Nakanaka
6時に起きる。テイオーの使用人に食料を貰って朝食を作り出す。7時になるとテイオーが起きだす。
「ふわぁあぁ。おはよう」
「おはよう」
食事の間にテイオーの身だしなみを整えたりしつつ、今日の予定を伝達。
「いってらっしゃい」
朝練に軽く走って貰う。やがて8時になるから、タキオンを起こしに行く。
「ん……もうそんな時間か」
「ほら、起きて」
今日は中々起きてくれない日だった。たまにある。
「トレーナー君も寝ないか、むしろ」
「……わかった」
タキオンの布団に潜り込む。
「なっ!?」
「起きよ?」
タキオンが布団から出たのはその5分後だった。
9時からは私と学園側のメディア担当、デザイナーさんの3者で打ち合わせ。
「よろしくお願いします」
「今回の写真集ですが」
前回出したのは私が練習中に撮影したもので、盗撮風味にしてあり、マニアからは高い評価を得ている(はず)。写真を撮ってる暇がないうえでの苦肉の策だったが、今回その手は通用しないのは分かってる。合宿中に普通に撮った写真を並べ、どれを掲載するかの話し合いへと移行。
「やはり合宿中の写真というのは定番ですから」
「他の服に着替えているところも」
勝負服、水着、私服、+αくらいが求められるところか。あーだこーだ話し合い、その後待機していた記者と話し合う。
私はともかく、テイオーとタキオンは共に名家のお嬢様ということもあって、その経歴に傷がつくようなことは望ましくない。インタビュー等を餌に、世論のヘイトがこの二人に向かわないように操る。
終わったころには11時を過ぎていたから、今度は昼食を作る。授業が終わった二人が帰ってきたので、三人で食べる。
「「「いただきます」」」
食べ終わったら、トレーニングを始める。今日のメニューは菊花賞を見据えた坂道特訓。タイムを計測しつつ、合間にマッサージを挟み、疲労が残らないようにする。
「休憩!」
といっても、その間私が用意したビデオを見てもらうのでこれもトレーニングの一環だ。取り合えず直近のレースである菊花賞のレースについて、解説を交えつつ。明日は今回出走するであろうウマ娘についての情報を見てもらうことになるだろう。
休憩が終わったら再びトレーニングが始まる。
「よーし、終わり! 夜ご飯作るから、待っててね」
作り終わったら、車に乗って移動。記者会見がある。
「トウカイテイオーの菊花賞出走を、取りやめることになりました」
「新たな三冠ウマ娘の誕生を期待してくださった方には、申し訳ない結果となりました」
フラッシュがひたすらに眩しい。レース前のウマ娘撮影が規制されたんだから、トレーナーの方も保護してくれると助かるのに。
「ジャパンカップを復帰戦として調整していく方針です」
「骨折は治ったのですか?」
「治りました。ただ言うまでも無く、骨折が治ったからといってすぐに以前と同じ走りが出来るわけではありません。加えて菊花賞はスタミナを要求されるレースですから、満足な走りが出来ないと判断したわけです」
「可能性があるなら出させてあげるべきでは?」
「中々酷なことを言いますね。それこそ、あの娘にはまだ大きな可能性があります」
まぁ、他のウマ娘には次が無い娘もそこそこ居るが。テイオーは違う。シンボリルドルフのような三冠ウマ娘の夢は潰えるが、それだけだ。ちゃんと休めばまだG1を取れる。
「菊花賞には同チームのアグネスタキオンが出走予定となっていますが」
「はい。……何か?」
「アグネスタキオンの状態はどうなっていますか? 距離適性の面でも不安視されていますが」
「状態はぼちぼち…………。まぁ、勝算はあります」
「トウカイテイオーが出走していたら、どうですか?」
「ですから、……勝算はあります」
「アグネスタキオンが三冠を阻止していた可能性があったということですか?」
「どのウマ娘にもその可能性はあると思いますが」
ちょっとざわついたのを感じた。
「トウカイテイオー、アグネスタキオン双方が対決を望んでいるので」
「菊花賞出走を断念したのはトウカイテイオーから言い出したのですか?」
嫌なこときくな。
「私から。ドクターストップも掛かっていたので」
「診断した病院の名前は」
「そのことについては、答える必要を感じません」
フラッシュは未だやまない。
「実験に遅れてごめんなさい」
「いや、いい……始めようか」
9時過ぎ。アグネスタキオンと実験を行う。
今日は目に関するものだった。受け取った薬を飲むと、あまりの痛みに思わず顔を歪み、自然と涙が出た。トレーナーじゃなければ最悪気絶していたかもしれない。
「視力はどうだ」
「多少、上がっているとは思う」
「ふーむ。もう少し伸びるかと思っていたが」
涙を拭いつつ、器具の片づけと結果を纏める。
「おやすみ。明日はちゃんと起きてね」
12時。寝てもらう。ここからは私一人で、次のレースに出てくるウマ娘の研究や、トレンド、新たに出てきた論文に目を通す。学園に出す報告書も仕上げないといけない。
2時になったら寝る。まるでhighになったみたく目が真っ赤で寝れそうにないが、タキオン性の睡眠薬を飲むとぐっすり眠れることがこの仕事のいい所だろう。アラームが設定してあるのを確認して、ベッドに倒れ込む。
――というようなことを学園への報告書に書いたら、何故か理事長に呼び出されることとなった。横にはエアグルーヴも居る。
「招集! これはどういうことか、説明するように」
「……? 何をですか?」
「働き過ぎだ」
忙しい時以外は徹夜せずに4時間も寝れて給料もいいし、ウマ娘とも触れ合えるいい仕事だと思うのだが。
「有休! 消化するように」
「しかしですね……」
トレーナーに代わりはいないから、普通に考えて休めない職業。買い取っていただけると助かる……駄目?
「改善! 働き方改革!!」
取り合えず三日間休むことになってしまった。途方に暮れてベンチに座り込む。多分、私はマグロで今止まったら死んで、元のニートに戻るのだと思う。そうなってしまったら、また戻れるのだろうか。三井のような後悔をする私の身体は、トレーナーとしてやっていくために吐きながらも食事と鍛錬を詰め込んでいる。
「食事……」
たまには食堂で。空いている席を探す、青髪が私の目を引いた。
「ここ、いいですか」
「うん」
ツインターボだ。
「……重賞初勝利おめでとうございます」
「知ってるの?」
「当然です」
重賞勝ってる娘は基本的にチェック対象、というのもあるし、逃げウマだし、私好みのウマ娘だ。もしまっとうにトレーナーをやろうとしていたら、真っ先にスカウトしていたのはツインターボだっただろう。そんなことを適当に話したら、ターボも口を開いてくれた。
「この前、GⅢで勝ったの」
「! うん」
「頑張って頑張って走って、あとちょっとで苦しくなって。届いた」
「…………」
「どれだけ頑張ればいいんだろうって思ったの。GⅡやGⅠで勝つには、この息苦しい道はもっと長くなって、長くなって、ターボが、届かないくらいの差になってるんだって。勝って、思った」
「現状を認識できたんだね」
「決してGⅠでは勝てないという現実を」
ネガティブだ。不思議と、鮮やかな青色もくすんで見える。
「お姉さん逃げウマ娘には一家言あるタイプのトレーナーなんだけど。セイウンスカイって子が居てね、G1のレコードを持ってる凄いウマ娘。知ってる?」
「聞いたことは、ある」
「そして、プレッシャーを感じやすい子だった。いつも余裕そうなふりをしてるけど、いつ追いつかれるのだろうって本当は裏で震えてた。だからそのトレーナーは言ったんだ、”ドMになれ”」
という噂話が定期的にトレーナー仲間から流れてくる。
「元々逃げっていうのは、傲慢な子か臆病な子に向いている戦法。プレッシャーも人一倍感じる子が多いし、レースでも皆から追いかけられる立場。今ツインターボが抱えている気持ちを走りに昇華出来たら、更に化けると思うよ」
「しょうか?」
「確かに、実力的には少し劣るかもしれないけど、結局レースっていうのは強いウマ娘が勝つ場じゃないからね。ただ速さを比べたいだけなら、レーンを決めて走るという手もあるし、記録で比較してもいい。なのに、一斉かつ乱雑に走るのは、ある種の神事であるからとハプニングが期待されているから」
「???」
「逃げはそういう状況の中で勝ちを拾いやすい戦法でもある。多分、ツインターボが思っているより、G1の壁は高くない。君のトレーナーも変わり種だけど優秀でフォームの矯正であったり、スタミナの増加をきちんとやらせてる。そういった努力はすぐには出ないけど、着実に地力は増しているから、だから重賞で勝てたんだと思う。ネガを存分に吐き出した後に、G2を取ったら、見える景色も変わるはず」
「分かんない」
いやこれ自己満足か。他所のウマ娘にウザ絡みするって最悪だな、私。
「でも、信じてくれてることは分かった」
後になって――私はこの時のことを死ぬほど後悔する羽目になるのだが、それはまた別の話だ。
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