ハートジャスティス   作:ココリンク

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22話 暑さと人助け

05/01(月)

 

ゴールデンウィークの間の2日間だけの平日。

 

今年は例年よりも5℃暑くなり、学生の誰もが不満を持ちながら登校していた。

 

(暑い……)

 

中学1年生の未来琴野(みらい ことの)もまた、チューリップハットを目深にかぶり、暑さにふらつきながら1人歩いていた。

 

(あれ……なんでこっちだけ?)

 

交差点についた時、いつも行く道だけに遠くに熱気を感じた。

 

琴野は不思議がりながら、かけている眼鏡のツルを上げ、凝視しようとしたが

 

(いいや……)

 

この暑さで考えることを放棄し、遠回りにはなるが別の道へ進むことにした。

 

その動向を、物陰から伺う気配を感じ取りながら。

 

 

 

〜〜〜

 

住宅街にひっそりと建つ定食屋。

 

そこでは、肩甲骨あたりまでにかかるロングヘアーの少女が、机を忙しく拭いている。

 

「泉ちゃん。

ありがとう。はい、これ今日の分」

 

厨房から出てきた女将は、少女──加藤 泉(かとう いずみ)に声を掛けた。

 

「ありがとうございます!」

 

泉は元気よく返事し布巾を定位置に戻すと、女将から弁当箱を貰った。

 

「暑い中、学校大変ね。

でも泉ちゃん。今年も長袖長ズボンなの?」

 

泉はニコりとし頷いた。

 

「そう?

中学生になったんだから、スカートくらい履いたらいいのに」

 

「ずっとこのスタイルなので、しっくりくるんですよ」

 

泉は長袖の制服に、下はジャージを履いている。

 

小学生のときからも夏でも長袖長ズボンだったので、女将さんからも不思議がられているが、泉にとってはこれがしっくりくるようなのだ。

 

「それじゃ、女将さん

行ってきます!」

 

泉は弁当箱を教科書などが入った、薄いトートバッグに入れると、学校へと向かって行った。

 

「いってらっしゃーい!

よかったら帰りもよっといてねー!」

 

「はーーい!!」

 

泉は笑顔で返事をし、その表情を崩さないまま登校する。

 

 

 

その道中

 

「……あ

おばあさーん!」

 

重そうな風呂敷をシルバーカーに敷き詰めたおばあさんが、息を漏らしながら歩いているのが見えた。

 

泉はすぐに近寄り

 

「運びますよ」

 

と風呂敷を手に持った。

 

「あら!

いつも悪いね」

 

おばあさんは泉を見ると、笑顔になり、嬉しそうにした。

 

「いえいえ。

こんなにいっぱい。

今日も集会ですか?」

 

「そうよ。

みんな喜ぶからお菓子いっぱい持ってきちゃった」

 

「無茶しちゃだめですよー。

いつもの場所で大丈夫です?」

 

「ええ。

あ、だけど学校はいいの?

遅刻しない?」

 

「大丈夫です!

走れば間に合います!」

 

泉はおばあさんと話し合いながら、自治会館の前まで辿り着いた。

 

「ここで大丈夫ですか?」

 

泉は風呂敷をシルバーカーに戻した。

 

「ええ、ありがとう。

これ、お礼よ」

 

おばあさんはそう言うと、風呂敷の中から、おまんじゅうを1つ、差し出した。

 

「わっ、いいんですよ。

お礼なんてそんな」

 

泉は口ではそう言うが、目はおまんじゅうに釘付けになっており、手は自然と伸びている。

 

「はい、どうぞ」

 

おばあさんは微笑みながらおまんじゅうを手渡した。

 

「……ありがとうございます」

 

泉は少し頬を赤らめながら、笑顔でお礼を言った。

 

そして、軽くお辞儀をすると、登校を再開した。

 

 

 

「はあ……はあ……」

 

歩いていては間に合わないので、泉は走って向かった。

 

だが交差点を越えたときから、異様な暑さに見舞われ、思うようなスピードが出せない。

 

道の脇には広場があり、水飲み場があるので一旦そこで給水しようかと泉は方向転換した。

 

そのとき

 

「はあ……あれ?」

 

1人の青年がうずくまっているのが見えた。

 

「あのー!

大丈夫ですかー?」

 

困っている人を見過ごせない泉は、すぐに駆け寄る。

 

青年は反応を見せない。

 

「あの……大丈夫…ですか?」

 

泉は尋ねながら、青年の視線の先を見た。

 

泉は思わず息を呑む。

 

カマキリだ。

 

ぺちゃんこになり、死んでいる。

 

「生き物って、脆いんだね」

 

青年は体勢を全く変えず、ひとり口にした。

 

泉は驚き返す言葉が出てこない。

 

「もっと力があれば、もっと強く生きれるのに」

 

青年はそう言うと、振り向き泉を真っ直ぐ見詰めた。

 

「へぇー」

 

青年は泉を舐めるように見ると、立ち上がり、泉を見下ろした。

 

泉は恐怖心を隠すため、笑顔のままでいるが、身体は震えていた。

 

「教えてよ。

この脆い生き物はなに?

どういう生き物なの?」

 

青年は潰れたカマキリを指さして尋ねた。

 

泉はつばを飲み込むと、震える口を開いた。

 

「カ……カマキリって言います。

鎌みたいな腕を使う……昆虫の中では強い……生き物……です」

 

「へえ」

 

青年は感心したような声を出すと

 

「ありがとう」

 

といい、またカマキリの前にうずくまった。

 

泉は引き攣った笑みを浮かべながら、すぐにその場を去った。

 

 

 

 

泉が学校へ着くころにはすでにチャイムが鳴り、1時間目が始まっていた。

 

泉は恐る恐る教室のドアを開ける。

 

クラス中の視線が自分の方へ向き、恥ずかしがりながらも、速やかに一番前の自分の席に座った。

 

「加藤さん。

中休みに職員室に来てくださいね」

 

担任の反町先生もそれだけいい、淡々と授業を再開した。

 

「はい」

 

泉も返事をすると、トートバッグの中から教科書と鉛筆を取り出した。

 

 

 

 

中休み。

 

「おっとっと……」

 

2時間目の理科ではノート提出があった。

 

理科担当の田中先生はノートを持ち上げようとしたが、小柄な田中先生は上手く支えきれず、ノートの山を崩しそうになってしまう。

 

「危ない!」

 

泉が咄嗟に駆け寄り、支えることで間一髪大丈夫だった。

 

「ふう……ありがとうございます。

加藤さん、いつも助かります」

 

「いえいえ。

……あ、運ぶの手伝いますか?」

 

「すみません。

理科準備室ですけど大丈夫です?」

 

「はい!」

 

泉は快く返事をし、ノートの3分の2を持ち、田中先生と一緒に理科準備室へと向かった。

 

 

 

 

理科準備室へ着くと、ビンやフラスコ、資材が入った段ボールが散らかっていた。

 

床には色褪せたプリントが散らばっている。

 

「足元気を付けてくださいね」

 

「はい…!」

 

田中先生は慣れた足取りでプリントの隙間を縫うように歩く。

 

泉は恐る恐る慎重に進み、なんとか確保できた机のスペースにノートを置いた。

 

「ありがとうございます」

 

「いえいえ」

 

泉は思わず辺りを見渡してしまう。

 

もはや理科準備室ではなく、物置というくらい雑多な場所に思わず

 

「あの……もしよければ、片付け手伝いますか?」

 

と提案してしまった。

 

「え…!?

うーーん」

 

田中先生は思わず嬉しそうな顔をするが、葛藤し悩んだ表情をしたが

 

「じゃあ……手伝ってもらおうかな」

 

と少しおどけた感じに言った。

 

「はい!!」

 

泉も笑顔で承諾し、中休みの間中理科準備室の片付けをした。

 

 

 

 

 

昼休み。

 

「失礼します……

反町先生…いますか?」

 

中休みに理科準備室の片付けで、完全に忘れていたお呼び出しを思い出した泉は職員室の扉を恐る恐る開けた。

 

「加藤さん」

 

その瞬間に泉は背後に冷たい視線を感じ、高圧的な声を聞いた。

 

泉は後を振り向くと、そこには反町先生が立っていた。

 

「少し待ってなさい」

 

反町先生はそう言うと、職員室に入った。

 

「はい……」

 

泉は申し訳なさそうな顔をし、扉の前で待った。

 

そこへ

 

「あ、加藤」

 

同じクラスの藤士留李依(ふじし るりえ)が声を掛けた。

 

「なに?」

 

泉は一瞬、視線をそらすがすぐに笑顔で対応した。

 

「田中先生が、加藤にノートのお礼したいから理科準備室に来てって言ってる。

今すぐにって」

 

「え……そ、そうなんだ。

ありがとう……後で、いくね」

 

泉は笑顔を保ちつつ、それでも少し困惑の色を見せながら、留李依に伝えた。

 

だが

 

「いいの? 今すぐって言ってたよ?」

 

留李依は詰るようにそう言う。

 

泉は笑って誤魔化すことしかできない。

 

「あれ?

あーあー、これだと田中先生が」

 

留李依はそこまで言うと少し間を空けてから強調するように

 

「“困っちゃうな”」

 

と言った。

 

泉は困った顔をし、足踏みをすると、意を決して理科準備室へと小走りした。

 

その直後に、反町先生が職員室から出てくる。

 

「あ、反町先生。

今、加藤が逃げました」

 

留李依は反町先生のことを見るなり、泉が向かった方を指さし告げ口した。

 

「はあ!?

なんて出来の悪い!

ありがとうございます。藤士さん。

親があれだからこうなのかしらね」

 

反町先生は文句を垂らしながら、留李依が指差す方へと歩いて行った。

 

留李依はそれを見て、にやりと笑うと

 

「あ、田中先生こんにちは」

 

職員室の前にあるトイレから出てきた田中先生に挨拶をした。

 

 

 

 

昼休みが終わる5分前。

 

泉は理科準備室の前でずっと待っていたが、田中先生が戻って来ないので、留李依に確認を取るために教室へと戻った。

 

留李依は教室の端で、他の女子2人と和になって笑い合っていたが、泉が入った途端、チラチラと視線を送り合いながらヒソヒソと話し始め、また会話を続けた。

 

「あの、留李依…?

田中先生……」

 

泉は留李依に話しかけたが

 

「えー、それどの雑誌?」

 

と構わず会話を続ける。

 

「留李依……!

田中先生のことって!」

 

泉は聞こえなかったと思い、声量を上げたが

 

「そうそう、今流行りのさ」

 

と女子2人との会話を続ける。

 

「ねえ! 留李依!」

 

泉は留李依の肩を後から掴んだが

 

留李依は泉のことを見ることもなくその手を払い除けることもせず、そのまま話し続けた。

 

「留李依…? おーい」

 

泉は肩を揺らしたり、軽く叩いたみるが反応が一切ない。

 

「あ、あと2分で5時間目だ」

 

女子の1人が時計を見て伝えた。

 

「えー、もう向かわなきゃだ」

 

留李依はかったるそうに言うと、泉ごと体の向きを変え、自分の机へと向かった。

 

「うわ」

 

その際、泉は飛ばされ転んでしまったが

 

留李依やその友達は全く泉のことを見ていなかった。

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