艦隊これくしょん 前日譚  海の咆哮に答えしもの   作:マツケン-2

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第七章 未曾有、第八章 咆哮

第七章

 2011年を迎えても、軍の上層部や艦娘たちに新年を祝おうとするものはいなかった。自分達が深海棲艦に歯が立たなくなる、そんな現実が差し迫っているのを感じているのに他ならなかった。

 もし深海棲艦に制海権を奪われてしまえば、海運を使った貿易や海洋資源の採掘ができなくなり、人々の生活だけでなく、はては人類の衰退にすらつながってしまう。そんな悪夢が現実の話になってしまうのである。

 

 必死になって打開策を見出そうとするが結果は変わらず、逆にそれをあざ笑うかのように艦娘側の被害は次第に大きくなってきていた。 閉塞感と絶望感に苛まれるつつある中、あの日を迎えることになる。そう2011年3月11日である。

 

 宮城県牡鹿半島の東南東約130キロの太平洋の海底、そこは太平洋プレートと北アメリカプレートの境界の近くであった。その場所の深さ24キロ地点にて、日本標準時午後2時46分18秒、最初のプレート破壊が発生する。この時点でも相当なエネルギーが発生しており、場合によっては大きな被害をもたらす可能性もあったが、それでもこの三日前に発生したMw7.3の地震よりも小さい規模であった。しかしこの60秒後に第二の地震が発生する。この第二の地震こそが甚大な被害をもたらしたあの津波を引き起こした犯人であった。

 

 この第二の地震では120km×40kmの範囲のプレートが破壊し、断層が発生していた。地震の規模から考えれば狭いといえる範囲での地震が、実にこの大震災で発生したエネルギーの約六割を占めている。その原因はプレートが破壊し、断層が生じて海底が盛り上がった量が非常に大きく、その動いた距離は平均62mとされている。これはスマトラ沖地震で確認されたものの数倍に達しており、世界最大のものとされている。

 

 地震は同じところでは数十年から百数十年の間隔で発生すると考えられるが、その時に溜まったエネルギーが開放しきれないことがある。それがあまりにも雄大な時間に渡って蓄積され、それらが全て開放されると超巨大地震が発生する、と言う理論が提唱されてはいた。しかしこのスーパーサイクルと呼ばれていた理論はまだ理論上の推論という扱いを出るものではなかった。しかしそれが実際に起こってしまったのである。

 

 その後茨城県沖で第三の地震も発生。これらの地震が組み合わされた結果、福島から関東地方にかけての広い範囲が断続的に大きく揺さぶられることになった。

 

 最終的に三つの地震が連続的に発生しており、スマトラ沖地震と同じ連動型地震とされ、この複数の地震を合計したエネルギー量はMw9.0となり、近い場所で発生した明治三陸地震(Mw8.5)や、昭和三陸地震(Mw8.4)を大きく上回り、関東大震災(Mw8.2)の約16倍、阪神・淡路大震災(Mw6.9)の約1450倍ものエネルギーが発生。これは世界的に見ても過去百年間でも四番目の規模とされている。

 

 これほどの巨大地震、当然近代日本では経験がない。引き起こされた津波による浸水範囲は非常に広範なものとなり、約1100年前の貞観地震(867年)の後に作られた「このより下に住居は作ってはならない」と書かれた石碑がある所まで届いていた。この石碑があった場所は海岸から数kmも離れた場所にあったにも関わらず、である。まさに千年に一度、訪れる海の悪夢であった。

 

 この地震は後に東北地方太平洋沖地震と呼ばれ、この地震による災害は東日本大震災と呼ばれることになる。

 

第八章

 またこの東北地方太平洋地震では、ある興味深い事実も見られた。

 

 それは遡ること2009年3月17日、欧州宇宙機関(ESA)からとある人工衛星を打ち上げられていた。その衛星はGOCEと呼ばれていた。

 

 この衛星の主目的は地球の重力のごくわずかな差、重力異常を捉えて、地表からは見えないマントルやプレートの動き、重力による海流の影響を調査することであった。

 

 この衛星のユニークな点は、非常に低高度を飛行することであった。高度100km以上を一般的には宇宙と定義しているが、この高度でも大気はごく僅かに存在しており、この高度にいる人工衛星はわずかではあるが、大気による減速を受けてしまう。ロケットから分離した後は慣性のみで飛行する人工衛星にとってこの薄い大気は大問題で、ほっておけばすぐに地上へ落下することになる。

 

 そのため他の地球観測星では、大気の影響がほぼない600kmという高度で飛行するのが一般的である。しかしこのGOCEは精度のよい観測を行うため、小惑星探査機はやぶさでも活躍したイオンエンジンを使い、大気により減速した速度を補うことで高度280kmという低い高度で長期間観測を行えるようにしていた。

 

 そんな衛星が2011年3月11日、東北地方太平洋地震の発生した30分後に太平洋沖の上空を飛行していた際、不自然な大気密度の変化を観測していた。またその25分後にも同様の大気密度の変化を観測。

 

 解析の結果、この大気密度の変化の正体は超低周波音の”音”で有り、その発生源が東北地方太平洋地震であることが判明したのである。

 

 衛星に搭載されていた観測機器の性能と低い高度にいたことで初めた観測された結果ではあるが、この地震がいかに巨大であったを物語るできごとでもある。

 

 それはまるで千年の眠りから目覚めた海の怪物が発した”咆哮”というべきものであろう。

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