ダンジョンに行かなくなってから数日、俺はひたすら買い出しやら街のパトロールなどをしていた。パトロールも買い出しも団長や輝夜さん、我らが主神であるアストレア様の意向で必ず一人で行動しないことを義務付けられていた。
異常事態が起きているのが原因なら、数日休めば予感は消えると思っていたのだが、一向に無くならずむしろ段々と大きくなっているというのが現状である。一度階層主などの強敵によるものかと思ったがゴライアスは既にこの前倒していたお陰で、復活するには早すぎるので論外だし。
それ以降の階層主に関して言えば闇派閥との争いが活発なこの時期にファミリア全体で遠征に行くなんて事はなく、そんな事をしているのは今の二代派閥である、ロキファミリアかフレイアファミリアぐらいなもので中堅ファミリアであるアストレアファミリアはガネーシャファミリアとの協力の元街のパトロールも行なっている為降りることは現状ほぼ無いと言っても過言ではない。
まぁその下の階層で闇派閥どもが活動しているなら行くしかないのだが…
そんなこんなで今日も街のパトロールをしているわけなのだが、今日の俺の監視役もとい保護者役はアストレアファミリアからではなく、協力関係にあるガネーシャファミリアから来たアーディ・ヴァルマだ。
レベル3の上級冒険者『象神の詩』の二つ名を持つガネーシャファミリアの一員でかつ団長であるシャクティ・ヴァルマの妹である。
何故そんな人物と知り合いなのかというと、数年前の闇派閥の暗黒期の時には俺の目の怪しさも相まって、女性しかいないアストレアファミリアの新人冒険者ということで、めちゃくちゃ怪しまれていた俺の監視役としてガネーシャファミリアから派遣されてきたのが彼女だった。派遣といっても街のパトロールをする時や街中であった時に時折行動を共にするくらいでそこまで親しい仲では無かったのだが、とある事件で偶然命を助ける結果になって以降絡まれる機会が増え、最近ではゴライアスの件で怪我をした時もお見舞いに来てくれた。
そんな彼女が何故俺と共に行動しているのかというと、簡単な話アストレアファミリアのメンバーが俺を除いてダンジョンに潜っているため、アストレア様が気を聞かせてガネーシャファミリアに頼んだらしく、それでよこされたのが彼女だったというわけだ。
「さて、今日も見回り頑張ろっか」
「はいはい、わかってますよ。それが今の俺の仕事なんでね。……それにしても悪いな俺に付き合わせる形になって、ガネーシャファミリアも忙しいだろうに」
「全然そんなこと気にしなくていいよ。これは私が好きでやってることだし、それに最近はアストレアファミリアや皆のおかげもあって、闇派閥の勢いも大分落ち着いてきたからね」
少しはやすまないとねと言いながら快活に笑う彼女。
ベンチに腰掛け二人並んでオラリオの街を静かに眺める。
確かに彼女の言う通り、最近闇派閥の行動が落ち着いてきているというのは団長達は言っていたが、俺はそうは思わない。
何故って?そりゃあさ
「・・・・・!?」
勢いよく血しぶきが上がる。噴水のように高らかに吹き上がるそれは血しぶきと共に、そこに付いていたであろうものも高く高く吹っ飛んでいく。
「ハチマン!?何どうしたの急に!?」
アーディがいきなり立ち上がった俺を見て悲鳴を上げる。
そりゃあそうか今の俺は全身血まみれなんだからな。さっきまで隣にいた奴がいきなり血まみれになってたら、誰でも驚くだろう。
「それって・・・・ハチマンの血じゃあ・・ないよね?」
流石はレベル3の冒険者なだけはある。
今俺が浴びているこの血は俺の血ではなく、俺らの後ろから後を付けていた闇派閥の奴の返り血だからな。
「後ろに転がっている奴の血だ、俺のじゃない」
そういうとシャクティはベンチの後ろを覗くと、そこには片腕をもがれた人間が転がっていた。
「っつ!?ハチマンこの人は!?」
「死んじゃいない、襲ってきた腕を切り落としただけだ。それにしても驚いた、レベル3のアーディに気づかれない程のハイドに腕を切り落とされても悲鳴一つ上げないその根性、レベルいくつだよお前」
「・・・ちっ、全滅は無理か」
数秒後には切り落とした腕を拾い俺たちと距離をとる。
俊敏もそこそこ高い。だが、見た感じ俺らと同レベルはおろか、それ以上のレベルではないはずだ。
だが、アーディが気づかない程のハイド持ちを野放しにするのはこれからの脅威になりうる。
それならば、今ここで捕まえることが先決か。
「アーディ巻き込んで悪いがこいつ捕まえるの手伝ってくれ」
「・・・っつ!!うん、任せて!!で、何をすればいいの?」
「近くにいる市民の避難を頼む、逃げられて街中に潜られたら、いくら俺でも見つけるのは難しい」
「わかった!!ハチマンも気をつけてね」
そういうとアーディは俺とは反対の方向に駆けて行った。
アーディを避難に向かわせた理由は市民の安全第一というのもあったが、もう一つの理由がある。
それが、アーディがこいつのハイドに気づかなかったことだ。
レベル3のアーディに気づかれない程のハイド持ちの奴のレベルが恐らく2か3だと予想したからだ。
「全くあんたもついてないな?さっき死んでおけば絶望することなんて無かったのによ」
推定レベル3の闇派閥が俺に語り掛けてくるが、それを無視して俺は攻撃を仕掛ける。
短剣での連続攻撃を行う。
一発、二発と躱されるが問題ない。
「おいおい人の話は聞くもんだぜ、正義の使徒さんよ」
短剣での攻撃を避けたことに調子に乗ってか、躱した直後に背後から片腕で武器を振り下ろす。
「ほぉら、後ろががら空きだぜ!!」
確実にとったとそう思っただろう。
速さも、体の動かし方も並みのレベル3ではない。
勝利を確信しているのだろう。
酔っているんだろ?格下である自分が格上を屠れる高揚感に....
だからこそ、あめぇよ!!
ズドンっと後方へと吹き飛ばされる闇派閥。
急速停止からの後ろ蹴り、得物を囮とした格闘攻撃。
敵は仕留める瞬間が一番油断する、その隙をつきつつ相手の予測を超える行動を行う。
予測していなかった攻撃は確実に相手の脳天にぶち当たり、商店街の壁へと突き刺さる。
もし、俺がランクアップしていなかったら危うかったかもしれないが、今の俺はリオンさんと並ぶ俊敏を得ている。
そんな俺が格下の俊敏特化の奴に負けるなんて無様な真似を晒せるわけないだろう。
ましてや、相手は片手のみの相手だしな。
とりあえず、被害も壁以外は出さずにすんだので良かった。
それと同時に気になったことが一つある。
先程は無視していたが、こいつが言っていたここで死んでおけば良かったというセリフ。
流石にあの場面で強がりにしては弱いし、何よりこいつ一人で俺をやれると思っていたこと自体も不思議だ。
俺のレベル4に対して推定レベル3一人で戦うことに勝機を見いだせていたのだろうか?
他にも仲間がいたのなら、わかる。流石の俺でも街を守りつつ複数人の相手をしなければならないとなると多少不利にもなる。
もしくは、奇襲を仕掛けることが目的だったのなら、初撃を交わされた時点で一度引くのがアサシンとして正しい行動のはずだ。それも相手が格上なら直のことそうすべきである。
なのに、無謀にも片腕を落とされ、万全ではない状態で突っ込んでくるその真意とは?
それが分からない。
なので、直接本人に聞くことにしようか
「おい、起きろ。そこまで強く蹴ってないからレベル3程度なら意識ぐらいはあるだろう?」
「・・・っち、この化物め。でたらめに強すぎるんだよおめぇはよ」
埋まっていた瓦礫から引っ張り出し、こいつに話を聞くことにした。
喉元には短剣を突きつけ下手な真似をしようものなら、首を飛ばすという圧を与える。
男が両手を上に上げ降参のポーズをとる男に気になっていたことを聞く。
「で、なんで向かってきた?近くには潜伏している仲間もいない。奇襲も失敗に終わった。なのになぜ向かってきた?」
「・・・・」
「それに俺が絶望するって何のことを言っている?街にはアーディが住民を避難させているし、ガネーシャファミリアの他のメンツも出てくるだろう。これで街で何が起きてもすぐに行動に移せる」
くっくっくと俺の話を聞いて笑う目の前の男。
何がおかしい?俺は正しい見解を述べたまでだ。
街にはガネーシャファミリアがでていて、街で騒ぎを起こすことも容易ではない。
なのになぜ笑う?何か俺が見落としている点があるのか?
考えに耽っていると今度は目の前の男が質問をしてきた。
「なぁお前の仕事ってなんだ?」
「俺の仕事?そんなのオラリオの都市を守ることだよ、お前らみたいなやつからな」
「それはアストレアファミリアの仕事であって、お前の仕事じゃねぇだろ?」
俺の仕事・・・だと?ファミリアとしての仕事じゃないとすれば俺の仕事って・・・
「寝る事・・・?」
「んなわけねぇだろ!?ふざけてんのか、おめぇはよ!!」
「いや、ふざけているわけじゃないんだけどね?」
「今のどこに真剣な「で?」いやーマジでした。マジでしたよね、うん」
喉元に短剣を突き立てたら、すげえ勢いで手のひら返ししてきた。
そのままはよ続きを話せと短剣を何回か近づける。
「っち、まあいいや、こうしてくれているだけで俺としては役割を全うできているからな」
「なんだと・・・?どういう意味だそれは?」
「・・・なあ、お前の守るべきものは何だ?」
「俺の守るべきもの・・・?そりゃあオラリオだろって、言ってもそれはファミリアとして・・・っつ!!お前らまさかアストレア様に何かするつもりか!!」
だが、アストレア様の周辺には今はガネーシャファミリアの団員がいるはずだ。
俺のお世話係としてアーディが来た時に他の数人の団員を連れてうちのホームにやって来た。
それは、今日はホームからファミリアのメンバーがいなくなるから、以前のように狙われないようにとアーディ達が気を使ってくれたからだ。
だからこそ、俺も安心して自分についてきているこいつとアストレア様を離すことにしたのだから。
「うーん、まぁ惜しいちゃ、惜しいな。だけどさ、まだいるだろうがよ」
「何の話をしている?アストレア様以外で俺が守るべき人物なんて今オラリオにはいないぞ。団長達も今は地上には……!?お前らまさか!!」
「やっと気付いたのか間抜け。俺らの目的はアストレアなんて神じゃねぇ。そのアストレアが束ねるお前ら正義の使徒を全滅させる事なんだよ!!なのにこっちの準備は既に完了してるってのに一向にお前らが全員でダンジョンに潜りに来ねぇからよ、ちと予定を変更する羽目になっちまったがな。まぁお前以外全滅ってシナリオも悪くねぇだろ?」
「っつ!!お前らふざけやがって!!」
「ぐふっ!!」
目の前の男を今度こそ殴り飛ばし、地面に減り込ませる。
朝からあいつらはダンジョンに向かっていて、現在の時刻は昼過ぎ。
数時間は既に立っているのに加えて彼らは既に準備を数日前に終わらせていたと言っていた。
そして、俺が感じた違和感も同じく数日前からだった。
俺のアビリティの件と今回の闇派閥襲撃の件は決して偶然なんかじゃない。
あの日予定通りなら、俺らはダンジョンに潜っていた。
だが、それを俺のアビリティの件があったおかげで、全員が様子を見る事になり、ダンジョン探索は延期となっていたのだ。
だが、アビリティの予感は一向に消えなかった。
それはこいつらがいつでも殺せるようにと罠を貼り続けていたから、俺の予感が消えることがなかったのだ。
「ああ、最悪だ、ほんと。勘違いをしていた。」
そして、もう一つこの予感の件が俺の死ではないかと予想していた件もまた、揺らぎ始めている。
この予感が俺に限ったものでなく、俺の身近な存在に対する死を告げるものだったのなら、それは俺以外が死ぬ場合でもアビリティが発動する。
本来であれば、俺があいつごときにやられるとは思わない。
だからこそ、今も鳴り響く鐘の音は俺ではなく俺の大切な仲間達に向けられて響いている事になる。
アーディ達に先ほどの男を任せ、一目散へとダンジョンへと向かう。
ホームに帰って、アイテムや装備を取りに行く時間も惜しかったので、ガネーシャファミリアに受け渡したタイミングで、持っている物を貸してもらった。
速く、速く、速く、速く!!!
一階層、二階層、三階層と段々降りていくにつれ、誰かしらとの戦闘を行った形跡が残っている。
それは下は降りれば降りるほど如実に増えていった。
俺が出せる最速のスピードを持ってして、下へ下へと突き進む。
途中で怪物と出くわしても無視して進み、攻撃を回避する時間も惜しみ、攻撃を食らいながらでもスピードは落とさず下へと進んだ。
何本か骨も持っていかれてるかも知れないが無視して突き進む。
そうしなければならないと強い強迫観念が俺を支配していた。
リヴェラの街を抜けてさらに下の下の階層へと突き進めば、何か爆発させたかのような跡がダンジョンの通路に残っていた。
それは一箇所だけでなく、複数の場所で確認できた。
何が起こっているんだ?
ダンジョンは生きている。
これは冒険者なら誰でも知っている言葉だ。
だからこそ、ダンジョンの傷は修復するし、倒した怪物も復活する。
なのに、自動修復が追いつかないほどの傷をダンジョンが負っている。
前代未聞な事が起きているということだけが、今の俺にわかる精一杯だった。
(誰も死なないでいてくれよ、頼むから)
考えを振り払いさらに下へと突き進む。
防具はボロボロ、借りてきたポーションやマジックアイテムも何本かぶつけて壊してしまった。
頭や腕、足など幾重にもかすり傷や打撲を負いながら辿り着いた先。
そこで見たのは団長達ではなく、目が絡むほどの大爆発だった。