朝。タキオンと体育館。何に使うかも分からない機材が並べてある。
「VRレースをやろう」
島は、トレーニング機材は豊富でもレース場は無い。タキオンはレース経験が少ないのが不安要素だったけど、タキオン側がその解消に乗り出すとは、やる気出してくれたのかな。
「身体能力は私と同じにしてある」
太っている医者に痩せろと言われても説得力が無いという話はよく聞く。偉そうにしてるから、本当に走れるか試されてるとか。頑張ろう。
「うみゃーああ!!」
「その程度かい!?」
必死に走って、走って、タキオンに追いつけない。
「綺麗だ」
その背中は輝いて。美しく、気高い走りだった。タキオンのトレーナーになって良かったと心から思った。
「おいおい、惚けるな。きっちりデータを取るんだから」
「はーい!」
⏱ ⏱ ⏱
強いウマ娘とは何ぞや。それは優れているウマ娘だ。走り方、体格、心肺能力……
「はい、潜ってー」
「ぶくぶくぶく」
夏合宿では、能力の全体的な底上げを行いたい。苦手な分野も得意まで持っていこう。トウカイテイオーの場合は怪我のことも考えて水中トレーニングを中心、心肺能力の上昇を目標にやっていくつもりだ。
「ボク、こんな運動して大丈夫かな。また怪我が」
「骨も動かないと逆に弱くなっちゃうからね。適度な運動は逆に必要だよ」
適度なアルコールを取れというのは流石に眉唾物だと思っているが。
⏱ ⏱ ⏱
「夏祭りに行こう!」
正直花見とか花火とか何がいいのかよくわかんない人。
「射的とかやりたいなぁ」
真面目にトレーナー業やってる間はヤーさんと絡みたくないのですが。
「甘いもの食べていいよ」
「ホント!?」
どうせ不味いからそんな沢山食べないでしょ。
「じゃ、待ってるから」
「あ、はい」
私も行くんだ。
⏱ ⏱ ⏱
「結構賑わってるね」
「わたあめ食べよう!」
「わたあめかー。生まれて初めて食べるな」
「ええっ!?」
いや、砂糖の塊とか普通食べようって思わないでしょ。お祭りとか全然興味なかったし。ウマ娘は甘いものが好きらしいから、感覚が違うのかもしれないけどさ。
「味はどう?」
「普通」
「そこは美味しいって言いなよ」
その後も、適当に遊んだり、食べたり。
「トレーナーが言ってるみたいに、なんか普通かも」
そこは美味しいって言いなよ。
「トレーナーの食事の方が美味しい」
不味かったらトレーナーやれないからね。時間になったから花火が点滅しては消える。皆坂本九でも無いのに上ばっかり見てるから、逆張りして辺りを見渡して、視界の片隅に見つける。
「え?」
「どうしたの?」
「いや、ウマ娘が……」
ウマ娘が居ることは当然なのだが。異質だったように思える、一瞬だったから分からないけど。
「帰ろうか」
結局、このウマ娘のことは、しばらく経つまで私の記憶の宮殿に置かれるだけだった。
⏱ ⏱ ⏱
その後? といっても特に語るようなことは無い。普通に練習して、普通に実験して、普通に過ごしただけだ。タキオンの悪評を知らない人々に実験をやろうと思ったけど、某遊園地を出禁になった学校みたいになって困るから止めたり、フクキタルと占いトークしたり、いないはずのゴールドシップの姿を見かけたり、気になることは色々あったけど、無事に終わった。
明日、トレーナー学校に戻る。少し早く寝ようと思って、ベッドに倒れこんで、意識が、
覚醒する。
「誰?」
空気の流れがおかしい。タキオンやテイオーが訪ねて? もしそうじゃないなら、全身の毛が逆立つ。
「止まって。でなければ」
黒い影――――銃撃!
「(掠った……)」
対ウマ娘戦闘においての銃は、微妙な立ち位置だ。遅ければ躱せるし、狙撃とか機関銃じゃないと決定打になりにくい。私は人間なため銃口をみないと躱せず、負傷する形。相手、銃を捨ててポン刀に持ち替え。濡れてるから、多分毒がある。
「っつ!」
対ウマ娘戦闘の定石である視覚や聴覚に訴えかける道具がなく、殺傷力もそこまで高い武器じゃない。私かどうかは分からないが、人間を殺すためのやり方だ。刀が、私の胸を一突き。
「ごほっ」
この速度を出すためのパワー、間違いなくウマ娘級。誰だ? 伝えなければ、タキオンやテイオーに、声が出ない。ダイイングメッセージでもなんでもいいから、姿を見て。月の光が黒い影を照らした。
「(マンハッタンカフェ……??」
トレセン学園に居るはず、対人戦闘の技能なんて持っているはずないのに、どうして……?
⏱ ⏱ ⏱
目が覚める。
「ほら、トレーナー君。着いたぞ」
「???」
走マ灯……じゃない。記憶の宮殿にあるのと同一の景色。
「タキオン??」
「重症だな」
戻ったってこと? 何で? 取り合えず、あれだ。武器を用意しよう。あれが現れた時、素手じゃ勝てない。
「ごめん、ちょっと戻る」
「島に来たばかりなのに?」
「そのうち戻るから、先に島に」
来た時の船にまた乗り込み、引き返す。警備ウマ娘とかも呼ぶ必要が、
「逃げるの?」
「!!」
黒衣、マンハッタンカフェが船のデッキに立っている。船の中に潜んでた? そんなはずは。
「タキオン、テイオー、逃げて!!!」
刺突を避けて、海に飛び込む。海中なら銃撃もやり辛いはず。
「(泳ぎも早い)」
が。水中戦という分野においても相手に分があるようで。逃げきれずに心臓にぐさり。
⏱ ⏱ ⏱
目が覚める。
「ほら、トレーナー君。着いたぞ」
「・・・・・・・・」
「重症だな」
「ごめん、忘れ物したかも。船の中探させてもらっていいですか?」
探す。探す。探す……居ない。影も形も無い。
海に飛び込む。
「トレーナー君!?」
潜る、潜る、見つけたいのか、見つけたくないのか、分からないが、ジョースター一行と女教皇みたいに私と黒い影がかち合って、私は砕かれる。
⏱ ⏱ ⏱
目が覚める。
「ほら、トレーナー君。着いたぞ」
「ふー……」
「重症だな」
本来ならここで菊花賞が終わってたと思うのですが予定に無い島編を入れたことで
章が一個増えました。これで三章前編が終了したので、後編はそのうち出します。
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