新人トレーナー録トネガワ   作:喬 

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イチジョウ ─ ナイスネイチャ

 数多のウマ娘の……夢……努力……魂……

 希望……絶望……

 

 そのすべてを呑み込んできた……悪魔的レース場……

 

 『沼』……!

 

 そして……その『沼』を作った府中裏レース場代表者こそ……

 

 

 一条聖也………!

 

 

「おやおや…どうされました? ミココノチカラ様………」

「――!」

 

 怪我を押して…出走した結果……レース中に転倒してしまったウマ娘に近づき……一条は声をかけた……!

 

「走られないんですか…? 続き…!」

「うっ……」

「おい! 棄権だ……!」

 

 一条がそう叫ぶと……後ろに控えていた男たちは……ミココノチカラを担架に乗せ……レース場外へと連れて行く…………!

 

「まだ走れる……! もう少し…もう少しだけ……! やめてっ…! 放してっ……!」

 

 

うわあああ・・・

 

 

「フフ……こういうのもなんですが……なんで諦めないんスかね?」

「クク……奴らウマ娘はこれまでの人生…………ただただ努力を繰り返し……走り続けてきた……! そういう奴らは最後の最後…怪我をしても……根拠なく自らの脚を信じ……走り続けるしか術を知らないのさ………たとえそれが……底なしのウマ喰い沼(バ場)だったとしても……な……! ククク……」

「フフ……間違いないっスね………!」

「さて……にんじんハンバーグでも食べようか」

「はい!」

 

 

 この物語の主人公は……後に自らが生み出した…悪魔的レース場『沼』で……宿敵……伊藤カイジと死闘を繰り広げることになる麒麟児……

 

 府中裏レース場代表者時代の……一条聖也……!

 

 ではなく……!

 

 田舎から…トレセン学園に就職したが…

 未だ燻り何者にもなれぬ…………

 新米トレーナー時代の……

 

 一条聖也の…物語である……!

 

 

 

 

 

× × × 

 

 

 

 

 

「おい! 起きろネイチャ!」

「んー……」

 

 トレーナーになり…担当ウマ娘をもてば…当然渡される……トレーナー室……!

 しかし…そのトレーナー室の質は…実績などによって大きく異なる……。

 一条とナイスネイチャ……まだデビューもしていない彼らに渡されたのは……たった8畳ほどの一室……!

 そこに長机や資料棚を置けば…もう……残るのは人ひとり分通れるだけのスペース。

 

 今日は…デビュー戦に向けてのミーティングをこの狭い一室でわずか30分ほど行い……窓から差し込んでくる日差しにあてられ……気づけば二人とも…惰眠……貪る……4時間…!

 現在時刻は13時……。一条は…隣で机に突っ伏して眠るネイチャの肩を揺すり……声をかけた。

 

「おざます…」

「飯食いいくぞ」

 

 

 二人が向かったのは………一条達のトレーナー室から…中庭を通って徒歩三分……。学園と併設型になった…カフェテリア……!

 

 トレーナーも…ウマ娘も…そのほとんどがこのカフェテリアで食事を済ませるのだが……今日に限って…カフェテリアは混雑を極めていた……。

 なぜなら…カフェテリア中央で行われている……

 

「もう 心に刻まなきゃいけない……! 勝つことが全てだと………。勝たなきゃゴミ……。勝たなければ……勝たなければ………」

 

 新人トレーナーより送られる…ベテラントレーナー達への……圧倒的講釈……!

 

 その隣では……

 

「仕掛けどころを間違えた……。オレが……もっと相手をみて作戦を練っていれば……最終直線でお前のスタミナが切れるなんてことはなかったかもしれない………!」

「………………」

「切れなければ………オレ達の勝ちっ………! 勝ちだったんだっ………!」

「トレーナー……」

「なのにあの時オレは…あろうことか…祈ってしまった……! 何も考えず………神頼み……。オグリを勝たせてくれ……だっ……! もう自分以外………頼る者などない…と……骨身に染みて……知っていたはずなのにっ………!」

 

 前回のレースの反省会をする者や……

 

「無理はいけねえ……無理は続かない……。自分を適度に許すことが長続きのコツさ……!」

「こ、これ……プロテイン…?」

「筋肉はあらゆる悩みを吹き飛ばす……マッスル・ハッスル・スットスル……!」

「と、トレーナーさん!!」

「金はとらねえよ………!」

 

 ウマ娘の抱える悩みに寄り添い…励ます者……。

 そんな人混みをくぐり抜け…なんとか確保できたのは…暖房も届かない……端の席…。

 そこで遅めの昼食をとりながら…再開……。デビュー戦に向けたミーティング……。

 

「ま、ゆるっとやってこ。あんまし気負いすぎてもさ、アタシだし? 3着ぐらいに入れたら十分じゃないですかね?」

「…………」

「頑張るよ、アタシなりに」

「ネイチャ……。卑下するな…あんまり……」

「え……?」

「決めつけるな……! 自分で自分の限界を……!」

「うっ……」

「今オレ達が………最も恐れなきゃならないものは………なんだと思う……?」

「……? 恐れなきゃならないもの? 3着にも…入れないこと…?」

「違う。満足だ…!」

「……!」

「人は満足したら…努力をしなくなる……。3着でも自分にしては良い結果だと……満足してしまったら…そこで終わり……! 完全になくなる…! 浮上の目は………!」

「うっ……」

「とどのつまり…………のし上がるためには……積み上げるしかないんだ……! 不満… 抱(いだ)き続けたまま……!」

 

 お察しの通り……ミーティング中だというのに……居眠りをしてしまったネイチャを起こしてやるどころか…自分も一緒になって眠っていた男が………こんなストイックなことを言っても……

 

 説得力は……皆無…!

 

 そして無論…担当ウマ娘のネイチャは……そのことになんとなく気付いているが………

 

「……やっぱり…1着とるまで……満足しちゃダメだよね…………」

 

 反論しない……!

 

 なぜなら……

 

「いや……違うな……。だったら居眠りなんてするなって話だよな……四の五の言わずに…!」

 

 自分で気付くから……!

 

「違うだろオレ……戒めるところ……」

「い…いやいや……」

 

 

 この物語は………『キラキラしたい』……という…ナイスネイチャの夢を背負い……圧倒的成功をおさめるため上京した……

 

 「府中」……!

 トレセン学園……!

 ……を舞台にした……一条聖也&ナイスネイチャの青春物語である……!

 

 

 

 

 

× × ×

 

 

 

 

 

「……ちょ、ちょー。ちょいちょいちょい、トレーナーさんや」

「………あ…?」

「いやね、気持ちは嬉しいですよ? すーっごく有難いよ。有難いんだけれども……」

 

 この日…一条はねじ込んだ……。

 ネイチャのデビュー戦に向け……

 

「オッシェエエエエエエエエエーーーーーーーーーーーーーーーーイッ!!!! ヘイヘイヘェェーーイ!! 日和ってる場合じゃねーぞネイチャアァッ!!」

 

 ウマ 走り……芝 揺らす……

 

「どーして併走相手にゴルシを選んだのかって話ですよ!」

 

 悪魔的…模擬レース……!

 

「あの日、空は暗闇に染まった……。この世から希望は消えた――はずだった。だが幸運なことに、地球にはこの救世主ゴールドシップ様がいた……!」

「なんか語り出してるんですけど……!」

 

 今回一条が…併走相手にゴールドシップを選んだのは……ネイチャの実力を知るためであるのはもちろん……。その他に…常識に囚われないそのウマ娘の走りを肌で感じ……踏み出してほしかったから………!

 

 地球は救えずとも……自分の内面…心は変えられる…。

 ネイチャだって…本当はキラキラしたいはず……!

 

「ゴルシの奇行を是とするわけではないが…確かにゴルシの走りは……人を魅了する…。なら……飛び込めっ……! キラキラなんて程遠い人生…『よくやった』で終わることばかりの…3着の向こう側……理屈や常識を飛びこえた…その先にっ…!」

「トレーナーさん……」

「んだコラァ! アタシのどこが奇行なんだ!」

 

 ゴルシの叫び声はトレーニングコース全体に響き渡り……気が付けば…集まる……!

 ヒシアマゾン…ウイニングチケット…マヤノトップガン…マーベラスサンデーといった……学園内でも注目の実力者……!

 さらには……この世代で一番注目のウマ娘……ナイスネイチャが栄光を掴むためには…必ず立ちはだかる存在……

 

「あーっ!! 面白そーなことしてるっ!?」

 

 トウカイテイオー……!

 

「フフ…目に浮かぶな………ネイチャ……」

「やー、まあ、アタシの負け姿がですかねぇ」

「いや、違う。オレ達に注目しなかった記者共が……近い将来……圧倒的成功をおさめたオレ達に……目の色変えてインタビューにくる…無様な姿のことだ……! 出し抜くぞ………! 全員……! ククク……」

 

 

 

 

 結果から言えば……この模擬レースでネイチャは3着という結果に終わり……それはこのメンツを考えれば十分と言えるが……もちろん…満足などしない……。

 

「トレーナーさんは本気で、アタシと『勝利を目指す』って言うの?」

「オレについてきたってことは…少なからずお前もそのつもりなんだろう………? ネイチャ…」

「その期待に応えられるかは、わかんないけど。まあ、そうだね……」

「クク……」

 

(そう……。出し抜いてやる……! それも……この……強豪ひしめく……府中で……!)

 

 これは…のちに府中裏レース場で………悪魔的レース場「沼」を生み出す

 新米トレーナー一条聖也と……『キラキラしたい』ナイスネイチャの

 

 青春物語である……!

 

 




燻る若者
往々にして朝・・

走りがち・・・・・・!
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