基本日常を書いていきたい。
「今日から本格的に開始だ…トレーニング……!」
ジャージに着替えたライスと、利根川は早速グラウンドへと向かった。
ついに始まる……『うまぴょい』、そのセンターを目指すふたりの物語………!
「う、うん…。ライス…がんばるぞ、おー!!」
不意に、ライスは握った拳を真上に突き上げ、小さな声で決意の言葉を漏らした。
「………………あ……?」
「あ、えっと…これね、お母さまが教えてくれたの。『こうやって言ったら、がんばる気持ちが湧いてくるよ』って。トレーナーさんも一緒にやる?」
無邪気にそう尋ねてくるライスの期待を孕んだその瞳に、もちろん利根川は応えない。
大の大人、それも帝愛グループ幹部である利根川がまるで小さな子供のような仕草……出来るはずがない……!
「するかっ……! そんなもの………!」
「あぅっ……。ご、ごめんなさい…」
「ぐっ……!」
利根川の叱咤により、ライスは両耳をペタンと伏せ俯いてしまった。若干涙目になりながら、肩を震わせ、すっかり怯えてしまっている。
――しまった。出だしからこんな調子では上手くいくはずがない。トレーナーとウマ娘、うまぴょいを掴むには何よりも大切……! 信頼関係……!
利根川…躓きっ……! 第一の苦悩……!
果たさねばならぬ使命。こんなところで躊躇している場合ではないが、中々譲れない。帝愛グループ幹部としてのプライド。
しかし――
「…………が……」
「え…?」
「が、がんばるぞっ……おぉ………!」
「ト、トレーナーさん! ライスも…! おー!!」
「がんばるぞ……! おぉ……!」
「おー!!」
利根川はこの生き地獄を連続12回やりおおし
果てるっ………!
やりおおした後はしばらく動けず……走馬灯のように過去の出来事を思い出し、一息ついた後やっと立ち上がり、ヨロヨロと指導を開始。
――これまで数々の死闘を気付きによって乗り越えてきた利根川といえど、ウマ娘のことに関しては全くもって未知の領域。
人間と変わらぬ身体。しかし人間にはない圧倒的脚力。
ライスにあったより良い指導法…模索……。教本を片っ端から購入。全額自腹。そして突入……三徹目………!
「ステイヤーとしての素質は十分……ならば更なる底上げ…スタミナ……!」
利根川は自室でタバコをふかしながら考えていた。あの小さな身体に似合わぬ圧倒的スタミナ、更にはスピードとパワーも兼ね備えている。根性だって確かにある。唯一足りないものをあげるとすれば……それは自信。
ライスは本気で思っているのだ。度重なる不幸は全て自分のせいだと。自分がいると周りまで不幸にしてしまう、自分はだめな子なのだと。
「ワロえん………! そんな曖昧な話は草すら生えん下らぬ話…!」
時刻は既に深夜三時。ライスのあまりの自信の無さが危惧されるが、兎にも角にも本日は晴れてデビュー戦。
流石に三徹目ともなると身体がもたない。少しではあるが利根川は仮眠をとることを決意した。
その時間……僅か三時間……!
× × ×
――けたたましく鳴り響くアラームを押さえ、重い瞼と身体を起こした。
眠気覚ましにシャワーを浴びるとすぐさま歯を磨き、野菜ジュースと一本のバナナを食べ終え、スーツに着替えて寮を後にした。
学園前で待つこと十数分――。ライスは一向に姿を表さない。
痺れを切らした利根川が、本来立ち入り禁止である美浦寮へ乗り込もうと決意したその瞬間、無邪気に駆けてきたウマ娘に上着の裾を掴まれ振り返った。
「ねえねえきみ、ライスちゃんのトレーナーさんだよね?」
「あ…………?」
ざわ・・
ざわ・・
――少女の名はハルウララ。
どうやら彼女の話によるとライスは朝から行方しれずで、寮のみんなで探していたがつい先ほどハルウララがその姿を見つけたらしい。
空き部屋の隅で、小さな声でトレーナーを呼ぶライスの姿を見て、利根川自身に見つけて欲しいのだろうと考えたハルウララは駆けつけてきたと――そういう話であった。
かくして、ハルウララに連れられ美浦寮までやってきた利根川達は、制止するヒシアマゾンを説得し、ライスのいる空き部屋へと辿り着いた。
「と、トレーナーさん……」
「ククク……話にならぬウマ……! トレーナーはおまえらの母親ではない。おまえらウマ娘の決心をいつまでも待ったりはせん……!」
「……………っ! ご、ごめんなさい。ごめんなさい、ごめんなさい……!」
「チッ……。謝るだけなら子供でもできる……。大事なのは…………それをどう行動で清算するか……」
「でも……レースに出るって考えると、どうしても怖くなっちゃうの……選抜のときも、いまも……! レースに出たら、ほんとのことがわかっちゃう。この先ずうっと、だめな子だって、わかっちゃうかもしれない……」
利根川は考えていた。これほどまでに自信の無いライスにどう檄を飛ばしてやるべきか。
デビュー戦、走りさえすればほぼ確実に一着をとれる実力はあるのだ。
「ごめんなさいトレーナーさん。もうライスのことなんか……こんなだめな子のことなんか、あきらめていいから……!」
「うーーーー(うまだっち)………」
「え…………?」
ざわ・・
ざわ・・
それは確かに利根川の口から発せられた言葉だった。渦巻く……異様な空気………!
いつも陽気なハルウララでさえ、隣で口をぽかんと開け、利根川の顔を見上げている始末…。
「ワシは約束した…お前に見せてやると……! うまぴょい…そのセンターの圧倒的景色っ………! が……本人にその気がないのであればこれはもうアウツ……! そして失い続けるんだ…貴重な
言って利根川は踵を返し、寮を後にしようとした。
「だが………」
ざわ・・
ざわ・・
「お前が諦めんと言うのなら…ワシも諦めん……! 当然……!」
「………っ! トレーナー、さん。あきらめないで、いてくれるの……? ライスは変われるって……信じて、くれるの……?」
「ククク……レース場で待っているぞっ……ライス……」
「あ………!!」
利根川…渾身の叱咤激励……! ほの見えるっ………! 分岐点っ……!
流れ変わる時っ……強運の波動……熱く走れる
× × ×
――その後利根川は、レース場の地下バ道にて、まだ恐怖に震えながらも自身を鼓舞するライスの姿を見つけた。
「ククク……智略走り他人出し抜ける強者のみが生き残る……悪魔的レース…」
「トレーナーさん……!! あのっ…あの、あのね私……!!」
「震えているのは…怖いのは……それだけ本気だからだ……! ここ一番で何も感じないようであれば…アウツ………!」
「……! うんっ。……いって、きます!!」
――ライスは見事そのレースを制し、観客の声援を一身に浴びながら利根川の下へと戻ってきた。
何か言いたそうに、もじもじと身を捩るライスを見て利根川は小さく舌打ちをした。「何か言いたいことがあるのなら…言わんか……さっさと……」、と。
「トレーナーさん……あのね、いっこ、わがまま言ってもいい……?」
「…………あ……?」
「あの、あのね……? トレーナーさんのこと……『利根川先生』って呼びたいの。だめ、かな……?」
不安そうに、でもどこか期待を孕んだ瞳で見あげてくるライスに不敵な笑みを浮かべ、利根川は踵を返した。
「クク……好きにしろ………!」
「と、利根川先生……!」
× × ×
――それから…数えきれない、でも少しの歳月は流れ…やってきた……!
うまぴょいをかけた…大勝負……!
並み居るウマ娘達を差し置いて…圧倒的一番人気……ライスシャワー………!
誰もが息を呑み、ゲートが開くその時を今か今かと待ち侘びていた。
利根川幸雄…ただひとりを除いて。
利根川だけは確信していた。勿論勝負に絶対は無い。が…ライスは必ず一着をとり、うまぴょいするのだと……!
「ククク……これでまた一歩…近づいたな……!」
× × ×
そして利根川の読み通り、ライスは見事一着でその圧倒的実力を見せつけた。
うまぴょい待ったなし…しかし……!
「ぐっ…がっ……!」
ぐ
に
ゃ
あっ・・
まさかの………!
「バカな……! なぜっ……うまぴょいではなく……ささやかな祈りっ…………!」
ライスシャワー……圧倒的ソロ………!
利根川っ………! 大誤算………!
一話完結と言いましたがまたいつかライスの話書きます。
全員とうまぴょいするまで終わりません。
「ライスはヒールじゃない、ヒーローだ!」
これ書きたい。