ハートジャスティス   作:ココリンク

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20話 錯乱

(なにかわかないけど……好都合…!!)

 

三晴は動揺しつつも、慣れた体を取り戻したため、吐き気を厭わず、戦おうと手に力を込めて刀を生成しようとした。

 

「だめだよ」

 

その瞬間、ファイが一瞬で三晴の目の前にしゃがみ込み、三晴の右手を掴んだ。

 

あまりにも一瞬で、三晴は判断が遅れる。

 

「……しま

 

懐に潜り込まれたことを理解したときにはもう、さっき生成されていた闇の珠を胸元に撃ち込まれていた。

 

三晴は吹き飛ばされ、木の幹を2本貫いて、その先の幹に体を打って、ようやく止まる。

 

気を失っているのか、ピクリとも動かない。

 

ファイは関心を失ったかのように、三晴の体から目を逸らすと、また腕を大きく右に煽る。

 

「いやあああああああ!!!!」

 

すると、直樹の体が大きな悲鳴を上げた。

 

しかし、ファイは直樹には目もくれず、咲希の体を持ち上げて起こすと、右手を掴んだ。

 

咲希の目が開く。

 

そして、困惑した表情になり、辺りを見渡した。

 

「教えなさい。

なぜ、シュトのことが分かったの」

 

ファイは咲希──の中の三晴に問い掛けた。

 

とても冷たい殺意と怒りがこもり、三晴も思わず身震いをしてしまう。

 

三晴は反撃をしようとしたが、咲希の能力は右手に力を込めて種を出すか、両手を合わせて光線を出すかで、右手を塞がれている以上、何もすることができない。

 

「答えないなら」

 

何も返事がないことにファイは苛立ち、掴んでいる手に闇の粒子を収束させる。

 

「……ッ!?」

 

三晴の手元から、闇の粒子が集まり、膨張しているのが分かる。

 

そのまま膨らみ続けたら大爆発を起こし、咲希の体はひとたまりもないだろう。

 

「お前の喋りと動きだよ…!」

 

三晴はファイを睨みながら答えた。

 

粒子の収束をやめたのか、膨張が止まった。

 

「…………お前は……昨日私を追い詰めた時、“私の”能力を使うまでもないって言った……。

幻覚の能力で追い詰めていたにも関わらずにな。

だから、ペアで来ているんだと思った。

そして、お前はさっきから誰かに話し掛けるような喋りをしてた。

それに、何かしらの合図も出していた。

だから、そのペアはお前の動きを見聞きできる近くにいるんだと分かった。

そして、早苗咲希の攻撃が発射された方向。

と、お前の視線の先からなんとなくの場所が分かって

あとはもう当て感だ。」

 

三晴は毅然とした態度で、言い放った。

 

本来なら動揺を誘う以外で、自分の作戦や考えを口に出すことはないのだが、咲希の体を人質にされている以上、言うしかなかった。

 

ファイは冷たい視線でしばらく見下ろすと

 

「あっそ」

 

と言いながら、突き飛ばし、腕を左に煽った。

 

「きゃっ!」 「うっ……!」

 

直樹と咲希が悲鳴を上げる。

 

また、元の体に戻っていた。

 

ファイは直樹に目を向ける。

 

「キミに恨みはないけど……殺ったのはキミの能力だから」

 

ファイは腕に闇の粒子を纏い、痛みで動けない直樹に狙いを定め、腕を振り上げた。

 

「ブルームシャワー」

 

その瞬間、その腕に光線が当てられる。

 

ファイの動きが止まったと思ったら、顔だけゆっくり振り向き、咲希を見据えた。

 

「い……いじめちゃ……だめ」

 

咲希は右手を握り締めながら、泣きそうな顔をして震える声で言った。

 

「さっきからぶりっ子がキモいんだよ」

 

ファイはそう言うと、狙いを咲希に変え、ゆっくりと近付いていく。

 

「だ……だめ……あっちいって……」

 

咲希は恐怖で腰が抜けてしまい、へっぴり腰になりながら、後退る。

 

「早苗……さん」

 

直樹は未だに残り続ける、締め付けられる痛みに耐えながら、光の玉を出した。

 

「ガン……」

 

そして、玉を空気鉄砲の形に変える。

 

そして狙いを定め

 

「…

 

「無駄」

 

技を放とうとした瞬間

 

ファイは腕を右に煽った。

 

「え」

 

精神の入れ替わりが起こり、直樹の体に咲希が入った。

 

咲希は直樹の能力が分からないのと怯えているのとで技が出せない。

 

また、光の玉も空気鉄砲の形に維持できず、に元に戻ってしまう。

 

だが、

 

「ブルーム!」

 

三晴は見える景色と痛みを感じる部位から、咲希の体だと直感し、両手に力を込め始めた。

 

しかし、ファイはすぐに左腕を払う。

 

また精神が入れ替わり、3人とも元の体に戻る。

 

「え……あ、えっと……!」

 

咲希は急に入れ替わったので動揺し、溜めた光パワーを維持できずに放散させてしまった。

 

「ショット!」

 

直樹は一か八か叫んだが、光の玉はもとに戻っていたので、何も起こらなかった。

 

完全に弄ばれ、翻弄されている。

 

「……ふふ

ふはははははは。

きゃはははははははははは!!!」

 

ファイは不敵な笑みを浮かべると、大きく手を叩いて大笑いした。

 

直樹と咲希は得体のしれない恐怖に怯えて、何も出来ない。

 

「キミたち、本当に雑魚いね!

相手にならない。話にならない。

でも、面白い」

 

ファイは腕を左に煽った。

 

精神が入れ替わり、直樹の体に三晴が、咲希の体に直樹が、三晴の体に咲希が入る。

 

入れ替わった瞬間、(直樹の姿をした)三晴は足を出し、前に進み

 

「ソード!!」

 

と叫んだが

 

ファイは腕を左に煽り、また精神を入れ替えさせる。

 

直樹の体に咲希が入り、光の玉の剣の形がまた元に戻る。

 

「ブルーム!」

 

咲希の体に入った三晴は入れ替わった直後から、技の体勢に入った。

 

「へ〜」

 

ファイは感心したような声を出すと、また腕を左に煽る。

 

一周して、また元の肉体に戻った。

 

「雑魚い割には、もう気付いたんだ」

 

ファイはそうつぶやくと、掌を咲希に向けて闇の弾を放った。

 

「きゃあああ!!」

 

入れ替わりが激しく対応しきれない咲希は、攻撃をもろにくらい、吹き飛ばされる。

 

「早苗さん……!

ソードペネトレイト…!」

 

直樹は咄嗟に、できる限り早口で叫び、剣を向かわせるが

 

「はい、おつかれ」

 

ファイは余裕そうに言うと、腕を右に煽った。

 

直樹の体に咲希が入った。

 

やはり、咲希だと光の玉で変化させた形を維持できない。

 

剣は光の玉に戻り、ファイの体を軽く小突くだけになった。

 

ファイは光の玉を払い除ける。

 

「きゃ!!」

 

その衝撃は直樹の体に伝わり、ただでさえ痛み続ける体に追い打ちが掛かった。

 

「やっぱり、キミが穴なのね」

 

ファイは(直樹の姿をした)咲希にゆっくり近寄りながら不敵な笑みを浮かべる。

 

咲希はファイを見上げ、怯えながらも右手に力を込める。

 

「……あれ……?

あれ……?」

 

だが、直樹は三晴と違い、右手に力を込めて能力を使うタイプではなかったので、思い通りに行かず、焦りと困惑の色を見せる。

 

「きゃははははは!!

かわいい!! 何もわからないんだ…!!

本当に穴ね!! いいおもちゃになりそう!!」

 

ファイはまた手を叩きながら馬鹿笑いする。

 

その直後、ファイの背中に光線が放たれた。

 

「……なによ。

もう起きちゃったの?」

 

ファイは不満そうな顔で振り返った。

 

そこには凛々しい顔をした(咲希の姿をした)三晴が立っていた。

 

「いい加減お前の馬鹿笑いも飽き飽きだ」

 

三晴はそう言い放つと、右手に力を込めた。

 

そして、奥の咲希に目配せをする。

 

「そう。

じゃあ、もう二度と聞けないようにしてあげる」

 

ファイは腕を構えた。

 

三晴はじっと観察する。

 

(アイツの腕の煽る方向で入れ替わりが変わる。

右なら小林直樹に……左なら私に……

どっちだ……)

 

ファイの腕が右に煽られた。

 

(小林直樹……

すぐに技を使えば……!)

 

精神が入れ替わり、三晴の予測通り、三晴は直樹の体に入る。

 

「オーバー

 

そして、光の玉の状態でも使えるオーバーシャイニングを叫び、また入れ替わられてもいいようにする。

 

ファイはまた腕を構えた。

 

(どっちで来る……)

 

三晴はまた観察する。

 

今、咲希の体には直樹が入っている。

 

そして直樹はさっき三晴が込めたパワーを溜めたままでい続けており、オーバーシャイニングを放とうとしているのも見えている。

 

そのため、どっちに入れ替わっていたとしても、やっと技を放つことができるのだ。

 

ファイの腕が左に煽られた。

 

(早苗咲希……!

行ける!)

 

精神が入れ替わり、咲希の体に三晴が入る。

 

それと同時に、三晴は両腕を前に突き出し、技を放とうとした。

 

だがその瞬間

 

ファイはにやりと笑う。

 

「シャワー!」

 

三晴は技名を叫んだ。

 

だが、何も出ない。

 

当然だ。

 

三晴の精神は今、直樹の体に入っている。

 

「なっ……!?」

 

三晴は困惑し思わず声を出す。

 

「きゃはははははははは!!

引っ掛かった! 引っ掛かった!

精神の入れ替えに、腕は関係ないの〜!

さっき、キミ、シュトの位置をわかるために合図を観察したって言ってたから利用しちゃったー!!

真面目だねー!

さっきまでのあなたお間抜けでバカらしかったよー!!

キャハハハハハ!!!」

 

「ブルームシャワー!!」

 

ファイが馬鹿笑いする中、咲希の体に入った直樹は、隙を見て、両手に力を込めて、光線を放った。

 

「おっと!」

 

しかし、寸のところで軽々と避けられてしまった。

 

「気づいてないと思った?」

 

ファイは勝ち誇ったかのように、直樹に視線を向けて言い放った。

 

「ソード!!」

 

「ブルーム!」

 

それでも2人は技を構える。

 

「いい加減鬱陶しい」

 

ファイは腕を構え、右に煽った。

 

精神が入れ替わり、元の肉体に戻る。

 

直樹は困惑し、ファイの腕をマジマジと見詰めた。

 

「この腕の振り、ブラフのつもりだったけど、ちょっと気にいっちゃった…!

何回どっちに移動させたかもわかりやすいしね…!!」

 

ファイはそう言うと、腕を軽く右へ2回煽り、左へ3回煽った。

 

その都度、精神の入れ替わりが起こり、最終的には直樹の体に三晴、咲希の体に直樹、三晴の体に咲希が入った。

 

入れ替わりが激しく、三晴も処理に時間が掛かった。

 

三晴が咲希の体なことを理解した瞬間

 

「ブルーム………ぐわ!!」

 

闇の弾が放たれ、直撃してしまう。

 

そしてそのまま、背中から地面に力なく倒れてしまった。

 

「はい! もう一回!!」

 

ファイは笑みを浮かべると、また腕を構え、右に2回煽り、左に4回煽る。

 

そして、右、右、左、右、左、左、左、右、左、右

 

とひっちゃかめっちゃかに動かしてそこで止めた。

 

「さて! あと1人よね!」

 

ファイは直樹の体に視線を向けた。

 

その体に入っている者は、まだ状況処理ができていない。

 

そして、その隙を見て闇の粒子を収束させていく。

 

そのとき

 

「いやあああああああ!!!」

 

咲希の体が文字通り悲鳴を上げた。

 

ファイは怪訝な顔をして、咲希の体を見る。

 

「う……うう……!

いや……だめ…………ひどいことしないで…!」

 

咲希の体は恐怖で涙を流しながら、怯える。

 

さっきの直撃のダメージで体を動かすことはできない。

 

その様子を見て、ファイは首を傾げた。

 

(ああもうやかましい。

それに、おかしいわね。

あの暴力娘が、男に入ってるようにしたから、ぶりっ子には男が入ってるはず)

 

ファイは咲希の体に近付いた。

 

「花奈ちゃん…! 百合ちゃん…!

明人…! たすけて!!」

 

咲希の体は叫び声を上げ、助けを呼び続ける。

 

その細かい動き、発音のクセやイントネーションは、咲希そのものだった。

 

(少しミスったか……!)

 

ファイは予定通り、シュトを消滅させた肉体と精神の状態にするために、腕を左に煽ろうとしたが

 

(ぶりっ子にはうるさくされるのはもうごめんだわ)

 

と、咲希の体を始末しようと腕を右に煽った。

 

その瞬間

 

「燦:ニードルバスター!!!!」

 

と叫び声が遠くから聞こえたと思ったら、森の木々を揺らす凄まじい衝撃が辺りに響いた。

 

「なに……………

 

ファイは辺りを見渡し、その正体に気付いたときにはもう遅かった。

 

「よ……………」

 

そのときにはもう、木々を焼き尽くすような燦爛たる空気の刃が、ファイの体を通り過ぎた後だった。

 

ファイの体が真っ二つに割れる。

 

最期に見たのは、刀を振り終えていた三晴の姿だった。

 

二つに割れた体は粒子となり、消え、その下に結晶が残った。

 

「はあ……はあ……」

 

三晴は息を漏らし、ふらふらしながら結晶へ近付き

 

「ふん…!!」

 

と結晶を刀で貫き、破壊した。

 

灰色の世界が完全に消え、辺りがまた明るくなり、木々の合間から木漏れ日が差した。

 

「勝った……」

 

その陽の光の温かさに、直樹は安心し、思わず背中から寝そべっていた。

 

咲希もリラックスする直樹を見て、安心したのか、驚いた表情のままぺたりと地面に座り込んだ。

 

「うまく行ったね、刀根さん」

 

直樹は三晴に笑顔を向けて言った。

 

「ああ」

 

三晴は血が垂れる左腕を抑えながら、素っ気無く答えた。

 

直樹はそれを見て、心配そうな顔をする。

 

「腕、大丈夫?」

 

「ああ」

 

「大丈夫じゃないよー!

痛かったよ」

 

咲希が不満そうな顔で言った。

 

「私は平気だ」

 

「でも確かに、作戦を伝えるために腕に切り込み入れるなんて無茶苦茶だよ」

 

直樹も少し不満そうな顔をした。

 

三晴が抑えている腕には、文字が刻まれていた。

 

“ミギテに力ヲイレロ

キヅカレルナ”

 

三晴の体は吹き飛ばされた後、気を失っていたが、元の肉体に戻ったときに、意識を取り戻した。

 

そのあとすぐ、吹き飛ばされたときに散った、木片で自分の腕に文字を彫ったのだ。

 

2人が三晴の体に入ったとき、痛みですぐメッセージに

気付けるように。

 

それを見た直樹と咲希は三晴の体のときは力を入れ続け、他の身体のときはそれを気付かせないよう、攻撃をし続けたり、声を出したりして、注意を引いていたのだった。

 

「お前こそ、無茶苦茶だ。

小林直樹。

早苗咲希の真似をして惑わすなんて」

 

「早苗さんのお姉さんに仕込まれたから。

俺と早苗さんの体がピンチだったから、ちょっと時間稼ぎになるかなって」

 

直樹はしたり顔でいうが、三晴は無表情のまま直樹を見下ろすだけだった。

 

その後、沈黙が続いた。

 

三晴は吹き飛ばされたダメージや、扱い切れる許容量を超えた技を使った事による疲労で、地面に座っていた。

 

直樹は締め付けられたダメージと、その体でなんども能力を使ったこと、咲希は3回に及ぶ闇の弾の直撃と、直樹が能力を使いすぎたことにより、まったく体が動かなくなっていた。

 

さっきまでは戦いの余韻で喋れてはいたが、一度全員が黙ると、緊張の糸が切れ、なにをすることもできなくなっていた。

 

程なくして、全員、気を失うように眠ってしまった。

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