『シンボリルドルフ シンボリルドルフなのか!』
『シンボリルドルフがゴールイン! またしても勝利を――』
昔、TVで見たシンボリルドルフの姿に憧れた。あんな風になれたら、どんなにいいだろうと。しかし、幼心でも悟る、私はシンボリルドルフになれない。
「動画のような行為はどうかと思う。感心しない。これからは監視しないといけないな。」
「(これが平常運転なの?)」
「(うん。何が面白いんだか)」
昼過ぎ、タキオンに金をせびろうと学園を訪れたらその会長、シンボリルドルフに呼び止められた。テイオーも一緒だ。動画、私がテイオーの背に乗って立ち去る所までばっちり。ちょっとバズってたらしい。観衆の誰かが撮ったのか。
「我々ウマ娘は人間と違う。ここに来るトレーナーだって訓練を受けようやくウマ娘と訓練が出来るが、ウマ娘側が本気を出せば簡単に傷つけることが出来る。怪我させたらどうするつもりだ」
「ご、ごめん。カイチョ―、そんなつもりじゃ」
「全部私が悪いんです。トウカイテイオーは何も」
「それに。ウマ娘が人を背に乗せるべきじゃない。罰は与えないが、反省するように」
私のせいでテイオーを傷つけてしまった。全然気にしてないみたいだけど、私は辛い。
「はーい…………人を乗せるべきじゃないって何だろ」
「多分、勝利の女神」
聞いたことがある。ウマ娘の背中には勝利の女神が居て、他の女性を乗せると嫉妬してしまうとか。
「ふーん。ま、最強のボクには関係ないけどね」
だから掃除もヨユーだよって微笑まれて普通に恋した。お腹も同じ気持ちみたいで大きな音が鳴った。
「一緒に食べる?」
「うん」
カフェ。
「昨日から何も食べてないの!?」
「お金使っちゃって」
何かそれだけゲームにお金を掛けてる凄い人だと勘違いされた。お金稼いでないだけです。
「連絡先交換しよ」
「携帯持ってない」
「ええっ」
お金(ry
「どうやって今まで生きてきたのさ」
それは私も思ってる。そんな風にお喋りを続けていると、知らんトレーナーがテイオーに話しかけてきた。
「俺をトレーナーにしてくれないか」
いや、まだ決まっていなかったのか。テイオーほどの逸材であればとっくに決まっていると思っていたのに。
「うーん、どうしようかなぁ」
「俺ならシンボリルドルフに並ぶウマ娘にしてやれる」
「ほんとー?」
「絶対に勝たせてやる」
「無理だと思うよ」
冷たい声が出てしまった。
「私は、絶対に無理だと思う」
「何なんだテイオーは」
「新人さんみたいだけど、ちゃんとシンボリルドルフのこと知ってるのかな? どのレースで勝ってどのレースで負け、どんな内容だったか、トレーニングにどのくらい時間を掛けてるとか、トウカイテイオーのことはどのくらい知ってる? シンボリルドルフとトウカイテイオー全然違うけど、ホントに並ばせられる?」
自分で言って、後悔する。気まずい雰囲気になってあっちが引いてくれた。それだけが収穫で後は最悪。
「ごめんね、勝手に無理とか言って」
「いや、ボクは最強だから全然気にしないけど、どうして」
何でそんなこと言うのって? わからん。
「私おかしくなっちゃったのかも」
『トレセン学園からは去るかもしれない』
何故かタキオンの言葉を思い出した。無意識に名前を呟いていたのか、テイオーが言う。
「アグネスタキオンのせいなの?」
「わかんない」
でもこの前会った時から、心がもやもやしたままだ。
「テイオーから見たアグネスタキオンってどう?」
「変な人、かな。レースにも来ないから、ちゃんと話したことはない。ズルしてるなんて悪い噂も流れてくるくらいで」
「悪い噂?」
「ドーピングとか。それだったらもっとレースに出てるとは思うけどね」
……やっぱり、トレセン学園に来たのはタキオンが走りたいからだと思った。
「ドーピングはともかく、モルモット扱いはよくないよ」
「でもお金貰ってるし」
「貰ってたとしてもだよ。身体が氷みたいになっても、仕方ないはおかしいって」
どう説明したものか。私とタキオンが納得しているのだからそれでいいと思うのだが、世間はそれを許してくれないみたいです。口外すべきじゃなかったな。
「私が嘘をついてるかもしれない」
「えっ? でも動機が無いし」
「本当のことは、話さないと分からないよ。一回アグネスタキオンのお薬を飲んでみない? そしたら、ドーピングしてるかしてないか、私の言うことが嘘か本当かわかるはず」
「えっ!?」
「これからアグネスタキオンに会いに行くけど、付き合ってくれるよね」
「う、うん。うーん」
でもアグネスタキオンはいつもの場所に居なかった。
「エアグルーヴさん、アグネスタキオンが何処か知らない?」
「彼女と会長と共にレース場へ」
「カイチョ―と? ありがとう、向かってみるよ」
なんか、嫌な予感がする。
「レース場で何すると思う?」
「そりゃレースだよ」
「今日は選考レースの日じゃないよね」
「うん。何にもやってないはず」
じゃあ二人だけで走ってるのか? 何のために?
「急ごう」
「ちょっ、わかったから」
息を切らしながら、レース場に向かう。シンボリルドルフとアグネスタキオンが軽いウォームアップを終えて、レースを始めようとしている所だった。
「アグネスタキオン!」
「……なんだ、モルモットか。報酬を受け取りに来たのかい? 少し待ってくれ、今最後のレースを行うから」
「私の方も庇うのが限界でね、アグネスタキオンには学園を去ってもらうことになった」
そしてこれは走別会というわけか。
「ところで君は、レースを見られることを嫌がっていたようだが」
「あの二人なら構わないよ。それに――」
『貴女が走っている姿を見たい』
「それに?」
「いや、何でもない。始めようか」
ただ見守ることしか出来ない私と違って、テイオーは既に応援する体制に切り替えていた。
「カイチョ―頑張れ! 頑張れ!! 一緒に応援する?」
確かに、多少(ダジャレで)幻滅した部分はあれど、今でも競技者としてのシンボリドルフのことが好きだ。あの安定感と爆発力を持った走りは今でも憧れる。生の走りをテイオーと二人きりで見れるなんて贅沢、人生に一度あるかないかの幸運だ。
「やめとくよ。ほら、観客が二人しかいないのに両方ともシンボリルドルフを応援してたら、フェアじゃない」
「それもそっか」
だのに、私はアグネスタキオンから目が離せない。
テイオーが開始の合図を務める。
「位置について、よーい、スタート!」
シンボリルドルフとアグネスタキオンが走る。テイオーは既に態勢を切り替えて実況モード。
「先頭は勿論シンボリルドルフ 二馬身つけてアグネスタキオンが追います」
テイオーから横目。あっはい。
「勝負は第四コーナーですね。両者とも脚質が差しのため、この時点でのリードは大きく影響しないと考えられます」
「あれ、知ってるの?」
「何となく」
見れば分かる。前に出ようとする意志は見られないし、追い込みというほどで遅くない。レースに出ていないタキオンの不安要素としてペース配分があるが、そこはシンボリルドルフが手本になっているようだ。
ほぼ同タイミングで、加速する。
「さあアグネスタキオン並ぶ、追い抜けるかぁあ!?」
そんなわけがない、二人の共通認識。シンボリルドルフは絶対だ。加速加速加速ほら差が開いたっ!
「アグネスタキオン、食らいつく!」
スタミナはとうに切れてるはず。だから残ってるのは根性だけ。
――アグネスタキオン、そんな顔で走るんだ。
「勝て タキオン!!」
私の応援はシンボリルドルフの妨害に力を発揮したようで、足が一瞬止まる。アタマ差、アグネスタキオンが線を踏み抜いた。
「カイチョ―が、負けた……?」
実際の複数人でやるレースであればやはりシンボリルドルフが勝っていたと思う。或いは、バ鹿正直に勝負せず、逃げるとかで勝敗は変わっただろう。だとしても、シンボリルドルフに勝つなんて並大抵のウマ娘に出来る所業ではない。
「ごめんなさい、走行妨害みたいになって」
「声援は本来のレースであれば、当たり前のように行われていること。私が足を止めたとしてもテイオーのせいではない。単純に、走り切るのが惜しくなっただけだ」
それは……そうだろう。こんな、
「これで心置きなく海外に行けるよ。モルモットとの約束も期せずして果たせたし……どうしたんだい、そんな目をして」
「行かないでください、海外。私が、私が」
「私がトレーナーになるから、とでも? モルモット君、気遣いは嬉しいがトレーナーになるにはそれ相応の教育を受ける必要がある。資格なき人間にトレーナーは」
「持ってる」
「「えっ」」
テイオーとタキオンの声がシンクロする。
「私じゃ、駄目ですか。隣に立てませんか」
「どうしてトレーナー資格を持っていることを今まで言わなかったんだい?」
「相応しくないと思ったから。でも今は、どれだけバ鹿にされても貴女の傍に居たい」
「・・・・・・」
卑怯だってことは分かってる。私がタキオンに提示できるトレーナーとしての魅力は、実験を制限しないことくらいだ。それも本格的に鍛えるなら怪しくなる。退学が無ければ、タキオンなんて私に見向きもしないだろう。
「何故?」
「顔がいいから」
微妙な空気が流れる。ありのままの心を述べたけど、選択肢ミスみたい。
「退学は取り消しということで」
シンボリルドルフ会長が私とタキオンの手を繋いでくれた。私、多分、アグネスタキオンのトレーナーになりました。
「ボクはー?」
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