新人トレーナー録トネガワ   作:喬 

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ああ………
それにしても
金が欲しいっ
…………!!


カイジ ─ オグリキャップ

 未来は僕らの手の中────

 

 

 そう……確かにそれはそうかもしれない。

 しかし、その未来の行方が誰もみな明るいとは限らない。

 マルゼンスキーやシンボリルドルフやエアグルーヴの未来は明るそうな気がする。

 なぜなら――彼女らは積み重ねているから。

 

 積み重ねていない者にとってこの言葉はつらい……。

 

 東京に来て3年、伊藤開司は最悪だった。

 正月明けてからびた一日働いていない。

 しょぼい酒としょぼい博打の日々。そして――そんな毎日のうっぷん、イライラがつのれば、プラーと外へ行き、違法駐車をしている高級車にイタズラしてまわるという――たんに非生産的なだけでなく、他人の足までひっぱるという日々……。

 

 しかし、そんな日々は長くは続かない。

 イタズラを終え、自宅でゴロゴロしていたカイジの家に、ある男が訪ねてきた。

 

「君……? カイジ……伊藤開司くん…?」

「は…はあ……そうですが……」

「おい………確保だ……!」

 

 男の言葉に、後ろから出てきたもう二人の男達はカイジを取り押さえ、睡眠薬でカイジの自由を奪い、車の中へと連れ込んだ。

 

「2〜3分で寝ます…!」

「そうか………………なら……目隠しの必要もあるまい」

「き…きさまっ……どうす…る気…だ……」

「ククク……………まあまあまあ……それは起きた時のお楽しみ……! でも………言葉通り……そのままの意味で…府中っ……! トレセン学園なんだっ…! そこに……まあ…だいたい……15年…入ってもらう計算か……」

 

  

   

    あっ・・

 

「じゅう…? じゅうこ……」

「そう、15年…!」

「ふ……ふざけ………降ろせ………降ろ…へ……降ろ…………」

「ククク……………降ろへません………!」

 

 

   ×  ×  × 

 

 

 気が付けば……

 オレは

 異世界…!

 

 どこかわからぬ……

 府中の底の底………

 ウマ娘 巣食う

 トレセン学園にいたっ………!

 

 

「トレーナー……勝ったぞ……!」

 

 トレセン学園に来てカイジは理事長室へと呼び出され、用意されていたトレーナー資格を受け取ると、こんなことを言われた。

 

「歓迎ッ!!!!」

「ああ……?」

 

わ・・

       わ・・

 

「わたしはこの学園の理事長、秋川だ! よろしく頼むぞ、カイジ君!」

「……はあ……? ふざけろ……!」

「制裁ッ!!!」

「うっ……!」

 

 抗議しようと身を乗り出したカイジの眼前に……秋川理事長は突きつけた……! 肌身離さず持っている…扇子………!

 

「15年、全うにトレーナー業務を終え、トレーナー資格をわたしに返しに来られた時、君は自由になれるッ!」

「ぐっ……! ぐぐっ…」

 

  

   

    あっ・・

 

 ――働くっ……! 働き続けなければならないっ! このトレセン学園で15年っ…!

 ある時はお兄ちゃん………ある時はモルモットになり……この府中で15年………

 

(15年だと………? くそっ……! 悪夢だ………悪夢……これが悪夢でなくてなんだっ………!?)

 

「しかしッ――」

「…………あ……?」

 

わ・・

       わ・・

 

「一定数うまぴょいを達成することが出来れば、特別に認めようッ! トレセン学園からの生還ッ!!!」

 

わ・・

       わ・・

 

 ――これを受けてカイジ、数々の選抜レースに顔を出し、オグリと出会った。

 ここでやっていくにはまず…必要……! 担当ウマ娘……!

 もちろんカイジにはウマ娘についての知識などひとつも無い。ただ直感。オグリの走る姿を見て、感じたのだ。

 この葦毛は走る――と。

 

(GIIやGI、三冠……それじゃダメっ……! うまぴょいっ……! うまぴょいさえすれば……トレーナー資格なんて屁でもねえ……! 叩き返せる……!)

 

「それでだな……その…約束は…覚えているか……?」

「あ、ああ……! 勿論…覚えているさ……! どこでもいい…! おまえが選んでくれ……!」

 

(トレセン学園に入って一月はどうにもならなかったが……今のオレなら連れてってやれる…!

 焼肉…寿司……スイーツバイキングも……!)

 

「ほ、本当か? トレーナー!」

「ああ……! それが勝ちに繋がるなら…安いもんだ……!」

 

 カイジは……デビュー戦の前に約束していた……! 見事1着でゴールすれば…好きなものをご馳走してやると……!

 無論……給料を貰ったばかりとはいえ……そこまでの余裕は無い……! 実はつい先日……カイジは同僚たちとサイコロを使ったギャンブ……遊び…! チンチロリンを行っていた……!

 これが終わると……何故か給料の3分の2が消え失せており…その後ニンジンチップスやビール…焼き鳥などで豪遊を繰り返し……気がつけば手元に残っている額は……40000ペリ……マニー!

 

 マニーとは…この異世界だけで通用する…貨幣単位のこと……!

 

 一ヶ月……! 筆舌に尽くし難い重労働に耐え……わずか40000マニー!

 深い意味は無いが……チンチロリンにさえ手を出していなければ……給料はまだまだ残っていた……!

 さすがのカイジも……猛省……!

 

 

   ×  ×  ×

 

 

「す、すまねえな……偉そうなことを言っておきながら……! 本当はもっと良いところに連れてってやりたかったんだが……」

 

 寿司が食べたいと言ったオグリを連れ、やって来たのはどこにでもある、一皿100マニーの、回転寿司。

 

「何を言うんだトレーナー。私はトレーナーがご馳走してくれるだけで嬉しいさ」

「オグリ……! よし…今日は遠慮するな……! 腹いっぱい食え……!」

「ああ! お言葉に甘えさせてもらおう!」

 

 カイジは…知らなかった……! 実はまだ……一度もオグリと食事をしたことがないのだ……!

 これはカイジに限った話ではない…! トレーニングを終えても…次の日…また次の日の練習メニューを考え……出走させるレースを見定め……必然……ズレる…! 担当ウマ娘との食事の時間……!

 これが良くない……! オグリの食欲を知っていれば…選ばない……! 食べ放題以外は……!

 

 

「お、おい……あのウマ娘…あれで何皿目だ……?」

「分からない……分からないが…これだけははっきりと分かる……! 怪物だ……!」

 

わ・・

       わ・・

 

 食べる……! ひたすら食べる……!

 気が付けば……店中の視線を集めていた…!

 

「オ、オグリ……まだ…食べるのか……?」

「おかしなことを聞くんだな、トレーナーは。勿論まだまだ食べられるぞ」

 

(あ……? ああ……? なになにこいつ…? 終わらない気か…? まだ食べる気………? ってことは…………最終的にいくら……払わせる気でいるんだ……? オレに……!

 ああっ……? びっくり……! 怪物だっ………こいつ…!)

 

 

 結局この時……オグリの食べた皿数は……誤算に次ぐ大誤算……約400皿…………! カイジにはもう…立ち上がる気力すら残っていなかった……!

 震える手で会計ボタンを押し……店員から告げられる額を…息を呑んで待った……!

 

「お客様……失礼ですがお手持ちは……?」

「40000……マニー……」 

「それは残念ですね」

「…………あ……?」

「ククク……お客様の今の手持ち4万では…この6万は補えない。あんた……マイナス2万っ……!」

「あ……ああっ………!」

「ト……トレーナーっ……!」

「ククク………」

 

(どうして……? なんで…こんな…こんな…………)

 

 

  こんな理不尽なことがオレの身ばかりにっ………!

 

 

 カイジ卒倒っ…! 府中の底の底の底でも…借金地獄……突入っ…………!

 

 

   ×  ×  ×

 

 

 カイジに残された選択肢は二つだった。

 ひとつは店中の皿洗い。もうひとつは、あろうことか、理外の――!

 

「悪魔だ……狂っていやがる……!」

「ククク……狂気の沙汰ほど面白い…! 倍プッシュだ……!」

 

 店長は……先ほど食べたものと同じ量を…もう一度食べ切ることが出来たら……40000マニーで手を打つと…そう言い出したのだ…!

 無論……オグリといえど…食べ切れるはずがない……!

 しかしカイジ――!

 

「ククク…………いいのかよ…!」

「あ……?」

「オグリが食うとなったら……遊びじゃなくなる………! 食わせてもらうぜっ……! 限界を超えてっ……!」

 

わ・・

       わ・・

 

「ト、トレーナー…! 何を言うんだ……!」

 

 もはや引けない……! 前に進むしかない……! 目の前の崖を…飛び越えるしかない……!

 

「やるぞ…オグリ……」

「トレーナー…すまない……私は……」

「あ…?」

「諦めよう……諦めて……皿洗いをしよう……」

 

 オグリは下唇を強く噛み、両手の拳を握りしめ背を向けた。

 

「な、何言ってんだ……! 帰ってこいっ……! オグリっ………! 勝負だろ……! ここで食わずにどうするよ……惚けたか……! オグリっ……!」

「食べ切れるとは……限らないだろう……!」

「え…?」

「私の腹はもう七分目まできている……! その状態で食べ切れるとは限らない……そうだろう……! トレーナーっ……!」

「抜かすな……!」

「うっ……」

「屁みたいなこと……言ってんじゃねえ……! 七分目……? 食べ切れるか分からない……? それがどうした……! 沈めば良いだろう…そん時は……! そん時は……地の底暮らしもありだ……! 覚悟しろよそのぐらいっ……!」

 

わ・・

       わ・・

 

「何がある……そうやって逃げた先に……!寮に帰って…ベッドに入る頃には…もう腹が減っている……!あの時食べておけば良かったと……後悔するんだ……!そんな未来が…おまえの望みかよ……!違うだろ……!迷ったら…望みだろ……!希望だろ……!希望に進むのが……気持ちの良い人生ってもんだろっ……!仮に…地の底に……沈もうともだ……!」

「くっ……!」

「オグリ……聞いてくれ……! 約束しよう……もし…地に沈むことになったら……毎月…給料日にニンジンを200本振舞おう……! オグリがくたばるまで……」

 

 オグリは…しばらくの間その場から動かなかった……! ポッコリと出た腹を…何度もさすり……何かを決意したように……目を閉じた……!

 

「300本だ……! ニンジン300本……約束したぞ………!」

「あ、ああっ……! 分かった……!」

 

 カイジ…ここでオグリの説得に成功した……!

 僥倖っ…! なんという僥倖…!

 

「オグリとやら……回転寿司を無礼(なめ)るなよ」

「…わかった」

「ククク…理解頂けたようで何よりだ。君はまず皿の洗い方を覚えることから…」

「ならば実力で覆す。常識も…ルールも! この胃袋で!」

 

 ――オグリは狂気の沙汰とも言える、合計800皿を完食し

 果てるっ………!

 完食した後はしばらく動けず……そんなオグリにカイジは肩を貸し、ヨロヨロと立ち上がり、目を見開いて驚いていた店長を睨め付けた。

 

「くそ野郎っ………!くそ野郎っ………!二度と顔見せるなっ………!何が狂気の沙汰…倍プッシュだ……!くそ野郎っ…!あー!?ざまあみろ………!文句あるまいっ………!オレは自由だっ……!皿洗い無しっ…!っていうか………伝説っ……!府中一の伝説っ…!」

 

 左手を天に掲げ、そう叫ぶカイジに、オグリはカイジの肩に組んでいた左腕に力を込め、ぐっとカイジを引き寄せた。

 

「私もだ……!」

「おおおっ……! オレたち伝説っ…………! フードファイター………!」

 

 

   ×  ×  ×

 

 

 ひとしきり勝利の余韻に浸った後、カイジたちは冷静だった。

 今の動けないオグリを連れて、電車で帰ることは不可能。しかし、タクシーを拾うだけのマニーも残っていない。どころか、電車賃すらない。

 途方に暮れていたそんな時、ある女性から声がかかった。

 

「門限はとっくに過ぎているわよ、伊藤カイジ」

「ああ……?」

 

 カイジはまだ知らない。この女性が、『リギル』と呼ばれるチームのトレーナーであることを。

 

「理事長から伝言。『制裁ッ!』だそうよ」

「……せっかく伝えにきてもらって悪いが……こちとら文無しだ……!まだまだ帰れそうにない……!」

 

 リギルのトレーナーは、歩いて帰ろうとするカイジたちを呼び止め、財布から取り出した1万マニーを手渡した。

 

「ほらっ…!」

「は……?」

「これで寮に帰りなさい」

「はあ…?」

「やる……!」

「やる……? やるって………」

「タダよ……!」

「タダ…? トレセン学園が……?」

「トレセン学園じゃないっ…!私だ……!私がタダでやると言ってるのよ…!だから行けっ…!寮に帰れっ……!」

「おばさん………」

「お、おばっ……!? 行けっ…!」

「優しいおばさん…」

「行けっ……!」

 

 

 カイジ……こうしてこの場はなんとかなったものの……圧倒的……うまぴょいならずっ……!

 




ひりつかなきゃダメっ
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