咲希!!

悪かった! 俺が悪かったよー!!」

 

と(咲希の姿をした)直樹にまた抱き着いた。

 

「空良!! うるさい!!」

 

その声が大きかったからか、一階から花奈の怒鳴り声がした。

 

いつもなら、そこで怖気づく空良だったが、今回は違った。

 

「うるさいってなんだよ!

別人でも咲希の体だろ!! 寝不足で倒れたらどうすんだよ!!」

 

「うるさい!! 咲希の体を勝手に使ってるんだからちょっとくらいいいでしょ!!」

 

「だめに決まってんだろ!」

 

空良は叫びながら、怯える直樹の顔を見た。

 

「姉貴! ちょっと!」

 

そして、指を立てて、自分の部屋に来いと指し示す。

 

「なに? 空良が来なさい!

洗面所でいい?」

 

「……いいよ!」

 

空良は引き受けると、直樹の頭を撫で、階段を降りていった。

 

「咲希ー!

私ちょっと、空良と話してくるから、いっぱいいっぱい食べてね」

 

「……うん」

 

花奈は咲希に優しく語り掛けると、洗面所に入っていく。

 

残った咲希は、睡魔と戦いながらゆっくりゆっくりスプーンを口に運び、オムライスを食べていた。

 

直樹は、涙を堪えて立ち上がり、リビングに戻る。

 

料理はたくさん作られているが、そのすべて咲希の前に出され、さっきまで自分が座っていたところには何もない。

 

(食べたらまずいな……)

 

直樹はしばらく椅子に座って待っていた。

 

が、花奈の注意が外れ緊張が解けたからなのか、すぐに眠ってしまった。

 

 

〜〜〜〜〜〜〜

小林家

 

「入るわよ」

 

三晴が部屋に戻り、1時間くらいすると、母親がお膳に朝食を持って、入ってきた。

 

三晴は慌てて、扱いになれるために出していた光の玉を消した。

 

「体調はどう?」

 

三晴は目を逸らしながら、首を横に振る。

 

「そう。

あ、これ。食べたくなったら食べて。

今から、乃々実を幼稚園に送っていくから」

 

母親はそう言いながら、お膳を作業机の上に置いた。

 

「……ありがとう」

 

三晴は黙っていようとも考えたが、仲の良さそうな親子の関係を壊してはいけないと思い、お礼を言った。

 

母親はまた温かく優しい微笑みを三晴に向ける。

 

そして、ドアノブに手を掛け、部屋を出る瞬間に、また三晴に顔を向けた。

 

「もし、嫌いなものがあったら残してもいいのよ」

 

そう言うと、母親は部屋から出ていった。

 

 

三晴はしばらく布団の中に隠れ、家の様子を音で伺った。

 

そして、乃々実と母親の会話が外に聞こえ、玄関の扉が閉まる音が聞こえると、布団から起き上がった。

 

(行くなら今だ)

 

三晴は家から抜け出し、敵の情報収集に向かうことに決めた。

 

(……少しだけなら)

 

だが、ふと用意された料理に目が行き、一口だけと作業机に向かった。

 

箸を不慣れに手に握り、キレイに食べやすく分けられた鮭の切身を食べる。

 

(おいしい……)

 

三晴は久しぶりに料理に、目を輝かせる。

 

一口だけ、あと一口と次々に口へと運ぶ。

 

白飯は手を付けようとしたが、苦手なため、残してしまったが、他はキレイさっぱり完食していた。

 

「ごちそうさまでした」

 

三晴は作業机にお膳を残していくと、外へ向かった。

 

通行人はいない。

 

三晴は未練が残らないよう、走って小林家を去った。

 

(お世話になりました。

でも……私はあなた達の家庭には異物です。

今日中に、なんとかしてお体を返します)

 

いつの間にか湛えていた涙を拭き取り、三晴は走った。

 

 

〜〜〜〜〜〜

 

(咲希の姿をした)直樹が目を覚ました。

 

洗面所では話し合いの声がしている。

 

入ったときよりも声が大きくなり、両者共ヒートアップしていて、まだ花奈と空良の言い合いが終わらないのだろう。

 

(三晴の姿をした)咲希はオムライスを口の周りにつけながらうとうとしている。

 

(今何時だろう?)

 

直樹はふと時間が気になり、リビングを見渡した。

 

時計を見付け、短針は7時を指していた。

 

(学校、早苗さんの家からはどのくらいかかるのかな?)

 

直樹はとりあえず、学校に行く準備をしようと、出発する時間を確認しに、咲希の隣に立った。

 

「早苗さん」

 

呼び掛けるが、咲希に反応がない。

 

咲希はかろうじてスプーンは持っているが、それが口に運ばれることはなく、ただただこくりこくりと前後に揺れていた。

 

「早苗さん」

 

直樹は優しく咲希の肩を叩く。

 

すると、咲希の目がうっすらと開き、上目遣いで直樹を見詰めた。

 

「……なあに………って! わあ!! わたし!!?」

 

今、直樹は咲希の姿をしているため、自分の姿を間近で見た咲希は驚き、椅子から飛び上がって距離を取った。

 

その瞬間、咲希は無意識に右手に力を込めていたのか、光パワーが収束され、小刀が一本生成されて、咲希の足元に落ちた。

 

「きゃあ!!!」

 

それに咲希はまた驚き、部屋の隅へと避難してしまう。

 

「早苗さん、落ち着いて。

わたし……じゃなくて、俺だよ。

さな……じゃなくて! 小林直樹だよ」

 

直樹は、優しく呼び掛けるが、咲希はパニックからか呼吸を荒げ、顔が白くなっていく。

 

「安心して、早苗さん。

だいじょうぶだよ」

 

直樹はゆっくりゆっくり、咲希に近付き、右手に種を作った。

 

そして、昨日森でそうしてもらったように、種を咲希の右手に押し込んだ。

 

すると、咲希の顔色はよくなっていき、呼吸も落ち着いてくる。

 

「……ありがとう

……えっと、小林さん!」

 

「どういたしまして

(やっぱり、刀根さんの姿で素直にお礼を言われるのは変な感じだな)」

 

直樹は三晴の姿でお礼を言われたのに、変な感じを覚えながらも優しく微笑んだ。

 

その瞬間、

 

「明人?」

 

と、ふと咲希が呟いた。

 

「? どうしたの?」

 

直樹は、咲希の視線が自分より後ろにあるのに気付き、後ろを振り返る。

 

「……!! ののみ!!」

 

直樹の視界に、乃々実が見えた。

 

元気に笑い、手招きをしている。

 

「ののみ!!」

 

直樹は走り出した。

 

何も考えず、一心不乱に。

 

視界の中の乃々実は、導くように外へと走って行った。

 

「明人!」

 

それは咲希の視界の中でも同じような事が起きる。

 

明人はこの前の闇の魔法使いに襲われてから、まだ入院生活をしている。

 

それが今、咲希の目の前にいるのだ。

 

咲希は涙目で歩み寄ると明人は一定の距離を取り、咲希から離れる。

 

「明人?」

 

咲希は不思議に思いながらも、明人の下へ駆け寄った。

 

すると明人は、外へと出ていってしまう。

 

「ののみ!」 「明人!」

 

想い人に導かれた2人は、そのまま外へと駆け出してしまった。

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