ハートジャスティス   作:ココリンク

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33話 冷えて固まる

麓の道は整備がされておらず、でこぼこしていた。

 

ちょうど山の影になっており、あたりは少し暗い。

 

「まだかなー!

キラキラしたとこ!」

 

咲希は期待に胸を膨らませて興奮し、元気に飛び跳ねながら進んでいる。

 

「咲希、足元気をつけろよ」

 

明人は咲希の手をしっかり掴み、転ばないように支える。

 

「はーい!!」

 

咲希は返事をするが、歩き方は全く変わっていなかった。

 

明人は苦笑いし、足元に注意しながら進んでいく。

 

(キラキラか……)

 

そんな中、明人は少し気になることがあった。

 

(たしか。アイツが言ってたな。

山の湧き水が通ってる花畑には、新種の花が咲いてるって。

その新種の花と、咲希のタネから咲く花は見た目が一緒……。

咲希がタネを出せるようになったのは、咲希の胸が光ってから……

……なにか、繋がるかも)

 

キラキラしたところに、花と能力の秘密があるかもしれない。

 

そしてその謎を解き明かせば、皆が咲希の能力のことを覚えていられるかもしれない。

 

明人も明人なりの期待を込め始めたその時

 

「咲希危ない!」

 

何か鋭いものが咲希たちに向かって飛んできた。

 

明人は自分の体に咲希を寄せる。

 

「うわっ!」

 

間一髪、透明なクナイのようなものが、咲希の目の前を通過。

 

クナイは山肌の岩に刺さり、周囲にヒビを入れた。

 

「大丈夫か?

咲希」

 

明人は安心させるため咲希の頭を撫で、周囲を見渡す。

 

咲希は状況が呑み込めてないのか、驚いた顔で頷くだけだった。

 

(小林の紙に書いてあったな……。

“いつもより暗いところに注意。闇の人間が襲ってくる”って。

山陰でわからなかったけど……まさか)

 

明人は直樹から貰ったメモを思い出した。

 

闇の人間と言われる、この世界を侵略しようとしている存在。

 

その侵略の兆しである、あたりが少し暗くなる灰色の世界。

 

以前も明人たちは無意識にそこへ入ってしまい、襲われ、明人は入院、咲希も怪我を負ってしまった。

 

明人は身震いしながらも、矢を放った者の居場所を探った。

 

(目の前から飛んできた。

てことはあそこか)

 

飛んできた方向を見ると、大柄な男性でも隠れられてしまえそうな岩が立っていた。

 

明人は咲希を岩から隠すように体を寄せる。

 

「咲希。

逃げるぞ」

 

明人は咲希を押し進めるように後退りする。

 

「なんで…?

キラキラは?」

 

だが、咲希は百合と仲直りするため、キラキラしたところに行こうと、前に進もうとする。

 

「…………ここは危ない。

岩陰に怖い人がいる」

 

明人は咲希の気持ちもわかるが、以前魔法を使う闇の人間に襲われた恐怖の方が勝っている。

 

咲希を自分の体より前に出さないよう腕で止め、説得しようとする。

 

「怖い人……」

 

咲希は“怖い人”と聞き、後退りをしたが

 

明人が小さく震えているのを見ると、思い立ったような顔になり、右の掌に力を入れ

 

「ブルーム!」

 

明人の腕を押し退け、叫びながら両手を重ねた。

 

「咲希…!?」

 

「シャワー!!」

 

明人は止めようとしたが、咲希は両手から光線を発射。

 

衝撃で岩に小さく凹んだ跡を残し、そこから煙が立ち上る。

 

「咲希!!

なにやってる!?

逃げるぞ!!」

 

明人は咲希の腕を掴み、逃げようとしたが

 

「やだ!!」

 

と咲希は腕を振り払い、拒否する。

 

「キラキラはまた今度来よう!!」

 

「違うもん!!」

 

説得し続ける明人に、咲希は震える声で叫んだ。

 

「怖い人……。

逃げても変な力で、戻されて痛いことされちゃうもん!

痛いことされたら、明人また入院しちゃう。

だから、明人のこと守る!

わたし強いもん!! 小林さんも、三晴ちゃんもいなくても平気だもん!!」

 

咲希は叫ぶたびに声だけでなく体を震わせ、涙を流していた。

 

「咲希……」

 

怖いはずなのに、戦う力を持ったばかりに無理をして自分を鼓舞する咲希の姿に、明人は無力感に苛まれた。

 

こうなった咲希を止めることはできない。

 

かと言って、いつものとはわけが違う。

 

「だめだ…!!

咲希!!」

 

止めなければ、咲希の命が危ない。

 

明人は咲希の腕を力強く掴んだ。

 

「やだ!!!

じゃましないで! 明人!!」

 

咲希は明人の手を振り払おうとするが、こんどはしっかり掴んでいるので離さない。

 

「きゃっ!」

 

明人は無言で強引に腕を引っ張り咲希を投げ飛ばすようにして、自分の背中に隠した。

 

咲希は転んでしまい、明人を涙目で見上げる。

 

明人は横目で咲希を見たが、なにも言わず岩に視線を移した。

 

その瞬間、岩陰から拍手が聞こえた。

 

「これがこの世界で言う“青春”ってやつね」

 

そこから声が聞こえたと思うと、1人の血の気の多そうな、獣のような目をした女性が姿を現した。

 

(女……!?

いや……そう見えるだけか?)

 

明人は今まではっきりとした風貌の闇の人間を見ていなかったので、女性的な容姿に驚きつつも、警戒を続けた。

 

「女の子を守る男の子……素敵じゃない。

でもねえそこのお兄さん。

そのかわいい女の子、ワタシと戦いたがってるんだけど?」

 

女性は口調はフランクに。

 

だが、明人を鋭い目で見据えながら、にじり寄ってくる。

 

「黙れ! 化け物!!

あっち行け!」

 

明人は必死に叫んで虚勢を張る。

 

だが、女性は全く怯まない。

 

「化け物ねえ」

 

そう呟くと、手から闇の粒子を放出し、尖ったクナイのようなものを生成した。

 

「生意気なガキは嫌いよ」

 

そしてそのクナイを明人に向かい大きく投げ付けた。

 

(まずっ……!)

 

明人は避けようとしたが、そうすると後の咲希に当たってしまう。

 

身動きが取れなくなったそのとき

 

「ブルームシャワー!!」

 

咲希が立ち上がり、両手を花のように開いて光線を発射。

 

クナイの勢いを軽減させるが、止めることはできない。

 

「う……うう…………」

 

咲希はなんとか持ち堪えるが、このままでは直撃まで時間の問題だった。

 

「咲希……無理するな!」

 

「明人」

 

心配する明人に、咲希はにこりと微笑みを見せた。

 

「逃げて」

 

「…………!」

 

今まで守る側だと思っていた。

 

だが、今は守られている。

 

怖いはずなのに、不安なはずなのに、安心させようと笑顔を向けられた。

 

(咲希……俺は…………どうすればいいんだ)

 

明人は再び強い無力感を覚えた。

 

その瞬間

 

「ゔっ……!!」

 

明人の背中に強い衝撃が走った。

 

「……え?」

 

咲希は驚いた顔で見る。

 

「コレクションを傷付けるわけないでしょ」

 

女性がクナイを明人の背中に貫いていた。

 

咲希はショックで力が抜けてしまい、ぺたりと座り込んでしまう。

 

だが、さっきまで拮抗していたクナイは飛んでこなかった。

 

「ぐっ………

(俺達が話している間に……回収して近付いて来てたのか……)」

 

明人は体温を奪われていく冷たい感覚を覚えながら、背後を睨み付けた。

 

「生意気なガキはいらない。

邪魔」

 

女性はそう言い捨てると、クナイを明人から抜いた。

 

「がはっ!!」

 

明人は血を吐き、地面に倒れる。

 

「明人!

……ええい!!」

 

咲希は明人のケガを治すため、右手に力を込めてタネを作り出した。

 

「明人!!

今治してあげる!!」

 

咲希は立ち上がり、明人の下へ走ろうとした。

 

「だめだ! ……がはっ!!」

 

明人は血を吐きながらも、大声で咲希を制止する。

 

明人の直ぐ側には女性が立っている。

 

不用意に近付くことはできない。

 

「このガキを助けたかったら、ワタシと勝負する?

かわいいお嬢ちゃん」

 

女性は人差し指をクイッと曲げて、誘うように問いかける。

 

「逃げろ……!

咲希……!!」

 

「ブルーム!!」

 

咲希は明人の言葉も聞かず、ただ助けたい一心で、右手に力を込める。

 

女性は右の掌を口元に添えると

 

「ふっ」

 

と息を吹く。

 

すると、周りの空気がたちまち凍っていった。

 

木を岩を凍り付かせ、そして

 

「シャ………

あれ!?」

 

咲希の体も凍り付かせ、力を込めるために閉じた右手を開けなかった。

 

「あれ……?

あれ?」

 

咲希は焦り、右手を一生懸命開こうとするが、凍り付いた手はピクリとも動かない。

 

「咲希…!! がはっ……!」

 

「うるさいわね!!」

 

「ぐっ…!」

 

心配して叫ぶ明人の口を、女性は凍り付かせてしまった。

 

「ブルーム!!

……ブルーム!!」

 

咲希は技名を叫んで、より力を込めるが、右手が光るだけで、他は何も起こらない。

 

「かわいい。なにもできなくてかわいそう」

 

女性は咲希を見ながら哀れぬような恍惚したような表情をした。

 

実際、咲希の能力は一旦手を閉じて力を込め、手を開くことで技を繰り出すので、塞がれてしまっては何をすることもできないのだ。

 

冷気はどんどん咲希の体を蝕み、手だけでなく、体や脚も凍り付かせていた。

 

「ブルーム………ブルーム……!!」

 

顔はまだ凍り付いていないので、叫んで技の準備はできるのだが、そこまでしかできない。

 

「ブルー………ひっ!?」

 

女性はゆっくり咲希に近付き、顎をつまんで引き上げた。

 

「本当にかわいい顔してる。

傷がつかなくてよかった」

 

女性は咲希の顔を吟味するように見る。

 

咲希は涙を流し、恐怖と絶望に顔を歪ませる。

 

「ふふ。

今日も良いコレクションができそう」 

 

女性は咲希の顔に被せるように手をかざした。

 

「明人……」

 

咲希は視界の隅に見える、血を流して倒れる明人を見詰め

 

「たすけて」

 

と掠れた声を出すと、顔も凍り付いてしまった。

 

咲希は氷像となりピクリとも動かなくなった。

 

女性は不敵に笑うと、咲希の顎に手を添え、見惚れた。

 

(ふざけるな……

ふざけるな!!)

 

見ていることしかできない明人は、怒りに震えるが、力が入らず起き上がることができない。

 

(俺に何が足りない…!!

灰色の世界に入ったんだ!!

能力に覚醒できるはずだ!!

するなら今しかないだろ!!)

 

明人は自分を鼓舞するが、覚醒時に発生する胸の輝きはない。

 

女性は咲希をどこかへ運ぼうとしているのか、持ち上げようとしている。

 

(なんで……なんで……………だよ)

 

明人はただ見ていることしかできない。

 

涙を流し、後悔に苛まれながら、無力感の打ちひしがれるしかなかった。

 

「さてと……今日はもうこの世界に要はないわね。

すぐに…………

うわっ!!」

 

女性が運びやすいポジションを探るため、色々と触っていたとき、ふと咲希の右手に触れた。

 

その瞬間、咲希の右手に込められていた光パワーが、女性の闇の粒子に反応し、強い衝撃を放った。

 

女性は吹き飛ばされ、咲希の右手だけが氷から溶け、そこから光ったものが飛ばされた。

 

それは、明人の目の前に落ちてきた。

 

(……これは…………

……咲希の?)

 

咲希の手から生み出されるタネだ。

 

放出できなかったものが融合したのか、何時ものよりも2倍くらいに大きい。

 

明人は必死に手を伸ばし、そのタネを拾った。

 

(温かい……)

 

「くっ……なによ。

驚かせないでよね」

 

女性は文句を言いながら、咲希に近付く。

 

明人はそれを見ると、顔を顰め、鼻から大きく息を吸い

 

「ーーーーーーああああああ!!!!」

 

大きく叫んで、口の氷を溶かした。

 

「うるさい!!

死にたいのかしら!?」

 

女性は苛ついた様子で明人に振り向いた。

 

「はあ……はあ…!がはっ……がはっ……(悪いな小林。

あの忠告。守れそうにねえ)

それはこっちのセリフだ!!」

 

明人は息を切らし、血を吐くと、立ち上がり、口元についた血を拭って、女性に向かって叫んだ。

 

「お前らのせいで咲希が悩み!

不来方が苛立ち!

咲希が悲しむ!

逃げ続けたら一生このまま咲希に本当の笑顔が戻らない!

戦いの恐怖から逃れられない!!

だから俺はお前らを皆殺しにする!!」

 

明人はタネを自分の胸に押し当てた。

 

すると、明人の胸が輝き出した。

 

「ぐっ……ぐああ!!」

 

その輝きは他の光の戦士よりも更に眩く、街中にその光が照らし出されるほどだった。

 

明人の体は溢れ出る光に耐えきれず、背中の出血がより酷くなり、絶え間なく血が口から溢れ出る。

 

「なによ……これ」

 

女性は眩い光に怯み、なにもできない。

 

「……明人…?」

 

光の熱量で、咲希の氷が溶け始めた。

 

咲希はぼんやりする視界で明人を見守った。

 

「ぐ………ぐはっ!!

あ……ああああああ!!!!」

 

明人は苦しみもがく。

 

目や鼻からも血が吹き出し、全身の血管も怒張し始める。

 

このままでは、強すぎる力に肉体が耐えきれずに、爆散してしまうだろう。

 

「そんなの…………」

 

明人は咲希の姿を見ると、全身に力を込め

 

「知るかあああああ!!!!!」

 

大きく叫んだ。

 

すると、溢れ出た光は明人を包み込むと

 

木々をしならせる衝撃波と共に、明人の体に収まった。

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