ハートジャスティス   作:ココリンク

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27話 言葉の刃

直樹はとにかく一心不乱に走り、昇降口から一旦校舎を出て人気のない倉庫の影に隠れた。

 

壁の影から、杏奈が追い掛けていないか確認する。

 

(今は大丈夫だけど……いつ見つかるかわからないな……

というか、授業だから戻らなきゃだし……

…………あれ、ていうか早苗さんと森井って同じクラスじゃ)

 

直樹はこれからどうしようか考える中、とりあえず授業のために教室に戻る必要はあると考えたが、そうなると、咲希を杏奈がいるところに届けなきゃならない。

 

誤解をしている杏奈は今、咲希をなにするか分からない。

 

もしかしたら殺すこともあるかもしれない。

 

直樹はそう不安に思いながら咲希を見た。

 

その瞬間

 

「うわあーーーーーーん!!」

 

咲希は直樹に抱き着き、大号泣。

 

辺り一面響く声で泣き始めた。

 

「え……ちょ、早苗さん……!?」

 

直樹は突然抱き着かれたことや、隠れているのに大声を出されていることに驚き困惑したが

 

「よ……よしよし

怖かったね……もう…大丈夫だよ」

 

いつもの乃々実の対応のクセで、頭を撫で背中をトントン叩き、落ち着かせようとした。

 

(早苗さん……彼氏いるんだよな……

こんなとこ誰かに見られたら)

 

直樹はそう思いながらも、泣いている子をあやすには平常心が大切と、母親に教わっていたため、慌てず騒がず、宥めた。

 

「おい」

 

「わっ!!?」

 

「わあ!!!??」

 

その瞬間、声を掛けられ、直樹は驚いて思わず大声を出し、咲希は直樹の大声に驚いて、叫び、直樹の後ろに隠れた。

 

「って、刀根さんか。

びっくりさせないでよ!」

 

直樹は恐る恐る声の方を見ると、三晴が呆れた顔で立っていた。

 

直樹や咲希と同じく、汗だくになっている。

 

杏奈かと思った直樹は、八つ当たりのように三晴へ言った。

 

「…………なにしてるんだ?」

 

三晴はじっと2人の様子を見ると呆れた口調で言った。

 

「そ……それは、色々。

ていうか、刀根さんこそ、こんなところでなにしてるの?」

 

直樹は説明しようとしたが、いろんな事情が絡み合ってめんどくさいことになっていたのではぐらかし、なぜ学校の敷地内の隅の方にいたかを尋ねた。

 

「少し気になることがあってな。

お前らを探してた」

 

「俺らを?」

 

「ああ。

こんな暑さなのに、街ゆく人はみんな春先のような格好だからな。

もしかしたら、また闇の人間が悪さしてるんじゃないかと思ってみたら、そんな感じらしいな」

 

「……確かに。

俺達、能力者……って言い方でいいのかな?

まあ、俺と早苗さんだけ暑いって言ってた」

 

「あたりだな。

山の上のどっかから熱気を送ってるんだろ。

この辺じゃ、月詠山か、中学の近くにある公園だろ。

……お前らはくれぐれも来るなよ」

 

「分かってるって。

あ、そうだ刀根さん。

1つ伝えとかなきゃいけないことあったんだ」

 

「……?

なんだ」

 

「あのね」

 

直樹が話し始めようとした瞬間

 

「見付けた」

 

身の毛もよだつ声がした。

 

3人ともその声に慄き、ビクリと肩を上げ一斉に振り向いた。

 

「なにしてるの? 直樹君。

誰もその女たち? 駆け落ち?

穢らわしいわ」

 

杏奈がこの世のものとも思えない酷く歪んだ形相で、3人を見詰めていた。

 

流石の三晴も、この間の一件があり恐怖を覚えて思わず後退りする。

 

咲希は直樹の腕にしがみつき、震えている。

 

「やめろ! 森井!!

2人とはそんな関係じゃない!」

 

直樹は勇気を振り絞り、杏奈を説得しようとするが

 

「そんなの関係ないわよ!!

直樹君を穢す奴は杏奈が消す!!」

 

と言いながら、後ろ手で隠していた包丁を取り出した。

 

直樹と三晴は、思わぬ凶器に闇の人間との戦い──いや、それ以上の緊張が走った。

 

(あんなのどこから……!?)

 

直樹は、調理実習のときに見覚えのある包丁だったので、家庭科室から持ってきたのだろうとも思ったが、それにしては手際がよく、杏奈の狂気に戦慄した。

 

(どうしよう…これじゃあ、さっきのが使えない……

ていうか、光パワーの攻撃はお互い食らわないって言ってたけど、技以外は普通に痛いじゃん!)

 

直樹はさっきみたいにカーペットでやりきろうとしたが、流石に光の球越しに刺されたら命の保証はないだろう。

 

それに、三晴からは光パワーの技は光の人間には効かないと聞かされており、普通の人の攻撃も無効化できると思っていたが、杏奈の殴打は普通に効いていたので、さっき以上の恐怖心もあった。

 

直樹が考えていると、そのわきから咲希が顔を出し、杏奈の包丁を見た瞬間

 

「きゃあああああああ!!!!」

 

思わず叫んでしまった。

 

「うるせえな!!」

 

その悲鳴は杏奈を刺激してしまう。

 

包丁を構えて、突進してくる。

 

「うわっ!」

 

直樹は驚きへっぴり腰になりながらも、咲希を護るようにして立ち塞がった。

 

そして、その前に、三晴が毅然とした表情で立った。

 

「刀根さん…!

危ないよ!」

 

直樹が心配するのも束の間

 

三晴は無言で足を大きく振り上げ、杏奈の持つ包丁を蹴り上げる。

 

その勢いで包丁は杏奈の手から離れ、上空に大きく飛んで行った。

 

「いっ……!!

この不潔女がァ…!!」

 

杏奈は一瞬、動きを止めたが、すぐに腕を引き、三晴に殴りかかった。

 

三晴は拳を受け流し、腕を絡めて杏奈の動きを封じた。

 

「すごい……」

 

流れるような動きに直樹は思わず感嘆の声をあげる。

 

「お前、この間“危険な目にあわせるな”って言ったな。

お前のような奴が一番危険なんだよ」

 

三晴はそう言うと杏奈を押し倒す。

 

ちょうどその瞬間、包丁が三晴の手元まで落ち、杏奈の喉元に当てた。

 

「さっさと去れ」

 

三晴は冷たい声で脅すように言う。

 

だが、杏奈は怯える様子を見せない。

 

「ふ……はは………ふははははは!!」

 

急に笑い出したと思ったら、右手を上げ、喉元の包丁の刃の部分を握りしめた。

 

「……ッ!?」

 

思いもよらぬ行動に三晴は驚く。

 

杏奈の右掌が切られ、血が垂れている。

 

「はははははは!!!」

 

だが、そんなのお構いなしにと、杏奈は笑いながら包丁を押し返している。

 

「え……!?

あ、早苗さん、だめ!」

 

「わっ…! なに…!?」

 

直樹も困惑し、見させちゃだめなものだと思い、咲希の目を手で覆った。

 

 

杏奈の力は更に強くなり、三晴の手を徐々に押し返している。

 

(なんだ……コイツ……?

痛くないのか…?)

 

三晴は勢い余って、杏奈を刺さないように力配分を考えながら抵抗する。

 

内心では杏奈の狂気に恐怖したが、戦いの経験から一瞬の恐怖は命取りだということを理解しているので、顔には出さない。

 

「強いのね、ヤンキー。

ねえ、アンタってさ、お姉さんがいたんでしょ?」

 

杏奈は三晴を見ながら、素敵な笑みを浮かべる。

 

三晴は急に引き合いに出された姉に困惑しつつ、睨みつけながら無言でいた。

 

「杏奈ね。調べたの。

アンタのお姉さんもさ、よく怪我してたんだってね!

包帯巻いて、遅刻してたときもあったっていうんじゃない!!」

 

「……ッ!?

(なんでそれを…?)」

 

姉が戦っていたことは他の人には言っていない。

 

だが、杏奈は断片的にそのヒントになる情報を掴んでいた。

 

その困惑に一瞬、力が抜けてしまう。

 

その瞬間

 

「あっ…!!

(しまった…!)」

 

杏奈は素早く、三晴の手から包丁を引き抜いた。

 

「刀根さん!?」

 

直樹はなにがあってもいいように、光の球を出す。

 

杏奈は包丁を構えると、すぐに向かってくることはなく三晴を見詰めた。

 

「アンタの姉と同い年のバカ兄がいるの!

……あ、ごめんね! アンタのお姉ちゃん、死んでるんだ!

だから同い年“だった”だ!」

 

三晴は嫌味な言い方に青筋を立てるが、さっきの反省で体勢を崩さない。

 

「轢かれて死んじゃうなんてかわいそうに……。

……なんて、言うと思った?

バカ兄も言ってたけど、アンタの姉もどうせヤンキーだったんでしょ?

そんな街の害虫、駆除されて当然。

だからアンタも駆除されて当然なのよ!」

 

そう言うと杏奈は、包丁を向け三晴に迫った。

 

三晴は構えを崩さなかったが、杏奈に向けたその目は

 

「ゔッ……」

 

闇の人間に向けるときと同じだった。

 

「……!?

刀根さ……!

あ、早苗さん!! ごめん! ちょっとだけごめん!!」

 

目の前の光景を見た直樹は、能力の球を咲希の目と耳に被せると三晴の下へ駆けた。

 

「はあ……はあ……はあ……」

 

三晴は息を荒げ、1歩、2歩と後退りする。

 

包丁が音を立てて地面に落ち、血に染まった手をにぎりしめ、隣に来た直樹に目を向けた。

 

「大丈夫!?」

 

直樹は心配そうな顔を向け、倒れる体を支えた。

 

「森井!!」

 

杏奈の体を。

 

 

最愛の姉を馬鹿にされた三晴は、胸を突き刺そうとした杏奈の手からいとも容易く包丁を引き抜き、そのまま向きを返して、杏奈の胸を刺し貫き、抉って引き抜いたのだ。

 

いつも闇の人間相手に取っている方法。

 

闇の人間の中心核もちょうど、普通の人の心臓の位置にあった。

 

 

「森井!! 森井!!」

 

直樹は杏奈に呼び掛ける。

 

「……直樹……君」

 

杏奈は口から血を垂らし、儚げな顔で直樹を見詰めた。

 

「さいごに……なおき……くんの…うでのなかに……またいれて……しあ……わ…………せ……」

 

そこまで言うと、杏奈は何も言わなくなった。

 

「森井ー!! 森井ー!!」

 

始まりは些細なこと。

 

杏奈が階段から落ちかけたとき、直樹が支え、心配してくれたことがきっかけだった。

 

ませた性格で嫌われていることを悩んでいた杏奈に、優しい言葉をかけてくれた直樹を好きになっていたのだった。

 

 

 

 

「に……にじねえちゃん……

わたし……わたし…………どうしよう……」

 

三晴はパニックに陥っていた。

 

いつものクールなところはまるでなく、身を縮め、小さな子どものようにオドオドしている。

 

怒りに任せた無意識の行動だったが、返り血がそのときの感覚を思い返させた。

 

闇の人間の粒子体とはまるで違う肉の塊。

 

それを抉る生々しく、してはいけないことを体が止めているのではないかと思うくらいの不快感と吐き気。

 

そして、生きているを否定されるかのような罪悪感。

 

「う……うあああああああ!!!!」

 

三晴は能力の刀を出し、振り回し、暴れ始めた。

 

「……刀根さん!!」

 

直樹は様子のおかしい三晴を見ると、杏奈を地面に寝かし、三晴を押さえつけた。

 

「落ち着いて!!

わざとじゃないんでしょ!!

大丈夫!! 大丈夫だから!!」

 

「だいじょうぶなはずない!!

ひとをころしたの!!」

 

三晴は体をよじり、直樹を放すと、涙目で小さい子どものような口調で叫んだ。

 

「そ……それは……

わざとじゃないんだし……!

刀根さんも……その……殺されそうになったんだよ!

だから……その……えっと……正当防衛に

 

「ひとのいのちはそんなにかるくないもん!」

 

直樹は言葉を選びながら三晴を落ち着かせようとするが、三晴の叫びに一蹴される。

 

直樹は三晴を見詰めたまま、なにか言おうと考えたが、なにも言えず、目もそむけてしまう。

 

三晴も目をそむけ、直樹に背中を向け、涙を拭った。

 

「すまない。

取り乱した」

 

小さい声で言うと、力なくとぼとぼと歩いて行った。

 

直樹は何か声を掛けたかったが、なにも言えず、ただ背中を見送るだけだった。

 

 

 

 

直樹が三晴に伝えたかったこと。

 

それは、闇の人間関係のことを“覚醒者以外に伝えても忘れてしまうのとだった”。

 

入れ替わりの能力を持つ、闇の人間を倒してから、その日の夜、母親に自分が人と違う能力を持つこと、闇の人間と戦っていることを話した。

 

厳格な父親の帰りも待ち家族会議となったが、夜も遅くなったので、翌日に回したが、翌朝になると、母親の様子はいつもと変わっていない。

 

それとなくヒントとなることも話してみたが、まるでピンと来ていない様子。

 

気を遣われているのではないかと思い、父親にも話したが、冗談を言わない父親でさえも知らないという始末。

 

それに、咲希が百合や姉兄と話しているとき、能力のことをいつも忘れられていることに怒っている様子がよく見られた。

 

最初に森の奥のログハウスに行ったとき三晴に説明を受けたこと。

 

“灰色の世界にされた場所は、人々にないものとして扱われ、灰色の世界を3日以内に戻さないと、光の戦士でさえも存在を認識できなくなる”

 

直樹はそれを思い出し、少し似ていると感じた。

 

それが単なる偶然なのか、なにか関係しているのか分からなかったので、相談しようとしていたのだ。

 

 

 

だが、そんなことは直樹の頭から吹き飛んでしまった。

 

暑さの謎も、記憶のことも、クラスメイトの刺殺のショックが掻き消してしまった。

 

直樹はあれから自分がどうしたのか覚えていなかった。

 

 

 

 

 

 

 

5/8(月)

 

「じゃあ、女将さん!

行ってきます!」

 

定食屋さんの手伝いを終えた泉は、教科書を入れたトートバッグを手に持った。

 

「いってらっしゃい!

あ、これ、水筒」

 

「ありがとうございます!

もう……通学路に公園とか水飲み場がないから困りますよ」

 

「ほんとね。

作ったらいいのにね」

 

「ですねー!

……あ、もうこんな時間! 行ってきます!」

 

何気ない“いつもの会話”をした泉は、通学路を駆けていった。

 

 

 

 

 

小学校

 

「よっ! しん!!

おはよう!」

 

「……?

おお! アッキー!! 怪我はいいのか?」

 

「ああ! もう万全だ!」

 

入院していた明人がようやく復帰。

 

クラスは違うが親友の橋本真也(はしもと しんや)に声を掛けた。

 

「早苗さんが泣いてたぞー」

 

「そんな寂しがり屋じゃねえよ」

 

「はは。 バレた?

でも、あれだぞ、2組は元々1人少ないんだし、アッキーと不来方さんの掛け合いもないから少し寂しい感じだったんじゃねえのか?」

 

「不来方は関係ねえだろ」

 

「どうかな?

そんじゃ、また」

 

「おう!」

 

それぞれの教室に着き、2人はそれぞれの教室に入る。

 

明人や咲希たちのクラス──6-2はいつも通り18人の賑やかな空気が流れていた。

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