ハートジャスティス   作:ココリンク

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7話 爆弾の男

「うっ………くぅぅ……」

 

気絶していた直樹が、一定間隔に感じる縦揺れの振動により目を覚ました。

 

同時に、体をなにかに抱きかかえられているような気がした。

 

しかしそれは、幼少期に母親からしてもらった温かな愛情のあるようなものでなく、少しの衝撃を受けたら滑って落ちそうなほど不安定だった。

 

更に、抱える手もどこかゾワゾワする、気味の悪い感覚がしていた。

 

直樹はその感覚をついさっき感じたものだと思った時、体が咄嗟に危機を覚えて目を開けさせた。

 

「うわっ!!?」

 

目に映ったのは自分を運ぶアバタの姿だった。

 

直樹の叫び声には目もくれず、灰色の世界に染まった住宅街を歩いている。

 

お面に隠れた視線はどこに向けられているか分からない。

 

「起きましたか」

 

上の方から冷静な男の声が聞こえ、見上げると利発そうな男が薄っすら笑みを浮かべながらこちらを見下ろしていた。

 

直樹は、普通の人間とは大差のない外見の男の呼び掛けに、思わず頷いてしまう。

 

(何……この人…?

味方? じゃ……ないよね……。)

 

しかし、こうしてアバタを引き入れ、どこかへと歩いているところを見ると、味方だとは到底考えられなかった。

 

(もしかして……この人が…いや、こいつが……!)

 

それと同時に、この利発そうな男が、今回の灰色の世界を作り上げた能力者なのかと、直樹は直感した。

 

しかし、もしそうだとして、なぜ昨日の大男のように、積極的に自分を殺そうとしないのか、疑問に思ったが、恐怖のために口へは出せなかった。

 

「無口な人ですね。

もっと騒いだりするものだと思ってました」

 

利発そうな男は直樹に話し掛ける。

 

直樹はその意図が分からず、底知れぬ不安と恐怖を覚えた。

 

隙を付いて攻撃しようとも考えたが、体はそれを拒む。

 

「パルーフを斃したと聞きますから、入念な準備をしたのに、こんなナヨナヨした少年と脳味噌の足りない少女とは、興醒めですよ」

 

(少女……? 少女ってもしかして……刀根さん…!

刀根さんは、こいつと戦ったの…!?

………でも…)

 

直樹は男の言いようから、三晴がこの男と対峙したのだと感じた。

 

しかし、位置的に右半身しか見えないが、男には目立った外傷はない。

 

(刀根さん……まさか………。)

 

男の侮蔑する態度と、新品同様のスーツのような服は、この男の勝利を指し示してていた。

 

直樹は良からぬ想像をしてしまい、一生懸命振り払う。

 

「安心してください。刀の少女は生きてますよ。

恐らくね。

光の人間共はしぶといですから」

 

表情に出ていたのか直樹の考えを読んだ男はそう直樹に告げた。

 

(生きてる……良かった……)

 

敵の言葉--いや、憶測ながら生きていると聞き、直樹の表情は晴れた。

 

それを見た男は怪訝そうな顔をすると口を開いた。

 

「おめでたい人ですね。

これからどうなるかも分からずに………

……私の名はボムズ。

これより貴方は“餌”となってもらいますよ」

 

 

 

 

 

「はぁ………はぁ…………

いッ………つうぅ………!!」

 

男の爆弾により吹き飛ばされた三晴は、花畑まで這って行き、不思議な力がぎりぎり届く広葉樹の幹によりかかる。

 

そして、花畑に置いてきていたランドセルから、救急箱を取り出し、怪我の応急手当をしていた。

 

爆発の衝撃と、十数mからの落下は、幾ら光パワーにより体が護られていても、無事では済まなかった。

 

所々から出血し、落下による衝撃は、骨折とまではいかなかったが、節々を強く痛め、動きを制限させる。

 

傷口は能力の刀で服の裾や袖を斬り、包帯のようにして止め、痛めたところは極力動かさず、回復を待った。

 

(……にしても………あの爆発はなんだったんだ……。)

 

その中で三晴は不可解な爆発について考えていた。

 

(あそこにいたのはアバタ5人と能力者1人……。

アバタが何かする様子はなかったから、やはりやったのは能力者か……?

爆発地点は全部地面と同じくらい、低いところからだった。

でも、そこに粒子体を転がされたような気配はなかった。

だとすると………

設置型………地面の爆弾………地雷か…!

厄介なことしてくるな……。)

 

答えが見付かり、どう攻略しようと考えようとし、何気なく怪我をしたところを見た途端。

 

「くそッ!!」

 

能力が爆発だと分かっていながらも、焦って注意を怠っていたことを不甲斐なく思い、そこから湧いてきた怒りで、思わず地面を叩いていた。

 

(最近どうした……私。

いつもどおり……いつもどおり戦って倒せばいいんだ。

彼のことなんて他愛もないことだろ…!

なにを焦ってんだ…!!)

 

三晴は先手必勝を好み、ニードルバスターと光の刃の戦法で無傷なこともザラだった。

 

激しい動きにより衣服が汚れることがあっても、体が傷付くのは月に1,2回あるかどうかで、そんな自分の強さを、心のどこかで誇りに思っていた。

 

しかし、直樹が覚醒してからは、直樹を庇ったり、一筋縄ではいかない能力相手で、イレギュラーな戦いを強いられたりで、連日で命の危機を感じるほどのピンチに陥ってしまい、その誇りが崩れかかっていた。

 

(やっぱり彼を巻き込むべきじゃなかった……

私一人だけなら)

 

「やはりそこにいましたか」

 

(……ッ!?)

 

突然背後から落ち着いたような男の声が聞こえ、三晴は咄嗟に距離を取りながら、身を翻し立ち上がる。

 

痛みでバランスを崩すもすぐに体勢を整え、声がした方を見る。

 

(追ってきたのかよ…!)

 

そこには爆発の能力の男が後ろで手を組みながら、薄っすら笑みを浮かべて立っていた。

 

「(態々ルミナスポイントの近くまで来るとは…いくら弱ってるからって……ナメてるのか!

見る限りまだ灰色の世界は薄い。

今度こそ、一撃で仕留めてやる!!)

ニードル…」

 

男の余裕そうな態度に、三晴は見縊られたような気がし、怒りに身を任せて刀を構え、刀の光パワーを引き出し刀身に収束させる。

 

「いいのですか? そんなことをして」

 

男は動じることなく、男から見て左方向へと指を向けた。

 

「……? なっ…!?」

 

それを見た三晴は、驚きで技を中断してしまう。

 

(馬鹿………なんで…なんでここにいるんだよ…!!)

 

そこには二人のアバタによって片腕ずつ抑えつけられている直樹の姿があった。

 

光の球も光量を殆ど失い、もう一人のアバタに抑え込まれている。

 

「………ごめん。刀根さん」

 

恐怖と申し訳なさに涙する直樹の姿を見て、三晴の頭に色々な感情が交錯する。

 

「(帰ったんじゃないのか……!? まさか、あの後私を追って………いや、私が離れた後に襲われた……!?

くそっ…!! さっき私があいつを倒していれば…!!

もっと落ち着いていれば…!!

………くそっ!! くそっ!! くそッ!!!)

彼をどうする気だ…!!!」

 

整理できない気持ちをぶつけるように三晴は男に震える切っ先を向けながら叫んだ。

 

「少年はどうもしませんよ。

どうにかするのは貴女の方です」

 

「……なに……!?」

 

「彼は単なる餌に過ぎません。

貴女をこちらに釣り上げる餌でしかね」

 

「……人質か……!」

 

三晴は直樹を一瞬だけ見て呟いた。

 

そして、怒りに刀を持つ手を震わせながら、一歩歩みだす。

 

「………刀根さん…」

 

「そうです。頭が空っぽな癖に話は分かるのですね」

 

三晴は男の煽りに、刀を振り上げようとしたが、なんとか耐えた。

 

「刀根さん……」

 

直樹は、自分の姿を不甲斐なく思っていた。

 

三晴に帰れと言われていたはずなのに、一時の感情に任せて灰色の世界に入ってしまい、結局は作戦にはまって捕まってしまった。

 

そして今、こうして人質として満身創痍な三晴に迷惑をかけている。

 

はじめから任せていれば、こうならなかったと後悔した。

 

三晴は着実に男の元へと歩いている。

 

そして、あと一歩で灰色の世界に入ってしまうというとき

 

溢れ出る直樹の思いが爆発した。

 

「刀根さん!! だめだ!!」

 

「……小林直樹…」

 

直樹の叫びに三晴は足を止める。

 

男は何を言い出すか待つように横目で見るだけだった。

 

「花畑から出たら、灰色の世界になっちゃう!

怪我してるんだからもうちょっとそっちにいて!!

俺の事はいいから! こいつを倒して」

 

「………ッ

ニードル…バスター…!!」

 

「ーーーー…!?」

 

三晴は怒りに顔を顰め、気付くと斬撃を飛ばし、直樹の腕を抑えるアバタ二人を倒していた。

 

「……刀根さん…!?」

 

「ほう……やりなさい…!!」

 

男は感心したような表情をすると、光の球を持つアバタに命令した。

 

「ーーー…!」

 

アバタは光の球を握りつぶさんとばかりに外側から圧力を加える。

 

「うっ……! うああああ!!!」

 

すると感覚が共有されている直樹にも同じ圧力が加えられ、体が押し潰されそうな感覚に陥る。

 

「ニードルバスター!!!」

 

三晴はアバタへ斬撃を放つが、男は右手から爆弾を作り、投げてルートを阻害した。

 

爆弾は爆発し、闇の粒子が散らばり、視界が妨げられる。

 

「輝きの白刃!!」

 

その中で三晴は灰色の世界へと突っ込んで行き、男がいるであろう場所へと向かう。

 

「無駄ですよ。やはり貴方は」

 

男は大きな爆弾を生成して、返り討ちにしようとしたが、

 

「なに…!?」

 

三晴は男を素通りした。

 

「ツェヤアアア!!!」

 

三晴が本当に向かったのは、光の球を持つアバタの方だった。

 

輝く刀身をアバタへ斬り付け、光の球を解放させる。

 

「なるほど。やってくれましたね!!」

 

男はさっき作り出した爆弾を力任せに三晴に投げる。

 

三晴は逃げようとしたが、光の球を見ると動きを止め

 

「どいてろ!!」

 

と叫びながら掴み、直樹の方へ投げ、回避が間に合わず爆発に直撃した。

 

「……なっ…!? 刀根さん!!」

 

三晴の身を呈した行動に直樹は思わず叫ぶ。

 

闇の粒子が撒き散らされ、灰色の世界が暗くなっていく。

 

その中心地に何かが動く様子はなかった。

 

「ふ……はは…。

ふはは。

ふはははははははは!!!」

 

しばらくして、爆弾の男--ボムズは笑い出した。

 

直樹は唖然とその様子を見る。

 

「とんだ酔狂なものを見させてもらいましたよ!

まさか自分を犠牲にして、こんな弱っちいのを守るだなんてね!!

あはははははは!!!」

 

「な……なにが……………なにがおかしい!!」

 

直樹は、自分を救ってくれたヒーローを笑われ、侮辱されていても立ってもいられず、勇気を振り絞って声を上げた。

 

「貴方は黙ってなさい」

 

ボムズはさっきまでの笑いはどこへやら、乾いた声で威嚇するように直樹へ言った。

 

そして、粒子が浸透し視界が晴れた爆発地点へ目を向けた。

 

(………!? 刀根さん……。)

 

そこには地面へ力なく倒れる三晴の姿があった。

 

微動だにせず呼吸も感じられない。

 

「これがおかしくないわけないじゃありませんか。

足手纏いを守るために、死んでしまうとはね」

 

「刀根さんは……刀根さんは死んでない!!

絶対生きてる!! 生きてる……はず…!!」

 

「いえ、死んでます。

私のこのビッグボムを喰らって生きているものはいませんでした」

 

「それでも……刀根さんは生きてるよ!!

昨日だって、大男に勝ったんだから!!」

 

直樹のこの叫びに、ボムズは途端に真顔になった。

 

両手から闇の粒子がほんの少しだけ溢れ、手を強く握るとそれが収まる。

 

「私をあんな欠陥品と一緒にしないでもらいたいですね」

 

「……え?」

 

ボムズは急に早口で怒ってるような口振りになった。

 

急な変化に直樹は困惑する。

 

「私達、闇の人間は粒子で構成されています。

そして、それを統治する核と、外に流出するのを防ぐ弁があります。

しかし、アイツは能力の副作用としてそれが緩かった……緩すぎたんです!!

だから! 激昂し、粒子の制御が効かなくなったために弁で防ぎきれず溢れ、弱体化し、敗れたんですよ!!」

 

ボムズは自分の右掌を見ながら溜め込んだものを発散するように何処の誰にも向けずに語る。

 

(闇の……“人間”?

弁って……? 流出って……?

何を言ってんだ?)

 

直樹はただそれを聞いているだけでしかなかった。

 

「しかし、弱点があるとはいえアイツは強かった。

クズでバカでどうしようもないようなヤツですが強かった!!

それを斃した光の人間はどういうやつかと思ったら………」

 

ボムズは視線を上げ、直樹を冷たい視線で睨む。

 

「拍子抜けでした」

 

大きな爆弾---ビッグボムを生成する。

 

「貴方もこの一撃で屠ってあげますよ」

 

「どうして………どうしてお前らはそんなことするんだ!!

俺達を殺そうとして! 俺達の街を灰色の世界にして!

いったい何が目的なんだ…!?」

 

直樹はいきなり向けられた敵意に恐怖したが、その意図を知るために思い切って訊いた。

 

ボムズは驚いたような顔をし、少し考えると口を開いた。

 

「まさか……それすら知らないでパルーフを……

いいでしょう。何も知らないで殺すのはアイツも浮かばれないでしょう。

“侵略”ですよ。

この“光の世界”を私ら闇の人間が住みやすい“闇の世界”にするためのね!!」

 

「(侵略…!

光の世界を闇の世界に……。

言ってること分かるようで分かんないけど……とりあえず)教えてくれてありがとう!

ペネトレート!!」

 

「……ッ!?」

 

直樹が叫ぶと刀の形になっていた光の球が、背後からボムズの胸を刺した。

 

さっきの質問は目的を知るためだけでなく、刀の位置調節のためでもあったのだ。

 

(よし…!! 硬い感覚もあった…!

多分これが、きのう刀根さんが言ってた核だ!!)

 

直樹は、刀から伝わってくる硬い感覚から、核を貫いたと思い、勝利を確信した。

 

「少年……!!

私を欺くとは、してくれましたね……!!」

 

ボムズは足取りもおぼつかず、苦しそうな声を出しながら、悔しそうに直樹へ言ったかと思うと

 

「ですが残念!!

貴方が今刺したのは!!」

 

急に態度を変え、狂ったような表情と声になり、自らの手を胸へと突っ込んだ。

 

そして、そこから取り出したのは

 

「爆弾でした〜!!」

 

刀が刺さった爆弾だった。

 

「……なっ!?」

 

直樹は、いつ仕込んだか分からない、思わぬ対処法に驚く。

 

(まずい………早く離さないと……)

 

それと同時に、このまま刺さったままでは、爆発の中心地にいるのと同じことなため、刀を抜こうとしたが

 

「くっ……抜けない…!!」

 

刀は粒子に絡みつかれてしまい、粒子体の爆弾から抜けることができなかった。

 

「ふははははは!!

本来はあの少女対策で仕込んでいたものですが、助かりましたよ。

それでは、これで本当の終わりですね。

さようなら」

 

ボムズは爆弾に手を当て、起爆しようとしたそのとき

 

「………………ター…!」

 

「ッ………!?」

 

小さな叫び声と共に、斬撃がボムズの足元へ飛ばされ、意識外からの攻撃に対処できず、ボムズはバランスを崩した。

 

「この攻撃……まさか…!」

 

直樹は斬撃が向かってきた方を見る、

 

「刀根さん!!」

 

そこには三晴が視線だけをボムズに向けて形が崩れかかっている刀を構える姿があった。

 

「馬鹿な…!!

死んだはずでは…!?」

 

ボムズは三晴の生存に驚きつつも、まずは直樹を始末しようと爆弾に手を掛けようとした。

 

それを見た三晴は直樹に視線を送ると、手をゆっくり広げるジェスチャーを見せた。

 

「(刀根さん…?

手…? 広がる…?

………これか!!)

オーバーシャイニング!!」

 

ヒントを受けた直樹は技名を叫ぶと、それに呼応するように刀から光が放たれる。

 

その光は爆弾を包み、粒子体は形を保てず、霧散していった。

 

「なに…!?

貴様ら!!」

 

ボムズは驚きながらも、体勢を立て直し、両手からビッグボムを作り出した。

 

「カーペット!!」

 

直樹は咄嗟に刀をレジャーシート程の大きさの布のような形に変え、それに三晴を乗せた。

 

「ニードルバスター……」

 

三晴はなんとか腕を振り、斬撃をボムズの足元に着弾させ、砂煙を起こした。

 

「くっ!! 小賢しい真似を…!!」

 

ボムズは腕を振り払い、砂煙を散らせ爆弾を構え直したが、そこにはもう誰もいなかった。

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