夢を叶える努力貯金   作:ほお袋

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30枚目 二の矢を番えて急ぎ足

「あ、ししょー!」

 

 その元気な声が響いたのは、有マ記念に向けて、ミホノブルボンと最終調整に入っている時だった。

 桜色の尻尾を二つ靡かせて、体操着に身を包んだ少女が、彼との距離を瞬く間に詰めた。目を向けた瞬間には、もう目の前に立っている。

 

「ウララ? 戻ってたのか」

「うん! だってだって、もうすぐ有マ記念でしょ? だから、ししょーとトレーナーに一度会いたいなーって!」

「『チャンピオンズカップ』はどうしたんだ?」

「今年は有マ記念に全力だからね! だって、ししょーとトレーナーも、本気なんでしょ?」

「本気だよ」

「なら、私もちょーせい? やろうかなって」

 

 彼は頭をかいて、一つ息をついた。どういう言葉をかけようかと、息を吸いながら考えていると。

 

「マスター、ノルマを達成しました」

「ん? あぁ、じゃあ次は――」

「あ――――っ!」

 

 ハルウララの大声に、彼の声は遮られた。そして気づいた時には、目を輝かせた彼女はミホノブルボンの前に、風を置き去りにして立っていた。

 ミホノブルボンは、あまりの勢いのせいか。一歩だけ後ろにひいた。

 

「ね、ね、ししょーの教えを受けてる子だよね!?」

「……そちらの男性があなたの『ししょー』に該当するのであれば、その通りです」

「わ、やっぱりやっぱり! じゃあ、有マ記念で競争だね! 私、負けないよ!」

 

 ふんす、と鼻を鳴らして両の拳を握る。ハルウララの宣言に、ミホノブルボンは首を横に振る。

 

「勝つのは私たちです」

 

 彼女は強く、ハルウララを見つめた。

 

「うーん……あっ、そうだ!」

 

 いいこと思いついた、と頭の上に電球でもついたように、その顔にパッと花開く。

 

「今からレースしようよ! 私、走りたくってウズウズしてるんだー!」

「いや、ウララ。それは」

「……マスター」

 

 彼が眉をひそめて渋ったところに、ミホノブルボンが呼びかける。

 

「通常通りであれば、次はレース形式での走行となります。そしてその際、競争相手の存在は、より強固な経験として効果を見込めると考えます。……つまり、ウララさんとの模擬レースを希望します」

「……うーん」

 

 困ったように、低い声を漏らしながら頭を掻いた。彼はそこからすぐに息を吐くと、わかったと頷いてみせる。

 

「なら、今回はラップタイムを意識するように。目標タイムは2分28秒。競争というより、自己ベストと戦うんだ」

「……はい!」

 

 ミホノブルボンに指示を飛ばせば、彼女はピンと直立して声を張り上げる。そしてすぐに身を翻すと、スタートラインの方に向かっていった。

 

「むー……ししょー、私が負けるって思ってるでしょ?」

「いつも通りになると思ってる」

「いいもん。ここで勝って、ししょーをびっくりさせるから!」

 

 そう言うと、ハルウララはその身を翻しスタートラインの方に駆け出した。快調な様子で、その瞳と身体に力をみなぎらせ、小柄な少女はターフの上に立つ。

 

「……ウララだしなぁ」

 

 彼はひとりゴチると、肩を落として同じくスタートラインに向かうのであった。

 

 

 

「また負けちゃったー!」

 

 悲鳴のように声を上げ、ハルウララはくるくると円をかいて頭を振っている。二つの尻尾が勢いに跳ねて飛び、小さな獣が唸ってやまない。

 

「……?」

 

 ミホノブルボンはただただ、首を傾げるしかない。それ以外にどう反応していいかわからなかった。そして純粋に、この大差をつけての模擬レースの結果を不思議に思っていた。

 

「ししょー! 私、なんで負けたんだろ?」

「練習だからでしょ」

「そうじゃなくって! 走り方とか、ふぉーむ? とか!」

「遊びすぎ」

「えー……せっかく、はやく走れる必勝走法! を編み出したのに」

「いつも通り走るほうが絶対速いから」

「だってだって! いつものってししょーとトレーナーのズルだー、って言われるから……」

「走り方にズルもクソもないから。……というか、その走り方はウララにしか出来ないし。そんなの気にしないでよろしい」

 

 彼がどれだけ宥めても、ハルウララの喉が鳴り止むことはなかった。結局、彼女は納得しないまま。夕焼けを見て「あー! 約束してたんだった! またねー!」と風のように去っていった。

 

 

 

「……マスター」

 

 ミホノブルボンは沈黙を破った。嵐の後、ようやく風が止み声が聞こえるようにでもなったかのように。彼女の表情は、模擬レースが終わってから変わっていない。

 

 彼はそれに、曖昧な笑みを浮かべるしかない。

 

「ウララさんは、どうして非効率的な走りを?」

「……ウララにも、色々あるんだ。半分は俺のせい」

 

 だけど、と。

 彼は真剣な眼差しでミホノブルボンを見ると。

 

「レースじゃ別人だ。とにかく、ウララからは逃げ切れ。君の脚質じゃ、中盤で突き放されたら逆転はない。だから、ウララを寄せ付けるな。それくらいのリードを保って……ゴール前の坂を突っ切れば、君の勝ちだ。登り坂で君に勝る子はいない」

「……はい」

 

 ミホノブルボンは頷いたものの、その耳を畳んでいる。練習に戻ろうと、垂れた尻尾が芝を掠める。

 

「ウララに勝ったら、全て話す」

 

 聞き逃すまい、と耳が直立する。たったそれだけの言葉で、歩む力が強くなった。

 

「……隠し事は趣味じゃないんだ。だから、勝つぞ」

「オーダー受理。必ず遂行してみせます」

 

 夕日が沈み切るまで、ミホノブルボンの特訓は続いた。

 

 

 

『勝てないウマ娘ハルウララ! 有マ記念三連覇に迫る!!』

 

 若気の至りだった。

 彼は記事の一面に視線を落として息をつく。

 

 一昨年、昨年。どちらの有マ記念の動画を見てみても、めちゃくちゃだ。ペース配分なんてものはなく、ただ走りたいように走らせる。

 

 指示は簡単だった。誰よりも前に行け。

 それだけで、ハルウララはその真価を発揮した。落ちることなく、終始加速し続ける。動画の中で、一人追い抜きまた加速。二人追い抜き風を切り、三人追い抜き喜びからステップを踏んで外に出る。最終の坂では減速することなく差し切る。

 

 一昨年の有マ記念。ハルウララは笑顔で走っていた。一人抜くたびに喜び勇み、その気持ちを力に加速した。

 昨年の有マ記念。ハルウララは必死に走っていた。歯を食いしばり、その瞳に闘志を滾らせ、垢抜けた様子でその威風堂々たる走りで一着についた。

 

 最初で最後のチャンスだ。

 

 ふと自室の机の上に視線を向ければ、まだ昔の名残が鎮座している。

 何十枚に及ぶ虹の蹄鉄コインが、ウイスキーの瓶の中に入っている。夢を見ていたあの頃のきらめきは、今なお色褪せることはない。

 

「……勝ってくれ」

 

 トレーナーに出来るのは、結局のところ、ウマ娘たちが万全に走るために後押しすることだけ。レースに向けて、コンディションの調整に勤しむことしかできない。

 

 それが歯痒くて、彼は立ち上がり窓から外を見た。月明かりのない空。どんよりと厚い雲が覆っているその光景を見た時、彼の口元は引きつり、咄嗟に数日分の天気を確認して……やり場のない拳が宙を切る。

 

「最悪だ」

 

 有マ記念の当日。その天気は90%の雨予報。

 まだ数日ある。天気がここから変わる可能性は十二分にある。天気が持ち堪えて、良バ場で迎えることはできるかもしれない。

 だが、仮にも有マ記念を重バ場で迎えたとしたなら。当日に雨が降りしきったりでもしたら。

 

 果たして、ハルウララに勝てるウマ娘は居るのだろうか。

 

「……もってくれよ」

 

 黒く厚い雲を睨みつけながら、彼は深く息をついたのであった。

 

 

 

 クリスマスイブ。有マ記念に参加するウマ娘とそのトレーナーは、その日をクリスマス本番のように楽しむのが通例だ。25日には荷造りがあり、26日には出発。27日にはレース本番。25日に遊ぶことは、余裕を持った準備をする上で出来ないのである。

 

 そんな日に、彼はプレゼントを見繕っていた。同僚に渡す義理のモノと、担当する彼女に渡すモノ。あとはついでに、手土産としてちょうど良さそうな品の見繕い。有マ記念が終わればあっという間に年末だ。ミホノブルボンの実家に訪問する手前、時間はそれほど残されていなかった。

 

「……」

 

 ふと、デパートを巡っている折に頭の端に記憶の中の噂が過る。

 ミホノブルボンは尻尾の筋力だけで自分の身体を支えることが出来る、とかなんとか。

 

「よし」

 

 決まりだ、と彼はようやく目的を持って足を運ぶ。

 店に入ると、店員をつかまえて希望する商品の特徴を言いつのり、紹介された商品の更に詳細な説明を聞いて、じっくりと考え込む。これだ、と決めた時には店員も困り顔だったことに、彼は一言謝罪を入れてから、更に商品について聞き込み、商品を追加で買っていく。

 

 そうして買い出しを終えた時には、両手にいっぱいの荷物となる。財布の中身に反比例して、両手には重みがのしかかる。彼の足を地につけるように。

 紙袋の擦れる音が、喧騒の中に掻き消えた。

 

 

 

 彼とミホノブルボン。二人専用の会議室には既に明かりがついていた。時計に視線を落とせば、まだ18時を回っていない。彼はその事実を確認して口元をほころばせると、カチャリと音を立てて扉が開いた。

 

「マスター、お疲れ様です。どうぞ中に」

「あぁ、ありがとう」

 

 ミホノブルボンが、尻尾を抱えながら出迎える。彼は両手に大荷物を持ちながら、先導されるままに部屋に入ると、程よい部屋の室温に包み込まれる。壁に掛けられたエアコンのリモコンを見てみれば、25℃に設定されている。机の上には孫の手が置いてあり、他には何も置かれていない。

 

 彼は机の上に大きな紙袋を二つ置いたところで、深く息を吐く。肩を大きく回してストレッチをしているところで、トポトポ、と何かが注がれる音が聞こえてきた。

 

「魔法瓶に補充していた生姜湯です。冷えの改善、脂肪の燃焼などの効果が期待できます」

「手際が良いね……うん、美味しいよ」

 

 流し込んだ熱が喉の奥に、そして腹の中に落ちていくのを確かに感じる。体の中心から、血流が流れるようにまたその熱もよく伝わってくる。ぽかぽかと、春の陽気のような温かさが体内に巡り始める。

 

「コートをお預かりします」

「え、あぁ、うん……うん?」

 

 ホッと一息ついている間に、ミホノブルボンは彼の背後に立っていた。意識の隙を突くような鮮やかな手際でコートをはぎ取ると、彼女はそれをハンガーに通して衣装ラックに引っ掛けた。

 

「マスターに『困惑』のステータスの発生を感知。しかし、これまでの状況に異常は検出されません。つまり、原因不明です」

「……いや、まぁ。何から何まで世話してもらうのがむず痒かったから」

 

 彼がそう言うと、ミホノブルボンは俯いて考えた後、困惑しているのか瞳を弱々しく揺らして「あの」と小さく声を出した。

 

「マスターにとって、私の行動は『迷惑』でしたか?」

「いや、いやいや。そうじゃないんだ。そうじゃないから。ただ、慣れなくて戸惑っただけだ。労ってくれるのは、嬉しいよ」

「……!」

 

 どうにも早口になって、しかしそれでも素直に気持ちを伝えれば、ミホノブルボンはその無表情の中に明るい花を咲かせた。目元が緩み、強張っていた口元が元に戻り、肩がゆっくりとおりていく。

 そして、ミホノブルボンは動き出す。会議室の中央にあるテーブル。その椅子から袋を取り出すと、それを彼の目の前で差し出した。

 

「メリークリスマス。気持ちばかりの、プレゼントです」

 

 メタリックカラーの、光沢のある袋だった。袋には有名な男性物ブランドのマークが入っている。彼はそれを受け取ると、「中身を見ていいか?」と断りを入れる。

 ミホノブルボンは、それに力強く頷いた。

 

「――ネクタイ、か」

 

 それは、鋼の蹄鉄模様があしらわれたネクタイだった。レース場に刻み付ける彼女たちの足跡の模様。『トレセン学園』に所属する人間として、つけるのに何の違和感もない。むしろ、その仕事に誇りを持っているように思われるだろう一品だ。

 

「以前より、マスターはネクタイのデザインに変化がありませんでした。普段の様子から、ネクタイを一本しか持っていないと推測。よって、こちらの一品に落ち着きました」

「……ありがとう。そこまで見られていたのは、ちょっと気恥ずかしいけど。大切に、使わせてもらうよ」

 

 そう言って箱のふたを閉めようとした彼の手を、風が掠める。

 

「試着を提案します。サイズが適切か確認すべきです」

「……」

 

 毅然とそう言ってのけるミホノブルボンに、彼はほんの少し沈黙する。暖房によるものか、風の音が妙に響く室内で、彼は静かに息を吐く。

 

「鏡がないから、別の機会に」

「問題ありません。適正の判断において、平均よりも上であると自負しています」

「……じゃあ、任せてもいいか?」

「オーダー承認。これよりオペレーション『プレゼント』を遂行します」

 

 そう言うと、ミホノブルボンは素早い手捌きをもってプレゼント箱からネクタイを手にする。えっ、と彼が声を上げるのも構わず、彼女は「失礼します」と彼の首の後ろに手をまわした。

 

「……」

 

 たじろぐ彼に構わず、ミホノブルボンはどこか手慣れた手つきでネクタイを結んでいく。結び目は綺麗な逆三角形にして、彼女は満足したように頷く。キュッと結び終えれば、ミホノブルボンは彼をジッと観察した後、柔らかく顔を綻ばせた。

 

「よく似合っています。……より、マスターらしく仕上がったと判断。つまり、オペレーション『プレゼント』は大成功です」

 

 胸の前で両の拳を握って、ふんす、と得意そうにあるいは満足そうに彼を見上げる。唸る風にウズウズと細かく動く耳。

 そんなミホノブルボンを見れば、彼も言うことは絞られる。

 

「ありがとう」

 

 その言葉がこぼれると、彼の顔も自然と綻んだ。先程の緊張とは一転、肩の力も抜けていく。

 

 心地の良い沈黙がしばらく続く。

 ミホノブルボンは彼のことをジッと見つめて動かない。何を考えているのか、あるいはどこか上の空なのか。彼女はマネキンのように微動だにしない。

 対して彼は、贈られたネクタイがどんなものか、実際につけてみた後のデザインを観察する。それを一通り見終えた後は「そうだった」と顔を上げて、買ってきた大袋の方に駆け寄った。

 

「いつも頑張っているから。……メリークリスマス。君へのプレゼントだよ」

 

 大袋の中から取り出したのは、それよりも小さな袋だ。ウマ娘たちの間で有名な、尻尾のロゴが特徴的な袋。

 ミホノブルボンはその袋を見て、反射的に耳も尻尾も肩も跳ねさせた。

 

「……」

「ハードなトレーニングばかりだし、手入れのための道具は使うかなって思ったんだ」

「……開封しても、よろしいでしょうか」

「いいよ」

 

 袋の中には、それぞれ赤と緑のクリスマス仕様にラッピングされた箱が二つ。そしてラッピングされ膨らんだ包装紙が一枚。

 

 まず、包装紙の方を丁寧に開くと、そこにはウマ娘の尻尾用のローションが入っていた。女性は髪が命というが、ウマ娘は尻尾も命だ。彼女も見たことのある商品に、息をひとつ吐いて、机の上に置く。

 

 続くのは箱の方。比較的小さい、手のひらより少し大きな箱のラッピングを、これまた丁寧に剥がして、箱の蓋を開けると。

 

「……鋏」

 

 それは、ウマ娘の尻尾に特化した鋏であった。尻尾の毛は、髪の毛に比べて幾分か固く太い傾向にある。そのため、髪と同じ鋏は使えない。強度と切れ味、共に優れたメタリックカラーのそれに視線を落として、彼女は恐る恐る指の腹で触れる。ひんやりと、冷たくもどこか暖かい感触。

 

 袋が乾いた音を立ててその表面を揺らす。

 

 最後に、両手で持つような箱に手をかける。壊物でも扱うように慎重に、職人のように厳かに鋭い視線を向けながら、彼女は包装のテープを一枚、一枚、綺麗に剥がす。

 そしていよいよ箱が現れると、紺色の外装に銀の文字とロゴが彫られた、如何にも高級そうなデザイン。

 胸に手を当て、大きく息を吸い込む。

 細く、深く息を吐き切ると。

 

 彼女は意を決して、その箱の蓋に手をかけた。

 

「……!」

 

 予想通り、というべきか。

 そこに入っていたのは、ウマ娘の尻尾のために作られたブラシであった。

 

 それらの品々を見て、ミホノブルボンは処理落ちした。瞬きを忘れて、呼吸を忘れて、ただただプレゼントを見つめてやまない。

 

「……」

 

 彼は、その様子を固唾を呑んで見守っている。一体、どんな反応が返ってくるのか。

 緊張して張り詰めた空気が場を支配する。

 

「……」

 

 ミホノブルボンは、自分の尻尾を膝の上に置くと、その指で一度梳いてみせる。すると、どこか納得でもしたように一人頷いて。

 

「毛並みのコンディションの『不調』を確認」

 

 と、彼に背を向けたまま呟いた。彼にも聞こえる声で、はっきりと。

 

「コンディションの向上のため、尻尾の手入れを希望します」

 

 ミホノブルボンはあくまで背を向けたまま口にする。

 

「それはダメだ」

 

 彼も迷うことなく言い切った。

 ミホノブルボンの尻尾が踊る。見るまでもなく、正確に彼の手首に巻きついた。

 

「30枚目を、昨日いただきました。権利の執行を希望します」

「ダメだ。それじゃあ釣り合いが取れない」

「代案を提出。有マ記念において一着となった時、尻尾の手入れを希望します」

 

 彼はその提案に、重く沈黙する。

 しかし、どれだけ沈黙を保とうと、ミホノブルボンが退く様子は微塵もない。決意が硬いのか、張り詰めた空気が走っている。巻きついた尻尾の締め付けが、跡が残りそうなくらい強くなる。

 

 あながち、尻尾の筋力だけで体を支えられるのも、嘘じゃないのかもしれない。

 そんな感想を抱きながら、彼は重く、重く息を吐いた。

 

「わかった」

 

 その瞬間。

 ミホノブルボンの尻尾は、彼の手首からするりと離れる。

 

 代わりに、風を切る。耳が動く。

 そして、陽炎が立ち込める。

 

「契約、確認。言質はとりました」

 

 彼女はしばらく、振り返ることはない。

 それでも、プレゼントを再び袋の中に仕舞い込むと。

 

 いつものミホノブルボンに戻って。

 それからは、二人で小さなクリスマスパーティーと洒落込んで。

 

 

 

 二人は、その日を迎えるのだ。

 

 


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