ハートジャスティス   作:ココリンク

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小林直樹はものづくりが好きな小学校6年生。
学校から帰り、妹の乃々実と遊ぶため急いで宿題を終えようとしたが、必要な教科書がないことに気付く。
急いで学校へ取りに行く途中、とある暗い道に入った。
そこにいたのは全身真っ黒な衣服を身に着けたお面被った男で、直樹に襲い掛かる。
危ないと思ったそのとき、直樹を助けたのはクラスメイトの刀根三晴だった。


2話 能力の覚醒め

「ツェヤアッ!!」

 

三晴は男と鍔迫り合いのまま、足を上げ、バランスを崩すことなく男の腹部を思い切り蹴り付けた。

 

「ーーー……!?」

 

男は不意の攻撃によろめき、腕に纏わり付いていた黒い粒子も散っていく。

 

「はあ!!」

 

三晴は透かさず刀を一振り。

 

男の体を斬り付ける。

 

男は傷口から粒子を吹き出し、力なく前に倒れ、ピクリとも動かなくなった。

 

その光景を直樹は唖然とした表情で見ていた。

 

突然襲ってきた黒色の男、華奢な見た目に似合わぬ日本刀を扱うクラスメイト、その二人の戦い、躊躇なく人を斬る姿。

 

いろんな事が起こり過ぎて、直樹の頭は混乱する。

 

しかし、あることを思い出し、それらの理解はすべて後回しになった。

 

(そうだ! 乃々実を待たせてるんだ!!)

 

「平気か? ここは危ないからさっさと逃げ

 

「ありがとう、刀根さん!

俺ちょっと急いでるからもう行くね!

本当にありがとう!!」

 

乃々実の事しか頭にない直樹は、声を掛けながら歩み寄る三晴の言葉を遮り、転んだときの怪我を気にすることなく、また全速力で学校の方へと駆けて行く。

 

「おい! お前!!

そっちは危ねえって!! 戻ってこい!!!」

 

三晴は直樹を追い掛け、怒号のように叫んだ。

 

「え?」

 

直樹は必死になって走ってたので、うまく聞き取れず思わず後ろを振り返った。

 

「……!!

伏せろ!!!」

 

その瞬間、三晴は何かに気付き、刀を構えて直樹に叫んだ。

 

「え…!?」

 

「いいから!! 早く!!」

 

「は、はい!!」

 

直樹は咄嗟に身を屈ませる。

 

三晴の叫び声に従ったというよりかは、刀を首の高さで構えた人が近付いて来たことによる、ほぼ反射的な行動だった。

 

「ーー……!」

 

瞬間、お面で籠もった男の呻き声がしたと思うと、何かがボトッと目の前に落ちてくる音が聞こえた。

 

「………?

うわっ!!!」

 

直樹は顔を上げて確認すると、そこにはさっきの斬られた男と同じ、太極図のようなお面をした生首が転がっていた。

 

その近くには首から上がない、真っ黒の男の体が倒れている。

 

直樹は思わず逃げるように跳び退き、三晴の後ろに立つが、

 

「うわっ!!!!」

 

三晴の右手の刀を見るとまた驚き跳び退いた。

 

「騒がしい奴だな………お前そんな奴だったか?」

 

「と……ととと………刀根さ………刀根さん…………!

そそそ、それは………その刀は……?」

 

直樹は恐怖で体を震わせながら落ちている小枝を拾い、先端を三晴に向けながら、震える声で訊いた。

 

「お前には関係ない。

逃げるならあっちだ。死にたくないならさっさと行け」

 

三晴は直樹の質問に答えようとせず、刀の切っ先を学校と逆の方向に向けて告げた。

 

「はは、はい!!」

 

直樹はすぐに逃げようとしたが、恐怖を和らげるために思いがけず掴んだ手提げかばんの触感で、再び乃々実のことを思い出した。

 

直樹は、走り出す直前のポーズのまま、その場で回れ右をすると、学校方向へと全速力で駆けて行った。

 

「は? ……………は、ちょ……!

バカかお前!!! 戻ってこーーーい!!!!」

 

三晴は呆れた顔をすると、すぐに直樹を追い掛け、叫ぶ。

 

捕まえて無理矢理にでも逃がそうとしたが、追い付けない。

 

普段、体育の時間で見る走りと比にならないほど速く、どんどん遠ざかってしまう。

 

「「ーーー……!!」」

 

道の先にいた真っ黒の男の姿が直樹の足音に気付き、振り向く。

 

一人だけじゃない。

 

道の両脇に一人ずつ。

 

身長も体格も全く同じだ。

 

「捕まるぞ!! 引き返せーー!!」

 

三晴が叫ぶが、耳に届いていないのか直樹は一切スピードを落とさない。

 

「乃々実ーーー!!!」

 

突然、直樹が大声を上げた。

 

待たせていることの申し訳なさや悔しさが高まり、我慢できなくなってしまったのだろう。

 

その時、直樹の胸がほんの一瞬だけ微かに光った。

 

すると、走りが更に素早くなり、二人の真っ黒の男の間を一瞬ですり抜けていった。

 

ただ、当の本人はそのことに全く気付いておらず、驚くことも戸惑うこともなく、一直線に学校へと走って行った。

 

「…………!あれは…!!?」

 

その代わりに三晴は目の前の光景を見て愕然とする。

 

真っ黒の男は互いにビックリしたように顔を見合わせている。

 

直樹の光に気付いたのは三晴だけだった。

 

(やはりアイツ……。

小林直樹。彼は………)

 

三晴がそこまで考えたとき、

 

「うっ………!!?」

 

突然後頭部を殴られた感覚がし、そのまま意識を失ってしまった。

 

 

 

 

 

「はぁ………はぁ………流石に本気出しすぎたな………」

 

学校に戻り、算数の教科書を回収した直樹は、花畑前にある公園で休んでいた。

 

全速力で走ったため、疲れて喉が乾くが、急いで出たため、飲み物やそれを買うお小遣いを持ってきていなかった。

 

そのため、道の途中にある公園の水飲み場で喉を潤し、引き込まれるようにベンチへと座り込んでしまったのだ。

 

「………よし、行くか……!」

 

それでも乃々実を待たせていると思うとじっとしていることができず、休憩は1分で終わり、再び全速力で走り出した。

 

花畑の分かれ道につき、真っ直ぐ行こうとしたがまた変な仮面の男に絡まれたり、クラスメイトの危険な一面を見たくないと思い、遠回りの道を選ぼうとした。

 

そのとき、

 

「ぐわああッ!!」

 

女の子の悲鳴が聞こえたと思うと、三晴が麓の道から吹き飛ばされ、直樹の目の前まで転がって来た。

 

「え……?」

 

直樹は躓きそうになりながらもなんとか立ち止まり、唖然としながらも心配そうに見下ろす。

 

三晴の体はボロボロだった。

 

薄汚れた紫色の服にはところどころ砂汚れが付き、唇の端は切れて出血し、後頭部にはコブができている。

 

「刀根さん……?

大丈夫……?」

 

「く…………うぅ……」

 

直樹は声を掛けるが、三晴は反応する素振りも見せず、左手で腹を抑えながら、右手で刀を支えに立ち上がり、警戒するように薄暗い小道を睨み付けていた。

 

「刀根さん…!!

大丈夫!?」

 

直樹は三晴の左手に回り、再び声をかける。

 

「なんだ……またお前か………。

逃げろ…! アイツは……さっきのようにはいかないぞ…!」

 

直樹に気付いた三晴は逃げるルートを指し示すように、刀を麓の道と逆の方に指す。

 

その瞬間、支えを外した三晴はバランスを崩してふらつく。

 

すぐに刀を杖のように付いて、転倒せずに済んだが、足がおぼつかず、立っているのがやっとだ。

 

「逃げろって……さっきの黒くてなんか変なお面つけた男たちのこと?

あいつらは誰なの!? それでこの怪我は?

そいつらにやられたの? だったら早く

 

「いいから!!

お前はとっとと逃げろ!!」

 

直樹の言葉を遮るように、三晴は怒鳴る。

 

「誰と話してんだ? お仲間さんか?

にしてはちょっと頼りなさそうだね」

 

麓の道から声が聞こえた。

 

厳つくてどこか勇ましい野太い男の声。

 

聞いた瞬間、三晴は焦るような表情をしたが、すぐさま殺気立ったようなものにかわり、声の方を睨み付ける。

 

「……デカい……!」

 

直樹も声の方を見詰める。

 

さっきまで暗くてよく見えなかったが、近付いて来ていた。

 

鍛え抜かれた筋肉を見せびらかすような上裸の身長2mもあるスキンヘッドの大男が。

 

後ろには真っ黒の男が3人ほど、のそのそと付いて来ている。

 

「刀根さん……。

あいつらはいったい?」

 

「お前。まだいたのか。

いいからさっさと逃げろ」

 

「だけど、刀根さん、怪我してるし」

 

「気にするな。お前は自分の命だけを大切にしてろ」

 

直樹は状況を掴めず、三晴に説明を求めたが、三晴は大男を睨んだまま視線を変えず、呆れた口調で返した。

 

「おっと、もう光の世界に出ちまってたか。

眩しいね」

 

大男は広葉樹の陰の端で立ち止まり、顔の前に手をかざすと、後ろいる男のお面を鷲掴みにし、体を持ち上げた。

 

そして腕に力を込めたと思うと、衝撃波が発生し、残りの二人の男が吹き飛ばされる。

 

衝撃波は直樹と三晴まで届いており、二人は思わず顔を塞いだ。 

 

「でーきた!」

 

二人が顔を上げると、鷲掴みにされた男の姿はなく、大男の手にはお面と同じような太極図の模様が浮かびあがった黒い珠があった。

 

「なんだ……あれ?」

 

「お前は今すぐ明るいところに逃げろ!

くっ…! ここも変えられる…!!」

 

困惑する直樹に、三晴は悔しそうな表情で言った。

 

「おーらよ!!」

 

大男は黒い珠を空高く投げる。

 

珠は二人の真上まで来ると爆発し、黒い粒子が半径250m程まで広がる。

 

すると、太陽が雲に隠れたわけでもないのに、突然辺りが暗くなり始めた。

 

「刀根さん……これって?」

 

「うるせえな! 一々!!

逃げろって言ってんだから逃げろ!!」

 

三晴は辺りが暗くなったのを皮切りに焦りを露わにし、強い口調で直樹に言った。

 

「ふん。仲間割れか?

てめえら!! あのガキをやれ!

俺はその後、あのチャンバラ娘をやる!」

 

「「ーー!」」

 

二人の真っ黒の男は大男の指示を受け、二人の元へ走ってくる。

 

大男は指示をしたまま、仁王立ちで動かない。

 

「ちっ……! お前らはどいてろ!!」

 

三晴はイライラしてるような荒々しい口調で二人の男に叫ぶと、刀を左手に持ち替え、地面につくと、右手を前に出して宙を掴んだ。

 

刹那、三晴の胸が光り出し、それに呼応するように右手も光り始め、そこから光の粒子が漏れ出す。

 

「え………」

 

直樹は危機的状況に置かれているにも関わらず、その光景に驚きながらも魅了されていた。

 

光の粒子は短刀のような形になり、その形で固定された。

 

「流石にこの長さが限界か」

 

三晴はそう呟くと、二人の男を見たあと直樹に視線を送った。

 

「邪魔だ。下がってろ」

 

「え、あ、はい……!」

 

直樹は三晴の殺し屋のような冷たい目と声に威圧され、言われなくても後退りしていた。

 

三晴は短刀を持つ手を、左肩の位置まで持っていく。

 

そして男達の位置を確認すると、

 

「ニードルバスター!!」

 

叫びながら宙を水平に切り裂いた。

 

すると刀身から光のエネルギーが飛び出し、飛ぶ斬撃となり、迫る二人の男へ襲いかかった。

 

「「ーー…!?」」

 

斬撃は男の胸あたりを切り裂き、男はそのまま仰向けで地面へと倒れた。

 

「………!すごい……!」

 

直樹の口から思わず感嘆の言葉が漏れる。

 

必殺技のような叫びと飛ぶ斬撃は男心を擽り、直樹の心を魅了させていた。

 

「あらら。やられちゃった。

……でも」

 

大男は手下がやられたというのにまるで他人事のように言うと、三晴に視線を向けた。

 

「はぁ………はぁ………」

 

三晴はさっきの一撃で体力を使い果たしたのか、息が荒くなり、手も足も震えている。

 

それでも三晴は両手の刀をガッシリ掴んで離さず、大男を睨み続ける。

 

「いいね。俺、その目好きだよ。

諦めないって、まだ生きることに執着してるって感じで。

そしてその目は……」

 

大男はそう言うと、一歩歩き始めた。

 

「……!?」

 

そう思った瞬間、強風が吹き大男はすでに三晴の目の前に立っていた。

 

三晴は大男の思わぬ俊敏な動きに驚き、一瞬動きが止まった。

 

大男は大きな手で三晴の体を掴み、持ち上げた。

 

「これから死ぬ奴の目だ!!」

 

「ぐわああああああ!!!」

 

大男は三晴の体を握り締める。

 

三晴は自分の体がミシミシと音を立ててるような感覚になり、悲鳴を上げる。

 

手首を反して体を掴む手を斬ろうとするが、もう力が残っておらず刃が手まで届かなかった。

 

「もう逃さないぜ!

かの光の戦士の妹を殺ったとなれば、俺様の昇格は間違いないんだ!!

もうこんなことしなくても威張ってるだけで甘い蜜が啜れるんだぜ!!!

ガハハハハハハハ!!!」

 

大男は歪んだ笑みを浮かべ、高らかに宣言すると大笑いする。

 

それに応じて三晴を握る手も更にキツくなる。

 

(やばい………はやくなんとかしないと……!!

刀根さんが……。)

 

直樹は怯えながらその光景を見ていた。

 

助けたいのは山々だが、あの大男に敵う力は自分には備わっていない。

 

直樹はあたりを見渡し、なにか対抗できるような物を探した。

 

すると、公園から大人の男の人が出てくるのが見えた。

 

「すみません! そこの人!!

助けてください!!」

 

直樹は必死にその人に向かって叫んだ。

 

その人はこちらの方へゆっくりと曲がった。

 

(よかった…! 大人の人ならなんとか………!)

 

直樹は助けを呼べて一安心した。

 

中肉中背で、筋肉隆々というわけではないのだが、大人の男というだけでどこか頼もしかった。

 

しかし、その人は黒い粒子の影響で暗くなる場所の手前まで来ると足を止めた。

 

「あれ、そういえばここ行き止まりだったな。

ぼーっとしすぎたなー」

 

その人はそう言うと、踵を返し、直樹たちのもとから去っていってしまった。

 

「え………。

ちょっと! すみません!! あのー!!

助けください!! 俺たち!!」

 

「おいガキ!

うるせえぞ!! お前も今すぐ殺してやるから大人しくしてやがれ!!」

 

去っていく男に対し、助けを求め続ける直樹に向かい、大男は怒鳴り付けた。

 

直樹はその声と大きな体の迫力に圧倒されたが、苦しそうに悲鳴をあげ続ける三晴を放っておくことができなかった。

 

「うおおお!!」

 

直樹は教科書が入った手提げかばんをギュッと握り、大男に叩き付けた。

 

「え……?」

 

筈だった。

 

確かに大男の体をひっぱたいた。

 

それなのに、手応えが全く感じられず空を切ったようだった。

 

(なんでだ……!?)

 

直樹は疑問に思ったが、何度も何度も手提げかばんを大男に叩き付けた。

 

それでも、大男は体を透過しているのではないかと思う程手応えがなく、苦悶の表情も一切浮かばせない。

 

「いい加減しつけえぞ!!」

 

大男は目の前で動かれるのを鬱陶しく思い、直樹の腹を蹴り飛ばした。

 

そのとき、手提げかばんの小さなポケットからなにか小さなものが転がり落ちた。

 

「ぐわッ!!!」

 

直樹は5m程吹き飛ばされ、地面へ転がる。

 

体の中から何かが上がってくるのを感じ、思わず口から吐き出した。

 

「う……うぅ!」

 

脈拍が感じられるくらい腹がジンジンと痛み、思わず涙を流す。

 

痛みのために身動きは一切取れず、蹲るのがやっとだった。

 

(痛え…!!

なんだこの痛み…!!

刀根さんは……これを受けていたのか………!?)

 

直樹は痛みに堪えながら目を開け、大男を見た。

 

(………!刀根………さん……。)

 

大男に掴まれた三晴はまるで人形のように完全に脱力していた。

 

それでもなお、大男は三晴を握り締める。

 

その度に体が揺れ、口から血を垂らし、苦悶に満ちた表情を垂れた前髪の間から覗かせた。

 

(やられる………俺も………もうすぐ……!)

 

その姿を見て、やっと死への恐怖を理解した。

 

必死に逃げるよう忠告する三晴の意図をようやく理解した。

 

しかしもう遅かった。

 

痛みのために体は動かない。

 

仮に動いたとしても、恐怖心が足を震わせ、逃げることはできないだろう。

 

(ごめん。乃々実。

すぐ帰るって言ったのに。)

 

直樹は心の中で乃々実に謝った後、諦めたかのように瞼を閉じようとした。

 

「あの様子じゃ、覚醒前か。

手強くなる前に潰せてラッキーだな。

ん? なんだ……これ?」

 

そのとき、大男が足元の何かに気付きそれを拾い上げた。

 

「種?

へえ、なにか育てるつもりだったのか。

残念だったなクソガキが!!」

 

(………種?

種………)

 

直樹はなにか頭の中に引っ掛かるものがあり、目を開けてその種を見た。

 

(……………!!

あの種は!!)

 

「お前もこのチャンバラ娘みたいにこうしてやる!」

 

大男は直樹に見せ付けるかのように種を木っ端微塵に砕いた。

 

(…………!!)

 

直樹の顔が絶望に染まる。

 

一気に涙が流れ、顔を伏せてしまった。

 

大男は砕いた種を撒き、それを足で踏む。

 

「お前らには希望はない!

自分が選ばれたことを後悔しながら死ぬんだな!!」

 

大男はそう言いながら、三晴から手を離すと、直樹に向かって走り出した。

 

「………あれは昨年の夏。

8月の6日。乃々実と一緒に自然公園に行ったとき」

 

「……?」

 

突然、なんの脈絡もなく、直樹が独白を始めたため、大男は不思議そうに立ち止まった。

 

「あの日は雲一つない快晴。暑かったし、初めて行く場所で乃々実も興奮してたから、体調管理が上手くいかなかった」

 

「ガキ、お前何言ってんだ!?」

 

「乃々実が夏バテで倒れ、俺は木陰に移したり水や塩をあげて看病し、乃々実は元気になった。

そしてその帰り、乃々実はポケットから“おにいちゃん、きょうはありがとう”ってくれたんだ。

おっきくて立派なひまわりの種を………」

 

独白が終わる頃に、直樹の胸が微かに光り出した。

 

その光はどんどん輝きを増していき、全身を包み込む。

 

「………! このガキ!!」

 

その光景を見て、大男は慌てた様子でまた瞬間移動のように直樹の前まで接近し、拳を振り上げた。

 

「ひまわりの種を………世界でたった一つの乃々実の種を…………

お前はああああああ!!!!」

 

「死ねえええ!!!!」

 

大男は、激しく輝く光に向かい殴り付けた。

 

衝撃波が発生し、砂煙が舞い、花畑沿いの広葉樹が激しく揺れ、葉っぱが散る。

 

その手応えに大男は笑みを浮かべた。

 

が、砂煙が晴れると、その表情は驚愕したものに変わる。

 

拳の先はガラスのような透明な壁に抑えられ、その強打は完全に防がれていた。

 

「う………。

………!? これは!?」

 

眩い光に意識を取り戻した三晴が目の前の光景に絶句する。

 

「なに……!?」

 

大男は予想だにしない事態に、思わず飛び退いて距離を取った。

 

「ガン」

 

直樹は怒りに満ちた目で大男を睨み、静かに呟くと、透明な壁は丸い光の球体に変わり、それはすぐに片手銃のような形に変わり直樹の目の前を浮遊する。

 

「ショット」

 

直樹の掛け声と同時に、片手銃はひとりでに光の弾丸を発射する。

 

「なっ…………!

グバァッ!!」

 

弾丸は大男の胸に直撃し、大男は膝をつき蹲った。

 

「フ、フハハ、フハハハハハ」

 

大男は苦悶の表情を浮かべたと思えば、急に笑みを浮かべ笑い始めた。

 

「ハーハハハハハハハ!!!

ガキがッ!! テメェだけは許さねえ!!

この俺様の体に傷を付けやがった!!!

今度あったときは殺す!! 何度でもぶっ殺す!!

覚悟しておくんだな!!!

ガハハハハハハハハ!!!」

 

大男は捨て台詞をはくと、突風が吹き、気付くと消えていた。

 

「……え……?

うわ! 俺、さっきまで何を!?

え、鉄砲!? 浮いてる!?

どうなってんだ!?」

 

しばらくすると直樹の怒りの表情が崩れ、元の少年のあどけない顔に戻った。

 

それと同時に、目の前で輝く片手銃や急にいなくなった大男、痛みで動けなかったはずなのにぴょんぴょん動けそうなほど軽くなった体など、不可解なことが起こり過ぎて、困惑した。

 

「……! 刀根さん!!

大丈夫!?」

 

ぐったりと地面に伏せる三晴の姿を見て思考は後回しになった。

 

急いで駆け寄ると足音に気付いたのか、三晴はゆっくりと顔を上げた。

 

「覚醒しちまったか……。

逃げろって言ったのにな……。

小林直樹。お前………」

 

「よかった! まだ意識がある!!

待ってて、公衆電話近くにあったと思うから、救急車とパトカー呼んでくる!!」

 

直樹は死んだように動かなくなっていた三晴の意識があることに安心して、ろくに話も聞かずに公衆電話を探しに走ろうとした。

 

「おい……! 待て……!!

おま……ゲホッ…!! ゲホッ!!」

 

三晴は慌てて止めようと大声を出したため、腹圧がかかり吐血してしまう。

 

「刀根さん……!

大丈夫……? 血が……」

 

「大丈夫じゃねえよ……。

大声出させんな……。

とにかく、ここから出るぞ……」

 

「え、でもあまり動かないほうが……」

 

「いいから、ここじゃ誰にも気付かれねえ。

さっきあのデカブツが撒き散らした粒子が届かない場所……。

明るいところまで行くぞ……」

 

三晴はそう言いながら、腕をなんとか動かして花畑の方へと指を指した。

 

そして、手を付き立ち上がろうとするが、生まれたての子鹿のように腕が震え、転倒し立ち上がることができなかった。

 

直樹は、よくわからない状況が続く中、確固たる自信を持った三晴の言葉が正しく思え、反論できなかった。

 

「刀根さん……!

無理しないで……。

……………俺が、運ぶよ」

 

三晴の痛ましい姿を見ていられず、直樹は思い切って提案した。

 

「……………ああ。好きにしろ」

 

「……え、

あ、はい!」

 

直樹は断られるだろうと思っていたが、許可がおりたことに一瞬拍子抜けしたが、すぐに三晴を持ち上げ、おんぶした。

 

(あれ……軽い……?)

 

そのとき直樹はおぶった感覚が思っていたより軽かったことに驚いた。

 

はじめは女子の体重ってこんな軽やかなものなのかと思ったが、すぐにそれは違うと思った。

 

全身がとても軽く感じるのだ。

 

無駄な力が抜けてとてもスムーズに体を動かせる。

 

「何やってんだ……?

早く行け……」

 

手足を小さく動かし、感覚を確かめてたら、三晴が痺れを切らして耳元で不機嫌そうに呟いた。

 

「ご、ごめん。

………ねえ、刀根さん」

 

直樹は急いで歩き出し、それと同時に気になっていたことを聞こうとしたが

 

「今はこれ以上話したくない」

 

と突っぱねられ、それ以降は花畑につくまでなにも聞かなかった。

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