アグネスタキオンが珍しく訪ねてくる。いや、これから珍しくなくなるのかも。だとしたら嬉しいな。
「これを」
スマートフォンだろうか。何かの実験に使うとか。
「いや、君連絡手段持っていないだろう。この前公衆電話から掛かってきたときはびっくりしたんだ」
だから私に? でもお金が無いし、どうやって工面しよう。
「料金は私が払うから。お金のことは気にしなくていいんだよ!」
しばらく学園に泊まり込みだろうから、連絡してもらう必要はないだろうけど。寮があるって何て素晴らしい。
「家に帰らなくていいのかい?」
「なんで?」
「君、実家住みだろ?」
まぁ、それはそうなのだが。望んで実家に住んでいる人はそう多くないと思うよ。
「家に帰りたくない」
出来れば二度と。
「帰らないならそれでいい。何か実験に役立ちそうな事柄は連絡してくれよ!」
そっか。私はモルモットでトレーナーなんだ。ただ実験を受けるだけだった今までと違って、私が実験のためになるよう手を尽くす必要があるのか。
「あの」
「何だい 手短に頼む」
「お金をください」
結構トレーナーってお金持ちが多い。元々ウマ娘が古くから特権階級と結びついた立場にあり、その育成を一任されるトレーナーの地位もまぁまぁ高かった。今となっては、私のような家柄カスの人間がトレーナーになれるくらい、具体的には教師くらいの偉さに収まる。
要するに、ウマ娘の方が偉い。
「俺のウマ娘にならないか」
「うーん」
トウカイテイオーも結構なお金持ちらしい。カフェで飲み物を啜りながらウマ娘を視姦する私は、メモに食べっぷりを記録。沢山食べるウマ娘は強いという経験則があるため、要注意ウマ娘を探す形。
テイオーがやってくる。
「さっきの人じゃ不満?」
割と実績があるベテラントレーナーだったと思う。あれで駄目ならそれこそ学園外から探さないといけないレベルなんだけど、そこまでトレーナー探しに情熱を燃やしているわけでもないようで。どっちかっていうと、テイオー側の問題なのかな。
「ほら……太っているし」
自己管理が出来てないように思えるってこと? 医者とかに痩せろって言われるとお前が痩せろって思ってしまう的な?
「走るの遅そう」
それは、そうかもしれないけど。速さを求められる世界に生きるウマ娘にとって、結構大事なことか。
「でも、それだけじゃないよね」
「うっ」
テイオーが黙ってしまったので、待つ。
「アグネスタキオンとボクだったら、どっちのトレーナーになりたい?」
「アグネスタキオン」
トウカイテイオーは、どんなトレーナーでもやっていけるとは思う。アグネスタキオンは人を選ぶ。勿論私しか出来ないわけではなく、不幸にも巡り合わなかっただけ。だからこそ今は、私がアグネスタキオンのトレーナーをやらなければならない。
「困ってるなら、これでも使う?」
今、トレセン学園のトレーナーのリストを作っている。トレーナー 一人に対して、ウマ娘が複数人付くチーム形式が珍しくないため、ウマ娘より作るのは楽。トレーナー学校時代の知り合いも居るし、実績をまとめつつ、合同トレーニングのお願いや取ってきそうな作戦を考える予定。一応トレーナー選びにも役立つかも。
「さっきの人、結構凄い」
「でしょ? 何なら今からでも」
「ここに載ってない人もいるね」
私のこと?
「何でトレーナーって言わなかったの?」
ゲーセンで会った時のことか。
「その時はトレセン学園に雇われていたわけではないし、資格を持ってるだけの一般人で」
納得してない目だ。
「相応しくないと思ったから」
「相応しくない?」
トレーナーの資格を取って、トレセン学園に行くことになって、その時怖くなって、ニートになった。
「口に出すのも恥ずかしい理由で」
「今は違うの?」
「残念ながら今も、むしろ強まってるくらい」
それでも、私はアグネスタキオンのトレーナーになりたいと願った。
「その気持ちを、アグネスタキオンを、裏切りたくないから」
少しでも立派なトレーナーになりたい。だから、その一助というか。
「可能な限り、テイオーの助けになりたいとも思ってる」
「だったら一つお願いしてもいい?」
⏱ ⏱ ⏱
レース場
「アグネスタキオン、ボクと勝負だ!」
「ふむ、皇帝の後継者がリベンジか。しかし」
それを受ける理由がないって言うのかな?
「もしタキオンが勝ったら、実験に付き合ってくれるって!」
「ほう! それはそれは、頑張らないといけないな」
実際は負けたとしても、一回付き合ってもらう約束をしているが、これでタキオンのやる気は出ると思う。
「はい、スタート!」
タキオンが先頭、テイオーが追う形に。
「(少し抑えてるな)」
シンボリルドルフも差し、アグネスタキオンも差し、そしてトウカイテイオーは差しなのだが、先行で走った方がよさそうな印象を受ける。
そのまま第四コーナー、お互いにスパートを掛け、テイオーの姿勢が低くなる。来るか、
「テイオーステップ!」
柔らかさを生かした独特の加速法。伸びて伸びてタキオンに迫り、抜か――ない。タキオンが前を譲らない。
タキオンが勝った。
「おめでとう、タキオン。ほら、テイオーも」
ドリンクを投げる。ペットボトルがテイオーの頬を殴った。
「あっ……」
ウマ娘からしたら痛くもないはず。つまり私が辛い。味が好みじゃなかった? 拾ってもくれない。
「ところで。実験というのはいつ付き合ってくれるのかな!? 暇なら今から――」
泣いてる、テイオーが。タキオンもきょとんとしてしまった。じゃあ私が行かなきゃ。
「ゲームも、レースも、憧れも、ボクの一番だったのに!」
「ほらドリンク。ところで暇な日はある? 約束の通り実験に付き合ってもらいたく」
「おいおい、トレーナー君!」
「早く退かないと他の人たちの迷惑になるよ? レース場は皆のものだから」
「……わかった」
「言っちゃ悪いけど、たかだか練習だよ」
泣くことはない。
「本当に大事なのは、本番で勝てるか否か。それだけ」
そして、今の段階で直接対決をしたらトウカイテイオーやシンボリルドルフが勝つ。
「アグネスタキオンは勝つよ。三冠も戴く」
その負けを勝ちに変えるために私が居るのだから。
「・・・・・・」
「早くいいトレーナーを見つけなさい、そしたら」
「なってよ」
「……何に」
「じゃあボクのトレーナーになってよ!」
押し倒される。強い力で捕まえられて受け身も取れないし、よくない状況。怒ってるし。
「決めるのは私じゃなくて」
タキオンの方を向く。ごめん、ちょっと引き受けて欲しい。
「実験のアシスタントなら幾らでも募集している」
「決まりだよ! 今すぐ理事長の下に行くからね!」
「今地面に叩きつけられたため身体が」
「早く行かないと他の人の迷惑になるね」
そうですね。
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