冷たい方程式   作:明日死ぬ

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第六感

 極限の集中をもたらす領域(ゾーン)と呼ばれる段階がある。勿論、私もスポーツ選手の端くれとして僅かではあるが、入ること自体は出来る。そして、ウマ娘にはその先がある。領域展開、世界を作る力だ。

 

「ハジケが足りてない」

 

「ハジケですか」

 

 劇の準備をする合間、私はゴルシと領域展開の修業を行っていた。

 

「ハジケ……」

 

 ハジケに正解は無い。だからあくまで私なりの解釈になるが、ハジケとは捻じ曲げる力だ。心理学において、考え方を変えることで物の見方を変えるように、現実をハジケというフィルターを通してみることでまったく別の現象を起こす。セカイ系のような感じになれば成功だ。

 

「少し難しく考えすぎだな」

 

「すみません」

 

「ボケろ」

 

「…………墨まー」

 

「もういい」

 

「はい」

 

 全然うまくいかなかった。

 

⏱⏱⏱

 

「モルモット君、アイマスクにヘッドフォンを付けてそこに寝転がりたまえ、上着も脱ぎなさい」

 

 このままじゃ何回やってもダメということで、手法が変わったらしい。私はどうも常識に縛られすぎなようで、無秩序な夢の中に潜って領域を構築することになった。より深い夢の中へと落ちていく。

 

「息を吸って 吐いて 吸って また吐いて」

 

 タキオンの声が聞こえる。私をより深い眠りへと誘う声だ。催眠ガスが充満する。

 

「そろそろ手足が痺れる頃かな」

 

 ……トレーナーの中でも毒への耐性が高いからか、まだ意識がはっきりしている。

 

「口を開けて」

 

 何かが触れ合う感触。酷く背徳的で、全身が震える。

 

「―――君、――――きだよ」

 

私の全身が甘く痺れて、意識が消える。

 

 

⏱⏱⏱

 

 明晰夢というのがある。トレセン学園は夢の研究に関しては最先端のものがあって、今回はその設備をタキオンに再現してもらった形。私の夢、如何なるものか。

 

「モルモット君」

 

「モル……モット? 私のこと?」

 

「そうか。夢の中では自分の立場が曖昧になるのか」

 

 分かっているけど、正しく認識できないというか。

 

「灰色の世界だ」

 

 殺風景。こんな心の人は、枯山水の良さとか一生分からないと思う。隣のヒトと一緒に歩く。

 

「心の核となる部分――つまり、原体験を探している」

 

「あるんですか? そんなもの」

 

「ある。たとえ憶えていなくても、心の奥底には必ず」

 

 周りからしてみればは何気ないことであっても、本人にとっては結構重要だったりするらしい。

 時間の感覚ないけど歩いて、地面の灰色のコンクリートが、灰色の砂に変わった。単なる灰? 未だ世界は暗いままだ。

 

「ところで。トレーナー業は楽しいかい?」

 

「楽しいか楽しくないかで言ったら、楽しくない」

 

 責任重大だし。楽しめるほど心の余裕があるトレーナーが居たら逆に見てみたい。

 

「私達のために、君の趣味を奪ってしまったかな」

 

「別に。ネットで話したりしても、満たされないから」

 

 どんなにバカげたこと言っていたとしても、お互い近寄れない部分がある。じゃあウマ娘とトレーナーならそれが無くなるかって言われると、それも違うが。

 歩いて、気まぐれに走ったりして、極点へと到達する。灰色のドアがあった。隣のヒトがハンドルを回すが開かない。

 

「開けてくれないか」

 

 隣のヒトだと開かないのに、私なら開くってそんなことあるのだろうかと思ったのに、ドアは嫌な音を立てながらも開いた。

 

薄暗い部屋にテレビがある。点ける。子供の頃の私と……ウマ娘? 顔にモザイクが掛かっている。思い出したくないというよりかは、覚えていないのだろう。それでもウマ耳が自己主張しているからウマ娘だと分かる。

 

「相手が誰かより、ウマ娘であったということが重要らしい」

 

 といいつつも私の隣に居る方のウマ娘の顔がこわばる。私がウマ娘に殴られている場面だからか。今でこそ法律は整備されて気性も大人しくなったが、十五年前は今ほどウマ娘と日本人の仲は良くなかった。協調はしていたけど、ウマ娘による犯罪が事故が問題となっていた時代でもあった。私とウマ娘の喧嘩は見る人が見たら冷や汗ものだろう。最悪の場合死亡、もしくは大きな怪我を負ってもおかしくない。結局その時、擦り傷を作る程度で済んだのはお互いにとって幸運だった。

 時が流れて、学校でウマ娘と再会する。いや、別のウマ娘か?

 

「はっきりしてくれないか」

 

「いや、普通忘れてるって」

 

 学力テストを受けて、私が一位だった。その中にウマ娘が居た。私はウマ娘にもやり方次第で勝ちうるということを発見した。その日から柔道を始めることにした。

 

「まったく論理的じゃないが」

 

「単にレズりたかった説はある」

 

 柔道とか同性愛者しかやらんやろって偏見があった。ぶっちゃけ今もちょっとだけある。ともかく、練習して、また別のウマ娘に(そして法律の知識が多少あるウマ娘に)勝った。その時私の中で何かが壊れた。

 

「笑ってるね」

 

「何でトレーナーを目指したか思い出した」

 

「その心は」

 

「ウマ娘のことをぐちゃぐちゃにしたい」

 

 隣――ああ、タキオンだ。思い出した。タキオンも思い出しているだろう、『レースは勝てないのが普通』

 

「何てことはなく、ただ勝ちたいだけ」

 

 そして私が育てたウマ娘とそれ以下のウマ娘をぐちゃぐちゃにしたいだけ。

 

 

⏱⏱⏱

 

 作るって考え方が悪かったかな。

 

「”領域展開”」

 

 この偽りの世界を「破る」と、穴が開き、世界がそれを閉ざすまでの僅かな間に私の領域が生成される。

 

「これで、ようやく舞台に上がる準備が出来た」

 

「では私の方も準備をするよ」

 

 何にもなかったみたいに、タキオンは淡々と言うけど、そこには影がある。それもそうだろう。私が再確認した、レースを通じてウマ娘をぐちゃぐちゃ……簡単に言うならば打ちのめすという考えは、すべてのウマ娘の幸福を願うシンボリルドルフの考えの反対にある。今までありえないようなことが起きてきた中で、私たちは考える。もしも……

ジャパンカップで勝って欲しいウマ娘は?

  • トウカイテイオー
  • アグネスタキオン
  • スペシャルウィーク
  • ライスシャワー
  • その他・外国ウマ娘
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