新人トレーナー録トネガワ   作:喬 

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メジロマックイーン・・・・・・

「ククク………!」

 

 ――利根川は静かに笑った。

 空一面茜色に染まる夕暮れ時のトレーニングコース。もう何十周と、数え切れないほどいつまでも走り続けるウマ娘の姿がそこにはあった。

 彼女の名はメジロマックイーン。

 メジロ家の令嬢として、最も注目を集めていたウマ娘だったが、本日の選抜レースでは結果は7着と、振るわなかった。

 当然トレーナー達からのスカウトもなく、今もこうしてトレーニングに勤しんでいるというわけだ。

 

「そのくらいにしておけ……今日は……!」

「あ、貴方は…ライスさんのトレーナーさん…!」

「先ほどから見ていたが……オーバーワーク………! 明らかに……!」

「こ、これくらいなんともありませんわ…! わたくしには、メジロの名を持つウマ娘として、果たさなければならない高い目標があるのですから」

「………………あ……?」

「天皇賞制覇……それが、わたくしの目標です」

 

 言い切ったマックイーンの瞳は揺るがなかった。

 選抜レースですら満足に走れなかったウマ娘がなにを……などと利根川は思わない。このとき既に利根川は気付いていた。マックイーンが不調であること……その理由に…。

 

「だからわたくしは………あ、あら? 身体に…ちからが………」

「チッ………! バカが……!」

 

 意識を失い、その場に倒れ込んでしまったマックイーンを見て、利根川は小さく息を吐いた。

 そしてキョロキョロとあたりを見回し、誰もいないことを確認すると、倒れ込んだマックイーンを背に担ぎ、保健室へと向かって歩き出した。

 

 ――翌日、利根川はカフェテリアで昼食をとっていると、物足りなげに空になった皿を見つめているマックイーンを見つけた。

 

「あいつ、まあーだ『ゲンミツ』やってんのか! LOVEが止まらねー甘いモンも我慢かよ。呆れちまう精神力ですわね〜」

「あ………? 誰だ……! おまえ…………!」

 

 突然聞こえた声に振り向くと、そこにはあるウマ娘が立っていた。

 

「おいおい、そりゃオメー、アタシは……って、おっといけねえ。第13惑星を救いに行く時間だわ。そんじゃ、バイナラ〜」

「あ…………!?」

 

 な、なんだ……あのウマ娘は………!

 

  

   

    あっ・・

 

 利根川……謎のウマ娘に気を取られ………気が付けば…見失う……! マックイーンの姿……!

 訳の分からぬ話に悩まされつつ……結局…その日は自室に戻り…食事メニューについて調べることにした……!

 

 ――さらに翌日、利根川はトレーニングコースへと向かい、今日もトレーニングに精を出しているマックイーンを見つけ、声をかけた。

 

「あら? 貴方は……ライスさんのトレーナーさん」

「クク……刮目…!」

 

 利根川は内ポケットから取り出したノートをマックイーンへと手渡した。

 マックイーンは数ページ、黙って読み進め、やがて文字を追う目をピタリと止め、口を開いた。

 

Fuck You

 ぶち殺すぞ…………ゴミめら………! って…なんですの、これは…?」

「あ………!?」

 

わ・・

       わ・・

 

 利根川……大誤算……! 食事メニューについてまとめたノートと……間違えて渡した……金言メモ……!

 

「金は命より重い……!」

「バカッ……! 読むなっ……! そんなものっ………!」

 

 利根川は慌ててマックイーンから金言メモを取り返すと、今度こそ食事メニューについてまとめたノートを手渡した。

 

「……献立表……脂肪になりにくいメニューを、こんなにたくさん……ライスさんのトレーナーさんが調べてくださったのですか?」

「ククク……気にしていただろう……! 太りやすい体質……! そして…無理な減量……! 当然…倒れる…貧血で……! そんなことでは……レースで力を発揮することは出来ん………!」

「ライスさんのトレーナーさん……!」

「……………………」

「ありがとうございます! ライスさんのトレーナーさん! もしよろしければこのノート…お借りしてもよろしいでしょうか?」

「………好きにしろ…」

「では、一週間後にまた…トレーニングを見に来てくださいませんか?ライスさんのトレーナーさん」

「……………………」

「あの、ライスさんのトレーナーさん…?」

「バカッ…! いちいち長すぎる……! いい……! トレーナーで…………!」

「も、申し訳ありませんわ…トレーナーさん…」

 

 こうして利根川は、一週間後にもう一度会う約束を交わし、その場を去った。

 

 ――それから一週間が経った頃には、メジロマックイーンの走りは見違えるほど力強くなっていた。

 利根川の読みは見事的中。無理のない食事制限で調子を取り戻したマックイーンは当然…利根川を信頼……!

 始まる……! 天皇賞制覇を目指す……ふたりの… うまぴょい伝説(ものがたり)……!

 

 

   ×  ×  × 

 

 

「………………」

「おいっ………!」

「ひゃあぁぁっ!?」

 

 ミーティング中、うとうとと居眠りをするマックイーンに声をかけると、尻尾と耳をピンと反応させ、大袈裟に驚いて見せた。

 実はマックイーン、昨夜遅くまでテスト勉強をしていたせいで圧倒的寝不足。

 

「も、もちろん起きておりますわ! メジロ家のウマ娘が、うたた寝なんてするはずがありませんもの! えっと、確か、イチローはウスノロ……でしたわよね……?」

「バカッ……! イチローはいけすかないマイペース野郎だ………!」

 

 この様子では、もう一度初めからやり直した方がいいだろうと、利根川は再び勝つことの大切さについて話し始めた。

 が……

 

「………………」

「おいっ………!」

「……はっ!! ほ、本当に寝てなどおりませんわ! きっとトレーナーさんの見間違いでしょう!」

 

 駄目っ……!

 

「ククク……話にならぬウマ……!」

 

 ――こんな調子で日々トレーニングやミーティング、ダンスレッスンをこなし、全ては上手くいっていた。

 数々のレースで勝ちも重ね、天皇賞秋まであと四日と差し迫った頃…『チームトネガワ』の部室でマックイーンが来るのを待っていた利根川に、思わぬ着信が入った。

 

「もしもし………?」

「利根川様……じいやで御座います…」

「………………あ……?」

 

 電話の主は、メジロ家に仕えているじいやからであった。

 利根川は、たった一言交わしただけで既に気付いていた。マックイーンに…何かあったのではないか…と。

 ――利根川は優秀だ…。それもとびっきり…! マックイーンが出会った大人たちの中じゃ…文句無くナンバー1…切れる男…。そんな男が…まず…気付かないはずが無い…!

 気付く…気付くさ…優秀なんだから…!

 優秀でいてくれてありがとう………! 気付いてくれてありがとう………!

 

 ――じいやからの着信の内容は、マックイーンの足に怪我が見つかった……左足繋靭帯炎を発症したと……。

 それは治療に一年程の時間を要し、例え回復したとしても再発の可能性が非常に高い……ウマ娘にとって不治の病と言われる故障のひとつであった。

 これを受けて利根川、部室を飛び出した。

 走る……! 学園の外へ出て……タクシーを捕まえる為………走る……!

 颯爽と走るトネガワ君……!

 

 ――利根川はタクシーを捕まえるとそのまま、マックイーンがいるというメジロ家の療養所へと向かった。

 が……マックイーンは既に療養所を飛び出し、行方が分からないという。

 利根川……再び走る……!

 学園を出てすぐに降り出した雨の中を……ひたすら走る………!

 

 ――走ること十数分、林を抜けた先にある簡易トレーニングコースらしき場所で、倒れているマックイーンを見つけた。

 

「何をしている……!」

「あら、どうしましたのトレーナーさん? そんなに慌てて…」

 

 マックイーンは利根川の姿を見るとすぐに立ち上がり、精一杯の強がりを見せた。

 

「バカが……! 無理をするな………!」

「無理なんてしていませんわ…。このくらい…なんとも………くっ……!」

 

 利根川の言うことを無視して走り出そうとしたマックイーンは、左足の痛みに耐え切れずその場に倒れ込んだ。

 

「わたくしは…強くあらねばなりません…。挫けることなく堂々と……トレーナーさんと共に…うまぴょいを……! トレーナーさんの為に……! なのに……動かない…動かせない……。もう……走れないの……」

 

 雨は次第に強くなり……銀座……丸の内で購入した…利根川のスーツを……容赦なく濡らしていく……。

 

「天皇賞制覇……それが目標だと……おまえは言ったな……! あれは……嘘だったのか………!」

「そんなわけありません…!だ けどもう無理なんです…! もう一生…まともに走ることなんて出来ない…! 奇跡でも起こらない限り……元のように駆けることは出来ないっ……!」

 

 雨と涙が混じり合い、落ちていく。土砂降りの中でもかき消されなかったのは、その痛みと叫び声が比例していたから。

 ライスと駆け抜けたときも、スズカと乗り越えたときも…利根川は決して寄り添って来たわけではない。利根川には利根川の目的があった。それは勝たせてやりたいなんて不確かなものではない。担当ウマ娘が勝つことはとどのつまり、自分にとっての勝利だったのだ。目的に一歩近づく為の、手段でしかない。

 ――だから、泣き崩れるマックイーンの姿を前にした今も、同情や優しさなど皆無。しかし、それでも言う。そこに優しさはなくとも……!

 

「ワシが諦めん限り………諦めるなっ……! おまえも………! 獲りに行くぞ……! 天皇賞っ…!!」

「………っ! インポッシブル………! インポッシブルですわ…………! そんなことっ………!」

「黙れっ…!! ワシとおまえなら…可能……!  ポッシブル………! 終わらせんっ……! こんなところで……!」

「……………っ!」

「奇跡も…魔法も……あるのだ………!」

 

 利根川……ポッシブル……! 起死回生の…激励………!

 譲れないものは……確かにあった………!

 

 

   ×  ×  ×

 

 

 それから…数え切れない、でも少しの歳月は流れ…やってきた……!

 うまぴょいをかけた…天皇賞春……!

 並み居るウマ娘達を差し置いて…圧倒的一番人気……メジロマックイーン………!

 誰もが息を呑み、ゲートが開くその時を今か今かと待ち侘びていた。

 利根川幸雄…ただひとりを除いて。

 利根川だけは確信していた。勿論勝負に絶対は無い。が…マックイーンは必ず一着をとり、うまぴょいするのだと……!

 

 

   ×  ×  × 

 

 

 そして利根川の読み通り、マックイーンは見事一着でその圧倒的実力を見せつけた。

 

 利根川…ついに迎える……! ここにきてようやく……! 初めての………!

 

 

 

 

 ――ユメヲカケル!




読んでくださった方がいれば圧倒的感謝
いつかしたい・・・マックイーンと・・・うまぴょい・・
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