「ツェイヤ!!」
月詠山の中腹。
三晴は直樹の姿で、いつ戦が起こってもいいように、特訓している。
登山道から少し外れたところにあり、自由自在に体を動かすにはちょうどいい広さがある。
それに、他の場所よりもかなり濃い光パワーを感じるルミナスポイントのため、披露の蓄積もほぼなく、三晴はここを特訓場所にすることが多かった。
「ツェイ!!」
三晴は光の玉を刀の形に変えて、浮かしたまま斬る練習をする。
直樹の能力自体、応用が利きやすく、思ったことはほぼなんでもできるが、手で操るのと、意思で操るのとではまた違く、慣れが必要だった。
三晴は、道端で拾ったビニール袋を木の枝に括り付ける。
「光の刃!」
そして、刀をビニール袋に向かわせ、技の光パワーを乗せて、ビニールを斬ろうとしたが
技の光パワーはすぐに消滅し、刀は袋を掠るだけだった。
「(やはり、技も肉体由来か)
スラッシュ!」
今度は、直樹の技名を叫ぶ。
すると、光パワーは刀身に残り続け、ビニールに斬り込みを入れた。
(やはり、技名も彼のを言わないとだめか……
……まあでも、はやく元に戻る条件を見付けて、この姿で戦わないに越したことはない)
三晴は縦横無尽に刀を動かしながら、敵の能力を考えた。
(まずは、私達を森の奥へ集めたとき……
私達は虹姉ちゃんを追って来た。
彼と彼女はいったいどうしてだ?
そういえば……彼女は、“ふわふわしたお花”と言ってた……
とすると、皆、なにかを追って……いや、追わされて誘き寄せられたのか…?)
そこまで考えると、視界の端に人影が見えた。
(まずい)
三晴は咄嗟に、光の刀を消す。
警戒して、その人影を見た。
(………っ!?)
その人影に、三晴は目を丸くした。
姉の姿をしていたのだ。
「虹姉ちゃ
三晴はまた思わず駆け出しそうになったが、我に返り足を止めた。
そして、じっと姉を見て、三晴は1歩、2歩と歩いた。
それに合わせて、姉の姿も遠ざかる。
(幻影か……。
また、誘き寄せるつもりか?)
三晴は警戒しながら、また能力について考えた。
(私が見ている幻影は、虹姉ちゃん。
早苗咲希は、お花か……
彼女は、花が好きだったな……。
だとすると、特定のものを選んで見せているというより、追い掛けさせたいもののイメージを作らせているわけか。
“精神干渉系”
攻撃元も回避法も分かりづらい。
厄介だな)
「ののみーー!!!」
ふと、山の麓から女の子の声がした。
どこか、聞き覚えのある声と、聞き覚えのある名前。
「まさか!?」
三晴は慌てて、山を降りた。
そのルートはちょうど、姉の幻影が導くものと同じだった。
(……ッ!? いた!!)
麓の自然公園が見える位置まで来た時、そこではなにかに向かい必死に走る咲希の姿があった。
(早苗咲希……いや、あれは小林直樹か!
……まずい…………私が平気でも、彼はだめだったか……)
三晴が止めに行こうとした時、その後ろから自分の姿が走って来ていた。
(早苗咲希もか……
…………なら)
何かに導かれている2人を見て、三晴は姉の幻影に目を合わせた。
(私も行ったほうが、好都合)
三晴は姉の幻影を追い掛け始めた。
それでも三晴に不安は残る。
まだ敵の能力の正体も分からず、どうしたらもとに戻れるかも分からない。
倒したら元に戻るかもしれないし、入れ替わったまま倒してもそのままかもしれない。
それに、元に戻るには入れ替わったときのように、直樹と咲希の2人が、近くにいなくてはいけないかもしれない。
その場合、2人を戦いに巻き込むことになる。
そのために作戦を立てたいのだが、2人は何かに夢中にされ、止まらせることはできない。
なにもかもが準備不足。
それでも、行くしかなかった。
〜〜〜〜〜
十分くらい走り、またあの深い森へ辿り着いた。
三晴は先回りをし、あたりを警戒する。
「ののみー!!」
そして、猛スピードで向かってくる、直樹を手で止め、
「明人ー!!」
「カーペット」
後ろの咲希を、光の絨毯で止めた。
「………あれ?
乃々実は……?
……えっ!? ここどこ!?」
3人は幻覚が見えなくなる。
直樹は我に返り、あたふたと辺りを見渡し始めた。
「敵の能力だ。
誘き寄せられたんだよ」
三晴は冷ややかな視線を送り、直樹に言った。
「敵……?
えっ、じゃあまた!?」
「ああ。
戻ってきた」
「ええ!! そんなー……。
どうしよう……わたし、学校もいかなきゃだし……」
「小林直樹。そんなに学校が大事なのか?」
「大事というかね! 乃々実のためにね! いけないことはしちゃいけないってわたし決めての!!」
「…………そうか」
三晴は、会話の内容より、前見たよりも言動が咲希っぽくなっているのが気になっていたのが不思議だったが、少し心に留めておくだけで特に言及はしなかった。
「……? あ! そうか!!
ここだと演じなくていいか!!」
ただ、三晴が怪しんでいる反応をしているのを見た直樹は、咲希を演じなくて良いと気付き、開放感で伸びをした。
「三晴ちゃん……」
絨毯に包まれて、止まった咲希が、ふと顔を上げて、三晴を見た。
「きもちわるい……」
「うわ、大丈夫、早苗さん」
また咲希の顔が蒼白になっていた。
直樹はまた種を作って、咲希に駆け寄る。
「たくさん食べたあとに、走ったからかな」
直樹は咲希に光の種を分け与えた。
また次第に、咲希の顔色が戻っていく。
それを見て、三晴は呆れたように言った。
「たくさん食べたのか……
胃が受け付けなかったんだろ。
体力が勿体ない。
吐かないようにじっとしてろ」
「刀根さんこそ、たくさん食べても吐かないように、ちゃんと食べてよ。
刀根さんの体、早苗さんのお姉さんに心配されてたよ」
直樹は咲希の背中を擦りながら、嗜めるように言った。
三晴は何も言わず、背中を向ける。
「それに
「静かにしろ」
直樹が続けようとしたところを、三晴が制した。
そして、傍らに光の玉を出現させる。
その瞬間、三晴たちの前から闇の弾が飛んできた。
「グラス!
ガード!!」
三晴は光の玉をガラス板に変化させ、光パワーを集中させて、バリアを形成した。
バリアは弾を受け止め、爆発させた。
「……くっ…………」
しかし、光の玉と使用者の感覚やダメージは共有されているため、光パワーで軽減はされているが、三晴も少しダメージを食らってしまう。
「使いづらいな……」
三晴はそう呟きながら、ガラス板を球体に戻した。
「大丈夫!? 刀根さん!」
直樹は咲希を抱えるようにして守りながら、三晴に訊いた。
「ああ。
お前らはそこにいろ」
三晴は頷き、前を警戒しながら2人に伝える。
「いらっしゃーい!!
楽しかった?」
隠れていたのか、木の間から昨日の女性が姿を現した。
三晴の目付きが鋭くなる。
「やだー!
レディに向かってそんな顔しないでー!
……って、キミも女の子かー!!
きゃはははははははは!!」
女性は三晴に対し、馬鹿にして笑った。
「知ってるってことは、やっぱりこの入れ替わりはお前の仕業か?」
三晴は敵のペースに乱されないよう、冷静を意識して、淡々と言った。
「そうよ。
楽しかったでしょ?
本当ならあのあとあなた達を追い掛けて殺すこともできたんだけど、それだけだと面白くないよねー?
だから、ちょっと私の能力でイタズラしてみたの。
隠れて見てたけど、面白かったわー!
きゃははははははは!!!」
女性は満足げな顔をして、天を仰いで笑った。
その隙にと、三晴は直樹の目の前に光の玉を寄せて、光の玉を種の形に変形させた。
直樹は理解し、右手に力を込め、種を作ると、光の玉に乗せた。
三晴は光の玉を手元に戻し、種を取ると
「ソード!!」
と声高らかに宣言し、光の玉を刀の形に変えた。
「あら」
女性は攻撃に、余裕そうな笑みを浮かべると、チラッと右を見たあとに、一瞬だけ手を握った。
「スラッシュ!!」
三晴は技名を叫び、刀に光パワーを纏わせ、女性を斬り付けた。
女性は全く動かなかった。
そのため、弱点である胸を攻撃できた。
はずだった。
しかし、刀から伝わる感覚は、闇の粒子ではない。
木だった。
「なっ……?」
三晴は驚き、辺りを見た。
(……ッ!?)
その瞬間、三晴は目を疑った。
斬り付けた女性の隣に、その刀に向かって闇の弾を収束し始めている女性の姿があった。
(二人いる……?
……違う! 幻覚!!)
三晴は初めてここで、自分が斬り付けたのは幻覚だと気付いた。
「終わりよ!!」
女性は至近距離で闇の弾を放った。
「刀根さん!!
刀を消して!」
「……ッ!」
その瞬間、直樹の咄嗟のアドバイスを聴いた三晴は、光の刀を消し、間一髪弾を回避した。
「あらまあ、優秀なお仲間さんね。
キミより強いんじゃない?」
三晴は再び傍らに光の玉を出して、睨みを効かせる。
「そんなに強いなら、先に始末しなきゃ」
女性は不敵にそう言うと、またチラッと右を見て右手を強く握った。
そして、右腕を伸ばして手を開き、闇のエネルギーを収束させた。
「ソード!」
三晴は受け流そうと、光の刀を作り、攻撃に備えた。
じっと、様子を見て、いつ来てもいいよう構える。
「きゃあ!!」
ふと、背後から爆発と悲鳴が聞こえた。
「………ッ!?」
三晴は驚き、咄嗟に背後を見る。
「……!?
早苗咲希!? 小林直樹!!」
そこでは、直樹と咲希が攻撃を受けたのか、倒れていた。
咲希が反射的に作ったのか、三晴の肉体の能力の刀が短刀くらいのサイズで落ちている。
特に咲希が直撃を受けたのか、左腕から闇の粒子が舞っている。
(どこから……?
アバタか? でも、アバタの闇の弾の威力よりも)
「どこ見てるの?」
三晴が考えていると、女性が声を掛けた。
「え…………ぐわあああ!!」
その瞬間、三晴の体にさっきまで女性が収束させていた闇の弾が直撃した。
吹き飛ばされ、ちょうど直樹と咲希にぶつかり、重なり倒れる。
「きゃはははははははは!!!!
弱い……! よっわーーい!!
ねえねえ見た見た? マジ弱い! マジ雑魚い!!
これが光の人間? 能力なしでも余裕じゃない?」
女性は重なる3人を指差して馬鹿にして笑う。
(まだ……だ………)
かろうじて動ける三晴は、さっき直樹から受け取った種で回復しようとしたが、種の温かさが消えていた。
(…………長持ちはしない……のか)
咲希の肉体の能力で作る種は、攻撃も回復もできる万能だが、長持ちはしなかった。
一か八か、回復用にと仕込ませていたが、無駄だったようだ。
「ぐはっ!!」
種の習性が発覚した直後、女性は弾を三晴に向けて放った。
「ほらほら、立ってみなさいな!
ザッコいザコザコ戦士さん!」
「うっ!! がはっ!! うああ!!!」
女性は何発も何発も連続で三晴に弾を放った。
その衝撃は、下敷きになっている直樹と咲希にも伝わっている。
「手応えないね……感情捨てる奴がでてくるのも納得だわー」
女性は両手を合わせて、大きな闇のエネルギーを収束させる。
「この一撃でお・わ・り」
(やっぱり……無茶だったのか…………)
三晴の心がまた絶望しかけた。
その瞬間
「えい」
背中に温かいエネルギーを感じた。
「小林直樹……」
三晴は下敷きにしてしまっている、(咲希の姿をした)直樹を見た。
「俺の体だよ。
刀根さん言ったよね、1人で2人分の命を背負ってるって」
「……ああ」
直樹が光の種を三晴に与えていたのだ。
同時に、(三晴の姿をした)咲希にも与えている。
直樹自身は直撃はくらっていないためそこまでダメージはなかった。
そのため、種を作れる光パワーはまだ残っていた。
「お前も。
その体に無理はさせるなよ」
「うん。
十分分かってる
早苗さんは任せて」
「ああ」
三晴は応えると立ち上がり、光の玉を出した。
「あら、起きたの?
でも、遅いよ?
もう寝る時間」
「ソード!」
そして、光の玉を刀に変える。
「スラッシュ!!」
三晴は光パワーを刀身にまとわせて、刀を女性に向かわせた。
「だから無駄だって」
女性はそう言いながら、またチラッと右を見た。
(そこか)
三晴は女性の視線の先を確認すると、刀を消しさっき咲希が落とした短刀を手に取り、
「ツェヤア!!!」
そこへ投げ付けた。
「グッ……!!?」
投げた先は木の幹。
だが、その幹の少し前で短刀は男性の苦しそうな声と共に止まった。
「ソード! ペネトレート!!」
三晴はすぐ光の刀を作り、その短刀を目測に、刀を声の主に突き刺した。
「な……なぜだ…………?」
その瞬間、声の主であろう若い男性の姿が現れた。
光の刀は急所の胸を貫いている。
「ファイ……」
男性は女性の方を向いて、そう呼びかけ、闇の粒子になり、消えた。
「シュト!!?」
女性も驚いた表情で呼び掛ける。
ショックからなのか、集めていた闇の粒子も霧散してしまった。
「スラッシュ!!」
三晴は刀を使い、残った核の結晶も切り刻み、完全に消滅させた。
男性──シュトが形成したであろう灰色の世界が解除され、少しだけ明るくなる。
「スラッシュ!!」
三晴は今度は女性──ファイに狙いを定め、刀を飛ばした。
ファイは一切動かない。
刀はそのままファイの目の前まで届き、そのまま斬り付けようとした
そのとき
ファイは(直樹の姿をした)三晴を鋭く睨むと、一瞬で刀を鷲掴みにし、反対の手で闇の粒子を収束させる。
「ぐっ……わあああああ……!!」
三晴は刀を消して逃れようとしたが、ファイの握力が強く、体中が締め付けられるように痛み、消すことができない。
「刀根さん…!」
直樹は光の種を作り過ぎて、疲労困憊になっていたが、三晴のピンチを見て、なんとか立ち上がり
「ブルーム……」
両手を閉じて力を込め
「シャワー!!」
花の形に開いて、光の光線を発射する。
だが、ファイはその攻撃に一切関心を向けない。
そのまま直撃をくらうが、怯むこともなく粒子を収束し続ける。
「そんな……」
全く効いてない様子のファイに、直樹は膝を付いてしまう。
追撃しようとしても力が入らない。
「ぐっ……あああああああああ!!!!」
ファイの握力が更に強くなった。
三晴は思わず苦痛の声を大きく上げてしまう。
闇の粒子が集まり、珠になった瞬間
ファイは刀を放り投げた。
「うっ……(なぜだ……?)」
三晴は至近距離の攻撃をしないことに疑問を持ちながら、耐えきれない痛みに膝を付く。
それを見たファイは腕を右に大きく煽った。
その瞬間、直樹、三晴、咲希の視界が一瞬だけ暗く消えると
まったく別の視界になっていた。
「うっ……うああああ!!」 「きゃあああ!!」
そして、直樹と咲希がそれぞれさっきまで感じていなかった痛みに悲鳴を上げる。
(……? なにが)
三晴は胃のもたれと吐き気を感じつつ、顔を上げ、驚いた。
視界の中に、痛みに蹲る直樹と咲希の姿があった。
そして、吐き気や胃のもたれ、そして、感じ始めた左腕の痛み。
それらは、さっきまで三晴の体の咲希が感じていたものだ。
(……ッ!!?
戻ってる……!?)
精神が戻っていたのだ。