トレーナーの秘蔵本を担当ウマ娘が見つけてしまう話 作:ZUNEZUNE
ヒシアケボノ――中等部の生徒にして身長180cmという巨体を持つウマ娘。
故にそこから繰り出されるパワーは圧倒的。特に彼女の脚質は短距離向きなので、短いレースの間に豪快に振るわれていた。
対する彼女の担当トレーナーの背丈は小さい――というわけではなく平均的。それでもヒシアケボノとは頭一つ分違っている。
特にその大きさは彼女が中等部生徒というのもあって、比較対象が小さい身体の者が多いため一際大きく見えた。
彼女はそんな大きな身体をコンプレックスに……思ってはいない。それどころかこれこそが自分の武器だと自覚し、存分に魅力として皆に広めていた。
少年が巨大な怪獣に憧れるように、自分より大きい人物に頼りたくなるように、ターフの上を駆けるその巨体を皆が讃えた。
そんな彼女の趣味兼特技は料理。イタリア料理の父とパティシエの母を持ち、そんなご両親から教え込まれた腕で極上のものを作ることができる。
そしてもう一つの好きなもの、それは相撲。幼い時から見てきた相撲と、料理のスキルが上手いことマッチし、得意料理がちゃんこ鍋になったわけである。
「トレーナーさん! 私トレーナーさんとちゃんこ鍋食べながらお相撲見たい!」
とある日、彼女が突然奇妙な頼みをしてきた。
奇妙と言っても文字通り、トレーナーとちゃんこ鍋をつつきながらテレビで相撲を見たいというもの。
彼女が料理をする理由は、食べてくれる人の笑顔をみたい。
彼女が相撲を見る理由は、単純明快で純粋に好きだから。
つまりトレーナーに美味しいちゃんこ鍋を食べさせながら共に相撲を見ることで、その二つが一度に叶うという訳だ。
奇妙奇天烈なお願いだが、彼女のちゃんこ鍋は絶品なので断る理由もない。
ということなので、自宅に彼女を招き入れることに。流石にちゃんこ鍋抱えて観戦に行くわけにはいかない。それとは別にいつか国技館の相撲も見せてあげたいと思っているトレーナーなのであった。
「じゃあ早速、ボーノなちゃんこ鍋を作るよー♪」
トレーナー宅のキッチンで調理を始めるヒシアケボノ。ちなみに今回使う鍋はこの日の為にトレーナーがわざわざ買ってきたものである。
慣れた手付きで調理を進めていき、中継が始まる十分前には熱々のちゃんこ鍋がテーブルの上に置かれていた。
そして予定通り、豪勢な昼食を取りながら相撲を見始める二人。
ヒシアケボノは食い入るようにテレビに見て、それでいて自身の作ったちゃんこ鍋を口にしていく。
しかし楽しい時間はあっという間に過ぎていくものだった。
先にちゃんこ鍋が底をついたところで、中継も終盤に差し掛かる。
後はもう相撲だけに集中し、力士たちの熱いぶつかり合いに大盛り上がりとなった。
やがてそれも終わり、鍋や食器の後片付けも終えた時だった。
「トレーナーさん! 今からお相撲しようよ!」
「えっ」
この日のお願いよりも突拍子も無い提案が飛んできた。
どうやら相撲中継を見て感化されたらしく、どうしてもトレーナーと相撲を取りたいという。
「だ、大丈夫なのかそれ? 俺四肢が爆散したりしない?」
「大丈夫大丈夫! ちゃんと手加減するから! だからやろやろ!」
しかしご存じの通り人とウマ娘では力に大きな差がある。しかも何でもヒシアケボノは牧場で暴れる牛と力比べで渡り合い、軽々と持ち上げたという。そんな相手に相撲を取って果たして無事でいられるのか、という不安もあったが、そこは上手く調節してくれるという。
「……分かった。今日はボノにとことん付き合うよ。じゃあソファとかテーブルとか隣の部屋に移そうか」
「やったー! ありがとうトレーナーさん!」
やれやれと言った感じでヒシアケボノのお願いを聞くことにしたトレーナー。このまま彼女と相撲なんかすれば自宅の家具が全ての粉砕されてしまうので、その前に家具を移動させることから始める。
その体格と料理の腕前から中学生らしからぬ母性を持つヒシアケボノであったが、時折見せるワガママが実に年相応であった。
しかしこの後、トレーナーは予想だにもしなかったところで彼女の幼さを感じることとなる。
「さっすがボノ、力持ちだな……」
「へへーん、これくらい任してよー!」
人間一人の力では持ち上げることも困難な家具を軽々と運び出していくヒシアケボノ、そのパワーにトレーナーは傍観するしかなかった。
「じゃあこのソファも運んじゃうね!」
「おー……って、ん?」
そして次に先ほどまで使っていたソファを持ち上げようとした時だった。トレーナーは何かを忘れているような気がして、それに加え不思議な危険信号すら出ていた。
はて何だっただろうか? 記憶を読み返して思い出したのは、ソファの前で屈みその下に何かを入れている自分の姿だった。
「――あ゛っ! ボノそこはいいから――!」
「よいしょーー!」
思い出したトレーナーの制止も虚しく、ヒシアケボノは勢いよくソファを持ち上げる。
その下には咽る程の埃と、数冊の本が鎮座していた。
「……本?」
「あ、あ……」
持ち上げたソファを一度起き、不思議そうな顔で本を拾い上げる。
~~『長身女性とぬっぷり』~~
「……ほへ?」
表紙からでも分かるような卑猥な本。それを見たヒシアケボノの巨体は、まるで石化したかのように硬直してしまう。
その拍子で重ねてあった数本がバタバタと落ち、運が悪いことに本が開いて中身が見えてしまった一冊もあった。
~~『身長190cm!超BIGガールとのぶつかり合い!』~~
~~『身長差30cmの圧倒的包容力』~~
~~『まるで巨人、大柄女性(21)』~~
それは、トレーナーが買い集めていた秘蔵本であった。
しかもその内容は、ヒシアケボノと似た長身女性ばかりを取り上げたものばかり。
勿論偶然なんかではない。トレーナーが彼女のような大きい女性に興奮する男というのは明白だった。
しかしこの際トレーナーの性癖が暴露されたことは問題ではない。一番重要なのは、彼女の反応であった。
「トト、トレーナーさん。これって……!」
「あの、だな。それはその……」
大らかな彼女のことだ。今回も笑って済ますかと思ったが、そんなことはなかった。
その大きな身体に惹かれて忘れがちだが、彼女はまだ中学生の年齢。それらの知識はついこの間学んでばかりに等しかった。
しかしそれは、全く知らないというわけではない。小学校でもある程度の性教育は行われている。つまり、なまじ知識としては知っているのであった。
そんな中途半端な彼女が秘蔵本を見てどのような反応を示すのか。
結果として恥ずかしそうに顔を真っ赤にしながら、アワアワと初々しく顔を手で覆っている。それに加えジタバタを足踏みをするものだから、地震のように足元が震えた。
「す、すまんボノ! 変なもの見せて!」
そんな彼女の可愛らしい反応をいつまでも眺めておくわけにもいかず、トレーナーは慌てて自分の宝物を回収しそれを目の届かない場所に移動させた。
しかし時すでに遅く、慣れ親しんだ家だというのにきまずい空気が流れた。
「……」
「……すまない」
自分より大きいからといって、彼女がまだ少女と呼べる年齢であることを忘れていたかもしれない。とトレーナーは自己嫌悪に陥る。
いたたまれなくなり、申し訳なさそうに謝罪を口にする。しかし口を開いたヒシアケボノが言ったのは、彼を責めるものではなかった。
「ト、トレーナーさんは……その、おっきな女の子が好きなの?」
「……え?」
もじもじと指を絡めて、気まずそうに俯きながら、ヒシアケボノは問いかける。帰ってきたのは罵詈雑言でもなければ、気まずそうな薄笑いでもなく、ただの質問。
勿論ヒシアケボノは自分が大きいことを自負している。それを踏まえた上でのその質問。
つまり、自分のことをそういう目で見ているのか。という意図だった。
「私の身体……おっきいよ? その、エッチな事……したいの?」
「ボ、ボノ……」
その言葉に嫌悪感など一切無かった。それどころか、幼さに似合わぬ妖艶すら感じてしまい、トレーナーは生唾を呑む。
自分の好きな長身に対する欲求、とはいえ中等部に欲情するという背徳感。決して褒められたものではない感情が入り混じり、トレーナーの言葉を詰まらせる。
「……って、こんな質問ボーノじゃないよね! やっぱりお相撲するのは止めよっか!」
「あ、ああ。そうだな!」
二人はワハハと笑い合いことで、気まずくなった空気を無理やり盛り上げる。
しかしこの後に相撲などという身体のぶつけ合いができるわけもなく、今日はこれで御開きとなったのであった。
後日、トレセン学園の朝にて。
トレーナーが頭を抱えながら自分のトレーナー室までの道のりを歩いていた。
一体何にそんな悩んでいるのか、勿論先日の秘蔵本の件についてだった。
(やっちまった、ボノはこれまで通りに接してくれるだろうか……)
あの出来事でヒシアケボノの自分に対する態度が変わっている。それが何よりも怖かった。
いざトレーナー室の前に立つと、中に誰かがいるのが分かる。恐らくヒアシアケボノだろう。扉に手を掛けるも、開けることを躊躇ってしまう。
しばらくしてええいままよと、意を決して扉をガラガラと開ける。するとそこには予想通りヒシアケボノがいた。冷蔵庫の前に立ち、長い方の牛乳パックをそのまま豪快に飲んでいる。
「――プハァ! あ、おはよートレーナーさん!」
「お、おう! 朝から豪快だなボノ」
どうやら向こうもそこまで気にしていないらしい。既に過去のことだと解決しているのか、普段通りの笑顔を見せてくれた。
「やっぱ朝は牛乳だよー! それに昨日はちゃんと寝たから元気一杯!」
「頼もしいな、じゃあ今日のトレーニングはバッチシだな」
「うん! それにねトレーナーさん! 今日のお昼休みにビコーちゃんたちとバスケする約束してるんだー!」
「バスケかぁ、ボノは強いだろうなぁ」
今日も彼女は元気よく、その日の予定を口にしていく。
良かった。取り敢えず態度が変わったことは無さそうだとトレーナーは安堵した。
「これから毎日練習するんだよ!」
「毎日? 随分と熱心だな、バスケに興味でもあるのか?」
どうやらバスケは今日一日だけのきまぐれとかではなく、これから定期的に練習していくらしい。突然のバスケ推しに、トレーナーは疑問に思う。
「だって身長を伸ばすにはバスケが一番って聞いたんだもん!」
「……身長を?」
確かにヒシアケボノは自分の身体の大きさをコンプレックスに感じてはいない。それどころか自分の強みだとも理解している。
しかし身長を伸ばすことにそこまで積極的だったわけではない。ただバスケがやりたいのではなく、身長を伸ばすためにバスケをやりたいという言葉に、トレーナーは再度首をかしげた。
「牛乳沢山飲んで、睡眠時間を十分に取って、バスケで身体を動かす! これでどんどん伸びるよトレーナーさん!」
「もっと大きくなりたいのか? ボノは」
どうやら先程やっていた牛乳パックの直飲みも同じ理由らしい。その後にあんまし寝てないアピールならぬ沢山寝たアピールをしていたが、それも慎重伸ばしに繋がっていた。
どうやら自分が思っている以上に彼女は大きくなりたいらしい、とトレーナーはそのことを聞いてみる。
「うん! だってトレーナーさんはおっきな女の子が好きなんでしょ?」
「……え」
その返答で気づいた。何故彼女が身体を大きくさせたいのか、その理由を。
先日見せてしまった、長身女性もの中心の秘蔵本。
あの時の彼女は幼さ故の恥ずかしさから顔を赤面させていたが、今は違う。明らかにトレーナーが長身好きというのを踏まえた上で、自らの身長を更に伸ばそうとしていた。
先日の件に関して、ヒシアケボノは微塵も気にしていなかった。
それどころか、彼が自分を魅力的であると思っていることに気づいて、自分の武器を更に磨こうとしていた。
「待っててねトレーナーさん! 私もっと大きくなって、巨人みたいになるから!」
「お、おう……」
そう言ってヒシアケボノはトレーナー室を後にする。
表現に使うものが抽象的だったり、すぐに大きくなれると信じているあたりはまだ子供だ。
しかし一人の男の為に自らを変えようとしているその姿は、紛れもなく美しい女性の在り方であった。
中等部の生徒が、自分の為により魅力的になろうとしてくれている。
そんな背徳感マシマシの現状に、世間体もあってかトレーナーは素直に喜べずにいた。
しかし彼が彼女の健気な姿を見てまた生唾を呑み込んだのも、事実である。