トレーナーの秘蔵本を担当ウマ娘が見つけてしまう話   作:ZUNEZUNE

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これ書いてたら新衣装のフジキセキが実装されたもんだから書き直そうか迷った。


フジキセキ編

「やぁ、こんにちはトレーナーさん」

 

「フジ、今日も相変わらずだね」

 

 

昼下がり、トレーナーが学園の廊下を歩いていると人だかりを目にする。黄色い声の中心には、自分の担当バであるフジキセキがいた。

フジキセキはそのボーイッシュな風体とエンターテイメントな性格、それに加え寮長という頼りやすい立場もあって、他のウマ娘にも人気があった。

 

 

「この後のトレーニングなんだけどさ、トレーナー同士のミーティングがあるんだ。だからトレーナー室で待っててくれないか?」

 

「分かった、先に着替えて待ってるよ」

 

 

今日もレースに勝つ為のトレーニングに励むのだが、トレーナーに外せない用事があるため少し遅れてしまうことに。それでも特に支障が発生するものでもないので、この話はここまでとなる。

 

――放課後、トレーナー同士のミーティングが行われる。多数のトレーナーが集まり、情報交換をしていく。一時間弱ほどでそれは終わり、早速フジキセキのトレーナーは自分のトレーナー室へ向かおうとする。すると交友のあった同僚から声を掛けられた。

 

 

「おっす、お疲れー」

 

「ああお疲れ、どうした?」

 

「ほれ、この間やるって言ってたやつ」

 

 

そう言って同僚が渡してきたのは、何かが入った紙袋。受け取るとちょっと重いのが分かった。

一体中身は何だと、トレーナーがその中を覗くと、この青春溢れる学園に相応しくないものが大量に詰められていた。

それを見て同僚の言う「この間のやつ」が何を指しているのかを思い出し、顔をしかめた。

 

 

「おまっ、何も今渡さなくてもいいだろうに……!」

 

「いやぁ憶えているうちに渡さないと忘れそうでさ、それに俺忙しいし」

 

 

他に聞かれないよう小声で会話する男たち。周囲を気にするその様子から、その中身がろくでもないものであるのは明白だった。

 

 

「全く……まぁ有難く受け取っておくよ」

 

「そうしろ、今夜は張り切り過ぎるなよ!」

 

 

そう軽口を叩いた後、同僚はその場を後にする。その背中をトレーナーは呆れ気味で見送った。

今も自分の担当バがトレーナー室で待っているので、急いで向かった方がいいだろう。しかし男の手にはどうしても隠し切れない紙袋がある。こんなものを持ったまま戻るのは勿論ダメなことだが、他に置き場所が無かった。

 

 

(しょうがない、適当に誤魔化すか……)

 

 

多少の不安を残しながら、トレーナー室へと向かう。

その扉を開ける際、やはりこれを持ったまま入ることを躊躇うも、意を決して中へと入る。そこには既に着替えを終えていたフジキセキが男のことを待っていた。

 

 

「お待たせ! 少し長引いた!」

 

「ううん。そこまで待ってないさ……その紙袋は?」

 

「……これか? ミーティングの時に渡された資料だよ」

 

「ふーん……」

 

 

嘘は言っていない。渡されたのはミーティングの後で、中の物も資料と呼べるものだ。上手い嘘は真実を織り交ぜると誰かが言っていた。

上手く誤魔化せたのか、彼女もそこまで気にしていない様子だった。男はホッと胸を撫で下ろし、紙袋を机の上に置く。

 

言及されないか不安だったが、一度誤魔化せれば後は大丈夫だろうと高を括り、その後の思考は全て彼女のトレーニングへと移行した。

 

 

「じゃあ今日も頑張ろうか!」

 

「そうだね、よろしく頼むよ。トレーナーさん」

 

 

こうしてフジキセキのトレーニングは、特に支障も無く行われた。

彼女が軽快に走り出した頃には、紙袋のことなど頭の中からすっかり抜けていた。それ程までにトレーニングに集中できたということだろう。

しかしその集中も途切れてしまうことが起きてしまう。

 

 

「っ……ちょっと揺れてる……?」

 

「フジ、地震だ!」

 

 

トレーニングの最中、フジキセキは足元に僅かな揺れを感じて身体を止めた。するとトレーナーが血相を変えて彼女の元まで駆け寄る。

彼の様子と言葉で今何が起きているのかをフジキセキは察した。カタカタと近くのものが揺れて、どれくらいの規模かが察せた。

 

そこまで大した揺れではなかったが、トレーナーはフジキセキを守ろうと肩を抱き寄せる。フジキセキの顔がポッと赤く染まった。

 

 

「……収まったか?」

 

「そうみたいだね……トレーナーさん、もう大丈夫だよ」

 

 

恥ずかしそうに距離を取るフジキセキ。トレーナーはその様子に気づくことなく、周囲の様子を見渡す。辺りでは同じように地震に気づいたウマ娘たちがザワザワと騒いでいた。

 

 

「今日はここまでにしようか。君も寮が心配だろ?」

 

「そうだね、じゃあそうさせてもらおうかな」

 

 

寮長として自分の寮が心配だろうと考えたトレーナーは、普段より早めにトレーニングを終わらせることにした。彼女もそれに乗り共にトレーナー室へ戻ろうとする。

 

 

「トレーナーさ~ん! 先ほどの地震、大丈夫ですか~!?」

 

「あっ、たづなさん」

 

 

すると理事長の秘書である駿川たづなが慌てた様子で走ってくる。

 

 

「ただいま各トレーナーさんに安否確認をしてまして……」

 

「成る程。フジ、先に戻ってて」

 

「わかったよ、トレーナーさん」

 

 

そういうことで、先にフジキセキだけがトレーナー室へ戻ることに。

フジキセキも自分の寮のポニーちゃんと寮の物が不安で、次第に早歩きとなる。多分大丈夫だろうとは思っていても、どうしても心配だった。

 

 

「あらら、これはちょっと……」

 

 

急いで寮に戻る為にも、さっさと着替えてしまおうとトレーナー室の扉を開けると、その先には予想と少し違った光景が広がっていた。

そこまで酷い状態でもなかったが、棚や作の上に置かれていたものが床に落ちている。先ほどの地震のせいだということは言うまでもない。コップや花瓶など、落ちたら大惨事になるものが無事なのが幸いだろうか。

 

寮も心配だったが、これを放置するのもいかがなものか。そう思ったフジキセキは、散乱した物を拾い始める。

その際、机の傍に一際大きなものが落ちていることに気づいた。

 

 

(あれは、確かトレーナーさんが持ってきた……)

 

 

そう、同僚から渡された紙袋だ。

置き場所が悪かったせいか、机の上に立つ形で置かれていた紙袋は自身のせいで倒れるように落下。そしてその中身も飛び出してしまっていた。

当然フジキセキはそれも拾おうとする。そうなるとその表紙が目に入るのは必然だった。

 

 

『ボーイッシュ特集! 男勝りな女の子!』

 

「……ん?」

 

 

一瞬我が目を疑い、目を擦るフジキセキ。しかし何度見てもその表紙が変わることはなかった。

続いて他の本にも目を通していく。しかし数を重ねていくたびに、その内容は捻ったものになっていった。

 

 

『男装学ラン! 変装した女の子が男子校に入学して……』

 

『コスプレタキシード10選!』

 

『凛として美しい軍服女性!』

 

 

「……んん?」

 

 

それが如何わしい本だと理解するのに、そう長い時間は掛からない。彼だって男だ、このような本を持っていてもおかしくない。そんな理解だってある。

しかし問題はその内容だった。明らかに男装やボーイッシュなど女らしさからはかけ離れたものばかりが集められている。フジキセキはそれに対し覚えがあった。

 

 

(トレーナーさんはこういうのが好きなんだ……だったら、私の勝負服も……?)

 

 

そう、自分の勝負服である。

フジキセキの勝負服はパンツスーツ。大胆に胸元を開けて女性らしさもアピールしているが、ボーイッシュの方が第一印象だろう。

自分の勝負服とトレーナーの性癖の一致、果たして偶然だろうか?

 

 

「あれ、まだいたんだ。先に帰ってても良かったのに……って」

 

 

すると渦中の人であるトレーナーが入ってくる。そしてフジキセキが何をしているかを見て、それを悟ってすぐに硬直してしまう。

フジキセキはゆっくりと振り返る。トレーナーと目が合い、気まずい空間が展開される。

 

 

「……見た?」

 

「……見ちゃった」

 

 

その態度から、彼女が怒っているのか軽蔑しているのかは分からない。ただ悪戯な笑みを浮かべているので、許しているようにも見える。

トレーナーは後悔していた。やはりトレーナー室に持ち込むべきではなかったと。ここまで信頼を寄せて二人三脚で頑張ってくれた彼女を裏切ったような気さえした。

 

 

「……こんな"資料"を貰って、一体どんなミーティングをしたんだい?」

 

「いやそれは、プライベートなもので……」

 

 

これ見よがしに秘蔵本を持ってトレーナーに詰め寄るフジキセキ。彼女が一歩進む度に、トレーナーの冷や汗は加速していった。

 

 

「……なんてね、男の人だもんね。別に気にはしてないさ」

 

「す、すまん……変なもの見せて」

 

 

するとフジキセキは、何事もないように笑みを見せる。それを見て少しは救われた気分になったが、それでも罪悪感は消えない。

再び気まずい空気が流れる。そうこうしているうちにフジキセキは更衣室で着替えを済ませて、帰る準備を終わらせていた。

 

 

「じゃあトレーナーさん、また明日」

 

「あ、ああ……」

 

 

そう言ってトレーナー室から出るフジキセキに、普段の様子と変わらないところは見られない。しかしトレーナーはこれ以上言葉が見つからず、ただそれを見送るしかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数日後、あれから特に変わったことはなかった。フジキセキも普段通りで、トレーナーを軽蔑するわけでもない。いつものようにトレーニングをし、彼と接していった。

最初は罪悪感に魘されていたトレーナーも次第に元気を取り戻し、寧ろこれ以上あの時の話を蒸し返さないよう気にしないことにした。

 

 

「トレーナーさん、ちょっといいかな?」

 

「どうしたフジ?」

 

 

お昼休み、トレーナーが仕事をしているとフジキセキがやってきた。こうして気軽にやってくるところを見ると、あの時の事はもう無かったことのように扱われているのかもしれない。

 

 

「実は今、とある手品を練習していてね。トレーナーさんに見てもらいたいんだ」

 

「そういうことか。それなら是非」

 

 

フジキセキはサプライズやショーが好きなウマ娘。だからこうして手品を披露したりする。誰かを驚かせることは彼女の趣味と言ってもいいだろう。

フジキセキは華麗な足取りでポーズを決め、トレーナーの期待を煽る。彼女の一挙一動は、あらゆる者を魅了するだろう。

 

 

「じゃあ行くよ……えい!」

 

「うわっ!?」

 

 

一体何が起きるのかと思っていると、破裂音と共に足元から煙が噴き出し、彼女の全身を包み込む。手ぶらだったので何が起きるのか全く予想できなかったトレーナーだが、予想以上の規模に腰を抜かしそうになる。

 

 

「ふふっ、どうかな? この早着替え!」

 

「おっー! 凄い、な……?」

 

 

煙が晴れると、制服姿から別の衣装へと姿を変えているフジキセキの姿がいた。

煙が漂った時間は僅か数秒。予め制服の下にその衣装を着こんでいたわけではない。正真正銘の早着替えだろう。

しかしトレーナーが目を見張ったのはその芸自体ではない。その衣装だった。

 

 

「やっぱり男性用だから、胸元がちょっと苦しいね」

 

 

肩から足首まで、黒でぴっしり染まった統一感のある姿。宛ら組織的と言ったところか。

それもそのはず、その衣装は所謂学ラン。男子学生が着る衣装なのだから。

ウマ娘にそれを着る機会は無い。なのでフジキセキの学ラン姿など当然初めて見る。だというのに、トレーナーはそれに見覚えがあった。

 

 

「あ、あのフジ? それってもしかして……」

 

「さてと、お次は……これ!」

 

 

トレーナーの言葉を遮り、再びフジが煙に包まれる。

次に着替えたのはタキシード姿。彼女の勝負服とそう変わらないかもしれないが、先ほどの学ランと同じようにこれも男性用の衣装だった。

学ラン、タキシード。これらの並びには法則があった。それは言わずもがな……

 

 

「そして最後に……はっ!」

 

 

三度目の煙。ここまでくれば、彼女が次に何を着るのか予想できる。

皇帝シンボリルドルフの勝負服を彷彿とさせる、煌びやかで荘厳な軍服。これも女性用ではなく男性のものとなっている。

 

もうお分かりだろうが、今までの三変化はどれも先日トレーナーが譲り受けた秘蔵本のものと一致していた。フジキセキも分かってやっているはずだ。

 

 

「どうだったかな? トレーナーさん」

 

 

フジキセキは、してやったりと悪戯な笑みを浮かべてトレーナーの顔を伺う。

当然ながらトレーナーは言葉が出ない。彼女が何を考えているのか、それを理解しきれず軽くパニック状態に陥っていた。

 

 

「どう……って言われても、それはこの間の……」

 

「――この手品はね、魔法の力を使っているんだ」

 

 

フジキセキが、トレーナーに詰め寄る。

一歩、また一歩と。衣装から滲み出る威圧感にトレーナーは動けなくなっていた。

 

 

「――でも魔法の力も減っちゃって、今の手品はあと一回しかできない」

 

 

椅子に座っていたトレーナーは彼女に見下ろされる形となって、お互いの視線を交換した。

軍服を身に纏ったフジキセキの普段とは違う魅力に、引き込まれるように取り込まれてしまう。

彼女のその綺麗な水色の目は、もう目と鼻の先。覗き込むように、トレーナーを見つめている。

 

 

「君の同級生のような、学ラン姿の私。

君の執事として仕える、タキシード姿の私。

それとも、上官として君に指示を与える、軍服姿の私のままか。

 

――最後の一回は、どれにしたい?」

 

 

フジキセキが求める三つの選択肢。すぐには答えが出せず、トレーナーは生唾を呑み込んだ。

果たして自分はどれを選んだ方が良いのだろうか? まず、選んでいいものだろうか。押し殺せない期待感やトレーナーとしての責任感が、複雑に入り混じる。

――その様子を嘲笑うかのように、フジキセキはただ笑みを浮かべていた。

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