新人トレーナー録トネガワ   作:喬 

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トウカイテイオー・・・・・・

 この日利根川は…次なるうまぴょいに向け……学園内を闊歩していた……。

 あわよくば……無敗で三冠を達成出来るほどの逸材………そんなウマ娘を探して……!

 

「あー! ライスのトレーナー!」

 

 後ろから聞こえた声に振り返ると、そこにはトウカイテイオーの姿があった。

 

「ひどいじゃん! かつ澤ではソースや山椒も頼めば出てくるって…なんであの時教えてくれなかったんだよぅ!」

「ククク……バカが…! あまりなめるな…! 世間(かつ澤)を……!」

「ワ、ワケワカンナイヨー!」

 

 利根川は呼び止められた用件のあまりのくだらなさに小さく舌打ちをして、踵を返したがピタリと足を止めた。

 

「そういえばおまえ…まだどこのチームにも属していないらしいな……」

「ボクには絶対に叶えなきゃいけない目標があるからね! トレーナー選びも慎重なんだ、にしし」

「目標…?」

「そう! カイチョーと同じ、無敗の三冠ウマ娘!」

 

 トウカイテイオーは指を3本突き立て、もう一度「にしし」と笑った。

 

「ククク……つくづく………面白いものだ…………ウマ娘というものは…! その目標…叶えるぞ……ワシと共に……!」

「ええ!?」

 

わ・・

       わ・・

 

「グズグズするなっ……! ついてこい……!」

「ワケワカンナイヨー!!」

 

 こうして…強引とも言える利根川のスカウトを受け……テイオーと利根川の挑戦が始まった……!

 当然…日々のトレーニングは過酷なものだったが……テイオーは決して弱音を吐いたりしない……!どころか……利根川の考える理にかなったトレーニングを……楽しんですらいた……!

 

 テイオーの持つ素質は素晴らしいの一言につきる……! 膝や足首の柔らかさ……人並み以上の努力………!

 利根川とテイオーは怒涛の5連勝で皐月賞を制し…無敗のまま二冠目をかけた日本ダービーに乗り込んだ……!

 

 テイオーはダービーでもその圧倒的な強さを見せつけ……ウイニングライブも完璧にこなしてみせた……。

 が……誰もが見落とすほどの僅かな違和感を……利根川と会長だけは見逃さなかった……!

 

 

× × ×

 

 

 後日、利根川はテイオーを連れて病院へとやって来た。

 何ともないと言い張るテイオーだったが、万が一のこともあると考えた利根川の英断である。

 テイオーは早く終わらせて菊花賞に向けたトレーニングをしたいと駄々をこねていた…が……

 

「トウカイテイオーさん」

「なに?」

「折れてます」

 

 駄目っ…!

 

「骨折です。レース復帰は来年の春になるでしょう」

「えー!?」

 

(ぐっ……! がっ……!)

 

  

   

    あっ・・

 

(こ、骨折だと……! バカがっ……! 思わんだろうが……本当に折れているとは………!)

 

 利根川……誤算につぐ誤算……! 痛恨の大誤算………!

 

「入院してください」

「にゅ、入院!? やだー! やだやだやだ!」

「とりあえず痛み止めを打っておきましょう」

 

 そう言うと医者は、暴れるテイオーの脚に躊躇なく注射を打ち込んだ。

 

「ぎゃー!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【トウカイテイオー・・・・・・】

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………あ……?」

 

わ・・

       わ・・

 

「だから、菊花賞出るってば!」

「チッ……バカがっ……!」

「全治6ヶ月? 復帰は来年の春? だからなんだっての? そんなこと言われて菊花賞諦めるボクだと思う?」

「……………」

 

 利根川は言えなかった……! 利根川自身…これまでの人生で諦めたことなどただの一度も無かったからだ……! 常に勝ち続けることで道を示し続けてきた利根川が……まして自身の担当するウマ娘に……不可能だの諦めろだの……そんなくだらない言葉を…言えるはずがない………!

 何より……利根川を見つめるテイオーの強い瞳が……いつかの自分と重なって見えていた……! そう……! 全てのウマ娘とうまぴょいを果たすと決心したあの日の利根川と……!

 

「ククク……仕方あるまい……!」

「トレーナー……!」

「だが…まあ……まずは入院だ……!」

「え〜、嫌いなんだよな入院…」

 

 ――菊花賞が開催されるのは5ヶ月後の11月。

 全治6ヶ月を言い渡されたテイオーにとって、復帰は困難を極める。

 この日から利根川は、睡眠時間を6時間から3時間に削り、ひたすら悩ませる。自身の頭……!

 決して無理をさせるわけにはいかないが…生半可なトレーニングで菊花賞を制することなど出来ない……!

 気が付けば利根川……突入…! 理外の三徹目……!

 

「クク……ククク……! 完成したぞ…!」

 

 利根川は凝り固まった肩をほぐし、あらゆるトレーニング法をまとめた分厚い紙の束を手に持ち、部屋を出た。

 部室には既にチームトネガワのメンバーが揃っており、利根川のすぐ後にテイオーもやって来た。

 

「たっだいまー!」

「もう退院してきましたの!?」

 

 晴れて退院してきたテイオーは、松葉杖を両手でつきながら、驚くみんなに笑顔で応える。

 そんなテイオーの前に立ち、利根川は完成させた計画書をテイオーに突きつけた。

 

「これ……」

「ククク……トウカイテイオー復帰プラン………名付けて…『勝たなければただのウマ』プランだ……!」

「あ、ありがとうトレーナー…! ボク、絶対諦めないからね!」

「だが…最後の最後……ドクターストップがかかれば……その時はもうアウツ…!」

「うん! 分かった!」

 

 ――その日から血の滲むような努力をひたすら繰り返し、ギプスが取れてからも必要以上に基礎トレーニングをこなした。

 全ては菊花賞で復帰する為に……無敗の三冠ウマ娘になる為に……!

 そうして数ヶ月が経ち、菊花賞も目の前に迫って来た頃、テイオーは再び病院を訪れ、レースに復帰出来るかどうかを尋ねた。

 

「……………」

 

 結果を報告する為、テイオーは重い足取りでトレーナー室へと向かった。

 陽はとうに沈み、もう学園内に残っている者などいないというのに、トレーナー室からは明かりが漏れ出ている。

 テイオーは扉をそっと少しだけ開け、中の様子を覗き込んだ。

 

「勝たなければただのウマ……! いや…これはもう言った……! ならば…三冠は命より重い……! バカッ……! あるかっ……そんなこと…!」

 

 利根川の目の下にはひどいクマが出来ている。

 最後の最後まで諦められなかったのは…利根川も同じなのだ……!

 

「トレーナー……」

「テイオー…! どうだったのだ……?」

「約束、守らなきゃね」

 

わ・・

       わ・・

 

「最後の最後、ドクターストップがかかればアウツ…だったよね。ボク、菊花賞――」

「まだだ…! ワシが…なんとかしてみせる……! おまえを…無敗の三冠ウマ娘にっ……!」

「もういいよ。もういい」

 

 テイオーは優しく笑って、「ありがとね。いろいろ」と、そう言った。

 利根川は返す言葉が見つからず、ただ拳を強く握りしめるしかなかった。

 それは今まで味わったことのない挫折。自分が負けることより、その何十倍悔しい気持ち。

 そしてそれは、一度だけではなかった。

 

 

 ――テイオーはその後、無敗のウマ娘になるという目標を立てたが、同じチームであるマックイーンに敗れ、二度目の骨折。

 無敗のウマ娘という目標さえも失ってしまったテイオーは、それでも諦めなかった。

 しかし、トレーニング中の三度目の骨折。

 いつだって前を見続けていたテイオーは、もう届かないことを知り、遂には引退を決意した。

 

 利根川は、秋のファン大感謝祭でテイオーの引退ライブを開くことを決め、それに向けて各々が準備を進めた。

 

 

× × ×

 

 

 ――そうしてやってきた秋のファン大感謝祭。

 

「みんな来てくれてありがとう」

 

 ステージに立つテイオーの表情は明るく、気丈に振る舞っていた。

 

「みんなも知ってるようにまた骨折しちゃった。3回目だよ3回目。逆に凄くない? はは……。3回目にもなったらすっかり慣れっこの…つもりだったんだけどね……。でも…だからさ……もうボク、レースには…レースには――」 

「ワシは……ワシは諦めんぞっ……! テイオー…!」

 

 最前列を陣取っていた利根川は、『テイオー』と書かれた鉢巻を頭に巻き付け、会場全体に響き渡るほどの大声で叫んだ。

 利根川の一言に、堰を切ったように観客たちが声を上げる。

 

「テイオーっ………! 帰って来いっ……! 有だよっ………! 次は有だっ……! ここで走らずしてどうする……? 惚けたか……! テイオーっ………!」

 

「不成立っ……! ノーカウントなんだっ…! この引退はっ………! ノーカウントっ…! ノーカウントっ…………! ノーカウント…ノーカウントっ…!」

 

 鳴り止まぬ声……! 渇望……!

 誰もが望んでいた……! トウカイテイオーという……天才の走りをっ………!

 

「みんな……」

 

「ノーカウント! ノーカウント! ノーカウント!」

 

 ノーカウントコール……!

 

「テイオー! テイオー! テイオー!」

 

 テイオーコールっ……!

 

「そこまで言われちゃ…しょうがないなぁ……。みんな見てて…! ボク…もう一度頑張ってみるから!」

 

 

× × ×

 

 

 それから…数え切れない、でも少しの歳月は流れ…やってきた……!

 1年ぶりのレース……4番人気…有記念……!

 最後まで…全盛期の走りには戻らなかったが……利根川は信じていた……!

 否……! 利根川でさえ…信じることしか出来なかった……!

 

《今年最後の有記念! 今、スタートしました!》

 

 ――それぞれの想いが交錯する……! 当然…誰ひとりとして勝ちを譲っても良いなどと考えているウマ娘はいない……!

 選ばれた14人……優駿たち……!

 テイオーは7番手の位置につけていた。

 

 そして遂に第4コーナーへと差し掛かったとき……誰もが息を呑んで見守っていた。

 

 

《ここでビワハヤヒデが仕掛けて来た! 菊花賞ウマ娘のビワハヤヒデ! ぐんぐんとスピードを上げていく! メジロパーマーをかわした! ビワハヤヒデ先頭! ビワハヤヒデ先頭!》

 

 

 利根川は決して目を逸らさなかった。

 スズカは胸の前で両手をぎゅっと握った。

 キングは手をついて身を乗り出した。

 ダスカは下唇を強く噛んだ。

 

 

《トウカイテイオーが来た! …え? トウカイテイオーが来た!?》

 

 

 

 ――肺が、苦しい。だけど破れたって関係ない……!

 脚が重い。でもまだ動く……!

 ボクは、何度も挫けてきた!

 

 

『ククク…! ワシの勝ちだ……! もらうぞ……おまえの星………!』

 

 あの時も――

 

 

『ククク……市民か……! ワシは…皇帝……!』

 

 あの時も――

 

 誰よりも挫けてきた!

 誰よりも悔しい気持ちになったのは、ボクだ!

 誰よりも勝ちたい気持ちが強いのは、ボクだ!

 

 絶対に譲らない……! 絶対に……絶対に……!

 

 絶対は、ボクだ───!

 

 

「行け……!」

 

 マックイーンが漏らした声は…観客の声援に掻き消されてしまうほど小さな声だった……。

 

「行け……!」

 

 キングの声もまた…とても小さなものだった……。

 

「けっ……! けっ……! けっ……!」

 

 しかし…ふたりの声に呼応するかのように……気が付けば…周りにいた観客だけでなく…レース場全体が震えている……!

 圧倒的喧騒の中…前音が掻き消えていた……。

 

「けっ……! けっ……! けっ……!」

 

 彼らは口々にこう叫んでいたのだ。

 

 

行けっ・・

 

 

「行け………走れっ……!」

 

 利根川も叫んだ……!

 

 

「勝負だぁぁああ────!」

 

《トウカイテイオーだ! トウカイテイオーが来た! ビワハヤヒデとの距離をぐんぐん詰める!》

 

「せっ……! せっ……! せっ……!」

 

《あと少し! あと少しの差が縮まらないトウカイテイオー! ビワハヤヒデがまったく譲らない! 菊花賞レコードの強さを見せるビワハヤヒデ!》

 

「せっ……! せっ……! せっ……!」

 

《ターフに舞い戻ったテイオーがじりじりとその差を詰めていく! レースは残り100m! 残り100mを切った!》

 

「差せっ……! 差せっ……! 差せっ……!」

 

《最後の攻防! ここでビワハヤヒデに並ぶかトウカイテイオー! 新世代覇者ビワハヤヒデ! 蘇るのかトウカイテイオー! 中山が! 中山が震えているぞ有記念! はたして一体どちらが勝つのか!》

 

 利根川は…僅かだが薄らと両目に涙を浮かべた……!

 

《トウカイテイオーとビワハヤヒデ! トウカイテイオー! ビワハヤヒデ! ダービーウマ娘の意地を見せるか!》

 

「テイオーっ……!」

 

《トウカイテイオー! トウカイテイオーだ! トウカイテイオー! 奇跡の復活!》

 

「……ワシの…愛が……」

 

 

 ――やった。

 

 

 トウカイテイオーは……一年ぶりであるレースを見事制し……奇跡の復活を成し遂げた……。

 歴史に残る勝利をその手に引っ提げ…利根川のもとへと駆けてくる……。

 

「トレーナー……見ててくれた?」   

「クク…愚問っ……!」

「にしし! この後のライブもちゃんと見ててよね!」

「ああ……」

 

 ほんの少しだけ口角を上げて応えた利根川に対し、テイオーは満面の笑みを返してターフへと戻って行く。

 その背中に、利根川は小さな声を投げかけた。

 

「よくやった……テイオー…!」

 

 

× × × 

 

 

 当然……! 人が空を飛べないように……魚が陸を走れないように……鳥が火を扱えないように……それは至極当然……!

 ウイニングライブ……!

 

 圧倒的……うまぴょい伝説!

 




利根川先生を本気の本気で熱くさせる唯一のウマ娘はトウカイテイオーかなって
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