ハートジャスティス   作:ココリンク

26 / 34
26話 嫉妬の女

05/02(火)

 

昨日の暑さはどこへやら。

 

むしろ気温は少し冷えるくらいまで下がっていた。

 

 

 

小学校、グラウンド付近の水飲み場

 

「ぷはっ!」

 

毎朝の水遣りを終えた咲希は顔を洗うと、水を手ですくって飲んだ。

 

「本当に具合は大丈夫なの?」

 

「うん!」

 

心配そうに訊く百合に、咲希は元気一杯に答えた。

 

だが、気温は10℃後半くらいなのに咲希の顔は紅潮し、服も汗で張り付いていた。

 

走りまわったり、思い切り遊んだあとに顔を赤くすることはあるが、とくにいつもと変わらない水遣りをしているだけなので、明らかにおかしかった。

 

「さっち、もう一回おでこ」

 

「大丈夫だってー」

 

百合は咲希が熱を出しているではないかと思い、何度かおでこを触っているが

 

「うーーん……熱い…けど、やっぱりお熱のとは違う…」

 

火照ってはいるが、発熱時のものとは少し違う感じなのだ。

 

それに、咲希は体調不良になるとふらついたりだるさが顔に出たりとわかりやすいのだが、今回はそんなこともなく元気一杯だった。

 

「ねー百合ちゃん、中入ろー。

お外暑いよー!」

 

咲希は暑いと言いながら、少し走ると飛び跳ねて昇降口へ行こうと手招きしていた。

 

「あ、さっち待って!

本当に大丈夫ー!?」

 

百合は急いで追い掛けた。

 

 

 

 

 

6-1

 

「おはよ……キム」

 

「おは…………どーしたー?」

 

登校し、親友の翔に挨拶をかわす直樹。

 

翔は直樹を見るなり、不思議そうに訊いた。

 

「どうしたもなにもないよ……

なんでみんな長袖なの?」

 

直樹も汗だくになり、顔を赤くしていた。

 

席に座るなりランドセルをおいて、下敷きを取り出して扇ぐ。

 

直樹を除くクラスメート18人は長袖を着ていたが、直樹は半袖と短パンで、夏の装いだった。

 

「昨日は暑かったけど、今日は少し寒いよー。

なのになんで夏みたいな格好なのー?」

 

翔は不思議そうに見つめながら訊く。

 

「寒いなんて嘘でしょ……

あ、でもののみは暑くないって言ってた……」

 

「熱あるー?

保健室いくー?」

 

「ないとは思うけど……

え、キムは暑くないの?」

 

「暑かったら重ね着してないよー」

 

翔はそう言いながら、下に着るTシャツをちらりと見せた。

 

直樹は納得いかないような顔をしたが、一応念の為と思い

 

「一応、保健室行ってこようかな」

 

と立ち上がった。

 

「僕も付き添うよー。

暇だしー」

 

「ありがとう」

 

翔も立ち上がり、直樹に付いていく。

 

少し休んだからか、直樹の足取りは悪くない。

 

階段を降り、保健室のある1階へ辿り着いたそのとき

 

「な・お・き・君!」

 

直樹が一番聞きたくない声が聞こえた。

 

「げ……」 「あ」

 

直樹は嫌そうな顔と声をし、翔は何かを察して遠ざかろうとするが

 

直樹は翔の肩をがっしり掴み、助けを求めるような必死の顔を向けた。

 

同時に翔は嫌そうな顔をしたが

 

「もーう、こんなところで会うなんて!!

もしかして、う・ん・め・い??」

 

その声の主、杏奈は乙女のようなとろけた顔で、直樹の肩を掴み、耳元で囁くように言った。

 

直樹はゾワゾワする気持ち悪さを感じ、変な暑さのせいか一気に具合が悪くなった。

 

「あれー? 直樹君、体暑くなーい?」

 

杏奈はそう言いながら、直樹を引っ張り翔から離した。

 

そして後から抱き着くようにして、また耳元で囁く。

 

「もしかして熱? あ、じゃあ、あ・ん・な・が

なおきのこと、お世話してあげちゃおうかなぁ?」

 

直樹は更に吐き気が強くなり、顔を白くさせた。

 

「残念だけどお嬢さん

もう予約済みだよー」

 

さすがに見兼ねた翔は、直樹の腕を引っ張って護るように自分の体に寄せた。

 

「は? 誰?

杏奈の邪魔しないで。

キモいんだけど」

 

杏奈はさっきまでの表情とは反対に険しい顔になる。

 

「そっちこそ邪魔しないでー。

なおきに少し良くしてもらっただけで付き纏うのも十分キモいよー。

それだから皆から嫌われるんだよー」

 

翔は表情一つ変えずに辛辣な事を言う。

 

「……は?」

 

杏奈は急な悪口に一瞬、思考が停止した。

 

「なおきー、今のうちにー」

 

翔は直樹に耳打ちした。

 

「ありがとう」

 

直樹は翔にお礼を言うと、壁をつたりながら保健室へと歩いて行った。

 

杏奈は徐々に青筋を立てて行くが、直樹が離れていくのを見ると、

 

「あ!! 直樹君! どこいくのー!?」

 

と甲高い声で叫びながら追いかけようとしたが

 

翔は裏向きになった写真を杏奈の前にかざした。

 

「そーだー

今日間違えて、ナオキの寝顔スナップ持ってきてるんだったー」

 

翔はわざとらしい口調で呟く。

 

「……え?」

 

杏奈は動きを止め

 

「そ、それ?

本当なの?」

 

探るように訊いた。

 

「どーだろねー」

 

翔はその写真をポケットに仕舞おうとしたが

 

「あーもー!!

よこしなさい!!」

 

杏奈は貴重な写真を手に入れようと、翔へと飛び掛かって行った。

 

 

 

 

 

保健室

 

「失礼します…」

 

直樹は角を1つ曲がり、やっとの思いで保健室の前まで辿り着き、ノックして扉を開けた。

 

「あ」 「あ! 小林さんだー!」

 

そこには咲希と百合が先客として座っていた。

 

百合は直樹を見るなり、きまりの悪そうな顔をして度々睨み付ける。

 

逆に咲希は入れ替わりの一件で仲良くなったと思ったのか、無邪気に手を振って迎えた。

 

あの後、心配になった百合は咲希を連れてきていたのだった。

 

「あら。

あなたもですか」

 

保健室の優しい先生──大久保先生は驚いた顔で直樹を見た。

 

(あなた“も”?)

 

直樹は大久保先生の言い方が気になり、咲希と百合を見ようとしたが

 

すぐに視線に気付いた百合は、咲希に体を寄せ、直樹を鋭く睨み付けた。

 

(やっぱりだめか……)

 

直樹は気まずそうに視線をそらした。

 

入れ替わりの一件のときから百合からは、“咲希を危ない目に合わせる人”として危険視されていた。

 

直樹は咲希に、その後の姉兄の反応はどうなのか、闇の人間に巻き込まれていないのか訊こうとしたが叶わなさそうだった。

 

ただ、保健室に入ったときの反応を見るに、元気そうだったのでひとまずは安心だった。

 

「先生……さっちは?」

 

百合は身を乗り出し、大久保先生に咲希の状態を訊く。

 

「うーーん、こればかりは分からないですね……」

 

「分からないじゃ困ります!!」

 

お手上げな大久保先生に、百合は立ち上がり大きく叫んだ。

 

「百合ちゃん、しーっだよ」

 

咲希はびっくりしたあと、急に大声を出した百合に注意したが

 

「さっちもなんでそんな平気そうな顔してるの?

今日ちょっと冷えるのに、暑いって変だよ!

なにか病気になったんじゃ……!

ほらさっち、この前も怪我してたよね!?

そのときに感染菌が入ってそのまま

 

百合は咲希を心配しすぎるあまり、気持ちが昂り喚くようにまくしたてる。

 

「不来方さん…落ち着いて

 

大久保先生は止めようとするが

 

「落ち着いてなんか要られませんよ!!

分からないなら病院に連れ行かせます!!」

 

と聞く耳を持たない。

 

(これが花奈さんの言ってた、百合ちゃんの暴走モード……)

 

扉を開けてまだ中に入れてない直樹は、咲希の体になっていたときに、花奈からもらった情報を思い出し、実際の姿に圧倒されていた。

 

「さっち!!

今日って花奈ちゃんと空良くんって

 

百合は咲希の肩を掴み、迎えに来れる人がいないか訊こうしたが

 

「うるさーい!」

 

咲希は大きく叫びながら、百合の手を離した。

 

「…さっち……?」

 

「大丈夫だから大丈夫なの!!」

 

困惑する百合に、咲希は怒ると立ち上がり、そして

 

「いこ! 小林さん!!」

 

「……え?」

 

直樹の腕を掴んで、保健室を出ていった。

 

「さっち……?」

 

百合は怒られたショックで固まってしまったが

 

「……!!

待ってさっち!!」

 

危険視している人と一緒に出て行ったと少し遅れて理解すると、すぐに追い掛けて行った。

 

「……お大事に…………」

 

残された大久保先生は急展開に理解が追い付かず、呆然と入口を眺めるだけだった。

 

 

 

 

「待って、早苗さん!」

 

「やだ!!」

 

状況を飲み込めていない直樹は、咲希を呼び止めようとするが、咲希はムキになっていて歩みを止めない。

 

「ちょ、まっ!

ほんとに待って!

そこ曲がっちゃ」

 

保健室は、階段につながる廊下から一つ曲がったとこにある。

 

直樹の声も虚しく、咲希は直樹を引っ張って曲がり角を曲がってしまい、そして

 

「あ!! 直樹……君…」

 

翔と組み合いになっている杏奈に、その姿を見られてしまった。

 

杏奈は翔を突き飛ばすと、今まで見たこともないほど恐ろしく嫉妬に歪んだ顔をして、足音を立てて近付いてくる。

 

尻もちをついた翔は、蔑むような顔をして直樹を見ていた。

 

「キム!! え、いや、違くて!!

早苗さん止まって……!

いや、離して!」

 

「やだ!!」

 

直樹はあらぬ誤解をいち早く取り消すように、咲希にお願いをするが、やっぱり咲希は腕を離さなかった。

 

杏奈はまっすぐ近付いてくる。

 

(やばいやばい、どうしよう

闇の人間よりこわい……)

 

直樹はなにか言われるのではないかと思い、びくびくする。

 

今すぐにでも逃げ出したかったが、ムキになった咲希は意外と力強く、引っ張られるしかなかった。

 

そして、杏奈は目の前に来ると

 

無言で咲希の顔面を殴った。

 

「……ッ!?

早苗さん!?」

 

直樹は咲希を受け止め、心配して顔を覗き込む。

 

光パワーによって体が丈夫になっているので、少し鼻先が赤くなっている程度で済んだが、急に殴り倒されたことに咲希は目を丸くし困惑している。

 

「どいて直樹君」

 

杏奈は冷たい声でそう言いながら、直樹を咲希から引き剥がし、咲希を床に押し倒した。

 

「うっ…!」

 

そして、杏奈は咲希に馬乗りになると、拳を振り上げ

 

「この阿婆擦れぶりっ子」

 

とキツく睨みながら拳を振り下ろした。

 

「……さっち…!!?」

 

その瞬間、曲がり角から追い掛けてきた百合が、血相を変えて走るが、間に合わない。

 

「やめろ!!!」

 

直樹は咄嗟に能力の光の球を出し、それで拳を受け止めた。

 

 

 

 

「ゔっ…!!」

 

光の球と直樹の感覚は共有されている。

 

杏奈の拳の威力はかなり強く、球を凹ませた。

 

咄嗟だったため、受け止める場所を考えておらず、その衝撃は直樹の頭部にフィードバックされ、頭を揺らし、意識が飛びそうになる。

 

「さっち!!」

 

百合は杏奈を突き飛ばそうと両手を伸ばしながら、向かうが

 

「ゔっ…」

 

無言でいなされるように腹部を殴打され、込み上げる吐き気と、痛みのショックで、力なく倒れてしまった。

 

(これ以上……アイツに、迷惑なことさせるか……)

 

直樹はなんとか耐え、まっすぐ球を見詰めると、力を振り絞り

 

「カーペット!!」

 

と叫んだ。

 

すると、光の球は一瞬にして幕のように広がり、杏奈の目の前を遮った。

 

「なおき…?」

 

見ていることしかできない翔は、急に現れ、直樹の叫びに呼応するように変化する光の球に、困惑し、同時に見惚れた。

 

「なによ……これ!!」

 

杏奈は邪魔をする光のカーペットに、当たり散らすようにして思い切り殴り付けた。

 

「ぐっ……!

う……うあああああ!!!」

 

直樹はフィードバックされる痛みに耐えながら、力を込めながら光のカーペットを動かし、

 

「な……なに…!?」

 

杏奈を包み込み、咲希から降ろした。

 

「キム!

ごめん!! 任せた!!」

 

「えー!?」

 

そして、杏奈を包み込みだカーペットを翔へと飛ばすと

 

「早苗さん!!」

 

怯えて動けない咲希を起き上がらせ、背中に手を添えながら、急いで逃げて行った。

 

「ちょ……なおきー!!

浮気者!!」

 

翔は暴れ回るカーペットを押さえながら、逃げていく直樹に悪態を吐いた。

 

その瞬間、直樹から離れすぎたためかカーペットが消滅し、杏奈は解放された。

 

「くそチビが…!!」

 

「うっ…!」

 

杏奈はそうそうに翔を突き飛ばすと、手から離れた写真を拾い上げ、見詰めた。

 

期待に満ちた表情をしていたが、写真面を見ると、目の色を変え、ビリビリに破り捨てる。

 

「死ね」

 

杏奈は翔にそう言い捨てると、直樹を探して走り出した。

 

(ああ……写真がー…………)

 

翔は杏奈が視界から外れると、物惜しそうに急いでしゃの切れ端を拾い集めた。

 

それは翔のおじさんの家のうさぎの写真だった。

 

名は“ナオキ”というらしい。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。