何回も試行して、思い知る。勝てないし、逃げられない。
「逃げるの?」
私だけじゃ、どうにもならない。
「マンハッタンカフェに電話って出来る?」
「急にどうしたんだい? 繋がらないと思うが、一応掛けてみるか」
マンハッタンカフェ…………ではない、流石に。その姿を借りた何かだ。だとしたら何なのか?
「降霊術かもしれません」
「む、降霊術」
糸口は意外なことに、詳細をぼやしてフクキタルと話している時に得られた。
「ウマ娘の魂を憑依させて、その格闘技(?)に熟練した人が操作しているということかも」
「それって実例があるの?」
「私の聞いている限りではないですが、状況から考えると」
一応トレーナー学校の時に名前だけ聞いたことはあるけど、それだけだ。でも納得がいくというか、私が何処に逃げても追ってくるのはそれが実体を伴っていないからなのかも。
「おそらくこの島に術者が」
「探すか」
「占いましょうか?」
「お願いします」
「うみゃみゃみゃみゃーーー?
愚者の逆位置だった。
⏱ ⏱ ⏱
「VRレースを用意したんだが」
「うん、走ろうか。大体わかるから説明はいいよ」
「そうか……うん?」
時間すら超えて、何度も何度も走る。その度に早くなっている……ような気がする。タキオンと競れるようにはなってきたかな、勝つことは一回も出来ていないけど。
「思いのほか、早く終わってしまったな」
「他の実験でもする?」
「ん……実は前から考えていたことがあってね。私の名前の由来は知っているね?」
「それは、勿論」
タキオン。光よりも早い、仮想粒子。もしも自在に操ることが出来たら、タイムスリップも夢じゃないけれど未だ観測されていないし、存在しないという考えの方が一般的だ。
「観測したいんだ」
「!」
仮にあったとして、私達には見えない形をしているはず。何で急にこんなことを言い出すのかと一瞬思ってその気持ちを捨てる。
「青い薔薇を探したくなった?」
「そんな殊勝な気持ちじゃない」
それ以降黙ってしまったから、私から話を出す。
「マチカネフクキタルに聞いたんだけど、今夜流星群が見えるらしい」
「わかった」
⏱ ⏱ ⏱
「私は、この世の全てに意味があるなんてポジティブな考え方はしていない」
私も。
「怪我も、君に出会ったことも、何もかも」
「…………」
「だが意味は自分で見つけるものだ」
君がモルモットであり続けるならばそれでよかった、とアグネスタキオンが言う。
「ふと思う。私は試しているのではなく、試されているのではないかと。君、いったい何時レースの練習をしたんだ?」
「敢えて言うならば、夢で」
「夢か」
「ラップデビルもびっくりするくらい走ったよ」
それでも、未だに追いつくことが出来ていない。
「誇らしいような、悔しいような、複雑な気持ちになる」
「当たり前だ。そう簡単に追いつかれては困る」
正直、気が緩んだ。大丈夫だと思ってしまった。
「夢によれば私は死ぬらしい。この夏が終わる前に」
「笑えない冗談は」
「本当だよ。……もう何回も死んでいるから、引き継ぎの用意もちゃんと出来てる」
「……そのことを私……いや、アグネスタキオンに話したことは?」
「それは、今が初めてかな」
「光栄だな。君の、その、実験のモルモットになれて」
「そういうつもりで言ったんじゃない」
「分かってるよ……分かってる」
全然分かってなさそうな顔してたから、笑いそうになったけど堪える。一応笑い事じゃないもんね。
「私達から色んな物を奪っておいて、身勝手すぎるぞ、モルモット……」
勝利とか? って言って、今度は堪えきれなくて笑ったら、思いっきり蹴り飛ばされた。
⏱ ⏱ ⏱
「え、どうしたの? 何か二人の距離近くない」
「実はモルモット君を怪我させてしまってね」
「実験で?」
「ああ、そう、実験。実験で」
「ほんと?」
「そのくらいにしておいてあげて、本当だから。トレーニングには問題ないようにしてる、ほらメニュー表」
「相変わらずやけに具体的で細かいトレーニングメニューだ。1050mを7回走るとか……」
テイオーが去る。
「トレーニングも?」
「何回も試行錯誤して導いた自信作になっています」
とはいっても毎回誤差が出るから現場で微調整するのが一番で、そういう意味では練習に影響が出てる。タキオンの蹴りはクリーンヒットして骨盤が持ってかれた、普通だったらトレーナーを休業することを考えるくらいの怪我だ。
「加害者の分際でふてぶてしい話だが、君が今傍に居ることはまさしく怪我の功名だ。実験が捗る」
「別に実験くらい何時でも――」
「普段なら抵抗されるだろうからね。君の嗜好をしれたのは幸運だった、おかげで私も覚悟ができた」
「まさか、」
「さあ、盛大に実験をしようじゃないか!」
この後めちゃくちゃ実験した。
⏱ ⏱ ⏱
「死ぬなら、タキオンに殺されたい」
「用意しておいた毒薬だ」
「ありがとう。なんか意識が――――すぅぅ。」
「さながら、ロミオとジュリエットか」
トレーナー君が言っていた時間が、もうすぐ来る。誰も入れないように作った壁に、毒を塗った短剣。たとえ死神が来ても。
目の前に居る
「はあっ」
斬撃は宙を舞って、再び振り下ろしたら短剣は蹴飛ばされた。
「傷つけることに慣れてないよね」
「黙れ!!」
「ふふっ♪」
カフェの姿、しかし明らかに別人。今この場に警備ウマ娘が居ても相手にならないであろう技術を持っている。
「何者なんだ、お前は。何故私のモルモットを殺す」
月が黒い影を照らしているのに、顔は見えない。近づこうとして、身体が崩れ落ちる。
「ツボを突いたから動けないよ」
「絶対に、絶対にお前を、」
「また、夢で逢おうね」
「――!」
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