冷たい方程式   作:明日死ぬ

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月一つ

 その日は、二人して寝過ごした。テイオーへの謝罪を送りつつ、前日に一応作っておいた弁当を持って練習場に向かう。

 

「なんか近くない?」

 

「そう?」

 

 確かに、言われてみればタキオンと距離が近いような気がする。遠くていいことはあんまり無いので、近い方がいいんじゃないかと思う。まだ身体が冷えてるのかな。

 

「ひょっとしてうまぴょいした?」

 

「そんなことしないって。第一女同士なのにそういう変な勘ぐり」

 

 テイオーのジト目。

 

「ボクに興奮してたの知ってるからね」

 

「うっ」

 

 してました。っていうか、別にその気が無くても綺麗な子が沢山の所で働いてムラムラしない方がおかしい。

 

「そんなことより。夏合宿の準備は済ませた?」

 

 夏は合宿をするのが定番。お金が無いと出来ないから、こういう所は流石中央だなと思う。当然私達も行く。テイオーのリハビリやタキオンの実験のことを考えると、必ずしも行くことが正解というわけではない。でも行かないと多分モチベ下がるから行くしかない。

 

 

 

 

 

船に揺られる。

 

「うーん、うう……」

 

「大丈夫?」

 

「ごめん、あんまり大丈夫じゃない」

 

「薬を飲むといい」

 

「ありがとう」

 

あいにく、船には強くないのだが。タキオンの薬を飲むと、眠くなって、意識が遠のく。

 

 

 

 

 

 

 

 

『たまに走っている夢を見ることがある』

 

 その日は珍しく逃げていた。

 

「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ」

 

 逃げて、逃げて、何から逃げているのかも分からないまま逃げて、

 追いつかれる。

 

「はぁ、はぁ」

 

 でも、珍しいな。私がこんな全力で逃げるだなんて。

 

「はぁ……」

 

 そして、黒い影、いや、濁流に呑まれる。

 

「■■■■■」

 

「えっ……?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 目が覚める。

 

「ほら、トレーナー君。着いたぞ」

 

「うーん」

 

「重症だな」

 

 気持ちの良い日差し、海、景色、気持ちの悪い私。

 

 

 合宿の舞台は藍蘭島という島で、昔はウマ娘しか住んでいない不思議な場所だったらしい。

 

「海いこっ、ねっ?」

 

「あ、うん。海ね、行こうか。タキオンは?」

 

「私は実験の用意を整えてくるよ」

 

 トレーニング用に使えるだけあって人は少なく、半ばプライベートビーチみたいな様相。ライフセイバーも居ない。テイオーが水着姿で海に飛ぶこむのを私は見ている。一応、サメとかいたら追い返さなければならないから監視中。テイオーは大丈夫だろうけど、海でウマ娘がパニックになったら取り押さえるの結構大変だし。

 周りのウマ娘をさらっと見て、その恥まで行った時、異変を見つける。

 

「溺れかけてる……?」

 

 溺れかけてる人間を見分けるのは、そういう状況にあると考えない限りは難しい。急に息が出来なくなったとしても伝えるのが難しいのと同じだ。テトラポッドの中に落ちたら訓練を積んだウマ娘でも出ることが難しいように、入り組むほどに水の勢いというのは増す。だから、端にいる時にはより注意が必要だ。海岸が入り組み、砂浜に戻れなくなる。

 逆に、トレーニングに向いていると考えることも出来る。水に慣れたウマ娘なら問題はないだろう。しかし、トレーナーの姿が見えない。

 

「ごめん、テイオー! ちょっと離れる!」

 

「どうしたの!?」

 

 

 

⏱    ⏱    ⏱

 

「シラオキ様に導かれたのです!」

 

 マチカネフクキタル。競争ウマ娘としては、デビュー前。つまりトレーナーが居ない。それなのにここに居た理由、シラオキ様。

 

「嘘ではないと思う……それで、シラオキ様はなんて?」

 

「運命の出会いがあるかもって。ですから、私のトレーナーになってくれませんか?」

 

「いや、今はちょっと」

 

 忙しいんで。

 

「ねぇ、トレーナー。せっかくだから占ってもらおうよ」

 

「あ、はい。じゃあお礼代わりにお願いします」

 

 結果は大凶だった。

 

「死の相が見えます!」

 

 

⏱    ⏱    ⏱

 

 

夜、文をしたためる。

 

「何書いてるの?」

 

「遺書」

 

 トレーナーはそこらの塾の先生とは違う。トレーナーはウマ娘の盾となるべきだし、私としてもタキオンやテイオーといった名ウマ娘の身代わりになれるなら後悔はない。問題はその後、誰がタキオンやテイオーの担当をするか。第一候補は茂さんだけど、あの人も忙しいだろうから。

 

「やっぱり桐生院さんかなー」

 

 勿論、トレーナー契約した時に遺書は書いた。だからこれは追記、今までとこれからのトレーニングについて詳しく纏めている。企業秘密のようなものだから今まで書かなかったが、相手が新人でも問題なく引き継げるようにしたいという思いが上回った。

 

「じゃあさ、ボクが死んだらどうなるの?」

 

「世間に土下座しながらタキオンを育てる。続けられるかどうか分からないけど」

 

「タキオンも、そうなったら?」

 

「自殺しようかな」

 

「止めてよ。……カイチョ―にもボクにも泥を塗るようなこと」

 

「ごめん」

 

 ここでテイオーが言いたいのはそういうことじゃないだろうな。

 

「もし契約しているウマ娘が故障したら、トレーナーは他のウマ娘を探すよ」

 

 事実はどうであれ、故障させたって悪評が付いて回るかもしれないから、他のトレーナーと比べて不利な立場ではある。

 

「私はしないけど」

 

「どうして」

 

「忘れられないじゃん」

 

 一度強いウマ娘の担当をすると、弱いウマ娘の担当をやりたくなくなるというのが業界で有名な話。私も、この子はテイオーと比べて遅いとか考えたくないから、何か特別な理由がない限りは契約を結ぶことはないだろう。

 

「私の中で、一生忘れられないウマ娘になってよ」

 

「どーしよーかなー」

 

「えー、いじわる」

 

 走マ灯には多分出てくると思う。

ジャパンカップで勝って欲しいウマ娘は?

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