新人トレーナー録トネガワ   作:喬 

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サイレンススズカ・・・・・・

「ククク……見たか…? この記事……影さえ踏ませぬ………圧倒的…悪魔的逃亡者っ……!」

「異次元の逃亡者です……」

 

 手にしていた新聞を机の上に投げ出し、椅子に深く腰掛けた利根川を、サイレンススズカはため息混じりに目で追った。

 ――ここはトレセン学園のある一室。ミーティングを行ったりトレーニング開始までの僅かな時間を潰したり……とどのつまり部室のようなものである。そう……『チームトネガワ』の部室であるっ………!

 

「ククク……そんなものはどちらでもいい……! レース序盤から終始逃げに徹するおまえの走り……しかも落ちないっ………! どころか終盤さらに加速する………!」

 

 利根川は内ポケットから取り出したタバコを口に咥え、三度(みたび)「ククク……」と静かに笑った。

 

「これはもう待ったなし……! うまぴょい……!」

 

 愉快愉快、そう言わんばかりに利根川は高らかに笑った。その姿はまさに悪魔的……悪魔の愉悦…!

 

「……おっと、いかんいかん……ウマ娘のいる部屋でタバコを吸うなど……話にならぬクズ……!」

 

 そう言って利根川は咥えていたタバコをポケットの中にしまい込んだ。

 実は利根川、ライスシャワーの圧倒的ソロ曲によりうまぴょいの夢敗れた後、一度失脚。

 その後なんとはなしに訪れたレース場にてスズカと出会ったのだ。

 

「その前にここ、禁煙です…」

 

 ――時は少し前に遡る。

 

 

『先頭はカズタカイザー! リードは3バ身…!』

 

 勝者はカズタカイザーで決したかのように思われたこのレース……。

 しかし――

 

『……ああっ! ここでユキオーとマックロサキー! すごい脚であがってきた…!』

 

 ギリギリで……もつれ込んだっ…!

 ユキオー、マックロサキー……起死回生の末脚………!

 

『カズタカイザーかユキオーかマックロサキーか!? カズタカイザー! ユキオー! マックロサキー! カズタカイザーユキオーマックロサキー……! レースを制したのは……8番、マックロサキー!!』

 

わ・・

       わ・・

 

「おい、1番人気のサイレンススズカは9着だぞ………!」

「それよりも気になるのは……今日一度も立っていない……先頭にっ………!」

「……………っ!」

 

 観客達の間に流れる…異様な空気……! どよめき……!

 スズカは前回、前々回と圧倒的な逃げで一度も先頭を譲ることなくレースを制してきたのだ。

 そのスズカが…あろうことか理外の後方……! 終始後方………! 先頭から終盤差されたのではなく……圧倒的後方っ…………!

 

「なんだかなあ…」

「まあ…こんなもんだろ…」

 

 期待外れだと、ガックリと肩を落とす者。

 

「フフ……これ…に…はワ…ロ……」

 

 レース結果を面白おかしくネットに書き込もうとする者。

 

「ワロえん………!」

「えっ!? うっ……ライスシャワーのトレーナーっ…!」

「そのウマ娘にあった走り方を見抜けず…トレーナーの意見を押し付けるなど……芝すら生えん下らぬ作戦…!」

 

 利根川の言う通り、この日スズカのトレーナーは言い渡していた。序盤から飛ばすのではなく、中盤あたりまでスタミナを温存。ラストで一気に先頭に躍り出る……。トレーナーは今回のレースを………一点集中…!

 かけてきた………! ラストの直線の伸びに……!

 しかしその作戦はスズカには圧倒的…絶望的にあわなかったのだ。

 序盤から他のウマ娘達に囲まれ、先頭が見えないレース。そんなものはスズカの望んだ景色ではなかった。

 ただひたすら息苦しかった。雑音と暗闇。走る理由さえ忘れてしまうほど。

 

 ――そしてレース後日、更なるどよめきがファン達の間を駆け巡った。

 サイレンススズカがチームを脱退、とどのつまり…走ることを辞めたのだ。

 

「ん……? あれは…」

 

 この事実を知った利根川が新聞を購入する為に学園の外に出ると、記者達に囲まれているスズカの姿を見つけた。

 

「チーム脱退の真意を……!」

「もうレースに出ることは無いのですか……!?」

 

 次から次へと押しかける記者達を見て小さく舌打ちをした利根川は、間に割って入ろうと記者達を押しのけていく。

 

「ええい……どかんかっ………!」

「な、なんですか貴方は…!」

「どけ!!! ワシはトレーナーだぞ!!!」

 

 そうして利根川は強引に、スズカを背にする形で目の前に立った。

 

「取材をするのであれば…通してもらおう………! 学園だけは………きっちりと………!」

「うっ………」

 

 この利根川の圧により、記者達は撤退。

 俯き、ただ地面を見つめるだけのスズカに向き直った利根川は、内ポケットから取り出した金言メモを開き、数ページめくった後しまい込んだ。

 

「失ったのであれば……取り戻すべきなのだ……!」

「え………?」

「迷い…立ち止まった時ほど……案外逆の道を辿ろうとする………! おまえの走る理由はなんだったのだ………おまえの見たかったものは……負けて逃げ出した先にあるのかっ…………!」

「……………っ!」

「勝たなければただのウマ…! 勝たなければ……オグリは悪魔的タダ飯喰らい」

 

 ※個人の感想です

 

「ルドルフは激寒ダジャレ会長」

 

 ※いい意味で

 

「マルゼンスキーは圧倒的時代遅れのチョベリバ」

 

 ※諸説あります

 

「しかし彼女らがそう思われていないのは…勝ち続けてきたからだ………! 勝たなければ…………! 勝たなければ…………!」

 

 ここで飛び出す……! 利根川の金言………!

 利根川のこの激励で…………走る理由を見失っていたスズカが……一変……!

 

「私が見たかったもの……。スピードの向こう側……。静かで、どこまでも綺麗な……!」

「ククク……そうだ……! その向こう側とやら…ワシのチームに入れば……」

「ありがとうございます! 私、自分らしく走れるチームを探してみます!」

 

 そう言って、スズカは爽やかな笑顔で駆けて行った。追いつけないほど、圧倒的なスピードで。

 

 

   ×  ×  × 

 

 

わ・・

       わ・・

 

「えー…諸君らに集まってもらったのは…他でもない……サイレンススズカをワシのチームに引き入れる…………! その為の…アイデア…………!! 思いつく限りどんどん発表して欲しいっ…!」

 

 ライスを筆頭に…チームトネガワの部室に集められたウマ娘……!

 スペ、マックイーン、テイオー、スカーレット……!

 もちろん利根川はよく知らない……このウマ娘達のことを……! しかし…記憶した…! ライスに聞き…ひとりひとりの…顔と名前を……!

 

わ・・

       わ・・

 

 急に集められた状況に…………初めは圧倒されるウマ娘達だったが……

 

「あの…いいですか…?」

 

 動き出す…!!

 

「ククク…道開く者…! 勇者……! スペシャルウィーク…! 聞かせてくれっ…!」

「では…もっと人数を集めてバーベキュー……なんてどうでしょう……?」

「………………あ……? バーベキュー………?」

「あっ……いやっ…! 私が食べたいだけとかじゃなくて……皆さんでワイワイ盛り上がったらスズカさんも…雰囲気に流されやすいかな…と………! アハハッ……」

「……………」

 

 これを受けて利根川、明後日の方向に視線を逸らし、取り出したタバコを咥える。

 火をつけようとしたところで思いとどまった。ウマ娘の前でタバコを吸うのはご法度……! 起こり得る…肺機能の低下……!

 なんとか直前で咥えていたタバコをポケットに戻し、逸らしていた視線をスペシャルウィークへと戻した。

 

「スペシャルウィーク……!」

「ううっ……!」

「面白いっ…………!! なるほどバーベキューなら誰でも楽しめる……! つまり外しやすい……ハメを…! おいっ!」

 

 利根川は隣に座っていたライスに視線を送る。それを受けてライス、ホワイトボードに書き込む。『バーベキュー』……手の届かない上の方ではなく…下の方に……可愛い文字で……!

 

「出たな……! いきなり…! 妙案………!」

「あ…ありがとうございますっ!」

「他…どうだ…?」

 

 利根川は……

 

「あの…皆さんでスポーツ観戦に行くというのは……」

 

 褒めた……!!

 

「悪魔的発想………!!」

 

 兎にも角にも褒めた…!

 

「────とか…」

「秀逸!」

「────は…」

「卓抜…! 奇抜…!」

「────とか」

「素晴らしいっ」

 

 例えそれが平凡なアイデアであっても……!

 気が付けば…ホワイトボードに書き切れないほど大量のアイデア……!

 場の熱気も高まり…非常にいい流れ……!

 全てが上手くいっていた…そんな時……響く…ノックの音……。

 

「失礼します」

「…………………あ?」

 

わ・・

       わ・・

 

「………? えっと、こんにちは……」

「ぐっ……………!!」

 

 開かれた扉から静かに入ってきたのは……理外の……サイレンススズカっ………!

 

「あの…スペちゃんから、私の為の会議が開かれるって聞いたから…どんな感じなのか様子を見に来たんですけど…」

「うっ……!!」

 

 余計なことを……! という目つきでスペを睨んだ利根川から、異次元のスピードで目を逸らすスペシャルウィーク。

 

「で…では…ここから………出たアイデアの内どれが良いか…ひとりひとりの意見を聞かせてもらう…………!」

 

わ・・

       わ・・

 

「スペシャルウィークからっ…………!」

「はっ……はい…! わ…私は………バーベキューがいいかな……と………」

 

 何をするにもまず、スズカの反応が第一であった。万が一つまらないなどと思われてしまっては、必然…勧誘は失敗。

 チラと、入り口付近に座るスズカに視線をやると、握った右手を口元にあて何やら難色を示している。

 

「き…却下っ…!! バーベキューなど却下っ………!!」

「ええっ…!? で…でも…さっきはあんなに…」

「黙れっ……! その案だけはダメっ……! 論外っ……! アンタッチャブル………!」

「うう……」

 

「では…スポーツ観戦はいかがでしょうか…?」

 

 マックイーンの意見を聞き、再びスズカの方に視線をやった。

 

「あ………!?」

 

 利根川戦慄……!

 見たことのない表情……あらぬ方向へ視線を向けている…! まさしく宇宙猫っ……!

 

「却下っ…! それも却下っ…!」

「ぐっ…!」

「どれよっ………! そんなに言うなら…アンタはどれが良いのよっ…!」

「うっ……………そ…それは…」

 

 ぐっ…! こ…この…!

 ダイス…いや…ダスカ…? どっちか忘れたが…………こいつっ…!

 ワシに渡してきおった……! 時限爆弾をっ……!

 ぐぐっ…! ウマ娘のくせに…蹴ってきたっ…………! 後ろ足でっ…!!

 ぐっ……!

 

  

   

    あっ・・

 

 ぐぐっ…! どれだ…!? 全くわからん…………!!

 

「ちょっとアンタっ…………! 聞こえて…」

Shut Up(シャラップ)

「…………っ!」

「吠えるなっ…! ウマめっ…!!」

「うっ……」

「言われんでも…教えてやる……! ワシの答えは……」

 

 利根川はホワイトボードに貼り付いているイレーザーを手に取ると、凄まじい勢いで消していく。

 

「「ええっ……!?」」

「ア、アンタっ………何してっ……」

「黙れっ!! この中から選んでいいものなどっ…ひとつもないっ…!! 正解は……全消去っ…!」

 

 実はこの時…スズカはチームトネガワに入る為にこの部屋を訪れていた。

 利根川の指導法…これからのレース…先頭の景色……様々な考えが頭の中を駆け巡っていた。

 なればこその難色……宇宙猫……。

 それに気付いていない利根川はただ空回り。

 

 ――結果からいうと、スズカはチームトネガワに入り、数々のレースに出場した。圧倒的な逃げで、一度たりとも先頭の景色を譲らない走りで……。

 いつしかついた異名は――

 

 

   ×  ×  × 

 

 

「ククク……乗り込むぞ……! 秋の天皇賞っ…………!」

「トレーナーさん…」

「…………あ……?」

 

 ターフへと続く地下バ道で、スズカは不意に立ち止まり後ろに立つ利根川へと向き直った。

 少しだけ頬を紅く染め、視線はぎこちなく泳ぎ出す。

 

「無事に走りきることが出来たなら…1着でトレーナーさんの下へ戻ってこれたなら……ひとつだけ、ご褒美をくれませんか?」

「なにが欲しいのだ……!」

「トレーナーさんのことを……」

 

 

   ×  ×  × 

 

 

『ウマ娘達が追い求めるイチジョウの盾

 鍛えた脚を武器に往く栄光への道!

 天皇賞(秋)!

 威風堂々とスタートを待つのはこのウマ娘

 異次元の逃亡者! サイレンススズカ、1番人気です!

 ……ゲートイン完了。出走の準備が整いました』

 

 

 ――スタートです!

 

 

 

「トレーナーさんのことを……利根川先生と、呼んでもいいですか?」

 




読んでくださった方がいれば圧倒的感謝
その内出したい。カイジ、ハンチョウ、イチジョウ。読み切り的な感じで。もちろん、トレーナーとして。
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