「ほら、トレーナー君。着いたぞ」
「ん、ん?」
寝覚めがいい。多分、タキオンは私を殺さなかったんだ。あれに殺されることがループの条件の可能性もあったから検証してみたくはなったけど、あんなことやこんなことをやったし、色々と
「重症だな」
「ひゃっ! タキオン近いって?」
「?? どうした? 顔が赤い」
「伝染性紅斑かも! タキオン離れて!」
「そんなバカな」
その後、タキオンとうまく話せなくて、テイオーのトレーニングにずっと付き合っていた。
「トレーナー! 花火やろっ!」
「わかった!」
トレーニングにここまでがっつり付き合うのは、初めてか。体力が不安だけど、怪我しているテイオーがこんな頑張っているのに、私が休んでもしょうがないか。やれるだけやろう。
⏱ ⏱ ⏱
「トレーナー!?」
「大丈夫だから、気にしないで」
「でも」
山を登っている時に意識が飛んで、ちょっと転げ落ちた。痛いけど、おかげでちょっとだけ目が覚めた。
「とうちゃーく! トレーナー」
「…………」
「トレーナー! しっかりして!」
⏱ ⏱ ⏱
「ボクのせいなの? 無理に付き合わせたから」
「そんなわけないでしょ。100m譲ってテイオーが悪かったとしても、それはトレーナーの責任だから」
ウマ娘と人間は違うから、歩幅を完璧に合わすのは難しい。合わせる努力をするのはトレーナーの方。
「それに、嬉しかったよ。ウマ娘みたいに扱ってもらえて」
「それはお父さんとお母さんがウマスト教の信者だから?」
・・・・どこでそれを知ったのやら。マスゴミもまだ報道してないはずなんだけど。
「家族にトレーナーの話をしたら、後になってその人は危ないカモって言われて。勿論ボクは信頼してるけど、その、ね?」
「ん。ウマスト教についてどのくらい知ってる?」
「危ない宗教だってことくらい」
「一口にウマスト教って言っても色々ある。それこそ、過激派だとウマ娘の肉を食べてウマ娘に至ろうとか……つまり、ウマ娘保護団体とは別種のウマ娘を崇拝する団体なんだけど。保護団体はウマ娘を守ろうとしたのに対し、ウマスト教は様々な手段でウマ娘に至ろうとしたわけだ。ウマ娘に対する非人道的研究とか。当然危険視されて潰されるよね」
「じゃあ、今残っているウマスト教は?」
「いや、懲りなくてさ。ウマ娘がダメなら、人間の方を研究する方針で、今日も生き延びてます。健全なアプローチの方が多くはあるけど、危険性は未だに顕在だから、テイオーは近づいちゃ駄目だよ?」
「うん。それで……」
「じゃあ私はどうなのか? だよね。ウマスト教はこういう名前だけど、明確な神様や物理的なルールに反することを信じているわけじゃない。ただ、ウマ娘になりたいだけ。そしてそういう意味では間違いなく、私も信徒になるかな。好きなんだよ、ウマ娘のこと」
「トレーナーになったのは、どうして?」
「少なくとも両親は、ウマスト教信徒として私がトレーナーになるのを手伝ってくれた。元々仲はあんまりよくなかったんだけど、せっかくトレーナー資格を得たのにしばらくニートになって、どうにもならない溝が出来ちゃった。とはいえ、普通の親だとしても怒られる事例だから、私はあんまり気にしてないけど」
「もう仲良くできないの?」
「どうかな。ウマスト教は人間よりも優れているウマ娘になるための宗教で、より優秀なウマ娘を育てることも広義的には活動の一部になる。テイオーがいい成績を残したら、また仲良くできるかもね」
「そっか」
「テイオーは私が家族と仲直りした方がいいと思う?」
「思う。だって、他にはいない、血が繋がった存在」
「血のつながりってそんなに大事かな」
口がよく回る。
「トレーナーをやっているから、そう思うだけなのかもしれない。或いはそう思うからトレーナーをやっているのか。分からないけど、私は人を育てるのは血統ではなく、環境だと思ってる。家族、そう多くはない。でも、友達とか恋人も、沢山作るのは難しいし、家族の方が大事とかそんなことはない。そもそもちょっと血が濃いだけで、他の人とも血は繋がっているとも言えるし。過ごしてきた時間の濃さで言うなら、タキオンやテイオーの方がずっと濃い。一緒に暮らしてきただけの他人だし、これからはもう一緒に暮らすことは無い、人生であと会うのも2、3回くらいだろうね」
「それでも、会ったほうがいいよ」
「じゃあ、テイオーが菊花賞を取れたら会いに行く」
「……………………」
「ごめん。でも同じウマスト教だから、心は繋がってるよ」
人間のことはどうでもいいという意味合いで。
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