トレーナーの秘蔵本を担当ウマ娘が見つけてしまう話 作:ZUNEZUNE
エアグルーヴ編と比べて、スーパークリークはちょっと書きづらい気がしました。
「はーいトレーナーさん、おねんね上手にできましたね~」
本日のでちゅね遊び、絶賛遂行中。
トゥインクルシリーズを見事走り抜き、URAファイナルズで優秀な結果を残したウマ娘スーパークリークとそのトレーナー。一時期は不調だった頃もあったが、それも見事乗り越えた。
その後に加速していった彼女の甘やかしたいという願望が生んだ遊戯、それが「でちゅね遊び」。
傍から見れば一定層の人間が喜ぶ「プレイ」なのだが、彼女は至って真面目である。誰かの傍に寄り添い、甘やかすことが彼女のコンディションの源であった。
今日も今日とてトレーナーの自宅にて、でちゅね遊びは行われている。おおよそ高等部の女性に甘えるなど似合わない成人男性が、彼女の膝に頭を乗せ、その額で母性全開の「いい子いい子」を受け、眠りに付く(というていで)。
膝枕で寝ている彼の顔が赤面しているのは、まだ彼女の想いと欲望を受け止められる程「その役」に徹してられていない証拠だ。
一方のクリークは、聖母を彷彿させる優しい笑みを浮かべている。この状況が余程嬉しく、楽しいのが分かる程に。
トレーナーがいつ彼女が近くのテーブルに置いてある音響道具、所謂「ガラガラ」に手を伸ばさないかとヒヤヒヤしている反面、心の奥底では少し待ち望んでいるのは開花の兆しだろうか。
兎にも角にも、今の彼にはまだ自制心と呼ばれるものがある。それは大人が大人であろうとするプライド、彼女のでちゅね遊びにとっては邪魔でしかないものだが、それがこれ以上の「甘やかし」はやばいと警告する。
「お、俺トイレ行ってくるよ。クリーク……」
「あらあら大丈夫ですかトレーナーさん、1人でできますか?」
その問いにNOと答えたら、彼女がトイレまで付き添うのか将又どこからかオムツを取り出すのか。
取り敢えずでちゅね遊びの休憩だと、トレーナーはトイレに駆け込む。その姿を見て少しだけシュンとなるクリークは、その時間の間に改めて部屋を見渡した。
何度も訪れるうちに自分の部屋のように馴染み深くなったトレーナーの自宅。今まではでちゅね遊びの最中での彼にしか目が向かなかったせいか、こう全体を見渡すと少しだけ新鮮な気分を味わえた。
それと同時に感じたのは幸福――精一杯自分の気持ちを受け止めてくれるトレーナーと、3年間寄り添ったからこそ自分はここにいられるのだと、感激すらしていた。
そんな彼女がふと目に入ったのは、今自分が座っているソファとは対を為す位置にあるテレビ台。ガラスの引き戸の向こうで、薄っすらと何かが見えた。
一体何だろうと、特に深いことは考えずに引き戸を開けそこに隠されたものを確認する。
見つかったのは雑誌だった。そこまで厚くない、手軽に読めるサイズ。その表紙は――
~~『バブバブ生活24時 最初から最後までバブみたっぷり(長身ウマ娘編)』~~
「……あら」
賢さが足りなさそうなタイトルに、淫らな格好をした長身の女性。一目で「そういう本」であるというのは分かるが、実際目で得た視覚情報を脳が整理するまでに時間が掛かり、クリークは硬直した。
すると一冊抜き取ったせいか、他の数冊がテレビ台の中から落ちてしまい、それはもう見事に表紙を上にして散乱した。
~~『ショタトレーナーと母性溢れるウマ娘のあまあまな3年』~~
~~『ウマ娘による絶対的母性 逆らえないぼくちゃん』~~
「……これって……もしかして」
もしかしなくても、自分のトレーナーのもの。しかもその内容は、こういう知識に疎いクリークでも分かる程の、変な方向へ一直線に特化した内容のものばかり。
でちゅね遊びを恥じるトレーナーの、奥底に隠された欲望。それを受けて、彼女はどういった反応を示すのか?
「お待たせクリーク、じゃあその……続きを……って」
するとタイミングが良いのか悪いのか、トイレに行っていたトレーナーが今戻る。
そして彼女がいる位置、その手にある雑誌。それらを見て全てを理解し――青ざめて動けなくなる。
最悪だ――彼女にだけは、見つからないようにと思っていたのに。
トレーナーに初めから「そういった願望」があったのか、それとも甘やかしてくるクリークと数年付き添った影響で生まれた性癖なのか、それは分からない。
少なくとも、クリークとのでちゅね遊びでそれが増大していったのは間違いないだろう。結果こういった趣向の本を好んで買うようになり、今現在この事態を招いてしまっている。
この時スーパークリークという強豪ウマ娘を育成した経験から、トレーナーは二つの未来を予想していた。
一つは自分の性癖とクリークの欲望が驚異的な化学反応を起こし、結果彼女の母性が暴走する未来。それにより今までは「プレイ」との境界線をギリギリ超えていなかったでちゅね遊びは、より一層濃いものとなるだろう。
しかし二つ目の未来と比べれば、まだそちらの方がマシかもしれない。
その二つ目の未来とは……
「ご、ごめんなさいトレーナーさん。男の人の部屋を、その……勝手に見たりとか、駄目でしたよね」
「あ、うん……そのえっと」
彼女が年相応の、女の子として正しい反応をするということ。
今まで十分甘えさせてくれたせいで忘れがちだが、彼女だってトレセン学園に通う高等部の学生の一人。確かに大人びてはいるが、決して大人であるというわけではない。花も恥じらう乙女なのだ。
そんな彼女が親しい男性の秘蔵本など見つけてしまえば、照れたり戸惑ったりするのは当たり前のことだった。
現にクリークは珍しい赤面を見せ、落ち着かない様子で勝手に見てしまったことを謝罪してくる。これはまさしく、知り合いの性事情を知ってしまった反応そのものであった。
やってしまった。ついつい自分は彼女に甘え、結果セクハラまがいなことをしてしまったのだと、トレーナーは自責の念に囚われる。
「じゃ、じゃあ私はこれで帰りますね。その……また明日……」
「あ、ああ……うん」
そう言って彼女は気まずそうに、部屋を後にする。
彼女が立ち去った後で、トレーナーはどうしてもっとバレない場所に隠さなかったのかと、膝から崩れ落ちて後悔するのであった。
後日、学園でのクリークとトレーナーの接し方は、事情を知る者からすれば見違える程に変わった。
簡単に言えば、彼女が学園内で甘やかしてくることが少なくなったのだ。ゼロになったというわけではないが、親しいタマモクロスやオグリキャップ、同室のナリタタイシンには持ち前の母性を見せている。つまり、トレーナーだけを甘やかさなくなったのだ。
(やっぱり……あの日のことで)
恐らく自分は、幻滅されたのだろうとトレーナーは思った。
無理もない、クリークからすれば自分をそう言う目で見てますと言われたに等しいのだから。
今までは彼女のでちゅね遊びに拒絶反応を示していたトレーナーだったが、いざこうして構ってもらえなくなると寂しく思ってしまう。そこでようやく彼女とのでちゅね遊びが自分の中でかけがえのないものだということに気づいた。
しかしそんな関係も、自分の浅はかな性癖で壊してしまった。もうでちゅね遊びができないどころか、以前の関係に戻れないことを、酷く悲しんだ。
肩を落としながら廊下を歩いていると、向こうにクリークがいる。
――取り敢えず、謝らなければ。幻滅されようとも、せめて彼女を支えるトレーナーとしての責務を最後まで全うしたい。
「あ、あの! クリーク!」
「あ、トレーナーさん」
一体どんな表情を向けられるのか、ビクビクしながら声を掛けたが、予想に反していつも通りの笑みを見せてくれるクリーク。
幻滅したわけではなかったのか? それとも謝る前に許してくれたのだろうか? そんな希望に縋りながら、前日の件で謝る。
「この間は……ゴメン、変なもの見せちゃって」
「気にしないでください~男の子ですもんね?」
彼女はそう言ってくれるが、その優しさが逆に痛い。
理解してくれとは言えないが、取り敢えず幻滅しているわけではないのだと、心の底から安心した。
――待てよ、だったら何故彼女は、自分を甘やかさなくなったのだろうか?
「それにこちらの方こそ、今まですいませんでした」
「……今まで?」
「はい、そのえっと……」
彼女が謝る理由が分からず思わず聞き返すと、クリークはその先を言いづらそうにして周囲の目を気にしだし、周りに聞こえないようにトレーナーの耳へ口を近づけた。
「学園でいい子いい子したり、でちゅね遊びしたりして……その、お仕事の場で"ドキドキ"するのは、辛かったですよね?」
その言葉を聞いて――トレーナーの頭は真っ白になった。
この場合の"ドキドキ"するというのは、つまりはそういうこと。となると彼女は、トレーナーの性癖を完璧に理解した上でこう言っているのだ。
今まで興奮させて、ごめんなさい――と。
「あ、あの……えっ?」
対しトレーナーは、その言葉を一概に否定することはできない。
何故なら、彼女とのでちゅね遊びで"ドキドキ"してしまったことは、何度だってあるのだから。トレセン学園に通うトレーナーとして、学園内でそう言った欲望を発散するなど言語道断。できる訳なかった。
「私も寂しいですけど、これからはトレセン学園ででちゅね遊びは遠慮した方がいいかなって考えたんです。なのでこれからはトレーナーさんのおうちで……
思う存分、甘えても大丈夫ですよ?」
その言い方は、子供を躾して矯正する1人の母親のようで、それでいて家では思う存分甘えていいという、誘惑するような甘い一言がトレーナーの鼓動を加速させる。
彼女に全て見透かされている、そんな支配感が……何故か心地よかった。
「それじゃあトレーナーさん、今日のトレーニングも頑張りましょうね?」
そう言ってクリークはこの場を後にする。
彼女がいなくなったというのに、トレーナーの"ドキドキ"は、いつまで経っても消えることはなかった。