ボムズから逃げ延びた直樹は能力の球を変化させたカーペットに三晴を乗せ、あてもなく、ただ幼稚園周囲から遠ざかるように走った。
追手が来ないと分かると人目に付かないところで休憩をしていた。
「刀根さん……大丈夫?」
「……ああ。死にはしねえよ」
「そう。よかった」
受け応えはするが顔を合わせることはしなかった。
互いが互いに後ろめたい気持ちがあるのだ。
「………これからどうする?
花畑に戻る?」
「そんなことしたら、今度こそ死ぬぞ」
「だよね………でも、回復しなきゃいけないし………」
互いに戦いで消耗しており、今見付かれば間違いなく命はないだろう。
しかし、回復地点である花畑は、周囲を灰色の世界に覆われ、敵地へと突っ込むことになるので、行くことはできない。
直樹が悩んでいると、三晴は何かを思い付いたような顔をした。
「花畑より、もっといいところがある。
10分くらい掛かるだろうが、お前の体力、そこまで保つか?」
「……大丈夫…!
なんとか頑張るよ…!!」
直樹はそう言って立ち上がると、カーペットを浮かび上がらせた。
(……やっぱり、刀根さん軽い。)
さっきはそれどころでなく、気にならなかったが同年代の子と比べて遥かに軽い体重に驚き不思議に思っていた。
「なにやってる?
あっちの道を進んで……右。
……まずは散歩道の森の中に行け」
「あ、ごめん。
分かった」
その疑問は、三晴に急かされたことにより後回しにされ、直樹は言われた通りの方へ走り出した。
「あの…刀根さん」
しばらくして直樹は申し訳なさそうに三晴に話し掛けた。
「なんだ?」
「ごめん。
実は俺、さっき刀根さんが灰色の世界に行った後………俺も、入っちゃったんだ」
打ち明け話に、ずっと顔をそらしていた三晴が少しだけ直樹に視線を向ける
「帰ろうとはしたんだけどね。
向こう側に俺の家族が見えて。
アバタを倒せば、道が開けて帰り道ができるんじゃないかなーって……………そしたら」
「無様にやられたって訳か」
「……うん。
ごめん」
直樹は萎縮してしまい、カーペットの光パワーが失われていく。
それにより、持ち上げる力も弱まり徐々に落下していく。
「小林直樹。高度が下がってる。
力入れろ」
「ん……あ、ごめん」
直樹は力を入れ、カーペットの高さを戻した。
それを見た三晴は溜息をつくと顔を直樹へ向け、口を開いた。
「説教なら後でしてやる。
そういえばお前は妹のことになると、周りが見えなくなるんだったな。
昨日も私の忠告を無視して突っ走りやがって」
「う、ごめん」
「別に責めてるわけじゃねえよ。
それを知っておきながら、お前の行動を予想できない私が悪かっただけだ。
人質も気にするな。
アイツらとの戦いに正義も悪もない。
正々堂々なんてクソみたいな話だ」
「そう……ごめん」
直樹はどこか気を遣わせてような気がして、つい謝っていた。
三晴は呆れたような表情をする。
「謝る必要はねえよ。
私は勝つための行動をしてるだけだ。
そのために、お前に頼ってるだけ。
こうして運んでくれなきゃ、あそこで私は死んでたからな。
ありがとよ」
「え……あ。
う、うん」
いつも上からで悪態をつくような感じの三晴に、急に感謝をされ直樹はどぎまぎしてしまう。
そのせいか、カーペットもバランスが悪くなり揺れてしまう。
「揺らすな。しっかり保て」
「あ、ごめん…!」
しばらくして森へ着いた。
この森は散歩道として自治体の管理で舗装された道と、天然のまま残っている場所に分かれている。
舗装されたところは表面の1割くらいしかなく、そこから奥はロープが張られた柵で囲われ、立ち入り禁止となっていた。
「それで、ここからどうするの?」
「上だ」
「上?」
直樹は三晴に次にいく方向を聞くが、その上に向かう坂道などは見付からない。
「あそこだ。
見えないのか?」
いつまでも気付かない直樹に、三晴は指を差した。
「え、あそこって…?」
そこには確かに上へ登る坂道があったが、立ち入り禁止エリアの中だった。
「刀根さん……そこって」
「この時間帯は人があまり来ないからな。
まあ来ても、注意するのはジジババくらいだから平気だろ」
「そういう意味じゃなくて、立ち入り禁止だよ?」
直樹は乃々実の手本となるように、ルールを守る生き方をモットーとしていたため、立ち入り禁止エリアに入るのに抵抗感があった。
「その上にルミナスポイントがあるんだ。
早く行け」
「えーー……ってかルミナスポイントって?」
「………花畑みたいに回復できるとこだ。
ほら、さっさと行かないと死ぬぞ」
「うっ……分かったよ」
しかし、三晴の威圧と早く灰色の世界を戻したい気持ちとで、仕方なくルールを破ることにした。
直樹は何度もあたりを確認しながら、ロープ跨ぎ、恐る恐る立ち入り禁止エリアに入った。
(あー……入っちゃった……!)
直樹はルールを破った罪悪感と、誰かに見付からないかの心配で、なにもしなくても心臓の鼓動が感じられた。
その動揺でカーペットもまた不安定になり、揺れる。
「だから揺らすな。
上だ。さっさと行け」
「ご……ごめん」
直樹は小さな声で謝ると、人がいないことを確認し思い切って坂を駆け上がっていった。
「着いたぞ。あれだ」
「はぁ……はぁ…………あれって…?
え…!? なにこれ…!?」
坂を登りきり、草を掻き分けると目の前に大きなログハウスが見えた。
高床式で階段を登った先に扉が見える。
少し汚れているが森の奥底にあるには勿体ないくらい立派な作りをしていたがそれが寧ろ不気味に感じた。
「何してる? 早く行け」
「行けったって……」
直樹はその不気味さにあまり近寄りたくなかったが、三晴が目線で急かしていたため、仕方なく行くことにした。
(……あれ、この感じ。
温かい。)
ログハウスに近付くと、花畑に入るときの胸の奥が温かくなるような感じがしてきた。
更に近付くと温かみが増して行き、どこか安心感を覚える。
(………あれ、なんか書いてある?
秘密基地?)
直樹は扉の横に秘密基地と書いてあるのを見付けた。
“何か知らない?”と三晴を見るが、三晴はどこか遠い目をしていたため、訊くのをやめた。
「鍵はない。
入れ」
階段の前まで来て、どうしたらいいか立ち止まってると三晴がそう告げた。
「え……でも」
しかし、直樹は見知らぬところに入るのが怖く躊躇してしまう。
「とにかく入……いや、ここまで来たんだ。
命令することはないか」
三晴はそう呟くとカーペットから降りて、慣れたような足取りで階段を登り、扉を開けた。
「え……! ちょ、刀根さん…!?」
「何してる?
ここがルミナスポイントだ。
中のほうが効果が高い。いいからボサッとしてないで入れ」
「えー……」
直樹は階段の前で入るか迷っていたが、三晴の視線に耐え切れず、遂に階段を登り秘密基地へ入ることにした。
「わあー…!」
中に入った直樹は思わず声を漏らした。
中はかなり広く10人くらいならストレスなく自由に遊べるくらいのスペースはある。
部屋の真ん中に大きな丸いテーブルが置かれ、お菓子を入れていたであろうお盆が中央に陣取る。
その周りには背もたれ付きや丸椅子などバリエーション豊かな椅子が並び、部屋の脇にはソファも設置されていた。
奥にはもう一つ部屋あるのか、扉も付いている。
目立った埃などもなく、最近使われている形跡もあった。
「刀根さん。ここって?」
「後で話す。
お前はここで待ってろ」
三晴も秘密基地に入ると、直樹に目もくれず、奥にある扉を開け、もう一つの部屋に入ろうとした。
「うん…いや、ちょっと待って!」
その瞬間、直樹は三晴を呼び止める。
さっきまでは逃げることに集中してそれどころではなかったが、安全な場所へと来たことにより、残して来た家族のことが心配になったのだ。
「……なんだ?」
「待つってどのくらい掛かる?
あと、いつここを出発できそう?」
「出発…? さあな。
今回の敵は強い。最低でも1時間は必要だろ」
「1時間!?
その間に閉じ込められた人は!?」
「…? お前、なにを焦ってんだ?
アイツらは私達のような能力者しか襲わねえよ」
「そうじゃなくて、そのまんま閉じ込められたままなんだよね?」
「ああ。だろうな。
それで? 何が言いたい?」
「いや、さっきも言ったけど、家族が取り残されてるのを見たんだ。
母さんと、乃々実とそれに生後7ヶ月ののーちゃん。
乃々実は疲れてたのかぐずりだしてたし、のーちゃんもまだ小さいからずっと外に出しているのも危険だよ!
ねえ、早くできないの?」
「それは無理だ。
お前の妹や母親が心配だろうがなんだろうが、回復しなきゃアイツには勝てない。
アイツに勝てなきゃ閉じ込められた人を助けることはできない。
少し考えれば分かることだ。焦りで簡単なことを見落とすんじゃねえよ。
お前は妹の事になると途端に判断力を無くす。
いいか。実力をわきまえろ。
さっきのことだが、私はお前に帰れと言った。
さっきのはお前の光パワーの安定のために優しく言っただけの嘘。本音を言えば私はお前に感謝などしない。
元々お前が戦わなきゃ、私は命の危機に瀕することはなかった。
これは遊びじゃない。命に関わることなんだぞ。
一時の感情で馬鹿みたいに突っ込んで、捕まって、私の足を引っ張んじゃねえよ」
直樹の願いに三晴は咎めるように言う。
矢継ぎ早に出てくる言葉は寧ろ八つ当たりのようでもあった。
「………ごめん。
でも」
「でももなにもない」
直樹は三晴の非難に泣きそうになりながらも、やっぱり家族が心配で早められないか訊こうとしたがすぐに三晴が遮った。
「それにさっきお前、自分のことはどうでもいいって言ったよな?
忠告を無視して自分を過信し、無様にやられたお前が分かったようにいっちょまえにカッコつけてんじゃねえよ。
お前には大事な家族や友達がいるんだろ?
誰かが死ぬってのは、想像しているよりも遥かに恐ろしいものなんだよ。
死ぬなら寿命を全うしてから死ね。
命を粗末に扱うな」
三晴はそう言い捨てると奥の部屋へと入って行った。
取り残されて直樹は泣きべそをかきながら呆然としていた。
確かに危険なことをし、意味のない自己犠牲をしてしまったのではないかと反省をしているが、あそこまで言われる筋合いはないと思っていた。
だからと言って三晴の忠告を無視して今この場所から飛び出しても犬死するだけなのは分かり切っていた。
直樹は自分の気持ちを落ち着かせるため、テーブルのそばにある丸椅子に座り、声を殺して泣いた。
(そういえば、刀根さん。)
しばらくして泣き止むと、直樹は2年くらい前に起きたある事故を思い出した。
その年の1月、雪の日にスリップした車が交通事故を起こし、道を歩いていた女子中学生が命を落とした。
その事故はニュースで取り上げられ、亡くなった女子中学生の苗字は刀根だった。
そして、その雪の日を境に、三晴は4月まで学校へ来なかった。
それから何が連想できるかは想像に難くないだろう。
直樹は自分が想像できないくらい、命の重みを三晴が背負い続けているのだと思い、奥の部屋を横目で見た。
(……ん? 声? 他にも誰かいるのかな?)
すると、三晴が入って行った部屋から声が聞こえた。
その声は非常に落ち着きがあり、とても安心しきった声だった。
「小林直樹。
いいぞ。入れ」
それからまた少しして、三晴が扉を開けた。
「あ…うん。分かった」
直樹は立ち上がり、言われる通りに部屋に入る。
直樹はまた声を漏らしそうになったが、どこか失礼に感じて押し殺した。
そこはどこかの家の中の一人部屋と行ってもおかしくないくらい、生活感に溢れていた。
時計や棚、机にクローゼットやベッドまである。
(………刀根さん…もしかして。)
よく見かける学校の実技道具も置かれており、馴染みのある教科書も本棚に並んでいる。
机には顔は三晴そっくりだが、髪はロングヘアーで赤いリボンの女の子の写真が貼られ、その近くにはうさぎの形に切ったリンゴが2切れ置かれていた。
(ここで暮らして)
「あまりジロジロ見るな」
「あ…ごめん」
部屋の様子から直樹はアレコレ想像していたが、三晴の一言により、やめた。
「そうだな……座るところはないか……
さっきの椅子持って来るか? それとも床に座るか?」
「あー……じゃあ、床でいいよ」
「ああ」
三晴は直樹を座らせると、自分も机の前の椅子に座った。
「それで。
お前、アイツの話を聞いてどう思った?」
「え……あいつって……あの爆弾の男の事?」
いきなりの導入に直樹は一瞬困惑し、思わず訊いていた。
「ああ、それ以外なにがある」
「うーん……っていうか、刀根さんあのとき起きてたの?」
「ああ。
ずっと意識はあった。だが体力は殆ど残ってなくてな。チャンスを伺ってた。
まさか……お前にあんな勇気があるとは思わなかったがな。
それで、どうだった?」
「どうって?」
「なんでもいい。一言二言でも。
思ったことを話せ」
「思ったこと……」
直樹はボムズから目的を聞いたときの事を思い出していた。
あのときは、核を貫くための位置調節に気を遣い殆ど話を聞いていなかったが、今思うと物凄く不穏なことを言っていたような気がし、急に恐ろしくなっていた。
「なんか……そう。
恐かった……かな」
「………そうか。
まあ。そうだろうな。
恐くて戦うのもいやになる。
戦いに本気な奴らを子供の自分が相手するなんて無謀。
そう思うだろ。
だがな……どんな形であれ、いつか気付く。
私達は能力に選ばれたんだと」
「選ばれたってどういうこと?」
三晴は厳かに、ヒミツと大きく紙が貼られた机の一番下の引き出しからノートを一冊取り出した。
(おお。)
そのノートには沢山のハートのシールが貼られ、三晴にそんなイメージがない直樹はギャップを感じていた。
三晴は直樹に見えないようノートを開き、慣れた手付きでページを探す。
(なんか書いてある………ハート…ジャスティス?)
直樹は表紙に書かれていた綺麗な文字を心の中で読み上げたが、意味は分からなかった。
「いいか。小林直樹。
一度聞いて理解しろとは言わないが、今から言うことを頭の中にぶち込んどけ」
三晴は顔を上げ、真剣な表情をし直樹を見詰めて厳かに言った。
「うん」
その雰囲気に直樹は一瞬で緊張し、小さく頷く。
「まず第一。今から言うことは誰にも言うな。
そして、元々お前に話すつもりはなかったことも話す。
これを聞けばお前はさっき私が言った“選ばれた”という意味が分かるだろうし、それに伴う過酷な運命を背負わなければならないと思ったからだ」
「過酷な……運命」
直樹は三晴の重苦しい言葉につばを飲み込む。
その様子を見て三晴も緊張してるのか、小さく深呼吸してから、ノートのページをめくった。
「私達が戦っている闇の粒子でできたバケモノ……そいつらは闇の人間と自称してる。
それと区別するため、私達の……なんだろなとにかく普通の人間のことを光の人間って言う。
闇の人間は今のところアバタを除き、全員能力を持っている。
だが、光の人間は一部限られた人にしか能力が与えられない」
「え………」
直樹は驚き、思わず光の球を見詰めた。
(限られた人………俺がその人間……?)
「何を基準にどうして能力が与えられるのかは分からない。
生まれ落ちてからその運命が決定付けられているのか、それとも成長の段階で授かるのか……。
新しい言葉を使うが、能力の兆候を持つものは胸に“シャインハート”っていう光の輝きを持つ。
この状態だと、普通の人間と大差ない。
恐らく、灰色の世界も認知できないだろ。
だが、シャインハートの輝きがある程度まで達すると灰色の世界が認知できるようになり、なにかのきっかけで“シャイニングハート”に覚醒する。
そのときに能力に覚醒めるため、覚醒した人を“光の戦士”………洒落て言えば“ハートジャスティス”って呼ぶ。
丁度、昨日のお前のような状態だな」
「は……はあ…」
直樹は新しい言葉と概念の連続で、頭の整理が追い付かず、つい間の抜けた声をだしていた。
だが、さっきこの秘密基地に近付いたときや、花畑に入ったときに感じたあの胸の温かい感覚は、自身の胸に宿る光が反応したのではと思った。
「お前、覚えてるか?
昨日、花畑と月詠山の間の真っ直ぐな道で、私の忠告を無視して走ったときに、胸が輝いたの」
「え…!? えっと………あのときは無我夢中で……
あまりよく、覚えてない……かな……」
「そうか。
……………とにかく。言葉は覚えてなくていい。
私もお前もこの胸の中に光の輝きを持ってる。
そしてその力が、さっき言ってた“光パワー”だ。
光パワーは感情によって力が変化する。
…昨日私が言ったみたいに死に恐怖して生に縋り絶望すれば光パワーは失われる。
逆に希望とか強い意思で光パワーは強くなる。
あと、疲労みたいに、何もしなくても回復するが、能力を使ったりダメージを受けることで消耗する。特に、技を使ったときの消耗は著しい。
だからその光の球も、今は消しとけよ。
あと、目立って襲われる可能性もあるからむやみやたらに使うなよ。
ここまでいいな」
「……う………うん。
なんとなく」
直樹は自分でも理解できたかできてないか分からないため、曖昧な感じで返し、とりあえず言われる通り能力を解除し光の球を消した。
「そうか。
……あ、さっき何もしなくても回復するとは言ったが、かなり微量だからな。
傷付いたらすぐに花畑に行くのが得策だ。
それに光パワーの他に“光ガード”ってのがある。
覚醒したときに体の外側に光パワーが纏われる。
それがあると、ダメージが軽減されたり、光パワーを使った攻撃を無効化する」
「無効化…?」
「ああ。
例えば、私がお前を斬ったとしても光ガードでダメージはない。
あと、シャインハートを持たない光の人間にもこれと似たようなものがあるのか、無効化される。
だから、やろうとしても私の刀では光の人間は斬れない」
「へ……へえ」
「……それでだ。
“シャインハートを持つもの同士引かれ合う”ってのがある」
「引かれ合う…?」
「ああ。
実際。私達は互いにシャインハートを持っていた。
そして、クラスも6年間同じだった。
他にもそういう例があってな」
「……他。
そうだ、刀根さん」
「なんだ?」
「他になんだっけ……光の戦士だっけ?
それ持ってる人っていないの?
他の仲間っていうかさ」
「さあな。
お前の覚醒に立ち会うまで、光の戦士を見たことはない」
「え……!?」
三晴の思わぬ言葉に直樹は思わず立ち上がった。
昨日の説教や、戦いの知識量からして誰かと共に戦っていたとばかり考えていたからだ。
「なんだ?
いきなり」
「だって、刀根さん。
昨日、覚醒したての人が殺されるとか。
自殺行為だとか言うから」
「………ああ。
別に私は知ってると言っただけだ。
見たとは一言も言ってない」
「えー……。
じゃあ、刀根さんはどこから?
そのノート?」
「ああ。そうだ。
大体のことはこれに書いてある。
……誰が書いたとか。どうやって手に入れたとか。
お前には教えねえぞ。
それに中身も絶対見るなよ」
「えー……」
直樹はなんだかムキになっている三晴に呆れたような声を出すと、静かに座り直した。
「だが、光の戦士は少なくとも後2人はいる」
「え…!?
やっぱりいるんじゃん!」
「私も合ったことねえから分かんねえんだよ。
このノートには光の戦士の名前が20人くらい書かれてたが、最後に残ったのは7……いや、6人。
そこから私が調べて行方不明だとか死んだとか、そういうの削ったら2人だけだ。
初めはまだ闇の人間と戦ってるのかと思ってたが、活動してる様子はない。
戦いから身を引く賢い選択をしたんだろ」
(20人から……2人…!?)
直樹はあれほど三晴が死をちらつかせる意味がようやくわかった。
どこの誰のか分からない人のノートのものだが、クラスの人数と同じくらいの光の戦士がいたにも関わらず、残ったのはたった1割という情報に、また恐怖をしていた。
「ああ。
それでだ……いや。この話は急ぐようじゃないな。
明日。お前早く学校に来い。そこで話そう」
「え……!?
あ、うん。できたら……」
「ああ。必ず来い。
そんで次に灰色の世界の事だ。
お前も昨日見たよな。灰色の世界はアバタのお面に闇の粒子を注入してできた珠………“カオスベース”を投げることでできる。
あのときは手短に説明したが、灰色の世界には濃度がある。
闇の粒子の量だな。
アイツらは用途によって真っ暗な濃度が濃いやつと、薄暗いだけの濃度が薄いやつに分けている」
「どうして?」
「アイツらの目的は侵略だ。
私達の住む世界……便宜上、光の世界と言っておこう。
その光の世界を闇の世界に塗り替えようとしている。
だが、そのまま光の世界をいきなり闇の世界にすることはできない。
その徐々に塗り変わっている状態……それが灰色の世界だ。
闇の世界は灰色の世界と違って、光の戦士でも認知ができなくなる。
完全に私達の記憶からないものとされるんだ。
そうなればアイツらの侵略が一歩進んだものだ。
私達光の人間さえも、守れなかった罪悪すら感じさせずに。
今もどこかでそうなってるのかもな」
「え……!?」
それを聞いて直樹はまた、いても立ってもいられなくなってきたが、三晴に手で落ち着くよう諭され、立ち上がるのを我慢した。
「落ち着け。
灰色の世界になってから闇の世界になるまで、粒子量に関係なく3日はかかる。
お前の母親はお前の妹を迎えに行けたんだろ?
なら時間的に余裕はある。
それに、私が毎日街を回って灰色の世界になってないかパトロールしてる。
午前見回ったときはあそこはなんともなかった。
だから心配すんな」
「う、うん」
「それでだ。
なぜ二種類あるかと言うと、戦い用と侵略用があるからだ。
灰色の世界だと私達光の人間の力が弱まり、闇の人間が強くなるってのは言ったよな?
その加減は灰色の世界の闇の粒子によって決まる。
粒子が濃い……即ち、外から見て真っ暗なものはアイツらに取って戦いやすい。
それが戦い用だ」
「戦いやすいなら、なんで全部そうしないの?」
「……アイツらの目的は私達光の戦士を壊滅させることじゃない。
侵略だ。
灰色の世界を維持するには能力者の核……デビルソウルが必要なんだ。
だから灰色の世界にして放置ってことはできない。
さっきのアバタが作り出した灰色の世界も、戦場を一時的に都合の良い状態にするだけで維持は恐らくできないだろう。
……話を戻す。
アイツらは放置ってことはできないから、ずっと灰色の世界に居続けなきゃならないんだ。
それで光の戦士に見付かって、倒されて核を壊されて光の世界に戻ったら元も子もないだろ?
だから粒子量を減らして光の世界と同化させる。
光の世界に見付からないうちにひっそりと闇の世界に変えるためにな」
「……なるほど」
「あとは闇の人間のことだ。
アイツらは光の人間とは逆に光パワーを使った攻撃しか効かない。
それと掌に放出器官ってのがあってな。
そこから粒子を集めた球を発射できる。
だからどんな闇の人間でも遠距離攻撃をしてくるってことを忘れるな」
「うん」
「………まあ、ざっとこのくらいか。
完璧に覚えろとは言わない。
だが、忘れてもらっては困る。
明日メモ書き渡すから目を通しておけ」
「う、うん。分かった」
三晴はノートを閉じ、机に仕舞うと鍵を閉じた。
「今日、本当は闇の人間のことは伝えず、ただ灰色の世界に気を付けろと言うだけのはずだった。
だが、アイツの話を聞いた以上、中途半端に伝えれば逆に命を脅かしかねないと思った。
……これを聞いて、お前がどう思うかは私は分からない。
世界を救うヒーローになるか、灰色の世界に気を付けながら危険な戦いは避けて賢い生き方をするのかはお前の自由だ。
だが、このノートを見る限り大半は戦っている。
初めは賢い生き方をしてたのに、大事な人が暮らす街が侵略されていくのを見てられず、自分が能力を授かったのを何かの運命と受け入れ、アイツらと戦う。
私はそうはさせたくなかった。
だが、今日のお前の行動を見て無理だと分かった。
私がいくら止めても、お前が戦うものかと意志を示しても………気付けばお前はその身を犠牲に戦ってるかもしれない」
三晴の言葉に直樹は何も言えず俯いた。
自分はそんなことしないと言い切れる自信もなく、自分がこれから戦うことにも自信がなかった。
顔を上げると三晴が今まで見たことないような眼差しでこちらを見ていた。
今までの空っぽなまま何者も寄せ付けない虚無と威圧はなく、悲しみと諦め、そして慈愛に満ちた目をしていた。
それはまるで何かに取り憑かれているようでもあった。