ハートジャスティス   作:ココリンク

31 / 34
31話 仲が裂ける

学校

 

咲希と百合は、花壇にて水やりと、雑草抜きを終え、ジョウロを戻し、校舎に向かっていた。

 

「なんで、今日も塾なんだろう。

しかもテストだから休んだら、親に怒られるし。

なんで今日に限ってなんだろう」

 

百合は残念そうに呟く。

 

「明人といるから大丈夫だよー!」

 

元気に答える咲希に、百合はまたムッとする。

 

「心配。最近怪我することなくなってきてるけど。

でも、去年みたいに怪我しないでよね。

誕生日になると、いつもより、はしゃいじゃうんだから」

 

「はーーい!!

あ、でも怪我してもお手々ですぐ治るから大丈夫!!」

 

咲希は右掌を百合に見せた。

 

咲希としては能力のことを言っていたのだが、百合は咲希の手を見ると、震え出し

 

「そんなこと言って。

去年みたいなことになったらどうするの?」

 

と詰るように訊いた。

 

咲希は去年、誕生日の朝、クラスメイトといざこざがあり、右掌をハサミで切り、教室の扉に頭をぶつけ、早退していた。

 

その後はなんともなかったのだが、百合にとって嫌な記憶としてこびりついており、可能だったら、朝から晩まで見張っておきたかった。

 

だが、塾にいかなければならず、咲希と離れるタイミングができてしまい、その間は明人に任せるしかなく、百合は不安と苛立ちでいっぱいなのだ。

 

「大丈夫!!

百合ちゃんもみたでしょ!

わたし、お手々からお花のタネだせるの!

そのタネを

 

「なにそんなおとぎ話みたいなこと言ってるの!?」

 

咲希の言葉を遮り、百合はしゃがんで咲希の肩を掴んで真剣な顔をする。

 

「ねえさっち!

はしゃぐ気持ちはよくわかるよ!

誕生日だもんね。

プレゼント貰ったり、夜にパーティーがあったり、嬉しいのはよくわかる。

……でも、怪我したら楽しめないんだよ!!

お手々からお花のタネってなに?

最近さっちおかしいよ!?

マジックかなにか知らないけど、もっと真剣に考えて!!」

 

「うるさーーい!!」

 

百合の必死の訴えに、咲希は大きく叫んだ。

 

頬を膨らませて、涙目になる。

 

百合は驚き、目を丸くしたが、また真剣な表情をすると、咲希右手を掴んだ。

 

「うるさいってなに…?

ねえ!! うるさいってなに!!?

なんで最近そうなの!?

私、ずっとさっちのこと心配していってるのに!?

それなのに、さっち、うるさいうるさいうるさいって!

私の話ちゃんと聴いてるの!?」

 

百合はキツく咲希にあたる。

 

咲希はずっと顔をそらし、すねている。

 

百合は顔を赤くし、目に涙を浮かべると、咲希の顔をむりやり自分の方へ向けさせた。

 

「私は!!

さっちのことを思って言ってるの!」

 

「じゃあなんで忘れちゃうの!!?」

 

咲希は悲鳴のように叫んだ。

 

「忘れる……?

なにを?」

 

百合はまるで心当たりがなく、責めるように訊いた。

 

その言い方に咲希は悲しそうな顔をした。

 

「何回も……何回もお話してるのに……

おとぎ話じゃないもん……

本当に、ケガ治るもん……」

 

「…………お花のタネのこと…?」

 

百合は思わず咲希の顔から手を離した。

 

咲希の手から花のタネを出せることを聴いた記憶はまるでない。

 

もし、本当に出せるのなら、人間離れした特技(?)に忘れないくらいの衝撃を受けるはずだ。

 

それなのに咲希は、百合に忘れられてしまっていることを主張し、悲しそうな様子を見せている。

 

咲希がそんな嘘を付くはずがなく、百合はなんて返せばいいか分からずたじろいでしまう。

 

咲希はまた顔をそむけ、小さく呟いた。

 

「明人なら覚えてくれるのに」

 

その一言が百合の心を冷たくした。

 

百合は無言で立ち上がると、咲希のひまわりの髪留めを掴んだ。

 

「きゃっ…!?

いたいよ…!!? 百合ちゃん!!?」

 

咲希は驚き悲鳴を上げ、百合に訴えるが、百合は手を離さない。

 

「やめて…!!

百合ちゃん!!」

 

むしろ、その髪留めを力強く引っ張り、咲希の髪から取ってしまう。

 

「こんなもの」

 

百合は髪留めを強く握ると、遠くへ投げ捨ててしまった。

 

「……あっ!!」

 

咲希は呆然としながら、髪留めの行方を目で追うだけだった。

 

百合は咲希に背を向け、俯いたまま何も言わない。

 

咲希は膝から崩れ落ち、驚きと混乱と悲しみとで、目を丸くしたまま何もできない。

 

百合は横目でそれをみて

 

「さっちが悪いんだよ」

 

と冷たく言うとゆっくりと歩き出した。

 

「百合……ちゃん」

 

遠ざかっていく親友の背中。

 

捕まれ引っ張られて痛む生え際。

 

苦しくなる胸。

 

ようやく、咲希の頭が状況を理解し涙が流れる。

 

「百合ちゃん……待って」

 

ショックにより掠れた声で呼び掛けるが、振り向くことも立ち止まることもない。

 

「百合ちゃん」

 

立ち上がって、追い掛けようとしたが、体に力が入らなかった。

 

 

 

 

 

 

6-2

 

教室に百合だけが入ってきたとき、明人は不思議に思った。

 

怒ってるような悲しんでいるような。

 

目を赤くし、暗いオーラが流れ、とても話しかけられるような雰囲気ではなかった。

 

が、明人は会うのを楽しみにしていた今日の主役のことが気になり

 

「不来方」

 

と席を立ち、話しかけていた。

 

百合は無視をしてランドセルの荷物を机の中にしまう。

 

「咲希はどうした?

今日、休みか?」

 

それでも明人は構わず質問する。

 

百合はチラリと明人を見ると

 

「知らない」

 

とだけ言った。

 

「知らないって……。

お前が咲希のこと知らないはずがないだろ」

 

呆れるように言う明人に、百合は睨み付けると立ち上がり、ビンタしようとした。

 

「だからそれやめろって」

 

が、明人は今まで何度もこのビンタを受けているうちに、受け止められるようになり、払い除けてガードする。

 

百合は小さく舌打ちすると、椅子に座り直して、また準備を進めた。

 

「喧嘩でもしたのか?

咲希の誕生日に」

 

「───だよ」

 

明人の小言に、百合はボソッと呟く。

 

「え…?

なんだって?」

 

明人は耳に手を当て聞き返すと

 

「あなたが全部悪いんだよ!!!」

 

と、百合は明人の耳元で大声で怒鳴った。

 

「……うるさ…。

鼓膜破れたかと」

 

迷惑そうに耳を押さえる明人を、百合は立ち上がって真っ直ぐ見詰める。

 

「あなたがさっちを誑したんでしょ!!

さっちに変なこと教えるのやめて!!

掌からお花のタネが出るとか言うんだよ!!

それを私が忘れてるんだって!!

あなたは覚えてるんだって!!」

 

「ちょっと待て不来方……!」

 

詰るように訊く百合を、明人は手を前に出し、止めるジェスチャーをすると、廊下を指差した。

 

「場所移動するぞ」

 

「なに?

やましいことでもあるの?」

 

「別にねえけど。

……やっぱり、だめだったか……

ちょっとややこしい話なんだ。

いいから……来い」

 

明人に連れられ、百合は不服そうな顔で着いていく。

 

 

廊下の端についた明人は百合の方を向いた。

 

百合は腕を組み、足を鳴らして明人の話を待っているようだ。

 

明人は淡々と話しだした。

 

「咲希が手からタネを出せるのは本当だ。

マジックでもなんでもない。

咲希はそれを、お前にも見せたって言ってる」

 

「……そんなの知らない!!

見たなら絶対覚えてるはず!!」

 

「でも覚えてないんだろ。

前から咲希から聴いてる。

1日経つとみんな忘れてるって。

お前だけじゃない。

花奈ちゃんも空良くんも忘れてる。

覚えている人はほとんどいないって」

 

「なんで…?

じゃあなんであなたは覚えてるの!?」

 

明人は百合から顔をそらし、窓の外を見た。

 

百合もつられて外を見るが、とくに変わった景色はない。

 

「ねえ。

答えてよ!」

 

急かす百合に、明人は小さくため息をつき、窓を見ながら続けた。

 

「前に咲希が言ってただろ。

花畑にいるとき。

花火を見るために月詠山に登ったとき。

俺と咲希の胸が温かくなっているって」

 

「……それがなんなの?」

 

「隣のクラスの小林は、咲希の掌のタネのことを覚えていた。

“小林は胸が温かかった”

咲希はそう言ってた。

………………不来方」

 

そこまで言うと、明人は百合の方を向いた。

 

「お前は温かくならなかった」

 

 

明人の話を聴いた百合は、衝撃で言葉を失った。

 

目は泳ぎ、行き場のない感情を示す拳を握ったり開いたりしている。

 

「…………またそうやって私をひとりぼっちにさせるんだ」

 

百合は口元だけ笑いながら、自虐のように吐き捨てた。

 

「いいよ! そうだよ!

こんな口うるさくて余裕のない心の冷たい私なんかより!!

うざいくらいに真っ直ぐで、一歩引いた余裕のあるのがカッコいいって思ってる心の温かい男の子の方がいいに決まって

 

「違う!

そうじゃねえって! 不来方!!」

 

まくしたてる百合に、明人は肩を摑んで止めようとした

 

「触らないで!!」

 

だが、百合はそれを拒絶。

 

手を引っぱたき、明人をキツく睨みつける。

 

「あなたなんかに任せなきゃよかった……

もうさっちと別れて!!」

 

「今の咲希には俺が必要だ。

お前だけでは手に負えない」

 

「入院しといてよく言える!!!

私の苦労も知らないくせに!!」

 

「俺が戻ってから咲希に大きな怪我はさせてないだろ」

 

叫ぶ百合に、淡々と返す明人。

 

百合は顔を赤くし、シワを寄せ、怒りのボルテージが上がっていく。

 

「うるさい!!

さっちがおかしくなったのはあなたのせい!!

もう二度と私たちに関わらないで!!」

 

「本当にお前何も変わってないな」

 

明人は呆れるように言う。

 

百合は苦虫を噛み潰したような顔で明人を見る。

 

「なんでもかんでも都合が悪くなれば俺のせいか?

俺を悪者にしたいならそうしろ。

咲希に八つ当たりして、咲希が悲しそうな顔するよりマシだからな」

 

明人は改めて百合の目を真っ直ぐ見た。

 

百合は真っ直ぐなその目に、圧倒される。

 

「咲希は悩んでるんだ。

能力に目覚めたこと……そして…………………

それを自分が信頼している人に覚えていてくれないことに。

…………まさか、お前。

無下にしたわけじゃないだろうな?」

 

百合は顔をそらし気まずそうな顔をした。

 

その反応を見て明人は頭を抱える。

 

「まあ……信じられないのが普通だよな。

俺もいきなり言われたら信じるかどうか分かんねえし」

 

「……また余裕ぶってる。

あなたのそういうところ大嫌い」

 

達観している態度に百合は拗ねたような表情をした。

 

「不来方」

 

明人は百合の小言を無視し、真剣な顔で呼び掛けた。

 

「今の咲希には不来方が必要なんだ。

俺だけだと手に負えない。

正直。

咲希を1番喜ばせられるのはお前だ。

咲希を1番悲しませられるのもお前だ。

だから、咲希を悲しませることはするな。

お前がそのことになにを言ったか忘れても、咲希は覚えているんだからな」

 

「さきさきうるさい。

あなたこそ、ヒマワリのようなとこ変わってない。

結局、さっちがいいならそれでいいんでしょ」

 

「当たり前だろ」

 

「…………まぶしいよ」

 

なんの疑いもなくはっきりと答えた明人に、百合はそれだけ言うと、その場から去って行った。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。