05/19(金)
早苗家
朝の5時。
日が昇り、子供部屋のカーテンの隙間から光が射し込む。
ベッドで、大きいクマのぬいぐるみを抱きながら寝る咲希の頭を、1人の綺麗な女性が撫でた。
「咲希。
おはよう。誕生日おめでとう」
優しく穏やかな声で誕生日を祝うのは、咲希の母親。
仕事が忙しく、いつも咲希が寝たあとに帰宅し、咲希が起きる前に出勤してしまい、休みの日も疲れて寝ているので、普段はお互いに寝顔しか見ることができない。
それでも、母親は花奈と空良から咲希の話を訊くのが好きで、咲希も綺麗でかわいい母親が好きだった。
母親はいつもの倍くらいに、咲希を撫でると、机の上に小さなプレゼント箱を置いて、子供部屋を後にした。
6時過ぎ
「おはよ……花奈ちゃん」
咲希が眠そうに目をこすりながら、リビングに出てきた。
「おはよ! 咲希!!
誕生日おめでとう!」
花奈は料理の手を止めずに、咲希の方を見ながらお祝いした。
「……うん」
だが、寝惚けている咲希は頷くだけ
「顔洗ってきな」
花奈の優しい微笑み、咲希はコクリと頷くと洗面所へと向かって行った。
コクリとコクリと首を落としながら、洗面台に立ち蛇口を捻ろうと手を伸ばした。
が、手をかけただけでそこから動かなくなり、半開きだった瞼がゆっくりと、下がっていき
そして
「……ッ!!?
咲希!?」
洗面所から鈍い音がし、花奈は慌ててコンロの火を止めて、洗面所へ向かう。
「いたい……」
そこでは咲希が涙目になりながら、おでこを抑えていた。
眠気に勝てずに、力が抜け洗面台にぶつけてしまったようだ。
「咲希大丈夫!?」
花奈は急いで咲希の前髪を上げて、おでこを確認する。
腫れていたり血は出ていたりはしていない。
「花奈ちゃん……いたい……」
咲希は花奈に抱き着くと、花奈の温かい体におでこを当てた。
「痛いの痛いの飛んでけー」
花奈は優しく微笑み、咲希の顔を上げて優しくおでこを撫でた。
咲希は嬉しそうな顔をすると、顔を花奈の体に埋め
「もう1回」
と甘えた。
「痛いの痛いの飛んでけー」
花奈はまたおでこを優しく撫でる。
咲希は嬉しそうに笑うと
「花奈ちゃん!!」
と呼び掛けながら、ギュッとハグをした。
花奈は咲希の背中を優しく撫でる。
「今日が楽しみで昨日眠らなかった?」
「うん!!
だって、はじめて明人も一緒のお誕生日会だもん!!
たのしみ!!」
すっかり目覚めたのか、咲希は目を輝かせながら嬉しそうに言う。
「そうだね!
明人くん、何好きかな?」
「からあげ好きだって!」
「からあげかー
うん! 準備しておくね!」
「わーい!!」
「あ、それと咲希。
今年は怪我しないようにしないとね」
「うん!!
気を付ける!
あ、でもでも! 怪我してもお手々で治せるから大丈夫だもん!!」
「…………
怪我しないのが1番だからね。
さ、朝ごはん食べよ!
今日はオムライスだよ!」
「やったー!!
オムライス!!
オムライス!! オムライス!!」
咲希は元気よく飛び跳ねながら、テーブルへと向かった。
花奈は微笑みながら、料理を再開した。
「花奈ちゃん!
花奈ちゃん!!」
朝ご飯を終え、咲希が部屋にランドセルを取りに行くと、机の上のプレゼント箱に気付き、嬉しそうにリビングに走ってきた。
「見てみて!!
ママから!!
なんだろう!? 開けていいかな!?」
咲希は興奮した様子で、プレゼント箱を眺める。
(かわいい……!
写真撮りたい)
花奈はそんな咲希の姿に、思わず口元を押さえメロメロになっていた。
「……?
花奈ちゃん?」
「……!
開けてみな!
何が入ってるかな?」
首を傾げる咲希に、花奈は正気に戻った。
「わーい!!」
咲希は箱を開け、中身を取り出した。
「わー!!
ひまわりだー!!!」
中はデフォルメ調のひまわりの髪留めだった。
「花奈ちゃん!!
つけてつけて!!」
咲希は嬉しそうに花奈に、髪留めを渡した。
「いいよー
ちょっと待ってて」
花奈は微笑みながら、すでについている赤い花の髪留めの隣に、ひまわりの髪留めを付けた。
「かわいい?」
咲希は上目遣いで尋ねた。
「うん! かわいい!!」
「やったー!!
明人にも見せなきゃ!!
明人、ひまわり好きだもん!!」
花奈の答えに、咲希は飛び跳ねて喜ぶ。
「よかった!
(流石ママ、覚えてたんだ)
さ、後は帰ってきてからね」
「うん!!」
咲希は頷くと、ランドセルを背負い、玄関へ向かった。
「……あ、そうだ。
ごめんね、咲希。
今日ちょっとお迎え遅くなりそうだから、お花畑で百合ちゃんか、明人くんかと待てる?」
咲希が靴を履いている最中、花奈は今日の予定を思い出した。
「うん!!
明人と待ってる!!」
咲希はプレゼントが嬉しかったようで、あまり気にしてない様子だった。
「ありがとう。
それじゃ、いってらっしゃい!」
「いってきまーす!!」
咲希は元気よくドアを開け、登校して行った。
「……やばい!
遅刻し……
おい、姉貴……咲希は?」
その直後、寝過ごした空良が慌てて飛び出してきた。
「残念でした」
「うそ……夕方までお預けかよー!!」
「百合ちゃん!
おはよー!!」
咲希が外に出ると、直ぐ側に百合が待っていた。
「さっち!
おは」
百合は嬉しそうに挨拶しようとしたが、咲希の髪留めに気付き、言葉を詰まらせた。
(ひまわり……多分、お母様の誕生日プレゼント?
もしかして、あの人意識!?
いや、たしかにもうさっちのお付き合いは家族公認だけど……
なんか複雑……)
「百合ちゃん、どうしたの?」
「……はっ…!?
な……なんでもないよ!
おはよう、さっち!
誕生日おめでとう!!」
「ありがとう!!
あ! ねえねえ、見てみて百合ちゃん!
ママから貰ったの!!」
嬉々として髪留めを見せる咲希。
百合は恋のライバルの明人を思わせるような、ひまわりの髪留めにいい印象を持てず、どう返したらいいか分からなかったが、何も言わないのも嫌なので
「いいね!
似合ってるよ」
と無難に返した。
「でしょー!
明人にも見せるんだ!」
咲希は嬉しそうな顔をしながら、歩き始める。
百合は後でムッとした表情をし、辺りを見渡した。
いつも、花やりのために、早くでているため人通りは殆ど無い。
今も見える範囲には2人だけだった。
「さっち」
百合は咲希を呼び掛けながら肩を軽く叩き、隣に並んだ。
「なあに?」
咲希が立ち止まって上目遣いで尋ねると
百合はしゃがんで咲希の頬にキスをした。
「さっち。
私のことも好き?」
驚いて目を丸くする咲希に、百合は微笑みながら尋ねた。
「…?
大好きだよ」
咲希は首を傾げると、当たり前のことのように言い
「百合ちゃん!
大好き!!」
百合にハグをすると、お返しのキスを頬にした。
「…………ありがとう」
百合は安心したような顔をすると、咲希の頭を優しく撫で、立ち上がり、咲希と手を繋いだ。
「うん!!
百合ちゃんのちゅー、久しぶり!!
ねえねえ、学校着いたらもう1回やって!!」
咲希は嬉しかったようで、繋いだ手をブンブン振り回す。
「さっち、声大きい…!
誰もいなかったらね」
「はーーい!!」
百合の注意を聞いているのかいないのか、興奮しっぱなしの咲希は、大きく返事した。