三晴の決死の作戦により大男の能力が判別した。
三晴は直樹の協力を仰ぎ、見事大男を倒したのだった。
04/13(木)
「う……うう………。乃々実……。
乃々実……」
「よしよし。うんツラかったねー」
大男の戦いから次の日、いつもより早く登校した直樹は、机に伏して啜り泣いていた。
翔は前の席に座り、本を読みながら、直樹の頭を撫でて宥めている。
大男との戦いの後、三晴を花畑まで運び、お互いに体力を回復し、意識が戻った三晴から“今日の事や能力を誰にも言わないことと、あした放課後付いて来るように”と言われて解散した。
その後、大男に連れ去られたときに落とした手提げかばんを見付け、すぐに家へ帰った。
しかしそのときには17時を越しており、2時間も待たされた乃々実は、拗ねてそれから口を利かなくなってしまったのだ。
「乃々実ー…。俺が悪かった……。
乃々実……。乃々実……」
「よしよし。
ののみちゃんも、なおきのこと好きだからだいじょーぶだって」
「大丈夫じゃないよ……。
今日だっていってらっしゃいのハグなかったんだよ……。
昨日のお風呂も母さんと入ったし……。
あ……おやすみなさいのハグもない……。
乃々実の頭撫でてない……!」
「でもー。いってらっしゃいのとき、ちゃんと手振ってくれたんでしょー?」
「それだけ…!
………それだけじゃん……」
頭の中が乃々実でいっぱいの直樹にとって、無視されたりいつもより反応が薄かったりするのは何よりもショックなことだった。
(仲良いなー。)
ただ、このようなことは昨年から数回あるため珍しいことでもなく、翔は宥めつつも微笑ましく思っていた。
「あのー。木村さん。
そこいい?」
翔に遠慮がちに声を掛けたは、直樹の前の席の小金井麻美(こがねい まみ)。
登校し、教科書やノートを机の中にしまいたいのだが、翔が塞いでいるので声を掛けたのだ。
「ん?あー。ごめんねー」
翔は謝りながら席から離れようとすると
「あ、いいよいいよ。ちょっと体どかしてくれるだけでいいよ」
と止め、翔がどいた僅かなスペースからランドセルに入っていた教科書やノートをしまいながら話す。
「またいつものあれでしょ?
泣き止んでくれないと授業に集中できないもん。
それに、夕ちゃんと話すことあるし」
「うん。ありがとー」
「うん。じゃ、頼むよ」
麻実はそう言うと、友達のところへ歩いて行った。
「キムー! 小林!
おはよ………って小林! どうした!?」
そこへ亘が無邪気な顔で入ってきたが、直樹の様子を見るなり唖然とする。
「けんちゃんおはよー」
「おう、おはよ。
それで、小林はなんなんだよ?」
亘の質問に翔は少し考えるような仕草をすると、
「彼女に振られたって」
と真面目な顔で言った。
「え…!?」
「……ッ!!?」
その言葉に亘だけでなく、直樹も驚き、泣きじゃくってくしゃくしゃになった顔を上げる。
「小林お前!? 彼女いたの!?」
「おいちょ、軒谷…!!
声が大きい…!!」
あまりの衝撃に、大声で質問した亘に、直樹は飛び上がって口を塞いだ。
「翔も!! 変な嘘つくなよ!」
「ふふふ。
でも、元気でたねー」
そう言われると直樹は自分の様子に気付き、
「え?
あ、ああ」
釈然としない様子で、亘の口から手を離して席に座った。
「ったく、翔は強引なんだから」
直樹が不貞腐れたように言うが、翔はただ面白そうに笑っているだけだった。
「で、小林。
彼女は?」
「いない。
今も昔も」
妹事情を知らず興味津々に訊く亘に、直樹は軽くあしらった。
「なーんだ。
でもお前さ。昨日アイツといなかった?」
亘は面白い答えが聞けずちょっとがっかりした声を出したが、思い出したように訊く。
「え?」
「ほら、昨日の帰りに下駄箱で会ったカルシウム足りてなさそうな」
「刀根さんー?」
「そうソイツ! さすがキム!」
三晴の名前を出され、直樹はギクリとした。
「(確かに軒谷、弟くんと昨日公園行くって言ってたけど、まさか自然公園だったのかな?
どこを見られたんだ?)
そ、そう。気のせいじゃない?」
とにかく、昨日のことは他言無用とされているため、直樹は誤魔化そうとした。
「へー」
しかし、翔はなにか物言いたげの視線を送る。
直樹はそれが“最愛の妹を放って女といちゃいちゃしてたのか”という軽蔑の眼差しに見え、小さく首を振った。
「そう? 確かにお前だと思ったんだけどなー。
夕方の4時半くらいにいなかった?」
「さ、さあー? 人違いじゃないかなー?
あ! ああ! そうだ、軒谷!
ごめん、水鉄砲あと1日2日延期していい?」
これ以上続けると、また翔に誂われて変な誤解を招きかねないため、直樹は話題をずらした。
「ん、ああ。
全然平気! むしろ作ってくれてサンキューな!」
「いやいや、こっちこそ2日くらいでいけるって言ったのにごめんね。
少なくとも1週間以内には完成させるから」
「おう! 楽しみにしてる!
それじゃ、俺、教科書入れてくる!」
亘はそう言うと、自分の席へ向かった。
「はあ」
なんとか誤魔化した直樹はホッと一息ついた。
その瞬間、翔がトントンと肩を叩く。
「なに? 翔?」
「浮気ー?」
「だから違うって…!」
「ふーん」
翔は真顔でそう返すと、自分の席へ戻っていった。
(あれは信じてないな。
翔、変に勘が鋭いことあるからなあ。
はぁ、またいじりネタが増えた気がする。)
直樹はこの先、誤魔化せるのか不安と少し面倒臭さを感じ、机に体を伏してため息をついた。
「あ、終わった?」
そこへ、もうすぐ朝の会が始まるため、友達との会話を切り上げた麻実が戻ってきた。
「うん」
「そう。良かった。
ずっと後ろで泣かれたら集中できないもん。
いや、なにもなくても集中してないやろっ! って!!」
「………あはは」
「…愛想笑いありがと。昨年も咲希ちゃん困ってたよ。
夏休み明けだっけ? 新学期なのに一番前のど真ん中で泣き喚いてるんだもん。
もうこうならないためにも、妹ちゃん大事にしなよ」
「分かってる」
「あと、さっきの本当?」
「なにが?」
「彼女。いるの?
いたら森井に何されるか分からないよ?」
「いない。
あと森井の事はいいよ。今は忘れさせて」
「あっはは。
ご愁傷さまー」
〜〜〜
2時間目と3時間目の間の10分休みの時間。
2時間目の英語の授業はプレイルームで行ったため、次の授業の算数のため教室へと戻っていく。
「次、算数か…。
学田の授業眠いんだよな…。
話早いし、分からないと怒られるし、宿題多いし」
レクリエーションのような内容の授業の次に退屈な授業が来て、亘が文句を言う。
「そーだねー。昨日の宿題ー、難しかったねー」
「そうだね。昨日の宿………題……。
はっ!!」
翔に共感しようとした瞬間、直樹はとてつもなく嫌な予感がした。
「どーしたー?」
「宿題……忘れたかも………」
あのあと、教科書を持って帰れたのはいいものの、乃々実に怒られ嫌われたショックで、完全に宿題のことは頭から抜け落ちていた。
「珍しいねー。なおきが忘れるのー」
「うん……。
ごめん、翔。教室戻ったら見せて」
「わかったー」
「翔! ありがとう!!」
「どんまい。小林。
それなら、早く戻った方がいいんじゃないか?」
「そーだねー」
3人は駆け足で教室へと戻っていった。
「はい」
「ありがとう」
直樹は翔からノートを受け取ると、すぐに答えを移し始めた。
本来は途中式がないと怒られるのだが、宿題移しを対策してなのか、算数担当の学田先生は授業5分前に来てしまう。
そこでやってるのを見付かると、怒られて成績が下がるため、まだましな、先生が来る前に答えを移すのを選んだ。
「がんばれー。あと2分だよー」
「にしても、ほんとに嫌になるよなあ。
そこまで厳しくしなくてもよくないか?」
応援する翔の横で、亘が不満を漏らす。
「しょうがないよー。年寄りは頑固だもん」
「はは。
キムってたまに毒吐くよな」
翔のさり気ない一言に亘は呆れたように言った。
「よし! できた!!
翔ありがとう!!」
「どういたしましてー」
直樹は翔にノートを返し、翔はすぐにノートを自分の机に置いた。
その瞬間に、学田先生が教室に入ってきた。
「危なかったな。小林」
「うん。助かった。
ありがとう、翔」
「いいよいいよ」
翔は笑顔でそう言いうと、直樹の耳元へ顔を近付けた。
「今日、刀根さん休みだねー」
「んな…!?」
不意な言葉に、直樹は驚き、なぜだか焦って顔を赤くした。
「キム。何言ったんだ?」
「なんでもなーい。戻ろー」
「あ、うん」
面白い反応を見て満足したのか、翔は亘を連れて席へと戻って行った。
(やっぱネタにされたー。
いや、ネタに消化されるならいいか。
うう、今日はこれで誂われるんだろうな。
………それにしても)
直樹は溜息付きながら三晴の席を見た。
(刀根さん。大丈夫かな。
またピンチになってなければいいけど。
はーあ。今日は乃々実に早く帰るって約束したから、約束は明日に回してもらおうと思ったんだけどなー。)
実は今朝、直樹は乃々実の機嫌を取るために、今日は早く帰ると、勢いで言ってしまったのだ。
それで、三晴の用事を、別日にずらせないか頼もうとしていたのだが、当の三晴は休みだった。
(そういえば、刀根さん昨年の夏くらいから休みが多くなったけど、もしかしてこのせい?
まあ、いっか。休みなら休みで。今日は早く帰って乃々実と仲直りしよ。)
直樹は三晴が今日は忙しいから休み、自分との用事もできなくなったと勝手に解釈して、三晴が今日このまま学校に来なければ、乃々実の用事を優先させることに決めた。
〜〜〜
放課後。
「翔ー! 軒谷ー!
俺ちょっと用事あるから先帰る!!」
帰りの会が終わると、直樹はすぐにランドセルを背負い、2つ3つ前に離れた席の翔と亘に大声で言った。
結局、三晴は今日学校へは来なかった。
「おう! わかった!
じゃなあ!」
「ばいばーい!」
2人は事情を聞くことなく、手を振って送った。
「ありがとう! ばいばい!!」
直樹も手を振り返すと、駆け足で教室から出た。
(……あれ、そういえば今日は絡んでこなかったな。)
下駄箱で靴を履き替えているとき、杏奈が待ち伏せしていなかったことに気付いた。
昇降口には杏奈のクラスメイトがいるので、先に帰りの会が終わったというわけではない。
(まあ、いっか。ラッキーってことにしよ!)
考えても仕方ないので、直樹はそのまま学校から出て家へと全速力で走り出した。
自分のクラスより前に帰りの会が終わった生徒たちを追い抜き、昨日休んだ公園あたりでは独走状態になっていた。
(待ってろよ、乃々実ー!)
今日こそ早く帰るため、スピードを落とさず全速力で走る。
しかし、その勢いはある地点で止まった。
そこは花畑と麓の道の分かれ道だった。
(……今日は、平気だよね。)
直樹は昨日の思い出が蘇り、また三晴がバケモノと言っていた謎の集団が現れないのか、不安になっていた。
(まあ、いいか。いざとなれば能力で)
直樹は不安を晴らすためにわざと楽観的に考え、走り出そうとしたとき
「お前、何やってんだ?」
と花畑の方から声がした。
「うわっ………! って、刀根さん……!?」
直樹は驚き、声がする方を見るとそこには三晴が立っていた。
服が汚れているため、戦っていたのかと直樹は一瞬思ったが、服は昨日と同じで、目新しい汚れはついていないため判断がつかなかった。
「そんなに驚くことはないだろ。
というより、今日6時間授業だろ? ここまで来るにしては早くないか?」
「そ、そう。
と……刀根さんこそ、何してたの?
今日、欠席だったからちょっと心配しちゃったぁ。
はは……」
直樹は約束を破って、妹のために走って帰っていたと言えず、逆に話を振った。
「雑魚狩りだ。
今日はやけに多くてな。
で、お前は
「へー、そーなんだー。
それで花畑で休んでたの?」
直樹は自分のことに話題が変わらないように、三晴の話をぶった切って言った。
「ああ。大したことはなかったが、光パワーを消費………
何してんだ?」
「うっ…!?」
直樹は三晴が話している間にちょっとずつ歩みを進めていたが、すぐに三晴にバレてしまった。
「小林直樹。お前、なんかやましい事でもあるのか?」
「え、いや。別に。なにも」
呆れながら言う三晴に、直樹は目を逸らして誤魔化す。
「……とにかく」
これ以上訊いても無駄だと思ったのか三晴は、直樹を逃さないように手を掴んだ。
いきなりの行動に直樹は一瞬ドキリとし、辺りを見渡した。
「昨日言ったはずだ。
放課後
「ちょっとごめん刀根さん…!!」
強引に引っ張ろうとする三晴を、直樹は振り払った。
「なんだ?
私も暇じゃないんだ。
それに親切でお前に教えようとしてるんだぞ」
「分かった! 分かったから、ちょっとあっちで話そ」
直樹は花畑の方を指差す。
しかし、三晴は呆れたような表情をしたまま直樹を見詰めるだけで動こうとしない。
「小林直樹。お前、本当にさっきから何やってんだ?」
「いいから。
ね、とりあえず」
直樹は時折後ろを振り向きながら、三晴の肩を押して花畑へと誘導しようとした。
「いい加減にしろ…!
お前さっきから何なんだ…!?」
流石に三晴も痺れを切らしたのか、直樹の手を振り払い、睨みつけながら直樹に詰った。
「ああもう。分かった。
言うよ。言うからとりあえず花畑に行こ」
直樹はまた時々後ろを振り向きながら、焦るように言った。
「………分かった。
5分だけだぞ」
何度も言われて折れた三晴は呆れた顔をしながら、花畑へと向かった。
(はあ……よかった………。)
直樹は一安心した顔で後ろを振り向いた。
そこへはちょうど、下校途中の生徒が曲がり角を曲がって姿を現していた。
(ぎりぎりセーフだ……。)
それを見て直樹はもう一安心すると、三晴の隣に着いた。
「ごめんね。刀根さん。
なんか昨日、あいつを倒した後、花畑で休んでるのを軒谷に見られててさ。
ちゃんと見たってわけじゃないから大丈夫だと思うけど、変な噂が立ちそうで」
「お前。それで昨日のことを言ったのか?」
直樹が小声で花畑に行こうと言った訳を話している途中で、三晴は前を向いたまま訊いた。
「え。
いや、それは言ってないよ」
「それ“は”……?」
「あ。それはというか……。
何も…! というか、刀根さんと会ったことも話してないよ…!」
「そうか」
三晴は興味なさそうに返すと、花畑の脇道にある岩の上へと座った。
「何でもいいが、能力のことや灰色の世界のこと、その他諸々誰にも言うなよ」
「分かってるって」
直樹は道から見えない、岩の影に座って答えた。
三晴はまた呆れた表情をしたが、つっこむのが面倒臭くなり、そのまま話を続ける。
「そうは言ってもいまいち信用できない。
お前、今日もそのまま帰るつもりだったろ?」
「えっ…!?
(やばい……バレてる……。)
そ……そんなこと……ないよー。
あはは…」
三晴の言葉に直樹はどきりとし、冷や汗をかきながら苦笑いした。
「じゃあなんでここまで走って来た?
怪我をして花畑で回復したいからって思ったが、そんなこともなさそうだしな」
「えっ……えーと、それは……」
「さっき答えるって言ったよな?」
「うう……。
ごめん! 刀根さん!!」
直樹は三晴の恐ろしい目付きに耐えきれず、手を合わせて、ついに白状することにした。
「実は昨日、妹を待たせててさ。
戦いで遅くなって凄く怒らせちゃったから、勢いで今日早く帰るって言っちゃったんだ……。
本当にごめん…! だから、今日の約束……明日に回していいかな?」
直樹はダメ元で頼み込む。
三晴は直樹を見下ろしたままでいたが、しばらくすると溜息をついた。
「妹……昨日言ってた乃々実って人か。
誰かと思えば。よく授業参観にも顔出してたな。
………はあ。分かった……。
特別だ。今日は帰れ」
「………え……いいの……?」
いつも恐い印象がある三晴から、許可が取れるとは思わず、直樹は思わず唖然としてしまった。
「ああ。
但し、」
それを尻目に三晴は岩から降りる。
「私もお前の家まで着いていく」
「え?
なんで…!?」
思わぬ宣言に直樹は驚き、目を丸くする。
「さっき言っただろ。
今日はやけに雑魚が多いって。
お前がいつ灰色の世界に入り、そいつらにやられるか分からないだろ。
だからそうならないように、私も行く」
「えー。でも、俺も能力あるし、雑魚くらいなら」
“大丈夫”と言おうとした瞬間、直樹は昨日の三晴の説教を思い出し、言葉を止めた。
三晴を見ると、また呆れたような目付きになっている。
「とにかく。さっきも言ったが、私も暇じゃない。
お前を送り届けたら、また雑魚狩りに行かなきゃならないんだ。
さっさとしろ!」
「えー……あ、うう。
でもなあ………」
直樹は三晴と一緒にいるのが気が進まなかった。
変な疑惑があるだけに、また一緒にいるのを見られたとなると疑惑が確信へと繋がってしまう。
その場所が家の近くとなるとその確信が確固たるものになってしまうだろう。
しかし、人目につかないように移動した場所が昨日見付かった花畑なため、これもまた良からぬ詮索をされかねなかった。
「(もうどうにでもなれだ)………分かった。
でも、走るけどいい?」
結局、良い案は浮かばず、このまま考えつづけると三晴の逆鱗に触れ、何をされるか分からないため、三晴と同行することに決めた。
「構わない」
「そう。ありがとう」
直樹、感情の籠もってない礼を言うと、2回その場で跳ね体を慣らすと全速力で走り出した。
三晴も敵がいないか辺りを確認すると、走り出し後を追った。
〜〜〜
「小林直樹。止まれ」
「なに…? 刀根さん?」
後一分で直樹の家に着くというくらいで、三晴は前を走る直樹に呼び掛けた。
直樹はその場で足踏みをしながら振り返る。
「何か妙だ。
今日はなんだか人が少ないように感じる……。
この時間になれば幼稚園から帰ってくる親子がいてもおかしくない。
なのに、今日は一回も見えない」
「そう?
そのくらいの子は道端の花とか虫とかそういうのに興味持って立ち止まったり、公園で遊んでから帰ったりもするから、あまりあてにならないんじゃないの?」
「………そうか。
だが一組もいないってのは不自然じゃないか?」
「そう……かな? そういう日もあるって。
早く行こ。もうすぐだから」
乃々実のために早く帰りたい直樹はそれっぽい理由を言って話を早々に切り上げ、また走り出した。
「……ああ」
三晴は納得のいかない様子で直樹を追い掛けた。
〜〜〜
そして、何事も起きることなく、直樹は自宅へと辿り着いた。
「ふー。着いたー。
それじゃ、刀根さん。ありがとね」
直樹は玄関の取っ手を掴みながら、三晴に言った。
「ああ。何も無くてよかった」
「うん。それじゃ……って、ん?」
直樹はドアを開けようとしたが、鍵がかかっており開かなかった。
「どうした?」
異変に気付いた三晴は、声をかける。
「鍵……かかってる。
おかしいな。いつもならこの時間なら、帰ってきてると思うんだけどな」
直樹はなんどもドアを引っ張るが、鍵がかかっているため開くことはなかった。
「あ、刀根はもう大丈夫だよ。
もうすぐ帰ってくると思うから」
心配してなのか、その場から動かない三晴に、直樹は家の近くにいるとあらぬ疑いをかけられそうなため、離れてほしいとやんわり伝えた。
しかし、三晴は直樹の意思とは逆に、家へと近付いてきた。
「小林直樹。
お前の妹、いくつだ?」
「え? なんで今?」
「いいから。いくつだ?
だいぶ年が離れてたと思うが」
「今、3歳だよ。あともう一人0歳のもいるよ。
乃々実の方は今年幼稚園に入ったばっかで………
それがどうしたの?」
「やはりな……」
三晴はそう呟くとどこかへ一目散に走り出した。
「え! ちょっと刀根さん…!?
どこに…!?」
「小林直樹!
家族が帰って来るまでお前はここにいろ!
絶対に動くんじゃ……
………ッ!」
三晴は直樹に忠告している最中、視界の隅に黒いモヤを見付けた。
「え…!? 何!?」
三晴はそのモヤが闇の粒子だと直感した。
そしてその粒子は花火玉のような形で、途中で途切れた言葉を訊き返す直樹へと、山なりに投げられていた。
「伏せてろ!
(間に合え……)」
三晴はそう叫ぶと右手に力を込め、光の粒子で日本刀を作り出すと、すぐさま構える。
「ニードルバスター!!」
そして、飛ぶ斬撃を放ち、粒子体を切断し、その瞬間、爆発した。
「な……うわっ…!」
突然の爆発に、直樹は驚きその正体を見る間もなく爆風により約2m飛ばされる。
「くっ………。なっ…! あれは…!!」
三晴は飛ばされないよう踏ん張り、爆発地点を見る。
すると、そこでは黒い粒子が撒き散らされ、半径約5mに球状の空間を作り出した。
(灰色の世界……!?
でも、あんな狭い範囲今まで……!)
三晴が訝しく思っていると、左の方に気配を感じた。
「ニードルバスター!」
三晴は反射的に技を出す。
その後、気配の正体を見ると、さっきと同じような花火玉のような闇の粒子体だった。
斬撃が粒子体を切断すると、また爆発が起こり、そこから半径約5mに球状の空間を作り出される。
「小林直樹! 大丈夫か!?」
三晴は敵の気配を探りながら、直樹に呼び掛けた。
「うん。大丈夫。
刀根さん、これって…」
直樹は吹き飛ばされたときに打った頭を抑えながら体を起こすと、目の前の不自然な翳りを見て、三晴に訊いた。
「ああ。灰色の世界だ。
だが、こんな狭い範囲のは珍しい」
「じゃ……じゃあ」
直樹は灰色の世界と聞き、また昨日のようなバケモノが現れたと思い戦慄する。
「ああ。
だが、まだ敵の正体が掴めない。
お前を護ってる暇はねえから、自分の能力で自衛してろ」
三晴はそう言うと、道の真ん中に立ち、刀を構えて体を撚る。
「ニードル……サイクロン!!」
そして、一回転しながら隠れていそうなところに四方八方へと斬撃を飛ばす。
しかしそれは周りの電柱や家の外壁に切り込みを入れ、庭の植え込みを剪定しただけで、何も起こらなかった。
「あ……ああ」
近所が傷付けられ、直樹は思わず声を漏らしていた。
(気配を感じない……。どこに隠れた……?)
三晴は刀を構え突然の急襲に備えながら、敵を探し始めた。
「俺も」
直樹も敵を探そうと、傍らに光の球を出現させる。
「探すなら……双眼鏡だな」
直樹は光の球を双眼鏡の形に変え、両手に掴んだ。
(う……くすぐったい…!)
光の球と直樹の感覚が共有されているため、自分の体を自分で掴んだ変な感じを覚えながらも、双眼鏡を目に当てる。
(あれ……?)
しかし、いくら双眼鏡を見ても、拡大されたようには見えず、ただガラス越しに風景を見ているようなものだった。
(おかしいな……。)
「小林直樹…!」
不思議に思っていると、三晴の声が聞こえた。
「ん……って、うわ!」
思わず顔を上げると、粒子体が飛んでくるのが見えた。
「ニードルバスター!!」
三晴の斬撃により、直撃は避けられたがまたもや爆風で吹き飛ばされる。
「ボーッとしてんじゃねえよ!」
三晴は直樹に注意すると、粒子体が飛ばされた方向を見た。
(やはりあそこか…?)
そこには先程のニードルサイクロンで一部剪定されていたが、低木の植え込みがあり、隠れるにはちょうど良かった。
これまでの2発も同じ場所から放たれていた。
三晴はここに隠れていると思い、斬撃を多めに放ったが動きがなかったため、すでに移動したものと考えていた。
(中々に肝が座った奴だ。)
三晴はそう思いつつ、低木の数十m離れたところで止まると、刀を構えた。
しばらくすると5発の粒子体が低木の上から放たれる。
今回は山なりでなく、直球のストレートでかなりの速度がある。
「ニードルバスター!!」
すでに構えていたとはいえ、技の発生に僅かに時間がかかるニードルバスターを放つときには、すでに粒子体は三晴の5m以内にあった。
斬撃により、粒子体は切り裂かれ、各々が爆発する。
「刀根さん!」
凄まじい爆風の中、直樹は耐えているだけで精一杯だった。
爆風が収まるとそこには5つの影の空間ができるだけで三晴の姿はなかった。
「そんな……刀根さんが……」
姿形の見えないクラスメイトに、直樹は打ちひしがれそうになったとき
「輝きの」
上の方から、勇ましく静かな声が聞こえた。
「………っ!!
(刀根さん!!)」
直樹は声をした方を見上げると、歓喜の表情を見せた。
そこには三晴が一点を見据え、低木の後ろにある木の上で刀を構える姿があった。
爆発の勢いを利用し、敵の死角へと回り込んだのだ。
「白刃!!」
「ーーーーー…!!」
三晴は落下の勢いと自身最強の技を用い、敵の胸を背後から貫き、引き裂いた。
敵は断末魔ともとれる呻き声をあげながら、地面へ倒れ、粒子となり消えていった。
灰色の世界も元に戻っていく。
「ふう。これで……
ん?」
しかし、三晴は違和感を覚えた。
灰色の世界を作るためには核が必要となる。
それは粒子となって消えた後も残り、それを破壊したときに初めて灰色の世界が元に戻るのだ。
今回の敵は核を落とすこともなく、それを破壊することもなく灰色の世界が元に戻った。
(まさか。)
倒しても核が残らない、そしてあの呻き声を上げるものは三晴は知っていた。
「刀根さん!
心配したよ!」
敵を倒し、安堵した直樹は三晴へと駆け寄る。
「どうしたの?
刀根さん」
しかし、三晴の表情がまだ硬いままなのを見て思わず訊いていた。
「小林直樹。
用心を怠るな」
三晴は刀を構え、直樹に忠告し辺りを見渡す。
「なんで?
今、刀根さんが倒したんじゃ……?」
その様子に直樹はまだ敵がいるのかもと不安を覚えた。
光の球も輝きを少し失われる。
「ああ。倒した。
だが、倒したといってもただの雑魚。
お面を被っていた。アバタだ」
「……?
アバタ……って?」
聞き馴染みのない単語に直樹は思わず聞き返す。
「あの真っ黒な格好にお面を被った雑魚集団のことだ。
前に敵の誰かが言ってたらしい」
「え、じゃあ、そのアバタ? を倒したから……なんなの?」
「アバタはだいたい昨日のデカブツのような“能力を持つ奴”と行動する。
アイツら自身、能力を持たないからな。
だが今の攻撃、アイツらが扱うエネルギー弾とは明らかに違う。
なにかしらの能力によるものだ」
「能力……」
直樹は昨日の戦いを思い出し、身震いをした。
(またあんな奴と戦うの……!?
昨日戦ったばかりなのに……?
刀根さんは、いつもあんな………)
目の前にいるクラスメイトは血塗れで止めを刺したら気絶するくらいの激しい激闘を常にしていると直樹は考えた。
殆ど同じ年をいきているはずなのに、なぜか遠い存在のように感じていた。
「あった」
三晴は低木の隅に何かを見付けた。
それはアバタがさっきまで攻撃に使っていた粒子体だった。
「あ……危ないよ…」
「平気だ。
特殊な方法を取らない限り起爆しない。
それに、だいたいどういう能力なのかが見えた。
………安心しろ、今回は大丈夫だ。
能力はきっと爆弾生成といったところだ。
灰色の世界を作り出す爆弾を作り、手下のアバタ達に渡して灰色の世界を広めてるんだろ。
……色々疑問は残るが、あらかたそういう能力だろう」
「はあ」
戦闘経験が浅く、説明されてもよく分からなかった直樹は間の抜けた声を出してしまう。
「それで、そいつはどこに?」
「さあな。
近くにいるかもしれないし、遠くにいるかもしれない。
問題なのは灰色の世界が広がっているということだ。
……現に人通りが少ないのも灰色の世界に変わった道が能力を持たない人に認知されず、通り道が変わった影響かもしれない。
最悪この前の花畑のように閉じ込められているという可能性もある」
「え………それじゃあ……」
閉じ込められたと聞き、直樹は乃々実のことが心配になっていた。
この街にいるバケモノとまだ帰っていない家族。
まだ関係あるか分かっていないが、不安が色々と想像させ結び付けてしまっている。
「幸い、アバタを倒せばそのアバタが広げた灰色の世界は戻るが、今回はやけに多いからな。
堂々巡りだろ。いや、むしろ光パワーを消耗させられるだけだ。
どこかにいる能力者を見付け、叩く。
それしかない」
「どこか……って刀根さんもわからないの……?」
「目星は着いてる……だが、正確な場所は………」
三晴は直樹を見詰め、しばらく考えるような動作を取ったあと半ば諦めたような表情を一瞬すると、口を開いた。
「小林直樹。
お前の妹が通ってる幼稚園の場所……分かるか?」
「え……それじゃ……やっぱり……」
「私情は後だ。
分かるのか? 分からないのか?」
「分かるよ。
乃々実と散歩するときよく通ってるから」
「そうか。
案内しろ」
「う……うん! 分かった!!」
直樹はもう二度と戦いたくはなかったが、乃々実が巻き込まれていると思うといても立ってもいられず、協力することにした。
「ちょっと待ってて、ランドセル置いてくる」
そして、中庭にまわり、急いでランドセルを物置へと置いた。
「お待たせ」
「小林直樹」
戻ると、三晴が神妙な面持ちで待っていた。
「何?」
「すまないな。
また付き合わせてしまって」
「らしくないよ。刀根さん」
「………そうか。すまない。
背後は任せろ。
お前は何も気にせずさっきの全速力で幼稚園へ向かえ」
「言われなくても」
直樹は幼稚園へ向かう道を見詰めると、2回ほど跳ね体を慣らし走り出した。
三晴も刀を構え、警戒しながら見失わないように直樹に着いていく。
(乃々実待ってろよ…!
お兄ちゃんが助けてやるからな!!)