トレーナーの秘蔵本を担当ウマ娘が見つけてしまう話   作:ZUNEZUNE

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久々の秘蔵本シリーズ。お待たせして申し訳ございません。
ゴールドシップのエミュ難しすぎ。


ゴールドシップ編

「よぉートレーナー!! 今日も元気にステイホームしてっかー!!」

 

 

日曜日、とあるトレーナーが休みを謳歌していると前触れもなく自宅の扉が蹴り破られる。外からの強い衝撃受けた扉は見事に吹き飛びその先の壁にまで到達、その弱々しく折れ曲がった姿は見るに堪えない。

 

一方家主であるトレーナーは、扉が破壊されたことに対し驚きこそ見せたがそれは突然だったことと音に対してのみ。破壊音の後に響き渡る聞き覚えのある声で、そのトレーナーは呆れながらも慣れた様子を見せる。

そしてすぐに、綺麗な芦毛のウマ娘が我が物顔でズカズカと入り込んできた。

 

 

「んだよトレーナー! そんなスカイドンみてーに寝っ転がってよー!」

 

「ゴルシ……扉を蹴り破るのは止めてくれって何回も言ってるだろうに」

 

 

そのウマ娘の名は、ゴールドシップ。

破天荒な性格と支離滅裂な発言で周囲の人間を困惑させ、ハチャメチャにする問題児ウマ娘。

それでもレースでは活躍し、彼女のファンも多くいる。数多くの問題行動はその実績によって帳消しにしている……のかもしれない。

 

彼女の被害者は多くいる。メジロマックイーン、トーセンジョーダン、etc。

しかし一番の被害者は彼女の担当トレーナーと言ってもいい。

 

彼女に見つかったが最後、とは学園でよく言われている言葉だが、トレーナーと彼女との出会いはまさにその言葉通りであった。

拉致という名の逆スカウトを受け、彼女のトレーナーとなったわけだが、その後も破天荒な性格に振り回されている。

 

 

「アタシとお前の仲だろうがよ! 細かいこと気にしてると前方後円墳みてーなハゲかたするぞ!」

 

「しないしない、それで何の用?」

 

 

ゴールドシップがこの家に突然やってくることは珍しくない。

クリスマスの日だって壁に穴を開けられて、玉鋼をプレゼントされたことがある。あの時と比べて扉を蹴り破られる方が幾らかマシだが、トレーナーの感覚が日に日に麻痺しているのも事実である。

 

 

「決まってんだろ! 宝探ししにきたんだよ!」

 

「……宝探し?」

 

 

ゴールゴシップが突拍子も無いことを言う。トレーナーがそれに首を傾げる。これがこの二人の日常。

しかし今日の彼女はいつもと少し違う。宝探しにトレーナーの家にやって来た時点で変と言われればそうだが、普段のものと比べてまだ意味が理解できる方だ。

 

 

「マックイーンがよ、自分のトレーナーの家でお宝を見つけたらしいんだ! だったらお前の家にもあるかもしれねーと思ってさ……いや、ある! ゴルシちゃんレーダーが反応している!」

 

「マックイーンが……? っておい!?」

 

 

前言撤回、やはり意味が分からない。

ゴールドシップ曰く、マックイーンのトレーナーの家で宝? が見つかったらしい。何のことかサッパリ分からない。恐らくゴールドシップが彼女から聞いた話を好き勝手に解釈したのだろうが……

 

何は兎も角、トレーナーの返答も聞かずに部屋を荒らしていくゴールドシップ。

ウマ娘の力を活かし、重い家具も軽々と持ち上げその下も確認していた。

 

その様子をトレーナーはやれやれといった様子で見守る。宝とは一体何の事か、ゴールドシップは勿論トレーナーにすら分からない。

やがて何も見つからないことに腹を立てたゴールドシップが声を荒げる。

 

 

「畜生見つからねーぜ! やいトレーナーどこに隠しやがった! ゴルゴル星に古くから伝わるエタニティコアをよー!」

 

「そんなものは無い。てかなんだそれ」

 

 

次第に単語の意味も分からなくなっていく。問いただされても覚えのないトレーナーにはどうすることもできない。

折角の休日、家具の位置をバタバタと荒らされるのは少し嫌だが、何も無いと分かれば彼女もすぐに帰るだろう。とトレーナーは高を括って彼女を見守る。

 

しかしゴールドシップがベッドに手を掛けようとした瞬間、トレーナーの表情は一変した。

 

 

「ッ――!!」

 

「お? どうしたトレーナー?」

 

 

座っていたソファから飛び上がり様に立ち、そのままベッドを庇う様にゴールドシップの前に立ちはだかる。その人間離れした機敏な動きにゴールドシップも不意を突かれ、突然の凶行に首を傾げるばかりである。

 

冷や汗を垂らすトレーナー。その様子からして、見られたくない物があるのは確実。

問題は、どうゴールドシップに悟られずにこの場を収めるかだ。

 

 

「こ、これ以上部屋を荒らさないでくれ。宝なんてないから……」

 

 

トレーナーは精一杯の言葉で彼女を帰らそうとする。

しかしその言葉選びは巧みではなく下手である。そんな言い方だとこの下には何かありますと言っているようなものだった。ましてや普段の奇行に慣れているはずの彼が、突然彼女を止めようとしている時点で怪しい。

 

 

「……はっはーん、さてはそこの下だな!」

 

「や、やめ……!」

 

 

案の定、怪しまれてバレてしまう。

ベッドを持ち上げようとするゴールドシップを止めようとするトレーナーだが、ウマ娘相手に膂力で敵うはずもなく、軽々と投げ飛ばされてしまう。

 

そして力強くベッドを持ち上げ、その下で眠っていたものを確認した。

 

 

「……なんだ? 本?」

 

 

予想とは随分かけ離れたものに、ゴールドシップは再度首を傾げて手に取る。

その光景に、トレーナーは顔を青ざめていく。

 

 

~~『美しい芦毛特集!』~~

 

 

「……あ?」

 

 

自分と同じ芦毛のウマ娘があられもない姿で表紙を飾っている本を目にし、ゴールドシップは硬直した。

何だこれは、という目を浮かべつつも他の本にも目を通していった。

 

 

~~『元重賞ウマ娘(24)、あのレースでなびいていた芦毛が貴方のもの』~~

 

~~『憧れの芦毛っ娘』~~

 

~~『芦毛選48連発!』~~

 

 

御察しの通り、トレーナーの秘蔵本である。

しかもその内容はゴールドシップと共通点のある、芦毛のウマ娘ばかりを集めている。

トレセン学園にも多くの芦毛ウマ娘はいるが、そんな娘の担当がこのような内容の本を持っているともう言い逃れはできない。

 

 

「トレーナー……おめー、これは……」

 

 

ゴールドシップが振り返る。その表情を、トレーナーは伺えなかった。

予想できるこれからの展開は幾つかある。

 

一つ――激怒する。これがごく普通の反応。だからこそゴールドシップがしてくる可能性は低いが、裏をかいてくる可能性も十分ある。

二つ――揶揄う。彼女の性格上一番あり得るのがこれ、トレーナーとしてもその方がありがたい。

そして三つ目は女の子らしく恥ずかしがる……いや、ゴールゴシップに限ってそれは無いか。とトレーナーはその可能性を捨てた。

 

果たして彼女はどちらの行動をしてくるのか。

前者だった場合飛んでくるのはキック、恐らくレースを勝利した後にやってくるものとは比べ物にならない威力だろう。命の保証は無い。

 

彼女の硬直は時間にして数秒、決して長くない。しかし次の動きを見せるまでのその間は、まるで何かしらの結果発表を待っているような落ち着かない時間だった。

結果を、反応を、彼女が口を開いて示す。

 

 

「――おめー芦毛ものばっか揃えすぎだろ! どんだけ好きなんだよ!」

 

 

正解は――後者。満面で憎たらしい笑みを浮かべるゴールドシップ。

それを見たトレーナーはホッと胸を撫で下ろすのであった。

 

 

「まぁこのプリティーゴルシちゃんをいつも見てんだから仕方ねーよな!」

 

「はは……すまないな、変なもの見せて」

 

 

第二の予想通り、ゴールドシップは自画自賛も交えてトレーナーを揶揄う。癪に障る言い方だが、これでいい。トレーナーは心が落ち着いたところで改めて謝った。

相手がゴールドシップだったから良かったものの、もし同じ事件が他のウマ娘とトレーナーで起きていたら大問題になっていただろう。良くて契約破棄、悪くて解雇と言ったところか。

 

 

「じゃ、アタシドーナツに穴空けるバイトあるから。帰るわ」

 

 

そして今までの騒動が嘘のようにゴールドシップはその場を後にした。

まるで嵐が過ぎ去った後のようだが、これも普段のことである。トレーナーはやれやれといった様子で後片付けをしていく。

 

 

(……あいつにしては、すんなりと帰っていったな)

 

 

しかしいつもなら、この後トレーナを連れまわす場合もある。

彼女はバイトがあるから帰ると言ったが、本当にバイトの予定があるのかどうかは分からない。というよりそもそもそんなバイトが実在しているかどうかも分からなかった。

 

一言で言うと、いつもより大人しい方だったというわけだ。

まぁ彼女は普段から気まぐれ気質なので、こういう日もあるのだろう。トレーナーは特に疑問ももたず、引き続き部屋の掃除をしていくのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

時同じくして、ゴールドシップ。

長い足を大袈裟に動かし歩幅を広げながら歩いている。その度に芦毛の長髪が華麗に揺れていた。

ゴールドシップはそれを指先で弄りながら、何かを思うように虚空を見つめている。

 

 

(――アイツが持っていたあの本。どれもこれも、アタシと同じ芦毛だった)

 

 

その思考は既に他のものに置き換わったと思われていたが、そうではなかった。

芦毛の秘蔵本のことが、忘れられないのだ。

 

いくらゴールドシップと言えど、ああいった本は見慣れていない。

だから恥ずかしくなって忘れられない、というわけでもなかった。

 

あのような本を所持して見ていることに対して文句があるわけでもない。男性ならば持っていてもおかしくはない、という理解もあった。

 

問題は、トレーナーが芦毛に欲情しているということ。

つまり――自分のこともそういった目で見ている可能性も高い。

 

ゴールドシップは美人だ。身長も高く、キリッとしている。ならば人よりモテるのだろうと聞かれると、そういうわけではない。

彼女に相応しい言葉がいくつかある。「黙っていれば美人」、「残念美人」。

言ってしまうと、普段の言動でプラマイゼロになっていた。

 

彼女が周囲の視線を気にするようなウマ娘ではないのはよくお分かりのはずだ。

だからこそ、自分がそういう目で見られることに慣れていない。その事実を、受け止めきれずにいた。

 

 

(……トレーナーのせいで乗り気になれねぇ)

 

 

奇行も普段と比べてキレが悪い。理由なく騒ぐこともなく、静かに歩いている。

初めて抱く感情に、ゴールドシップは戸惑う。

 

真っ白な芦毛とは逆に、彼女の顔は夕焼けのように紅く染まっていた。


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